第3章 ESC(Escape)&ATC(Attack) (4)
4.AI三姉妹物語
「ごほっごほっ、やってくれたな、九重九十九」と声がする。
あちこちから鉄の焼けたにおいと煙の中から、足を引き釣りながら近づく影
名を 市 という。
本名かどうかはわからない、大昔の盲目で居合の達人がそんな名でついたあだ名かもしれない。
短髪白髪、片目に刀傷、何もかも見透かしていそうでいて眠そうだがその眼光はするどい。
四角いごつい顔の真ん中には団子っ鼻、に腫れぼったい唇はどこか色気がある。
背は低く、155センチメートルくらいだが、そのガッシりとした体躯からにじみ出てくる雰囲気は武道の達人のような風格さえ感じる。
少し足を引きずりながら杖をついて歩くその姿に騙されてはいけない。
その杖は仕込み刀でその居合は、常人の倍くらいの速度と距離で居抜かれる。
その横には派手なピンク髪の中学生くらいの少女が自分より大きい対物ライフルを軽々と抱えてこちらに無防備にそして呑気に歩いてやってくる。
俺はアルファが近くにいることで迂闊に動けない。
それを知り腐った行動だ。
「おにーちゃん!もちろん無事よね、ベータ狙わなかったもん!」
と気軽に俺に話しかけるベータと名乗るピンク髪の少女をちらりと見る。
背丈はそれほどではないが、絵に書いたようなあどけない美少女だった。
その格好はパニエ風ボリュームミニスカート、薄いピンクのリボンタイトカットソーはどこか魔法少女のようだが、その手には黒い鋼の対物ライフル 「ダネル NTW-20」
見た目とのギャップがエグかった。
「言っておくが先に撃ったのはお前らだ」
「あぁわかっている、高くついたがまぁ金を払ってもらえるなら文句はねぇ」
「俺の体以外はこの嬢ちゃんたちの資産でな、時間くらいしか損してねぇ」
俺は、やれやれという気持ちで
「いいか?」と断りを入れ両手を前に出してグーとパーを繰り返した。
市が間合いに入るのにあと5歩というところだ。
ウルリカのサーベルを背に隠し持っているが、奴の腕ならあっさりサーベルごと俺の胴体も切ってしまうだろう。
「かまわん」
市は勝者の余裕か、ほんとうにかまわないのか、奴の気が変わる前に、俺はすぐさまポケットに手を入れてコインを一枚取り出すとそのまま指で弾いて市に飛ばす。
キンッと音がするのと、市が立ち止まるのとどっちが早いか。
だが予想に反してそのコインをパシッと空いてる左手でキャッチすると。
「確かに」と言って立ち止まった。
「親父のコーヒー代くらいで勘弁してくれ」
俺は緊張もとけず、おどけてみせた。
宗次郎とは俺の親父のことだ。
「あやつが誘ってあやつが払わなかったんだ、今度返すって言っておいて音沙汰がねぇ」
「やつから利子はもらわねぇとな、仁義の筋が立たねぇ」
俺はアルファとベータを見ながら言った。
「親分に説明してないのか?」
俺の言葉をあっさり無視する。
「しかしまぁ、手前の親を野垂れ死にとは、感心しねぇやな。」
市はそういうとまた踏み出そうとしたその時
”どっ!”何かに弾かれたようにアルファが市の方へ飛ばされる。
ベータはひゃっと言って身を避けるが市はそのまま杖を真正面に立てると、アルファは器用にその上に着地して、自分を蹴飛ばそうとしたもの見た。
こうして九重家のAI3姉妹がこの場にそろったのだった。
「おひさー、九十九ぉー」
そういって、敬礼でにこやかに俺に挨拶するオメガは
物陰からすごい勢いでアルファを蹴り飛ばしたのか、避けられたのか。
ひらりと舞うスカートから、真っ赤な下着がちらりと見える。
「お前なんて格好してるんだ」
「だって、久しぶりに合うんだものおめかししなきゃ」
胸元から腰にかけてボディラインのくっきり出るデザイン。
腰から下は、裾に向かって広がるスカートは変形ヘムライン、前が短く後ろが長い。
肩が丸出しで心もとない紐がトップスを釣り上げている。
「ん?味方ってことでいいのか?」
「もちろん!後でご褒美ちょうだいね」
そう言われてSIG SAUERが開発したといわれる中型オートマチック拳銃「SIG P230」その精巧なコピー品を手渡される。
「あとこれ」とおかわりのマガジンねといって俺の空いてる手に乗せた。
これでもまだ戦力不足は否めない。
っとその前に忘れてはいけない車の中は固唾を飲んで状況を見守るしか無い一般?人に向かって窓から覗き込んで俺は「片を付けるから頭を低くして待ってろと」と言った。
「んーっと」オメガは呑気に俺に話しかける。
そして、俺は窓を見たまま市に銃口を向けると。
「…………に捕まっちゃってさぁ——」どうやら説明を始めたらしい。
本当に呑気な奴だ。
警告もなしに、ドンッドンッドンッと2層構造の道路に音が響かせた。
だが、ギンッギンッという音が2回響く。
市はその弾丸を切った。
2回が限界か一発が市の頬をかすめて血が流れている。
その横でベータは「ダネル NTW-20」を腰だめにしていた。
それはまずい、車がお釈迦になる。
「オメガ、なんとかしろ」
「合点承知の助」
「ベータ姉さん、チョコレートだよ、ほら」
といって、ファンシーな袋をベータに向けてほうり投げた。
俺は咄嗟にその袋から目をそらす。
と周囲が一気に真昼のような明るさになる。
「オメガ特性、甘い匂いのするフラッシュパン」
そして ドォンという轟音が響き渡ると、今度は俺の目と鼻の先を20ミリ弾が通り抜け、鼻の頭を切り裂いく
そして、ガンっという凄まじい音を立てて道路の壁に突き刺さった。
咄嗟の揺さぶりで、狙いがちょっとズレたみたいだ。
「で、ハッキングで………………」
俺は耳がキンキンする中、オメガはまだ呑気に説明する声が聞こえる。
「ベータ姉さん、今度は本物だから、よっと」
今度は四角く薄べったい箱の手裏剣のように投げた
対物ライフルをごとんと落としてチョコレートに飛びつくベータを見てオメガはガッツポーズをした。
「いっちょあがりっ」
その時俺はアルファが投げた鉄扇を銃で撃ち落としていた。
それが囮だと分かっていても、気が抜けない。
計算されつくして飛来する鉄扇は、撃ち漏らしたら最後、俺に向かって飛んでくる。
微妙にズレた機動、弧を描くように飛来するそれは1つを見れば1つを見失うという、妙技の果ての技だった。
すべてが囮で、全てに殺意がこもっている。
だから、すべてが本物ですべてが囮だとも言える。
恐るべき技だった。
俺は鉄扇を1つわざと撃ち漏らすと想定通りの場所に飛んできたそれを左手の人差し指と中指で掴んでそのまま別の方向へ投げた。
そう、この混乱の中気配を消して必殺の一撃を叩き込もうとする市の殺意の発生源に。
市の居合の姿勢に入った瞬間へ鉄扇が視界を横切る、その隙に俺は市の間合いの死角、鉄扇が作る死角に滑り込んだ。
ひゅぅと空気の切れる音にキン!と無粋な雑音が紛れた。
仕込み刀が鉄扇を弾く音、それは居合を抜いた場所を狙って俺がつかんで投げた鉄扇を弾く音。
そのまま俺を切ることも出来たが、そのまま切れば鉄扇が自分の顔面に直撃するコースだったのだ。
俺は市に、「これ以上は割に合わないよ」と言うと市は
「それもそうだな」応じた。
ベータとアルファの気配も消える。
市は裏社会とつながりがあり、それでいて継承順位12位の貴族。
そして最期の侠客。
その順位から落ちればファミリーを守れない。
そんな事情が市を追い詰めたのだろう。
ディアナの順位が上がることで、その順位が下がった。
それは俺達襲う理由には十分だったのだろう。
「足が悪いのに大変なこったな、後始末は任せろ」
市は素直に、そして渋い声で 「あぁ、すまんがたのむ」と言ったあと
市は振り向きもせず、金ピカ丸の攻撃から免れたロボットとともに去ってく。
そして、 「達者でな」 と言った。
それはこの死闘の最期にふさわしい言葉だとなぜかそう思ったのだった。
俺は、賄賂の情報網を使って、この道路の騒ぎのもみ消しと後片付けを連絡するのだった。
——————
俺はおもむろに道路脇の上空に向けて、「SIG P230」で一発撃った。
ドォン
カンッと音がして弾かれてしまったようだ。
そこには金色の小さな球体がこちらに飛来してきていた。
カクンと高度を落としたそいつから聞こえる声
「ぁ・ぁ・ぁ 酷い、ひどい仕打ちで~~~す」
ついに幻聴まで聞こえてきたのかと不安になったが、よく見れば金ピカ丸の頭がジェット噴射を撒き散らしながらこちらに向かってきていた。
俺は思わず、「ちっ」舌打ちをした。
車は跳弾であちこち傷だらけだが、流石に健在だ。
金ピカの吐瀉……熱線に当たらなくてよかったと……。
俺はよっこいしょと、キノコのようなドーム型の頭に細い棒と2本のアームだけになってしまった薩摩と両足を担いでトランクに放り込んだ。
バッテリーが切れたのかピクリとも動かなかった。
金ピカ丸の声に気がついたウルリカはキャッチしようと両手を広げていた。
ウルリカは目をうるわせて感動の再会のような雰囲気をかもしだしていた。
「お・お・お、僕にもまだ帰るところがあったんだ……」
と、加速してすごい勢いでその胸に飛び込もうとする。
「お・お・お、こんなにうれし………………おっぱ」
最後まで言い切らないうちに俺はその頭をキャッチして、ハンドボールのようにトランクに放り込んでハッチを閉めた。
「もう伏せてくれるやつが居ないのだから自重しろよ」と思わず俺の口から漏れた。
————
「あたし、運転したい!」と無邪気にはしゃぐオメガは、俺の腕に絡みついてくる。
俺はまぁ今回はいいかと思い、
「客がいるお手柔らかに頼むよ」
「わかってるって」とオメガは運転席に乗り込んだ。
俺は助手席に乗りこむと
「待たせたな」とディアナとベネディクトに言った。
「お見事でございましたな、九重様」
「カンカン言うロボットと寸胴のロボットは?」とディアナに心配された王様の下賜品は
「あぁトランクの中だ、多分メモリーは破損してなさそうだから壊れたとか言って返品すると良い、返 品だぞウルリカ、きっとあの気持ち悪いメモリをリセットしてくれるはずだ」
ディアナは、あ、という顔をして言った。
「その子よ、銃を私に押し付けたの」
おかげで助かった、助かったがたまにやるオメガの行動は常軌を逸している。
本人にもなぜそうしたかの自覚はない。
「「で、その女はだれ?」」とウルリカとディアナは口を揃えて言った。
「女?、あぁオメガだ」
その説明では不満なのかじろりと 残念美人とオタク美少女に睨まれた。
俺は咳払いを1つすると
「うちのAIの1機だ、危険はないと、思う。」
君等に危害は加えまいよ
「AIなの?、全く人と見分けがつかないわ?」
うちの黄金丸と薩摩とは大違いねとウルリカは続けて言う。
「まぁ、気にするな、喋る家電製品位に思っておいてよい」と俺は割と本気で言ったのだが。
「その雑な扱いがたまらないわ」とオメガが火に油を注ぐようなことを言うとウルリカとディアナは胡乱な雰囲気を漂わせたのだった。
「あ、そういえばあの装甲車とかミサイルとか全部九十九ちゃんの名前で購入してるから、よろしく」
「な・・なん・だと」俺は茫然としたのだった。
そしてすごい勢いで車は発進した。
<了> 次回、第4章 九重家 1.アルファと、そしてオメガと




