激突
「もちろんその通り。ただ空腹に耐えるだけではない。もっと壮絶だ、非日常に相応しいぐらいにね。青柳、後は君に任せる」
「……佐倉、承知した」
「なっ!?」
俺は驚きを隠しきれなかった。何故なら俺たちと一緒で、連れてこられたと思っていたスキンヘッドの男が、佐倉の言葉に答えたからだ。
それはつまり、この男も組織の人間だと言う事――。
「何っ!? ハゲ、テメー組織の人間だったのかよ!? 騙しやがったな!?」
「騙してなどいない。俺は言葉を一切発していない。貴様が勝手に勘違いしただけだ」
「いやハゲ、一緒に連れてこられて銃を持ってなければ、同じ被害者だと思うのが普通だろ!?」
「ふっ、愚か者が。そんな単純には考えん。バカなのか貴様は? そんなことじゃこの先、簡単に死ぬぞ?」
「あぁ? テメー今なんつった? 殺すぞハゲが!!」
「できないことは口にするな。男女」
「……男女……だと? ……殺す、マジで殺す。ガチで殺す!!」
赤髪の女は左足を高々と振り上げると、そのまま青柳に向かって振り下ろす。それは踵落し。当たりさえすれば威力は高いだろうが、モーションが大きすぎる。これでは簡単に手で受けられてしまうだろう。
「そんな蹴り、当たる奴はおらん」
俺はてっきり青柳は、その蹴りを手で受け止めると思っていた。だが青柳はその蹴りを避けた。それも大きく距離を取るように。
何故だ? 俺はそう思っていたが、答えはすぐにわかる事になる。
――バギィィィィィィィ!!!!
「ひぃ!?」
「……はっ?」
激しい音と、地震のような揺れ。膝を抱えて泣いていた気弱そうな少女は、その音と衝撃に短い悲鳴を上げる。そして俺も少し遅れて間抜けな声を出していた。
何故なら、赤髪の女が振り下ろした踵。その踵が深々と、コンクリートで補正されている地面に突き刺さっていたからだ。全くもってありえない光景、それが俺たちの目の前に広がっていた。
「ふむ、やるではないか。荒巻 刹那くん」
「おい髭! 気安くあたしの名前を呼ぶんじゃねぇよ! それとハゲ! なんで手で受けない? その筋肉は飾りか?」
「ふん、その破壊力だけは認めてやろう。だが……図に乗るな!!」
そう口にした瞬間、青柳はすでに荒巻の懐に飛び込んでいた。十メートルは悠にあった距離を、一瞬で縮めるその瞬発力。それはすでに常人の動きを、遥かに超越していた。




