これは夢なのかしら?
「ナタリー嬢。ぜひこちらのショーユで作ったソースをどうぞ」
「ナタリーお嬢さん。やっぱり肉には、ガーリックソースだよ」
これは夢なのかしら?
目の前に、焼き立てアツアツで、湯気と美味しい香りを立ち上らせている、お肉があった。そしてカウンターテーブルのスツールに座る私の右側にアレン様。左にデグラン。二人に挟まれた私は、アレン様からは、ショーユで作ったソースで肉を食べるよう、勧められている。デグランからは、定番のガーリックソースで食べるよう、提案されていた。
なぜこうなったのか。
それはまずロゼッタが、まかない < ルグスで、ここずっと「キャンディタフト」を手伝っても、「ノーまかない」で帰ってしまうから。しかもバートンも、街の寄り合いがある。ロゼッタの代わりで姿を現すこともない。お店を手伝ってくれた日も、バートンはまかないを食べずに帰ってしまう。
その結果、デグランと二人きり、もしくはイエール氏、もしくはアレン様と、まかないを食べる日が続いていた。そして今日は、デグラン、アレン様、私の三人で、まかないタイムになった。
最初は普通だった。
デグランは塊肉を上手に焼き上げ、その間にアレン様と私は、赤ワインを用意した。デグランは焼き上げた肉を食べやすくスライスし、テーブルに置く。そこでデグランも着席し、赤ワインで乾杯。「さあ、食べよう」となると……。
二人が同時に、自身の推すソースで肉を食べることを、熱烈に提案し始めたのだ。
しかも二人とも、なぜか全力の笑顔で、それぞれが推すソースで肉を食べるよう、リコメンドしている……。
デグランは、笑顔が爽やかなナイス・ガイ・モブだ。
アレン様は、メインキャストで私の推し、秀麗美青年な騎士様だ。
そんな二人から、眩しいくらいの笑顔を向けられ、どちらか一つを選ぶなんて……。
これぞ無理ゲーだと思います。
何よりも。どちらのソースで食べても、お肉は絶対に美味しいはずだ。
両方食べたい――これが私の本心だった。
「あ、あの、どちらも美味しいと思うので、順番に食べますね」
「ではナタリーお嬢さん。俺のガーリックソースから食べてくれ」
「ナタリー嬢。わたしのショーユソースから、食べてくださいますよね」
ど、どうして……!
そんな難題を、私に突き付けるのですか……!
困り切って二人の顔を順番に見ると。
アレン様は、思わず見惚れてしまう、美麗な笑顔を浮かべている。
デグランは、サーファーみたいな爽やかな笑顔で、こちらを見ていた。
な……、二人して、どうして!
どうしても「一番」を狙うのなら……。
私は左右の手でフォークを持ち、肉をブサリと刺す。
とても貴族令嬢とは思えない、マナー違反であるところは、目をつぶっていただきたい。
なぜならこうするしかないでしょう!
両利きではないが、頑張った。
同時に左右両方のお肉を、ガーリックソース、ショーユソース、それぞれにつけることに成功した。
かくなる上は、これを一気に両方とも口に運べば――。
そう思ったのだけど!
もう心臓が止まるかと思った。
アレン様とデグランが、それぞれ私の手を掴み、パクっとお肉を食べたのだ。
アレン様の、細く長い指と、すべすべの肌。
デグランの、力強さを感じる、大きめの手。
どちらの手も素晴らしく。触れられた事実にも、ドキドキしてしまう。
「ナタリー嬢。困らせてしまい、申し訳ないです。お詫びにどうぞ」
デグランが動く間もなく、アレン様が醤油ソースをつけたお肉を、私の口元へ運んだ。これはもう、食べるしかない状況! 素直にパクリといただくと。
「あ、これは……」
ホースラディッシュを、ワサビの代わりに醤油に混ぜたのでは? 柔らかい辛みと醤油が、肉に合う!
「どうですか? 我が家の調理人に試行錯誤し、作らせたのです」
「美味しいです……!」
アレン様に食べさせてもらった、推しが食べさせてくれた事実にも、泣きそうになっている。
「ナタリーお嬢さん。こっちもどうぞ」
アレン様のお肉を食べたのだ。デグランが食べさせてくれるお肉を、拒むわけにはいかないだろう。
「ありがとうございます」
こちらもパクリと食べ、驚くことになる。
この世界のガーリックソースは、刻んだニンニク、オリーブオイル、白ワイン、塩コショウで作られるもの。でもこれは違う! 醤油が使われていた。
「どうだろうか、ナタリーお嬢さん?」
「醤油を使っていたのですね。いつものガーリックソースが、激変しました! アレン様も、召し上がってみてください」
「ええ、ぜひいただきたいです。デグラン殿もよかったら、このショーユソース試してみてください」
「ありがとうございます。気になっていました。いただきます」
ここからはようやくいつものモードで、お互いのソースを食べあい、感想を伝え……。
赤ワインもすすみ、ほろ酔いになり、まかないタイムが終わりそうな、まさにその時。
「それでナタリーお嬢さん。ガーリックソースとショーユソース、どっちが気に入った?」
最後の最後でデグランったら!
これに対する回答は、ただ一つ。
「両方、大好きです!」
お読みいただき、ありがとうございます。
ムフフな回をこっそり更新ヾ(≧▽≦)ノ


















