ファンが増えた!
阿闍梨から手に入れた味噌と醤油は、大活躍だった。
まず味噌は、無料サービスとして、常連さんに振る舞ってみたのだ。
「今日は、東方の味のご紹介です。実は『キャンディタフト』は、東方と縁があるカフェなんです。看板メニューの『マシュマロサンドパンケーキ黄金パウダーのブラックシロップかけ』。この黄金パウダーも、ブラックシロップも、東方由来なんです」
こう説明すると、たいがいのお客さんが興味を持ってくれる。
「これはその東方で人気の調味料で、味噌と言います。精進料理『心』の店主から、分けてもらいました。『心』では、東方の素朴な味わいのお料理を、楽しめるんですよ」
そして尋ねる。
「この味噌を使った、味噌汁、つまりはスープ。もしくはキャベツに味噌だれをつけて食べる。どちらかにチャレンジできますが、いかがですか?」
イエール氏とセーラはそれぞれを一つずつ頼み、二人で仲良く味見をして「「美味しい!」」と気に入ってくれた。今が冬であり、かつ甘いパンケーキを食べた後の、塩気の利いた味噌汁は、胃袋に染みたようだ。キャベツについては「野菜が心底美味しく感じる……」と、イエール氏を唸らせた。
他のお客さんも同じような反応で、「キャベツなんて、たまにしか食べないのに。このタレがあるなら、毎日でも食べたい」と言わせしめ、「ミソスープは、定番で出して欲しい」とまで言われた。ちなみにデグランのパブリック・ハウス「ザ シークレット」で、〆の一杯で出した味噌汁も好評だった。とはいえ、こちらは皆さん、酔っ払い。何を出されても「やいの、やいの」で喜んでくれそうだったけど。
次に醤油。
こちらはスイーツに使い、試食として出してみることにした。醤油で甘い物と言えば、みたらし! このみたらしを、看板メニューのパンケーキに、期間限定でかけられるようにしてみたのだ。すると……。
「ミタラシと黄金パウダー、とってもあいますね!」
「ブラックシロップも好きだけど、このミタラシ、気に入りました!」
「なんだか癖になりそうで、大好きですよ~」
王立サンフラワー学園の、元気な令嬢三人組が、大絶賛してくれた。
「ナタリーお嬢さん、看板メニューのパンケーキは『蜂蜜、ブラックシロップ(平日限定)、ミタラシから選べます』にした方がいいんじゃないか?」
デグランの提案には賛成だった。
今回はお願いして無料でもらったが、最初は取引してもいいと阿闍梨は言ってくれていたのだ。ならば醤油は定期的に入手し、みたらしは……メニュー化決定だ!
こうして阿闍梨のもらった味噌とみたらしを、お客さんに出していたところ……。
この日はデグラン、バートン、私の三人で店を回していた。
二人はいつもの装いで、私はクラシックローズのワンピースに白のエプロン姿だ。
丁度、エアポケット的にお客さんが途切れたまさにそのタイミングで、昼営業を終えた阿闍梨が、顔を出してくれた。あの作務衣姿でひょっこり店に顔を出した阿闍梨は、こんな嬉しい報告をしてくれたのだ。
「急に貴族のお客さんが増えたんだ。どうしたのかと思ったら、シルバーストーン伯爵令嬢のカフェで『ミソスープを飲んだら、美味しかったから来た』『ミタラシの元になるショーユを使った料理を、ここで食べられると聞いた』と足を運んでくれたと分かった。しかも貴族の皆さん、小銭がないからと言って、平気で金貨を置いていく。加えて『ミソが欲しい』『ショーユが欲しい』と言ってくれるから……。人を雇い、味噌と醤油の販売も、これからやるつもりだ」
どうやら阿闍梨のお店は、大繁盛のようだ。しかも!
「ドロシー様には、出来たものからでいいから、どんどん納品してくれって頼んだら……。彼女、頑張ってくれた。するとシルバーストーン伯爵令嬢が言う、欲しいお客さんに食器の販売をしたらというあれ! 貴族がみんな欲しがって、ビックリだ。自分のところで入荷待ちの貴族が十二人もいる。ドロシー様も一人で回しているから、それ以上はストップかけている状態だ」
これはドロシーから直接聞いていた。
「キャンディタフト」で出しているドロシーのティーカップとソーサーも好評で、こちらも入荷待ちのお客様が五組いる。雪うさぎのペーパーウェイトについては、もはや三十人ぐらいが欲しいとなってしまい、カウンターから一旦おろすことになった。
始まりは、アレン様が精進料理のお店に連れて行ってくれたこと。そこからどんどん良い流れができているように感じた。
「よければこれからも、醤油を使って欲しい」
そう言った阿闍梨は、なんとワインボトル二本分相当の醤油をプレゼントしてくれた。
「実は醤油を使った『みたらし』を、パンケーキのトッピングにしようと決めたところなんです。定期的に醤油を仕入れたいのですが」
すると阿闍梨は首を振る。これには「?」となってしまう。
「みたらしときな粉は、あう。よってそれは名案だ。この『みたらし』は、精進料理『心』という店の醤油を使って作った。そうやってお客さんに話してくれる。それで十分だ。今もそれで貴族の客が増えているんだ。これは自分の店を広めてくれた、シルバーストーン伯爵令嬢への御礼だ。良かったら毎月受け取ってくれ」
阿闍梨は商売魂に目覚めたと思っていたのに。醤油を私に売りつけ、儲けるつもりはないのね。私の口コミを喜び、醤油をプレゼントしてくれるなんて。
でもこれで心おきなく「みたらし」をメニューに加えられる!
「ありがとうございます! 阿闍梨様のお役に立ててよかったです!」
嬉しくなり両手を差し出し、阿闍梨に握手を求めると。
阿闍梨の頬が、ポッと赤くなる。
そこでハッとすることになった。
今は精進料理のお店をやっているが、阿闍梨は僧侶。
女性との接触は、禁止されているのかしら?
宗派により違うと思うけれど、そもそもここは、乙女ゲームの世界。
前世知識そのままが、イコールとは限らない。
「……自分こそ、シルバーストーン伯爵令嬢と出会え、光栄だ」
阿闍梨は頬をほんのり赤くしたまま、握手に応じてくれた。
パウンドケーキをお土産に渡し、その後ろ姿を見送ると。
「あーあ。またファンが増えましたね。デグランも気が休まらないでしょう」とバートンがクスクス笑っている。
これは阿闍梨がこのカフェのファンになってくれた、ということよね。確かに固定客が増えると、デグランも忙しくなる。気は……休まらないかもしれない。
そこで響く、カラン、コロンのお客様の来店の合図の音。
懐中時計オタクの令息が、可愛らしい婚約者を連れ、来店してくれた。


















