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擦れたお兄さん(26)が、お金と超技術で無双してみた  作者: 久破空是


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第6章 John Doe(3)

3.流星シスターズ


 暗くなるのを車内で待つ。

 なにせ、なにもない、なにもすることがないのだ。

 ネットワークに切り離されたら本当になにもできないなぁと考えながら、3時間過ごす。

 週刊誌も全部読んでしまった。

 ぼーっとするしかないが、九重家は時間の潰し方までマニュアルがあった。


 待つという修行は精神統一の時間だ。


 日が落ちていくのをながめながら、そろそろいくべと、ハイラックスサーフを爺様に借りた馬小屋に入れてから、次の仕込みに入った。

 

 大きいめのリュックに非常食や着替えを詰め込む。

 

 仕上げに俺は小道具セットの中から特殊メイクセットを取り出し顔に特殊なメイクを施すとリュックを背負おう。


 そして馬小屋から抜け出てその漁村を後にした。

 移動は徒歩だ。


 舗装はされてないが車の通った形跡のある道を歩く。

 ひたすら歩く。

 感覚的には、半日歩き続ければ、ターミナルに到着するはずだった。

 漁村を出たのは夜の二十二時くらいだ。

 懐に忍ばせた懐中時計はゼンマイ式の骨董品だが、来る前にネジを巻いたんだが、止まっている。

 壊れたのかどうなのかはわからん。

 

 ペースを崩さず、同じテンポで歩き続ける。

  

 そして何も通らない、人も居ない。

 山を超え、橋をわたり、ひたすら歩く。

 たまに野生動物が見えたりもしたが、どんどん飽きてくる。

 俺は自己暗示を掛けてそれでも歩く。

 

 体感時間が狂う、体内時計はそのリズムの感覚によるところが大きい。

 お腹すいたなと思えば多分◯時みたいな感じだが、催眠術のように自己暗示を掛けひたすら無心で歩くと時間の感覚が狂い始めた。


 やがて、無心の状態が更に感覚を研ぎ澄ませていく。

 遠くに流れる川のせせらぎ、虫の羽音、動物たちの吐息。

 実際にそうなのかそれはわからない。

 そんな気がしてるだけかもしれないが、たぶん近くに川はあると確信する。

 

 そして急に車のエンジン音の気配、かなり大きいトレーラの響きを感じて意識を戻された。


 車高が高いせいかヘッドライトはハイビームのように遠くからでも視認できる。

 そしてヘッドライトがついてるということは有人車、人が運転している車だ。

 

 俺はこれ幸いとヒッチハイクすることにした。

 カバンをおろしその車の真正面に立って両手を振って。

 

 見落とされて轢かれても文句は言えない上に、こんなところで車に轢かれたら白骨になっても、誰も気が付かないだろう。

 いや、あのトレーラーに飛ばされたら、ばらばらになるだろうなぁと思いながら。

 

 そう考えていると、急ブレーキを踏むのがわかる。

 ただし、踏むのが遅い。

 俺はあわてて道の端っこへとびのこうとして間に合わないことに気がつくと俺は覚悟をした。

 身構えてミラーを掴み、バンパーに足をかけ、駆け上って蹴り上げながら横にはね飛ぶ。

 なんとか、受け身を取ってごろごろと転がる。

 そのまま掴まっておけばよかったと気がついたのは後のことだ。

 

 運転手はどうやら無視して走り出さず止まってくれた。

 命がけのヒッチハイクは半分成功と思っていいだろう。

 まだ乗せてくれると決まったわけではないけれど。

 乗せてくれなかったら、後ろに張り付いて便乗すればいいかなと思っていた。

 立ち上がってパタパタと自分の服をはたいて埃をはらう。

 

 トレーラーは少し走りすぎたと言っても20メートルくらい先で止まっている。

 トレーラから人が降りてくる気配がした。


 俺はラッキーだと思ったが、すごい勢いでこちらにやってくる。

 どうやらカンカンに怒っていそうだ。

 なにせ、「あなたあんなとこでなにやってんのよ、引いちゃうじゃないっ!」と叫びながらやってくるのだ。


 それは筋骨たくましいおっさん、ではなく、可憐な美少女だった。

 色のついたランニングシャツに、明るいつなぎを着ている。

 トラックの運転手そのものだ。

 

 「え、えとヒッチハイク」

 と俺は結構真面目に言った。


「あんなヒッチハイク今まで見たこと無いわよ」

「道路の真ん中でヒッチハイクとか危なくてしょうがないじゃない」


「まぁそりゃそうかなぁ、でも成功した」

 

 美少女は

「なっ」と驚いて何も言えなくなっていた。


 そして後ろの方から、別の少女がやってくる。

「お姉ちゃん、轢いちゃった?、調子乗ってるといつかやるって言っておいたよね」

 と物騒なことを言い始める少女ははこちらを覗き込んで、

 「あ・・九重九十九」

 と言った。

 どうやら、運転していたのは姉、出てきたのは妹らしい。

 

 「誰それ、有名人?」は姉のセリフだ。

 

 「あぁ、お姉ちゃん学校いってなかったもんね、貴族連合の学校行ってると割とネ?」

 妹はため息交じりにそう言うと

 

 「でも、大型車両の免許は取ったわ!!」

 と姉は威張った。


 学校、まさかと俺は少し凹みそうになったが狙いは間違ってなかったようだ。

 妹は胡散臭そうに、

 「副読本よ、背格好はちょっとちがうけど、雰囲気とか顔はそんな感じだから」


 「ふーん」

 姉は学校と聞いてすっかり興味をなくした。


 俺の特殊メイクはオグリキャップ・旬をモデルにしたのだ。

 暗がりということもあるが、効果はあったようだ。


 しっかり者の妹は、それで?と姉に聞くと。

 「ヒッチハイクらしいわ」


 「ふーん、怪しいわね」と妹があっさり言う。

 

 「どっから来てどこに行くの?」と姉は妹に対抗するように言った。

 「向こうの漁村から、駅のターミナルがあるところならどこでも」と本当のことを適当に話す。


 「そんなところに漁村なんてあったかしら」は姉はいった。


 「いいところさ、今度寄ってみるといい。」

 俺はいい加減で適当なことを答える。

 

 妹は少し顔をひきつらせて真っ当なことを言いだした。

 「見返りは?ただ乗り…………とか言わないわよね」

 

 俺はポケットから輪ゴムで巻いた1万円札紙幣(十枚)を取り出した。

 姉も妹もそれを見て、目を剥きながら口を揃えて

 「「もっともってるでしょう?ジャンプしてみなさい」」

 と言った。

 

 まずい、カツアゲきたこれ

 「まぁとりあえず、残りはついたらで、君たちも、い、急いでるのではないかね?」

 と俺はちょっと震え声をだした。


 それからすこし、姉妹ののやりとりがあったが、俺は無事助手席に乗せてもらった。


 乗る前に、喋るなと釘を差された。

 「言われなくても」

 俺は肩をすくめてそう言った。

 

 車の中はどピンクで、女の子臭がする。

 匂いはともかく、ピンクすぎて目がチカチカする。

 

 そして、姉はおもむろに無線のマイクを取り出すと。

 

 「感度は良好か?流星シスターズのミッドナイトRUNの時間よ」

 そのマイクを妹に渡すと、オープニングはこの曲、といって

 コンパネを操作する。

 そして、渋いギターが流れ始める

 そのギターの音色に合わせて、妹は低い声でナレーションを当てた。

 「アスファルトをかすめるタイヤの匂い、唸るディーゼル、夜を切り裂くヘッドライト、行きずりの風に身をまかせ、明日をも知れぬ 道行に、今日も今日とてハンドルひとつ。

 渡る世間は鬼ばかり。

 人呼んで、流れ星シスターズ。アナタの心に一筋の残光を」


 俺は空いた口が塞がらなかった。

 最期のフレーズに差し掛かる時、

「あ~、あ~ 一番星、アタイの心が寒くなる~」

 と二人で熱唱していた。


 何曲かかけ流しすると。

 トークタイムが始まるらしい。

 

「お姉ちゃん、今日変なの拾ったのよね」

「変なのって何、逆に変じゃないのなんかある?」

「例の噂の副読本、貴族連合じゃ有名なあの副読本よ」

 

 おれは心のなかで、おいまて。

 と言いそうになったが、妹に睨まれて口をつぐんだ。


 「そして、見たうらけるよね、あの本 ちらっ」

 「あのきゅっきゅっきゅってなに? ちらっ」

 とか、あれは俺ではないのだがどんどん馬鹿にされている気分になる。

 ちらっとは俺を見る妹の目だ。


 と、おおよそ3分ほどくだらない会話をする。

 妹がマイクに向かって「あ、次の曲行くね」

 そこからなんだか聞いた事があるようなないような曲がながれる。

 夢街道

 望郷はぐれ星

 祭


 次々、紹介されていく曲名と最期のフレーズを自分たちで歌うという流れですすんでいく、ミッドナイトRUN。

 車の時計を見ると、3:30のデジタル表示。


 「「最後に、夜はまだまだこれから、車に乗ってる人もそうじゃない人も、ご安全に~ またね、ばいばーい」」

 で締めくくられた。

 

 そして俺の口止めの呪縛が解ける。

「で、あんた、名前は?」と姉が聞いてくる。


「九重九十九」それ以外に答えようがない。

 

「またまた~、まぁいいわ」と妹は言った。

 

 俺は気になって聞いてみた。

 「一応確認だが行き先は?」


「北部第4地区の、オリオンテイルよ。」

「あと1時間ほどでつくわ」


「OKだ。」と言って俺はまた黙った。


「ね、何も聞かないのね?」と妹が言った。


「ちゃんと聞いたが?」行き先だけ聞ければいいのだ。

 

「あたしらの名前とか興味ないの?」と姉はちらりとこちらを見ながら聞いてくる。


「ない、聞けば記憶として残るからな」

「流しのトラック野郎、流星シスターズで十分さ、それだけでもインパクトあるだろ?」

「まぁロマニーに名前なんか聞くもんじゃないと言われたんだ、昔な」

 と俺はボソリと言った。

 二人は驚いた顔をして、姉は何か言おうとしたが妹がそれを止めた。


 車内に飾られた二人の写真にはファヨラとドゥラカと書かれていた。

 ロマニーやジプシーに付けられる名前は独特の韻を踏む。

 

 そして俺はバックの中に手をつっこんでお菓子を妹に渡す。

「うわ、変なの持ってるわね、子どもみたい」と嬉しそうに受け取った。


 それからお菓子を食べながらぺちゃくちゃと喋る姉妹の会話を聞き流しながら、窓の外を眺める。

 姉思いなのか妹は、自分が食べると姉の口にもお菓子を運んでいたのが印象的だ。

 

 そんなこんなで日が昇り始める。

 交通量が増えてきたのか、姉はすれ違う他のトラックの運転手に手を上げて挨拶している。

 

 俺は浅く座って窓から顔が出ないように寝たふりをした。

 

 どうやらゴールが近いようだと思っているうちにトラックターミナルに到着した。

 

 俺は逃げるようにトレーラーの助手席からするっと降りると、妹が降りてくる。

 それから助手席側に回ってくる姉。

 そして俺は到着時の報酬を渡そうとポケットをまさぐる。

 勘の良い妹は「あれは冗談よ、十分貰ったから大丈夫。」

 と言ったが、約束は約束だ。

 俺は丸めた1本を姉にヒョイッと投げると姉は驚いてキャッチした。

 俺は「楽しかったぜ、達者でな」と言って二人と別れを告げた。


<続>

次回  第6章 John Doe(4)4.都市間高速陸上鉄道

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