第5章 王の錫杖 (4)
4.ピストルと刀
俺はスナック 座頭市を出ると、自転車を借り受けようと裏手に回る。
そこには、濃紺で錆びたロッドブレーキ自転車が鎮座していた。
俺はそれを見て「な……こんな骨董品よくあったなぁ」と思いながら、そのごつくてずっしり重い車体にまたがった。
ペダルを踏み込むと、ぎしぎしとギアの軋む音がした。
手書きの地図は大日本帝国横丁の更に奥だ。そこに向けてペダルを踏み込んだ。
「お……重い」なんだこれ……こんなのが自転車って。
とはいえ……鍛えあげた肉体に物を言わせて進むと長い坂がみえる。
俺はぐぬぬと唸って、その坂道を重い自転車の重いペダルを漕いでひいひい言いながら登っていく。
漸く地図で印のある場所にたどり着いた時には汗グッショリだった。
走ったほうが早かったかもしれん、そうおもってそのバラックの家の扉の前で自転車を降りた、尻が痛い。
地図に示された建物は、もとは修繕屋の体なのか、軒先にガラクタがならんでいる。
辛うじてのそのガラクタの間にガラス張りの引き戸がある。
ガラスは型板ガラスになっていて中の様子は見ることができない。
自転車で時間を食いすぎた。
まだ明るい秋の昼下がり、どんどん気温が下がろうとする時間だ。
その引き戸をノックする、コンコンなどという音ではなく、ガシャガシャという音に
俺は渋い顔する。
応答がない、俺はその引き戸の取っ手に手をかけ、そぉっと開いた、にも関わらずやはりガシャガシャとガラスの揺れる音が鳴った。
そっと中にはいると、お年を召したご老人が、つなぎの作業着で自分の体より大きなホール時計を弄くっていた。
おれは「ごめんくださーい」といったがその爺様はピクリとも反応しなかった。
その奥の扉から、誰?といって、少女が顔をだす俺の姿を見るなりびっくりして、
「アタシ、いかないから」と言って顔が隠れた。なんだ?不登校少女か?
おれはとっさに「クラスメートのみんな心配してるよ?」と言ってしまった。
「ほっといて!」
図星。
やれやれ
「ま、学校なんか無理していく必要はないよ」
「え?」と驚いた声の主が、また扉の隅から顔を出した。
「あんた誰?」と値踏している。
「親分の使い」
「もう、早く言ってよ」
「ハルさんは?」
「あたし、あっちはあたしのおじいちゃん、耳が遠いの」
「で、なんか用?」
そう言って少女は奥から姿を表した。
中学生かな、背は低いが、
まだあどけない少女の顔はディアナとはまた違うタイプの可愛らしい娘だった。
ただ髪の毛は後ろでひっつめにして束ねている染めているのか明るい茶色っぽい色。
それにショートパンツにTシャツと言う格好は少年のように見えた。
俺は少女にメモを見せた。
少女はそれをちらりと見てから俺を見てふーんといった。
ハルは手元にあった柱をトンと叩くと、その頭上から、ロープがブランと降ってくる。
それを掴んで引っ張ると、壁だと思っていた扉が開く。
ががっという音はした。
その奥は暗がりになってよく見えないが、どうやら下り階段になっているようだった
「こっち、ついてきて」
と彼女は上がり口からつっかけを履いてパタパタと階段を降りていく。
俺はその後ろをまわりキョロキョロしながらついていった。
間抜けな顔をしていただろう。
その地下への階段は上とは大違いでしっかりコンクリート製
たまにチカチカする蛍光灯以外はしっかりした作りだった。
俺は歩きながらさっきの時計について聞いてみた。
「あの時計、旧時代のドイツ製の時計だね」
「ん?そうよ詳しいわね」
「半年前に宗次郎オジさまがもってきたの、同じこと言ってたわ」
「修理出来たら売って良いって、じいちゃんが修理したの」
少女は鉄製と思しき扉の前に立つと、ちょっとまってね。
ノブもなにもない、あるのは、アナログなスイッチがぼこぼこと6箇所についているだけだ。
とそういって、身体でそのボタンを隠しながら、かちかちとロックをはずしはじめた。
停電したら困るってここ、電子鍵なんかないのよ
そう言うと手際よく、1つ14個のボタンをポチポチと押して解錠していく
その数6。
これおじいちゃんが作ったの、趣味でね。とハルは自慢げに言っていた。
一応毎朝コードが変わるから安心よ。
バシュッーといってなにか空気の抜ける音がすると、ガコンと扉が5センチほどその奥へ沈んで扉が開く。
そして、部屋の中の明かりがついた。
扉が開くと、電源が入る仕組みのようだ。
そして俺は周囲を見渡して唖然とした。
広さ50畳のそこは中央にカウンターにキャッシャーと工作台
壁に一面、正面は大型火器、右に小銃から左には大小さまざまなライフルがところ狭と壁に飾られていた
ハルはカウンターと古びたキャッシャーに回り込んで耐火エプロンを付けると更にパチパチとスイッチを押して、重火器がライトアップされた・
「ようこそ、春風重火器店へ!」
ハルはうれしそうに、そして生き生きとそう言った。
展示されてるのは整備済、たまに軍の人がお忍びで試射しに来てくれるから性能はお墨付きです。
試射もできるよ。
といつも言ってるらしいセリフを言った、
俺はあまり武器にこだわりを持たない主義だが、埃一つない部屋に磨かれた銃器は
その信頼性の何たるかを理解している奴の所業だ。
俺は自動拳銃の方へとスタスタ歩いていき俺の研究所でもまだ未研究の1つを見つける。
チェコスロバキア製、Cz75。
全長200ミリ強、無装填で約1キログラム、9mm口径の弾丸を15+1を孕むことができる。
そしてハンマーを起こした状態でも、セイフティを掛けられるコック&ロック
前期型Model。
それを手に取る。
ハルはうなずくと、
「試射室はこっちだよ、ついてきて。」
といって、9ミリパラベラムの箱を2ケースほど持って案内してくれた。
入り際に、俺は腰のSigP230をハルに手渡した。
「悪いがこいつのメンテを頼む。どれくらいかかる?」
「ん~ 3時間かな」
「OK」
おれはたっぷり3時間、右手、左手でそれぞれ100発づつ撃ち続けた。
全身が硝煙臭い。
まぁきらいじゃないだが、最近は鼻の効くロボットもいるから
町中を歩くにはどうするか悩みどころだった。
俺は試射室から出るとハルが
「これ、なんかなぐったでしょ、それも思いっきり。」
sigp230のことだろう。
「あぁ借りもんなんだ、もしかしたらそいつかもな」
「フレーム交換したから一応これも試してね」
「ん?大丈夫だろう Cz75のできは、ほぼ満点だった」
その娘が、天性の職人だと確信を持てるほどに。
上を見ればキリがないというのはこの業界ではよくあること。
褒めすぎない程度に褒める、ガンスミスにとっては最高峰の褒め言葉だろう。
ハルは嬉しそうに目を細めて
「そう?代金は市のおっさんから聞いてるからよろしくね」
「あ、ショルダーホルスターも一応あるよ?市販じゃないけど、プロ仕様の」
「九尾の狐っていう、武器ブローカーのやつだけど」
そのブローカはおれの装備研の店だ。
「じゃぁそれをひとつ」
そして、ハルの後ろに1つの品を見つける。
「そいつは売りもんか?」と俺はハルに聞いた?
「このベルト?」
この間、ピンク色の派手な女の子と、地味なんだけどすごい美人のお姉ちゃんがきて
料金代わりに置いていったの。
「ただのベルトなんだけど、市のおっさんがえらいこと興奮してたのを覚えてるわ。
なんでも、宗次郎オジさまの持ってたやつに似てるって」
それも売ってもらっても?
「え、いいけどただのベルトに貴族の居住エリアに家一軒買える値段よ?市のおっさんに言われて質代わりに受け取ったけど」
「それは安い、是非たのむよ」
「いいけど、なんなのそれ、教えてくれないと売らない」
俺はニヤリと笑って、そのベルト、通称 蛇腹刀を受け取った。
通常は革のベルトのようにしなやかでバックルも普通。
だが・・・
おれはそれを手にとって、バックルを握って軽く振る。
パシンと小気味よい音がする。
それは伸びて5メートル近い鞭のようにしなって床を叩いた。
そして、もう一度今度は縦に振る。
それは、1メートル弱の、刀のように振る舞った。
こいつはもともとはオメガの獲物だが。
「なにそれ、面白い!」
「見せたのだから、持っていくよ」
「使うのにちょっとコツもいるからそうそう売れないと思うよ、ただのベルトだし」
「う・・仕方ない」とハルはがっかりした。
おれは壁の時計を見るとすっかり夜の帳が下りてきていた。
「あぁもうこんな時間か」
お腹が空いた。
「ハルさん、ご飯は?」
「うん、これから準備するの」
そうか。
「近所に飯屋は?」
「あるけど?この時間、居酒屋さんばっかりよ?」
「焼き鳥なら私も食べたい」
ふむ。
「奢ろう」
「やったぁ」と両手を上げて喜んだ。
俺はハルとともに春風のラボからから出ると、ハルは着替えてくるといって、自分の部屋に引っ込もうとした。
「その前に、えーっと、名前聞いてなかったわ。」
「九十九だ」
「九十九さん、お風呂入ったほうがいいわ」
「そこにシャワーあるからね」
といって、アルミのドアを指さした。
「あ、お客さん用で、自宅のは上。安心して、覗かないから」
そう言って階段の上にトントンと足音を立てて昇っていった。
その途中で、「えぇぇぇーーーーー」
という叫びに似た声を聞いたのは、俺がアルミのドアのむこうで服を脱ぎ始めたときだった。
<続>
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