幕開け
「つまり生き残りたきゃ、他人を殺せ。そう言いたいんだな?」
荒巻も俺と同じ答えに辿りついた。そう口にした瞬間、青柳の口元が緩む。
「そうだ。男女、察しが早いな」
「おい、クソハゲ! まずはテメーから殺すぞ!? あぁん!?」
「はいはい、お姉さん。その気持ちはすごくわかるけど、どうか押さえて。一分一秒でも早く、この男から離れたいのは同じ気持ちのはずだろ?」
「……確かに少年の言う通りだな」
少しの間はあったが、どうにか納得はしてくれたらしい。だが青柳へ向けられる厳しい視線には、代わりはなかった。
「ほぅ、今の話を聞いても取り乱さぬか。さすがは俺が惚れた男だ」
「さり気なくキモイこと言うな」
「えっ? 人を……殺す? そうしなければ、わたくしも殺されてしまう……?」
そう口にした少女は目を大きく見開きながら、身体を大きく震わせていた。
一般人を遥かに超越した動きと破壊力。それを目の当たりにして、自分自身にも死が間近に迫っていることを実感したのだろう。
「その通りだよ、神楽院奏くん。もう此処はすでに日常ではないのだ」
「そんな……わたくし、そんなことできません……!」
「でも、やらなくちゃいけねぇ。生き残りたいならな」
そう冷たく荒巻は口にすると、俺たちに背を向けて歩き出す。しっかりとした足取りで、無数にある扉の一つへ向けて――。
「お姉さん、貴方は一人で行く気?」
「あぁ、そうだ。あたしは群れるのは好きじゃない」
「そっ。あっ、最後に一つだけ余計なお節介」
俺はそう口にすると、今まで閉じたままだった左目を開け放った。鮮やかな紅色の瞳は、鉄の扉で見えるはずのない風景を、確かに映しだしていた。そこには鎖などに繋がれていないライオンが五匹。そしてその部屋には、大量の血と僅かな肉片と骨が地面に転がっていた。
「……その扉は止めておいた方がいい。その扉から左に二つ目の扉、その方が安全」
俺の言葉に荒巻は足を止め、ゆっくりと俺へ視線を移す。俺と目が合った瞬間、荒巻の表情が大きく変わった。それは驚き――いや、やっと仲間を見つけた。そんな安堵の表情に俺は見えた気がした。
「その左目……あたしの左足と同じく、悪魔が宿っているのか?」
「悪魔、ね。まぁ悪魔かどうかわからないけど、普通の目じゃないことは確かだね」
俺はゆっくりと左目を閉じる。
短時間の使用では頭痛は襲ってこないが、今後どの程度この目を使用しなきゃいけないのか全くわからない。緊急時に備えて、この目はできるだけ使用しない方がいいだろう。
「ふーん。……今回は少年のことを信じてみることにしよう。ところで少年、名前は?」
「俺は黒羽優。一週間後、また生きて再会できるといいね。荒巻刹那さん」
「だな。無事に再会したら一杯奢ってやる。それじゃあ黒羽、また一週間後」
荒巻はそう口にすると、俺たちに再び背を向け歩き出す。そしてすぐに俺の指定した扉に辿り着く。荒巻が扉に手をかけた瞬間――。
「えぇ。あっ、ちなみに俺はまだ未成年なんで、その時はジンジャーエールで。では、また一週間後に」
俺は軽い感じにそう口にしていた。まるで日常的な挨拶のように。だが荒巻は俺の言葉に答える事も振り返る事も無く、扉の向こうへと姿を消した。
まるでそれが合図だったかのように、佐倉と青柳の姿も音も無く消えていた。
そしてここまでやってきたエレベーターも、すでに使用中止の文字。
「……デスゲームの幕開けか」
「デス、ゲーム……」
出口を塞がれ、静まり返る地下空間。そこには、俺と神楽院だけが取り残されていた。




