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擦れたお兄さん(26)が、お金と超技術で無双してみた  作者: 久破空是


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第5章 王の錫杖 (2)

2.旧世界考古学考


 現在の伝えられている知識では250年ほど前、地球は減退期に入り、数万年は人が住みにくい、そういう星になったのだと言われていた。

 まるでなんとかの大予言だ。

 

 それが、互助管理組合の発表で、その真意を確かめることすらままならない人類は、絶望することも未来に希望を持つこともできず、もんもんとしていたらしい。

 現在の暮らしの中で当時のことを知るものはもう居ない。


 その力を借りて現在のユメノカケラという惑星を第2の故郷としてそこで生きているということすら、忘却の彼方に沈もうとしていた。

 それすら、互助管理組合は計算していた。

 

 宇宙開拓時代、各国、企業、研究団体、なんとか組合はこぞって宇宙に新たな資源を求め、あちこちに探査船を飛ばしていた。

 新たな欲望だけを糅に


 結局人はその身を持って、宇宙の広さを知ることになる。

 広大すぎて、調査が進まない、成果が出ない。

 と。

 

 徐々に凍えていく地球に人類は恐れおののき、世界が恐慌に陥る時に宇宙から、希望の連絡が来る。

 

 それは 数十年前に旅立った、探査船 NoBackHOME号からもたらされた情報だった。

 居住可能惑星の発見。

 ただし、数万光年先、光の速度で移動したとしても数万年かかる距離。

 人類にそこへ到達する技術などありえようもなく、さらに絶望を深めた。

 それでも今すぐどうなるっていうものではないという、お気楽感があったのは言うまでもない。

 それが、計算され尽くしたタイミングで発表されたとしても。


 自分たちの誤りを認めるということがシステムに組み込まれてない社会は、動脈硬化を発症し緩慢に国民を締め上げる。

 思考を奪われると、全体主義と個人主義は実あまり大差がない。

 誰かが率先して責任を取るか責任を転嫁するかのどちらかになっていたからだ。

 民主主義の限界、選挙制度の汚染、独裁政治家の暴走。

 お決まりの路線は、社会学的に見ても人という知性の限界であったろう。


 結局、金を持ってるやつが勝利するという社会システムは、奪え殺せと何ら変わらない。

 誰かの幸せは誰かの不幸なんてよくいったものがそれは相対的で絶対ではないところがミソではある。


 そしてその連絡に一縷の望み残し世界はなんとか正気を保てていたと、記述にはある。

 

 そしてさらに数年後、とある日本の研究機関が発表する。

 ユメノカケラへの移住計画

 のちに互助管理組合の前身となった機関。

 

 移動方法や、現地での生活はさておき、人々はこぞって移住したのだった。

 それは、もうこうなってしまっては国も何も関係ない、自分と自分の身の回りのものだけあればいいという、ユートピアの思想そのものだったと後の研究者は言っていた、と記録にある。

 

 優先されたのは、一般市民からだ。

 金のあるやつはなんとか凌げというのである。


 ま、そういう時代があったと記録にはある。

 動画もある。あるが、それを本物だと証明する手立てはない。


 ————

 

 俺は壇上で喋る女性の声で現実に引き戻された。

「…………で、ありまして、現在の私ども人類のおける状況についての発表を締めくくらせていただきたいと思います」

 会場には、拍手が起こる。

 俺はわけがわからないまま一応、拍手をするのだった。


「10分の休憩の後再開いたします」とナレーションが言うのを機に

 落ちていた照明が明るくなる。

 ざわざわと周囲の研究員達はおのおの席を離れていくのが見えた。

 俺は持っていたバッグからミネラルウォーターを取り出しゴクリとのんだ

 

 このシンポジウム自体、結構面白い。

 過去の動画を見ていたが、思わずマジカと思うことを平気で喋っていたりする。


 失われた情報の歴史など、いとも簡単に書き換わるという点において、見てきたかのごとく解説する話者はそれが、創作なのかどうなのか判断すらできないのが滑稽だ。

 

———————— 


 ”びーー”というブザー音とともに会場の照明が明度を落とす。


 画面には「地球文明発掘データに基づく、中世極東地域における指導者「織田信長」の生物学的性別に関する考察 著:矢木理 留雄 」とあった。

 俺はここでどんな妄想?あるいは研究しているのか、興味が湧いた、織田信長公、女説。

 

 笑うなよ、彼らは真面目なんだ。


 画面に表示されるテキストを真面目に読んでみた。

『”はじめに:残存情報の制約と史料分析の原則

 本学会において我々が依拠すべき原則は、歴史的事象の再構築にあたり、検証可能な物理的な残存情報のみを分析対象とするという点にある。

 神話、伝説、および検証不可能な伝聞の類は、客観的史料としての要件を満たさないため完全に排除する。


 現在、残された記録媒体は、大移動時の混乱の中、行政文書などの一次史料の大部分が失われている。その一方で、例外的に多数の物語形式のデジタルテキストも残存しているのも事実であります。

 

 この状況下において、残存するテクスト群に一貫して描かれる「織田信長=女性説」を、学術的・論理的整合性に基づいて検証していきたいと考えています』


 壇上に立って話すのは、かなり年季の入った60歳近いおじいさんだった。


『 第一に残存テクストの統計的傾向についてお話します。

 歴史学において一次史料の物理的消失は重大な制約でありますが、現存する情報の傾向から社会構造を逆算して復元することがある程度必要となります。


 まず、国家の中枢機密データが失われている以上、我々は体系的に保存された「残存テクスト群の共通項」を分析せざるを得ない。


 そして、出土した当該地域の文芸テクストにおいて、「信長が女性であった」という設定が一貫して採用されている場合、これは情報の伝播過程における特定の前提、あるいは記録保持者の間に共有されていた認識の残滓として処理される。』

 

 おじいさんは自信満々に語っている、なんだか少し興奮し始めたようだ。


 周囲が固唾をのんで見守る中、自らの思考を黙々と語る。

 どれだけ荒唐無稽でも、その心理は全能感、一体感を含める強烈な快感として神経を鋭敏にする一種の麻薬のような効果があると聞く。

 おじいさんはそれにとらわれはじめているのかもしれなかった。

 

『第二に政治的合理性と行動原理に基づく考察についてだが、その件についてまずあげられるのが、男性中心社会における統治機構の推測であります。』

『16世紀の極東地域が武力による支配体制にあったことは、環境データ等から裏付けられる。

 そのような環境下において、特定の個人が最高権力者として台頭した経緯を説明するため、テクスト内では性別の秘匿や、周囲の主要家臣団による組織的な庇護体制が描かれている。これらは統治の正当性を維持するための政治的方策として論理づけられている。』

 

 ずずっ

 マイクにお茶を啜る音が混じる。


 『それから、行動規範の整合性についても忘れては行けない要素となります。

 当時、既存の伝統的権威に対する批判的態度や、新技術の積極的導入といった記録上の行動特性は、旧来の価値観にとらわれない変革者の典型例として記述されている。テクスト群は、これらの特性を生物学的性別の差異に起因するものとして構成している。

 最後になるが、記録の終端における状況証拠も織田信長公、美少女説について証拠で揃っておる。』


 俺は、美少女?ん?ナンカ雲行きが怪しいぞ。


 『事変の過程において遺体が発見されなかったという状況について、テクスト群は政治的・組織的な理由による意図的な隠匿、あるいは身代わりの擁立といった工作の結果として描写しており、情報の断絶を埋める論理として機能している。』

『ごほん』 マイクに大きな咳払い

『結果として私としてはこう断言せざるを得ない』


『残存情報から、神話的要素を完全に排除し、現存するテクスト群の記述傾向と状況証拠の整合性のみを検証した場合、当該人物の属性に関する描写は、当時の政治的サバイバル戦略および統治の特異性を説明するための文脈として一貫している』


『また、歴史的再構築の試みにおいて、現存するデータの偏りを考慮しつつ、そこから導かれる整合的な解釈の一つとして……』

 ここで一息入れてから仰々しく、

『「信長美少女説」は成立し得ると考える次第であります』

『本発表は以上であります。』


「最期に、織田信長、サイコー」とおっさんは叫んだ。

 右手を握り、ガッツポーズまでしていた。

 

 そして、会場は大きな拍手に包まれたのだった。


 聞いてるだけで気持ちもお腹もいっぱいになりそうな、おっさんの甘酸っぱい思い入れに、俺はこんな世界、いつか無くなるよと心配しながらも

 気分転換にはちょうどよかったのかもしれないとそう考えることにする。

 意義のある一日であると信じたくなったのだった。

 

 いや情報というのは、その残された情報だということ、そしてそれを無理やりどうやって紐づけるのか。

 その論理に終止するのだと。

 それはとりあえず、どこか知らないところで謳歌してほしいものである。

 ぶっちゃけそんなことはどっちだっていいのだ、どっちであろうと、どう解釈しようと、そいつの中で信じればそれを真実だと思っていい、それをこんな公の場で議論するほど、世の中は退屈なのだろう。

 バカバカしい話をどれだけ真実身を持って語るか、それはもう一首の技能と言わざるを得ない。

  

 俺は学長に聞きたいことがいっぱい出来てよかったと思うと満足して、万雷の拍手の中、席を立ったのだった。


 <続>

次回 第5章 王の錫杖 (3)  3.モナカと調達準備

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