第6章 John Doe(2)
2.漁村にて
こんなところに電気や水道はあるのかとおもったがちゃんと来てるそうだ
ちょっと離れた場所に、供給基地があってそこから供給されているといっていた。
ただ、通信網は衛星通信が主で、でかいアンテナもないことから天気が悪いと使えないとか言っていたが、別になくても困らん、が口癖だった。
このあたりは四六時中晴れ間もあんまりでない、気象コントロールの外れらしく雨も雪もふるんだそうだ。
そして、互助管理組合は月に1度はここまで日用品や食料などの供給があるそうだ。
それだけではなく、銀行や保安部の駐在所や、病院もあるらしい。
都会暮らしに疲れたか飽きたか、衛星地図には存在する、実際の地図には存在しない村
それがここらしかった。
村の名前もなんだかうろ覚えではっきりしない。
50年前はまだ賑やかだったと爺様は言っていたが、かく言う二人もこの漁村を出て街で働いていたそうだ。
定年退職しても身体が元気でそのまま帰ってきたそうな。
ただ、多分ここだっただろうという心もとない返事だったが。
人口は、ざっと300人いるかいないかだろうか。
住んでるのは、みな70歳を超えたじいさんとばあさんばっかりで、定年後に生きがいを求めて口コミでここにやってきた者たちだという。
そして、こんなところのAIの情報優先度は低い、AIが問い合わせに行くようなことが起こらないからだ。
保安部の駐在所をのぞくと、椅子に腰掛けたロボットが、ピクリとも動かなくてびっくりしたが
通報があるとすっ飛んでいった。
後で聞いたら、夫婦喧嘩があったらしい。
朝食は、炊きたての御飯、アイナメの刺身、潮汁、きゅうりやナスの古漬け
都会では食べることの出来ない食材は、俺の胃を満足させた。
一飯の恩義で、俺はその家で手伝いをすることにした。
といっても、明確な仕事みたいのではなく主に家事の手伝いだった。
まずは、爺様の魚の餌、イソメの調達だ。
どうやってだと?もちろんネットでさ。
なんてことはなく、近所の河口や泥岩場をねらって探しに行く。
もちろん服は、爺様のを借りた。
長靴と手袋も。
これがなかなか難儀で、保護色を持つ上に、コイツラは噛むのだ。
最初は手こずったがなんとか、数十匹を確保した。
いちいち数えてられない。
死ぬと駄目らしいので、バケツに泥といっしょくたにしてある。
爺さんの家に帰ると、玄関からでていく爺様にばったりと出くわす。
「おぉ、丁度見に行こうと思っとったんじゃ」
おれは「ハハハ」と笑って、バケツを足元においた。
うねうねとうねるびらびらのついたミミズを見て爺様は
「かまれんかったか」
「大丈夫でした」
「そうか、器用じゃな、あんた。」
「まぁ1日、20匹もあれば十分なんだが。」
「ご苦労さん、昼飯にするで、ばあさんを呼びに行っておくれ、丘向こうにおるはずじゃ」
俺は言われた通り、山側の丘の方へととぼとぼ歩いていく。
途中、大きな馬小屋を見つける。
扉に大きな錠前がかかっていて、中にはいれそうにはない。
その途中でリアカーを引っ張る婆様と出くわした。
その後ろにも何人かの婆様たちがそれを押していいる。
俺は慌てて駆け寄り婆様と交代して。
「引きますよ」と後ろの婆さんたちにも声をかけた。
「いや、ありがたいねぇ」と婆様は相好を崩して笑いかける。
「今朝見た子かい、やっぱり若いねぇ」
「あんたいくつじゃ?孫と同い年かね」
俺はここにいるとどんどん若返っていく気分になってしまう。
他にも口々になにかいってるが気にするのはやめた。
「なんでもかんでもロボット化して便利で楽ちんなのはいいんだけどねぇ。」
「汗水垂らして働いた後食べるご飯はまた格別なんじゃ。」
俺は「そうですね」と適当に相槌を打った。
リアカーには立派な白菜やネギなどが積んであった。
後は米だろう。
そのままの稲穂が積んである。
ちょっと重いが、一人で引っ張れる重さだった。
俺はそのまま家に直行するのかと思ったら、
リアカーの荷物をみんなで分けるのだと空き地で、分配が始まった。
そして質問攻め
「なんでこんなところに?」
「あぁ、いや、まぁ旅行で」
「一人旅?」
「そうです」
「仕事はどうした?」
「有給休暇でして」
「うちの娘は元気かいのぉ」
「娘さんはおいくつですかね」
「どこから来た」
「トリプルジーという街です」
といちいち回答していたら、爺様がやってくるのが見えた。
そして、近くに来るなり、
「そのババアどもの話聞いてたら、日が暮れるどころかもっかい上がってくるわ」
と不機嫌そうにいった。
どうやらずいぶん待たせたらしい。
爺様は、「まったく、最近の年寄りは・・」とぶつぶつ言っていた。
————
そして分け前の野菜を抱えて家路につく。
婆様は、「みんな去年、連れ合いを亡くして一人なのよ、いつもと違う顔ぶれがいるとついね。」
とこっそり教えてくれた。
そこから昼ご飯の準備が始まると思いきや、爺様が
「どうじゃ」とちょっと自慢げというかドヤりながら蕎麦を振る舞ってくれた。
どうやら手打ちらしい。
うまい、都会では食べれないその素朴な味わいは、何とも言えない気持ちにさせてくれる。
————
俺は蕎麦をすすりながら、丘の上にある馬小屋の持ち主についてきいてみることにした。
「あぁ、ありゃわしんじゃ」と爺様はあっさり教えてくれる。
「なんじゃ?」
「えーと、一ヶ月ほどお借りしたく、もちろん代金をお支払いします」
「金?金は使い道がないから余っとるんじゃ」
とあっさり言われる。
「うーむ」
と俺は考え込んだ。
「どうせ訳ありなんじゃろ、こんな辺境に一人でくるっていうのは逃避かなんかじゃろうて」
俺は心のなかでびっくりして、そして苦笑する。
当たりだ。
「金はいらんが、返しに来る時に、わしとに釣りをするという約束でどうじゃ」
「は、はぁ」と俺は答えた。
「おやま、じゃぁ。あたしも今度畑仕事を手伝ってもらおうかしら」
「は、はぁ」とまた。俺は答えた。
「わかりました」
これ以上黙ってると住めだの何だの言われかねないなぁと思って承諾した。
爺様は首にかかった古びた鍵を俺によこした。
こっそり入ることも出来たがちゃんと借りれたのに俺は満足した。
それから、米の脱穀をするらしく、納屋につれていかれる。
木の棒をならべて、そこに稲を挟んで引っ張りぬく作業はなかなか重労働だった。
「まだ精米せんと、食えんでな」と爺様は教えてくれる。
それはまぁ夜なべしてやるで。とぼそっと付け加えた。
そうこうしているうちに、日が傾き始める。
ここで晩飯までごちそうになっていくとか出発できないループに陥りそうで、俺はそろそろ行かねばならないと、爺様と婆様に言った。
「もういっちゃうのかい?」と婆様は寂しそうにする。
爺様はなにも言わなかった。
「かならず、約束を果たしに来ます」
おれはそれだけ言うと爺様と婆様の家を辞去した。
玄関の外まで見送ってくれた爺様と婆様に、俺は一度頭を深く下げた。
「行け、どこまでも、行けるところまでな」
爺様は最後にそうつぶやいた声が聞こえた気がした。
<続>
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