第5章 王の錫杖 (3)
3.モナカと調達準備
俺は学会の会場ビルを後にすると、近所のRESTAURANTに入った。
丁度昼食時で店内はサラリーマン風やら、学生やらでごった返していた。
幸いにして俺は一人だったため、すぐに通される。
ちなみに学会の会場ビルはアイオン・ロード駅と、大日本帝国横丁の間くらいにある。
メニューを眺めながら。
「のみねぇ、のみねぇ、スシ食いねェっ」っと小声でぼそっと言うと。
寿司ざんまいという名の寿司セット注文する。
虎造、最近ハマってるんだよな。
コレクションしてるんだ。
CD全 16巻セット。
現在、宙航船:サマーガールにあって100万光年以上遠くを彷徨ってるところだが。
何としても取り戻したい。
俺は寿司を食いながら、タブレット(研究所サーバのプロクシ経由で
アカウントは学長のを使って、あのおっさんのパスワード、行きつけの飲み屋の女の子の名前+その誕生日なんだぜ)
で、情報屋や、AIを駆使して、王の錫杖のありかを探らせていたのが昨晩。
AIの調査については、ダミーを複数流していた。
情報提供に、ジュース1ダースとかつけておくと速攻情報が集まるんだ。
そしていくつかの情報から割り出した結果、王の錫杖のありかが分かってくる。
有力なのは3箇所だ。
1つは、序列3位のルードヴィング家の屋敷
2つめは、拾得物として、保安事務所に預けられているとか。
最後に、互助管理組合が運営する、楽園監獄。 ここは稀代の重犯罪者が冷凍睡眠で、宇宙流しを待っている連中が入ってる。
ついでに危険物保管所としても機能していて、そんなやつとそんな物を同じ場所で管理していいのかと思うが、まぁ年間数人しかでない凶悪犯だ。
収容人数も、1000人以下。
そして割と出入りが自由なのだ。
そんな犯罪者の顔を見になんか行くやつがいるのかと思うが結構人気のスポットだそうだ。
難易度は 保安事務所、楽園監獄、ルードウィング家、の順。
有り得そうなのがどこなのか、俺には判断つかなかった。
金の通じやすさは保安事務所が一番大きく楽だ。
金で解決できそうで探すのに手間がない。
ただし、楽な道というのは裏があって、だれそれがXXXXを探していた
みたいな情報が出回る。
それはそれで厄介ではある、本当にそこにあればいいんだがな。
逆にルードウィング家への進入は犯罪行為、金が通じにくい。
家人との戦闘に突入した場合は一番厄介だ。
楽園監獄は正直どうなるかさっぱりわからん、というもの監視はあっても戦闘になりえそうなシーンがない上に、金で買収できる相手も居ない。
器物破損と進入罪くらいなもんだ。
ただ、遠い。それだけだった。
忘れてはならない、一番大きく面倒になりそうなディアナがシュナイダーに軟禁されたこと。
ベネディクトは同行できなかったらしい。
まぁあのなりで15歳の美少女を取って食べたりはしないだろう思っている。
こいつの情報源はベネディクトだ。
お嬢様が帰ってこないと、明日直談判にいくそうだ。
おれは、まぁ頑張れよといっておく。
俺の情報が奴の耳に入るのは避けたい。
ベネディクトもそこは理解しているようで何も言わなかった。
とりあえず、なんにせよ装備が必要で、ウルリカのところに取りに行くの少し遠い。
それに移動には足がつく。
もちろん、スマホで連絡なんかした日にはめんどくさいことになる。
なにせデジタル関連はAIのハッキングのせいで、ほぼすべて信用できないときた。
そして俺は乗合馬車に乗った。
さすがは貴族の管理する街だ。
そこらじゅうに走ってる。
「porteresti」と声をかけると立ち止まってくれる。
御者は細身のあんちゃんで「Un giro?」と聞かれたのので
俺は「Si」と答えると、貴族の街をぐるりと回りながら走ってくれる。
パカパカと走る馬は、従順で綺麗だった。
俺は、少し観光気分を出して、スマートフォン(ネット通信の出来ないやつ)でパシャパシャと写真を取りまくった。
呑気だと思うかもしれないが、急がば回れだ。
その行動そのものがAIの裏を書いてると信じて。
幸いにして公共の交通機関はすべてフリー、ロハで記録が残らないって素晴らしい。
時間にして小一時間ほどで目的地についた
細身のあんちゃんに、1万円札を渡すと、「Grazie Buon viaggio」と言って嬉しそうな顔をした。
俺は、大日本帝国横丁の看板のかかったアーチの下に再び立つことになった。
ゲームセンターは気になるが、またあれがいるかも知れないと思うと近づくのも憚られる。
そんな場合ではない、この貴族社会の裏を牛耳る、清水家の親分。
市に渡りをつけるために。
少し寄り道をしながら観光客を装い、自分の金で、しょうもない物品を購入する、扇子とか、キーホルダーとか。
研究所の他の所員向けの土産物を物色した。
途中で桃林堂という有名な和菓子屋を見つけ適当に見繕ってつつんでもらう。
さっぱりとしてるが、しっとりもしている栗餡の和菓子が絶品だ。
ずっしり重いが、風味は軽やかで、いつまでも食ってられるわ。と誰かが言っていた。
和装のバイト娘は格好が気恥ずかしいのか、バイトが恥ずかしいのか少し顔を赤らめながら応対してくれる。
新人さんかなと思うと初々しくて好感を持った。
ウルリカや、オメガや、ディアナを見てると……こういう雰囲気にグッと来るってもんだ。
手土産を持参して、 スナック、座頭市。その扉をあける。
カランと音がした。
「まだ、開店前なのよ、ごめんね」とその女は咥えタバコにこちらもみず手元をじっと見ていた。すっかりくたびれたその顔は40代なかばの、まぁ美人だった。
「すまないね、タマオさん」
と言うと
「え、九十九くん?」とこちらを向きなおりながら、まるで15歳も若返ったような雰囲気で微笑みかける。
「ご不沙汰しています」と言って頭を下げる。
父の付けを支払いに来て以来だ。
この店は現金しか取り扱っていない。
「いいのよ、ゆっくりしていくの?それとも何か用事?」
いい女っていうのはこういう事を言うんだとおれは心のなかでそう思った。
ウルリカや、オメガや、ディアナを見てると……(以下略)
奥からドタドタと物々しい音が聞こえると、若い衆が、5,6人ほどPOPした。
狭い店なのに圧迫感が酷い。
俺はその姿に、両手を胸の前で開いて怯えてみせた。
「え、いや、あの」
その瞬間、バリンという音とともに、タマオが瓶ビールでその若い衆の頭をかち割っていた。
世に女は色々いれど、怒る姿が最高にいいという女はこの女くらいだろう。
怒らせるためにちょっかいを出したくなる。そんな女だった。
そして奥から、親分がでてくる。
「どした、またなんかやらかしたのか?」
「いや?あんたに客だよ」とタマオの後ろから顔を出した市の顎を撫でながら言った。
市は俺の顔を見て、片目を釣り上げ、にやりと笑う。
そしてこういう男は話が早い。
「こっちあがんな、九十九」そう言って名残惜しそうにその繊手から逃れ、奥に顎をしゃくった。
「茶、で頼む」と市は言うと
「そんなもん無いわよ、酒か、さっきもらった缶コーヒーならあるけど?」
タマオはびっくりした顔をしてそう言った
俺はタマオに「お構いなく、つまらないものだけどこれ」
といって桃林堂のモナカの土産袋を渡した。
「茶を買ってきておくれよ」とタマオはそう言うと、さっきの若衆6人、またドタドタとやってきて俺が俺がと先を争うように出ていった。
カランという音が何度もなった。
俺は若衆の一人が顔面血だらけで、あんなに血を流して大丈夫なのかと心配になったが、今度はとっとといけと、ビンが飛んでくるかもしれないと自重した。
「騒がしくて済まないね」といって袋の中を覗き込むと嬉しそうな顔をした。
タマオは「気が利くじゃないか、私の好物覚えておいてくれたのかい?」
「あはは」と俺は頭をかきながら奥の部屋に入った。
「あぁ、靴は脱いで上がってくれ」と親分は俺に言った。
その上がり框の上には、畳が敷いてあった。
俺は靴を脱いで、揃えてからその畳の上にあがったのだった。
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市は自分の定位置に座ると、タバコに火を付けながら
「さて、聞こう、あの嬢ちゃんたちならあれ以来あってねぇよ?
まぁお前が来るってのは派手なちっこいのが言ってた、確か4、5日したらとかなんとか、地味なでかいほうは終始なにもいわなかったが」
派手なちっこいのというのはベータだろう。
近々俺が来ることを想定していたか、あれは予測するのが基礎理論だ。
でかい方は言うまでもなくアルファだろう。
だいぶ早いってことはとりあえず先手を打ててるってことだ。
「ちょっといろいろあってね、武器と足を調達したいんだ」
俺はあっさりといった。
「そんなこったろうと思ったよ、しかしなんだ、最近取り締まりが厳しくてな」
「まぁそうはいっても、在庫がないわけじゃないんだ。」
俺は金額の書いてない小切手をちゃぶ台に置く。
市は切られた方の目を吊り上げているのを見て。
俺は正直に喋った。
「実は現金の持ち合わせがない、いま手に入れることが難しいんだ」
市はちょっと驚いて。
「なんだ?そりゃ、そんな面倒なことになっているのか?」
「まあね」
「で、必要なものは?」
こういう男はつべこべ聞かない、話が早くて助かる。
「AIの積んでない車が1台、なるべくパワーのあるやつがいい」
これが一番欲しかったやつだ。
「ガソリンか?この辺じゃガソリンは手に入らないぞ」
「それは今日届くんだけど、ちょっと遠くてね、取りに行ってくれる人足もたのみたいんだ。
「なるべく目立たないようにね、行き先はクライン家だ、あっちには話は通しておく」
「あとは銃と弾、弾の規格さえ合えば物は何でもいいがなるべくオートマチックで」
「わかった、宗次郎の息子だ、なんとかしよう」
そう市が言ったところで、タマオが盆に湯呑と急須を乗せて。ちゃぶ台に置いた。
そこには俺が土産にと渡した桃林堂のモナカが切って皿にならんでいた。
そして俺にだけ茶を入れる。
「あ、どうも」とおれは軽く頭をさげると、「けっ」といって市は自分で茶を入れた。
市は一口茶を飲んでからまずそうな顔をすると、タマオに「おい」というと「あいよ」と答えて紙と鉛筆を持ってきた。
市は鉛筆を先を舐めながら、紙に地図を書いて印をしていく。ここに車、四駆だ、おまえの親父が置いていったやつだ。ガスは満タンにしてあるが、おかわりはねぇ。
誰も乗りたがらないと言うか乗れるやつが少なくてな。
持ってってくれ。
あと武器はここだ、工具もあるから好きにやってくれ。
「ハルってやつがいるからこまけーことはそいつにきいてくれ」
「中に入ってこのメモを見せればすぐだ」
「俺の名前、通ってる方を言ってくれてもいい」
そして最後に自分の名前を書いた。
地図を見ると、歩くには少し遠いなぁと思っていたら
「あぁ?自転車ならあるぜ?だれものってない、ごきげんなやつがな。
裏通りは自転車が多い、紛れるにはうってつけだ。」
「タマオ、クライン家に使いを出してくれ、なるべくでかい2tでいいな。」
俺は黙って頷いて
「あ、箱がいいよ、裸は多分目立つ」
荷物は悪いがここに取りに来てくれ、地下に保管しておく。
入口はこことここだ、と地図に書き足す、
2回ノック、1回返事があるから、こんどは1回だ。
「合言葉は オヒカエナスッテだ」
俺は立ち上がり、礼を言うとタマオも立ち上がって、「もういっちゃうのかい?」
「えぇ、居心地がいいんで、長居しちゃいそうになるから」
と俺は言うと、
「いつでもおいでなさい、歓迎するわ」
とタマオは嬉しそうに言った。
部屋の上がり框まで移動する。
小切手はテーブルの上。
俺は半分振り向いて
「ちゃんと請求してくれよ、変な借りは作りたくない」
「あぁあぁ、わかったわかった、とっとと行きな」
俺は靴を履こうとすると、見送りについてきたタマオが靴べらを渡してきた。
俺は黙って受け取って使う。
そして、振り向いて頭を下げて店を出た。
来るときと同じ、カランと音がした。
その時ちらりと聞こえる声
「あんた、息子がいたらあんなのがよかったわね」
「そうだな」
そんな声が聞こえたが聞こえないふりをした。
<続>
第5章 王の錫杖 (4) 4.ピストルと刀




