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与えられたのは希望ではなかった  作者: 黒羽 凪
第二章~希望を与えられた者たち~
13/24

幕開け

「つまり生き残りたきゃ、他人を殺せ。そう言いたいんだな?」


 荒巻も俺と同じ答えに辿りついた。そう口にした瞬間、青柳の口元が緩む。


「そうだ。男女、察しが早いな」

「おい、クソハゲ! まずはテメーから殺すぞ!? あぁん!?」

「はいはい、お姉さん。その気持ちはすごくわかるけど、どうか押さえて。一分一秒でも早く、この男から離れたいのは同じ気持ちのはずだろ?」

「……確かに少年の言う通りだな」


 少しの間はあったが、どうにか納得はしてくれたらしい。だが青柳へ向けられる厳しい視線には、代わりはなかった。


「ほぅ、今の話を聞いても取り乱さぬか。さすがは俺が惚れた男だ」

「さり気なくキモイこと言うな」

「えっ? 人を……殺す? そうしなければ、わたくしも殺されてしまう……?」


 そう口にした少女は目を大きく見開きながら、身体を大きく震わせていた。

 一般人を遥かに超越した動きと破壊力。それを()の当たりにして、自分自身にも死が間近に迫っていることを実感したのだろう。


「その通りだよ、神楽院(かぐらいん)(かなで)くん。もう此処はすでに日常ではないのだ」

「そんな……わたくし、そんなことできません……!」

「でも、やらなくちゃいけねぇ。生き残りたいならな」


 そう冷たく荒巻は口にすると、俺たちに背を向けて歩き出す。しっかりとした足取りで、無数にある扉の一つへ向けて――。


「お姉さん、貴方は一人で行く気?」

「あぁ、そうだ。あたしは群れるのは好きじゃない」

「そっ。あっ、最後に一つだけ余計なお節介」


 俺はそう口にすると、今まで閉じたままだった左目を開け放った。鮮やかな紅色の瞳は、鉄の扉で見えるはずのない風景を、確かに映しだしていた。そこには鎖などに繋がれていないライオンが五匹。そしてその部屋には、大量の血と僅かな肉片と骨が地面に転がっていた。


「……その扉は止めておいた方がいい。その扉から左に二つ目の扉、その方が安全」


 俺の言葉に荒巻は足を止め、ゆっくりと俺へ視線を移す。俺と目が合った瞬間、荒巻の表情が大きく変わった。それは驚き――いや、やっと仲間を見つけた。そんな安堵(あんど)の表情に俺は見えた気がした。


「その左目……あたしの左足と同じく、悪魔が宿っているのか?」

「悪魔、ね。まぁ悪魔かどうかわからないけど、普通の目じゃないことは確かだね」


 俺はゆっくりと左目を閉じる。

 短時間の使用では頭痛は襲ってこないが、今後どの程度この目を使用しなきゃいけないのか全くわからない。緊急時に備えて、この目はできるだけ使用しない方がいいだろう。


「ふーん。……今回は少年のことを信じてみることにしよう。ところで少年、名前は?」

「俺は黒羽優。一週間後、また生きて再会できるといいね。荒巻刹那さん」

「だな。無事に再会したら一杯奢ってやる。それじゃあ黒羽、また一週間後」


 荒巻はそう口にすると、俺たちに再び背を向け歩き出す。そしてすぐに俺の指定した扉に辿り着く。荒巻が扉に手をかけた瞬間――。


「えぇ。あっ、ちなみに俺はまだ未成年なんで、その時はジンジャーエールで。では、また一週間後に」


 俺は軽い感じにそう口にしていた。まるで日常的な挨拶のように。だが荒巻は俺の言葉に答える事も振り返る事も無く、扉の向こうへと姿を消した。

 まるでそれが合図だったかのように、佐倉と青柳の姿も音も無く消えていた。

 そしてここまでやってきたエレベーターも、すでに使用中止の文字。


「……デスゲームの幕開けか」

「デス、ゲーム……」


 出口を塞がれ、静まり返る地下空間。そこには、俺と神楽院だけが取り残されていた。

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