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幼馴染を寝取って始まる鉄拳伝説〜武闘家の俺、勇者が偉そうにしてきたから花嫁寝取ってやったわ〜  作者: アルファベータ


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第6話 殲滅の狼煙


 玉座に鎮座するゼノスは、指先一つ動かさなかった。国境の街、ベルノアからの惨状を伝える早馬が届いても、彼はただ、薄く笑みを浮かべてワイングラスを揺らすだけだった。


 その優雅な動作は、血の匂いが漂う戦場よりも、社交界の晩餐に似つかわしい。彼は優しさを押し殺した。


「ルビエスタの連中が、調子に乗って国境を越えたそうだな」


 ゼノスが独りごちる。その低い声は、広間に控える重臣たちの背筋すら凍らせた。かつての勇者レオンであれば、即座に聖剣を抜き、自ら先頭に立って敵陣へ突撃していただろう。


 勇者とは、先陣を切る者であり、民の盾となる者であったからだ。だが、ゼノスは違う。彼は自らの拳を、泥を塗るような矮小な戦いに使うつもりなど毛頭ない。


「ゼノス様、ルビエスタ軍の先遣隊が、既にベルノアを占拠し、旗を掲げております。このままでは王都まで。なので……!」


 側近の一人が焦燥に駆られて叫ぶ。しかし、ゼノスはあくびを噛み殺しながら、傍らに控えるエリスの髪を弄んでいた。彼女はゼノスの膝元に侍り、まるで調教された仔犬のように、主の寵愛だけを待っている。


「……誰が、俺が出ていくと言った?」


 その一言で、広間は墓場のような静寂に包まれた。


「俺は玉座に座り、お前たちの働きを見守る。俺が先陣を切るような国であれば、勇者の時代となんら変わりはない。俺が必要なのは、俺の意志を代行する『優秀な道具』だ」


 ゼノスは視線を巡らせ、広間の隅に控えていた若き武官たちに投げかけた。彼らは元・勇者パーティの末端や、かつてゼノスを蔑んでいた名門の騎士たちだ。


 彼らは今や、ゼノスの「怨撃」によって精神を侵食され、恐怖と崇拝が混ざり合った異様な忠誠心に縛り付けられている。


「行け。ルビエスタの旗を引きずり下ろし、奴らの頭蓋を並べてこい。俺の拳を煩わせるようなら、その時はお前たちの首を並べることになる」


 彼らは人間としての感情を削ぎ落とされたかのように、一斉に頭を垂れた。彼らの瞳には、かつての誇りも、国を守るという大義もない。


 ゼノスという絶対者への異常なまでの執着と、失敗への恐怖だけはとてつもなかった。


 街へ出たゼノスの「精鋭部隊」は、もはや騎士の群れではなかった。彼らの背後には、ゼノスから付与された禍々しい黒い闘気が揺らめき、通りかかる市民たちは、ただその気配だけで膝をついた。


 ベルノアの街では、ルビエスタの兵士たちが戦勝に浮かれて酒を飲んでいた。そこへ、ゼノスの軍勢が影のように音もなく現れた。


「な、なんだお前たちは……っ!?」 


 ルビエスタの隊長が驚愕して剣を抜く。だが、彼らが対峙したのは、騎士道精神など微塵も持たぬ「道具」たちだった。


 先陣を切ることもなく、ただ無機質な動作でルビエスタ兵を屠っていく。ゼノスの軍勢は、まるで害虫を駆除するかのような事務的な冷徹さで、街を血の海に変えていった。


 彼らはゼノスの意志のみを体現する。言葉も、叫びも、慈悲も必要ない。ただ敵を殲滅せよという命令を遂行するだけの傀儡。


 遠く王都の塔から、ゼノスはその光景を「視て」いた。


 彼の「怨撃」によって繋がれた者たちの視覚は、ゼノスと共有されている。彼らが誰を殺し、どんな表情で絶望するかを、ゼノスは高みの見物として味わう。


「うん。少しばかり手際が悪いな」


 ゼノスは冷ややかに言い放つ。だが、その表情は楽しげだった。王都の街中では、ゼノスの圧政を恐れる反対派が密かに集会を開いていた。


「あいつは勇者じゃない、ただの独裁者だ」


「戦鬼アーシュノルドが来れば、ゼノスなどひとたまりもない」という囁きが広がる。


 それを知ったエリスが、ふと悲しげな視線を向ける。


「……ゼノス様、民たちが、不穏なことを……」


「放っておけ」


 ゼノスは立ち上がり、窓から広場を見下ろした。そこには、自分の銅像を建てる作業に追われる民衆の姿がある。


「俺が自ら動くのは、俺以外の全てが死に絶えた時だけだ。それまでは、この国そのものが俺の拳となって、外敵を、そして内なる汚物を排除すればいい」


 戦鬼アーシュノルドの名が、いよいよこの国へ届こうとしていた。隣国ルビエスタが放つ最高の駒と、玉座でワインを嗜む支配者。


 ゼノスが動かぬまま、世界は破滅へ向けて激流の中に投げ込まれていく。彼はエリスを抱き寄せ、その首筋に顔を埋めた。彼女のその匂いと、ルビエスタの惨劇の記憶。


 それらが混ざり合う時間が、ゼノスにとっては何よりも甘美な統治のひとときだった。


「さて。戦鬼が来る前に、この国をもう少し『俺の好みの形』に作り替えておくとしようか」


 ゼノスが指をパチンと鳴らすと、王都の広場に、かつて勇者の英雄譚が刻まれていた石碑が砕け散り、代わってゼノスの「絶対的支配」を謳う黒い巨大な碑文がせり上がってきた。


 彼は動かないが、彼が意図するだけで世界は変貌する。これこそが、最強の「支配者」の在り方であった。


 ──────────────────


 ルビエスタの最前線には、重苦しい沈黙が降りていた。ベルノアの街を蹂躙したゼノスの精鋭部隊は、ルビエスタの先遣隊を文字通り「掃除」し尽くした。


 生き残った兵士が持ち帰ったのは、血の滲むような報告書と、理解不能な恐怖だけだった。


 ルビエスタ王国の軍議の間。その中央に、一人の男が座っていた。


 男の名は戦鬼と呼び声の高い、アーシュノルド。全身に無数の古傷を刻み、その瞳は常に血に飢えた獣のように輝いている。


 彼は報告書を一瞥すると、クシャリと握り潰した。


「ゼノス……以前は勇者の荷物持ちだった男か。魔術も使わず、ただの武闘家が、どうやって軍を動かした?」


 アーシュノルドの問いに、側近たちは誰も答えられない。ただ、報告者が震えながら、「奴らは……兵士というより、魂を抜かれた『器』のようでした」と答えるのが精一杯だった。


 戦鬼は獰猛な笑みを浮かべ、傍らに置かれた大剣に手を置く。


「……面白い。神の加護が消えた国など、何も怖くはない。その男の鉄拳が俺の軍潰すのが先か、俺の刃がその喉元に届くのが先か……直接確かめてやる」


 一方、ゼノシリアの王都。


 地下牢の一角で、かつて勇者パーティに仕えた騎士団長であった男、ゴドフリーが、数人の騎士と密談を重ねていた。


「ゼノスは独裁者だ。あいつは狂っている。エリス殿をあのような形にしてしまい、民を恐怖で縛り上げている。この国にはもはや守るべき王室など存在しない。我々がアーシュノルドと通じ、この独裁に終止符を打つ」


 ゴドフリーたちは、ルビエスタへの密使を送る手筈を整えていた。アーシュノルドの侵攻に合わせて城門を内側から開く。それは反乱軍の望みであり成功すれば英雄の再来、失敗すれば処刑という綱渡りだった。


 彼らは自分たちの計画が完全に秘匿されていると信じていた。だが、彼らは知らない。ゼノスという男が、既にこの国そのものに「感覚器」を扱っていることを。


 玉座の間。ゼノスは膝元にエリスを座らせ、ワインを嗜んでいた。彼の瞳は閉じられているが、怨撃の要領で作り出した感覚器でゴドフリーたちが地下牢で交わした全ての言葉が、まるで目の前で起きているかのように鮮明に映し出されていた。


「……面白いな」


 ゼノスが静かに笑うと、背後に控えていた側近がビクリと体を震わせた。


「ゼノス様、何か……?」


「ゴドフリーが、コソコソと裏で動いている。ルビエスタに門を開くつもりらしい」


 側近が顔色を変え、「すぐに首を跳ねて参ります!」と腰を浮かす。だが、ゼノスはそれを制した。


「待て。殺すのはいつでもできる。……奴らには、最高の舞台を用意してやる必要がある」 


 ゼノスはエリスの顎を指で持ち上げ、その虚ろな瞳を覗き込んだ。


「エリス、お前の力が必要だ。あいつらの記憶を、もっと鮮明に『俺色』に塗り替えてやれ。希望を見せ、絶望に突き落とす直前に、その希望を俺への恐怖に変えるんだ」


 エリスは「承知いたしました」とただ言われるがままに答えた。


 彼女の体からは、どす黒い魔力の霧が立ち上る。それはゼノスの怨撃を媒介とした、精神汚染の波動だった。


 地下牢にいるゴドフリーたちの元へ、目に見えぬ呪いの波紋が広がっていく。地下牢では、騎士たちが士気を高め合っていた。


「アーシュノルドが来れば、我らは救われる。この悪夢のような支配も、今日で終わりだ!」


 その後彼らに幻覚がかけられる。エリスの魔力が彼らの脳内に、偽りの希望という名の毒を流し込んでいた。


 ゼノスは椅子から立ち上がり、窓辺へ歩く。彼には戦場へ行く必要はない。自分が動けば、それはただ圧倒する「茶番劇」になってしまう。


 彼が玉座に座り、ただそこにいるだけで、国そのものがゼノスの意志を増幅する兵器と化す。


「アーシュノルドよ。お前は俺の敵ではない。俺の支配を完成させるための、最高の駒だ」


 ゼノスは空を仰ぐ。空は鈍色に濁り、地上のすべてが彼の箱庭として、不気味な静寂に飲み込まれていく。


 騎士たちの謀反すらも、ゼノスの退屈を凌ぐための「余興」に過ぎない。


 盤上の駒は揃った。戦鬼という名の駒が動き出す時、ゼノシリアの玉座は、そのすべてを飲み込む牙城へと変貌する。


 ゼノスは振り返り、エリスを抱きしめた。


 王都に夜の帳が下りる。その闇の中で、ルビエスタの進軍の足音が、遠くで地響きのように聞こえ始めていた。ゼノスの支配という名の舞台で、大惨劇の幕が上がろうとしていた。



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