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与えられたのは希望ではなかった  作者: 黒羽 凪
第二章~希望を与えられた者たち~
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奪い合い

「ちょっと失礼」

「なっ!?」

「ぬっ!?」


 体が勝手に動いていた。俺は予想外の青柳の瞬発力に驚きを隠せず、ただ棒立ちになっていた荒巻の体を突き飛ばした。その瞬間、先ほどまで荒巻のいた場所に、岩のような大きな拳が豪快に風を切り裂きながら通過する。

 別に俺は正義の味方を語るつもりはない。ここではまだ血を見たくなかった、ただそれだけのこと。


「……少年、あたしを助けたつもりか?」

「いや、俺は血が苦手なんだ。だから突き飛ばした。ただの自己都合」

「……感謝はしないぞ?」

「あぁ、問題ないよ」

「……俺の動きを見切ったのか? ということは佐倉の言っていた、良い眼を持つ男というのは貴様か。ふむ、これは実に興味深い。ちょっと可愛がってやろうか」


 不敵な笑みを浮かべる青柳。そして俺の全身を舐めるように観察する。その視線はどうしてか、とても不快なものだった。


「青柳、そろそろ遊びは終わりにしたまえ」

「ぬっ……佐倉。あぁ、承知した。あいつはもう少し俺好みに筋肉が付いたら、たっぷりと可愛がってやることにする」

「……なぜそんな不敵な笑みで俺の事を見る?」

「ちなみに黒羽くん。青柳は男も守備範囲らしいから、せいぜい気をつけることだな! はっはっは!」

「ふっふっふっふ」

「いや、なに笑ってるんだよ!? 何か俺めっちゃ狙われてそうじゃねぇか!?」

「大丈夫だ優、痛いのは最初だけだ。優しくするから、安心して俺に身を(ゆだ)ねろ」

「うわっ……ハゲ、マジでない……引くわ……」

「誰が委ねるかっ!! てか、名前で呼ぶの止めろ!! さっさと俺たちの今後について話してくれ!」

「……マッチョと細身な美男子……いいです!」


 ドン引きしている荒巻。それを楽しそうに見つめる佐倉。そして先ほどまで膝を抱えて泣いていたはずの少女が、瞳を輝かせて俺と青柳のことを見つめていた。

 ……なぜだ? なぜそんな期待に満ちた視線を送ってくるんだ? その無垢(むく)な眼差しは、マジで勘弁してほしい。


「うむ、そうだな。田舎でひっそりと二人で住むのも――」

「そっちじゃねぇよ!! これから一週間のことについてに決まってんだろ!!」

「ふむ、優は素直ではないな。だがそこがまた良いではないか!」

「……はぁー……」


 俺はその青柳の一言に頭を抱えた。この激しい頭痛、これはさっき透視の力を使ったからではないだろう。俺は一分一秒でも早く、この場を……いや、この男から離れたかった。


「青柳。そろそろいい加減にしたまえ」

「うっ、佐倉、承知した。さて、優とはまた今度じっくりと話すとして、早速説明に移るとしよう」

「ここでの絡みはなしですか……残念」


 少女が口にした不吉な呟きを、俺は聞き逃さなかった。しかもそう口にした表情は、心の底から残念そうな表情だったのだから笑えない。


「まず貴様らには一週間を必死に生き延びてもらう。この無数の扉の先には、様々な空間が広がっている。猛獣がいる部屋、食料が置いてある部屋、武器が置いてある部屋、それは様々だ。そしてこのサバイバル……いや、デスゲームと言った方が正しいか。貴様ら以外の参加者も大勢いる。その参加者たちと貴様らは少ない食料を奪い合い、生き残らなければならない」


 参加人数が大勢いる。俺はそのことを聞いて、嫌な予感が的中していたことを悟った。

 奪い合い、騙し合い、そして殺し合い……。それが俺たちがこれからやらされることだろう。非日常……と言うより、できの悪いゲームのような展開。

 だがこのペンキの下に隠されている血痕が、嘘ではないことを裏付けていた。

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