第5章 王の錫杖 (1)
1.Interlude
結局、眠ろうかと思ったが、報告書の中身が全く信用出来ない事態に、徹夜することにした。
途中1時間ほど寝たが、ヨガの呼吸法や古武術の身体制御法で5時間ほどの睡眠を取ったような爽快さだ。
しかしAIが疑わしくなった途端、情報の錯綜、矛盾、誤報に勘違いに気が付き始める。
意図したものなのか、本当に誤りなのかも含めてすべてが疑わしくなってしまう。
もし本当にAIが正しいことを言うのであれば、世の中は金持ちばかりになっているはずだ。だがそうなっていない。
世に氾濫するAIは実は裏で人間が操作してるのではないかとすら思えてくる。
特定の思考ベクトルを操作することで、勝ちも負けもないマッチポンプを生んでいるのかもしれない。
俺が苦労しているのは、もしかすると俺みたいなやつには苦労させたいと誰かが考えてるのではないだろうか?
その何らかの意図が働いているとしか思えない。
世界は便利になる代わりに、人はどんどんだめになっていく。
ま、そうやって世界は広がったのだと言われれば、そのとおりである。
報告書や、決済依頼やらと対応が必要な資料は一通り確認する。
体内時計の感覚だと、そろそろ午前6時。
俺は立ち上がって大きく背筋を伸ばし、首を左右に振る
コキコキと首の筋が鳴る音がする。
「おっさんだな」と俺は思ったのだった。
カーテンの隙間から陽の光が差し込んでくる。
夜明け。
俺は窓に近寄りながら思いを馳せる。
結局、車や工作機械は人の手足の延長ではあった、だがAIは違う。
脳の代わりをする。
ほぼ無限と思しき情報に対し全文検索をかけ文脈から情報を整理し羅列する。
文脈から情報を整理 と書いてはいるが、AI自体言葉を持たない。
それすら文脈から読み取って、人に都合の良い記号の羅列を行っているだけだ。
AIがべらべらと喋るようになって100年以上たつ。
人間並みの応答速度、多面的な学習と推論予測、それは人にそう言わせるための誘導の可能性すらある。
AIが誤った情報を出力する場合がある?人がやるよりまともであれば少々の誤りなど誤差だ。
だってそれを人が信じれば真実だからさ。
ただ、AIが言ったんだもんっていう責任逃れをする輩に問題がある。
お前、飛行魔術があると聞いてビルから飛び降りる勇気があるのか?
それは勇気じゃなくて、あほうというんだ。
AIを使ってるんじゃない、それをAIに使われてると言うんだ。
やはりバックアップから切り戻すか、といったところで、root移譲は嫌だなぁ。
うちのAIどもには自力で克服してもらいたいところだが、フルスペックで動くためにも
あの宙航船を取りに行かなくてはならないが、もはやそんなことができる船が存在しないのだ。
アルファとベータによる正確無比な割り出しと予測による因果すら操る可能性のあるあのコンビでないと、帰還は難しいだろう。
俺は考えるに、不可能に近い想像に、大きくため息を付くと。
「大きな事はできません、小さなことからコツコツと」という大っ嫌いな言葉を思い出した。
「ズバッと解決できないかな、ゾロリ」
俺は子どもの頃に見ていた気のするアニメのフレーズでその思い出を上書きした。
————
窓の下を見ると大きな庭で、昨日の大きいボールが走っている?ころがっている?のがどうにもコミカルだ。本人は真剣なのだろうが。
その後ろに、あれは奥さん、ウルリカの母親か。
昨夜は顔を見ることできなかったが。
ホットパンツに肩紐タンクトップ、ほぼあれは寝間着とか下着とか言うんじゃないだろうか。
こっから見ても、ぶるんぶるんと震えるのが遠目にもわかる。
大きくて、きょうい的なあれは母娘だなぁと思う。
にしたってやたら色っぽい上にあの体は反則だろう。
もうすぐ50歳になろうかというのに。
そんな格好でこの庭の中を、その右手に持った竹刀を振り回してボール、いやマクタッキーモスを追いかけていた。
何も変わらない日常、それを見て、少しは頑張るべぇと思ったのだった。
世界は少しづつ狂っていくのか狂った世界が正常になっていくのか、いや、もうすでに狂っているのかもしれない。
俺はその中で存在している、事実はそれだけだった。
————
部屋に備え付けのシャワーを浴び、買い込んだ衣類を着用する。
深夜の確認作業中に買い込んだのは市販の普通の衣類だ。
今やネット通販はコンビニ並みの便利さで、発注から3時間くらいで俺の手元まで届けてくれる。
通販会社『ラビット・ムーン』
発達したドローン技術、発注発送管理の完全無人化自動化。
衛星軌道上に倉庫を持ち、軌道エレベータを使って荷物の上げ下ろしをする。
そこからさらに爆速で空輸ドローンでかっ飛んでくる。
それがさっき窓を覗き込んだ時に届いていた。
割とフォーマルなスラックスにジャケットは無難な格好だ。
今日こそ、ウルリカを信じでなにもないであろうという期待をする。
テーブルに置いたSIG P230をベルトに差し込むと俺は扉をでる。
開けたその扉の横で三角座りをして膝に顔を埋めるオメガをちらりと見る。
「何してるんだ、そんなところで……」
「…………」
オメガは顔も上げず微動だにしない、完全に無視された。
俺はそれ以上なにもいわず、玄関ホールに向かった。
「ま、まって!」
とオメガが言うのを今度は俺が無視した。
玄関ホールでウルリカが俺の前に立ちはばかった。
「おはよう、ウルリカ、早起きだな」俺は何事もなかったように挨拶する。
「オメガちゃん、つれていってあげてよ……」
とウルリカは、悲壮な顔をしながら続けて言った。
「アルファちゃんのことはきっと何かあったんだと思うけど、オメガちゃんは助けてくれたじゃない、」
俺はしかめっ面をしながら、
「あれはAIのやる反応じゃない、さっさと叩き出せ」
ドォン
背後で凄まじい音がする。
おれはあわててもとの部屋に向かうと、ホコリまみれでえらいことになっていた。
埃は中庭に流れていく。
それ晴れると、巨大な何かが壁を突き破ってあとが残っていた。
「あ・・・あいつめ、壁を破ってでていきやがった」
俺はまた費用がと、俺はがっくりと肩を落としたのだった。
ついてきたウルリカは、それを見て口を押さえながら
「女心をわかってあげなさいよ」と言って俺を見る。
「ありゃ、AIだぞ」と俺は言うが
「知ってるわよ、でもねだからなんだって言うのよ」
「一般論?世間の目?それがなに?」
「今どきの子より、よっぽど女の子してるわよ?」
と一気にまくしたてるウルリカに俺は。
「知ってるさ」
「だからこそ、一般論?世間の目?それがどうした」
「お前の言ってる事そのものがそうじゃないのか?」
「……」
ウルリカは黙り込んだ。
俺がそばにいることで、芽吹きかけている何か……それを壊さないように
AIの次の未来がそこにある気がする。
俺は口にはしないがそう思っていたのだった。
「俺は行く、悪いが荷物は頼む、あと壁の修繕費の見積もりを寄越してくれ。」
「ディアナとベネディクトもな……」
そう言いうと煙の晴れた、廊下の向こうに立っていたベネディクトは深々と頭を下げていた。
俺は片手を上げそれに答えるとクライン家をあとにしたのだった。
<続>
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