二人の馴れ初め
土曜日の夜に帰宅すると、ちゃんとアレン様から手紙の返信がきていた。
その日は夜間勤務になるので、日中は時間があるという。
つまり皆と一緒に、阿闍梨の精進料理のお店『心』に行ける。
これでドロシーも、アレン様に御礼を言えるだろう。
既に入浴を終え、白い寝間着にも着替えている。
そこでベッドに大の字になった。
そこでふと、転生後の自分の人生を振り返る。
やはり前世と同じなのかな。
皆の恋愛や夫婦に関する悩みを聞いて、アドバイスをして。
ドロシーのように頑張る人を支援して。
肝心の自分の色恋沙汰は……。
ううん。そんな風に思うのは、止めよう。
自分の周りの人は、不幸であるより、幸せでいて欲しい。
少しでも関りがあった人達なのだから。
明日は早起きしても、ゆっくり屋敷を出よう。
敢えて見る必要はない。
なぜならきっと明日も。
デグランはあの馬車で、朝帰りならぬ、昼帰りだろうから……。
気持ちを切り替えるため、牛すじの赤ワイン煮込みのことを思い出す。
あのトロトロで濃厚な味を、無料で楽しめたなんて。
なんてラッキーなのかしら。
ロゼッタもバートンも。残念だったわね……。
もぞもぞと布団にくるまり、眠りに就いた。
◇
日曜日は、土曜日を上回る忙しさだった。
初めて二組のお客さんの恋愛相談を、同時進行でこなした。
両方とも、ライトな悩みでよかったと思う。
さらにこの日は、サプライズもあった。
アレン様と一度来店してくれた、ヒューゴ上級指揮官。銀髪にグレーの瞳で、ホッキョクグマみたいな風貌の彼が、自慢の美人妻と、来店してくれたのだ!
丁度この時、彼ら以外に、二人の子供連れのマダムが来店していた。パンケーキが出来上がるまでの時間、子供たちはヒューゴ上級指揮官に、遊んでもらっていた。
丸太のように太い腕にぶら下がったり。1対2で腕相撲をしたり。
そうしてくれている間に無事、パンケーキは完成する。
ヒューゴ上級指揮官は、さすがとしか言えない。
本来、自身と奥さんのものなのに。先に親子へパンケーキを譲ったのだ。
これには親子連れは感動し、彼に御礼と賛辞を贈っている。
そんな一幕もあった日曜日の営業は終了。
かと思ったら!
そこへ私の両親がひょっこりを顔を出したのだ。
既に父親もカフェの営業時間に足を運び、看板メニューを食べている。
今日はパブリック・ハウス「ザ シークレット」を楽しむために、顔を出してくれたのだ。
バートンは予告通り、帰ることになる。「ザ シークレット」の開店準備を終えると、街の集まりに参加するために。代わりに私の両親が、デグランのまかないを、私と一緒に楽しむことになった。
デグランは「ナタリーお嬢さんのご両親が来ると分かっていたら、宮殿に顔を出し、キャビアでももらってきたのに! 俺の自家製鴨肉のコンフィなんかでは、申し訳ないな……」と嘆いているが。
そんなわけ、なかった。
元宮廷料理人で、スー・シェフだったデグランが作った、鴨肉のコンフィなのだ。
口にした両親は、あまりの美味しさに、スツールから転げ落ちるところだった。
それは……そうだろう。
まかないと思い、食べているのだ。
するといきなり、宮廷晩餐会で出るレベルの味だったのだから。その衝撃たるや……。
感動冷めやらぬ両親と共に、そのまま「ザ シークレット」に残り、初めて親子三人で立ち飲みをした。両親は、普段より酔いのまわりが早かったようだ。なぜか自分達のなれそめや、デートでどこで行ったかを話しだし、私はもう驚くばかり。ただ両親はとても楽しそうなので、私も嬉しくなっていた。
意外だったのは、二人が実は、恋愛結婚だったこと。
社交界デビューした際、たまたま知人に紹介され、お互いに挨拶をした。その時はまだ、異性として意識してはいない。ただその頃流行りのオペラを、二人はそれぞれの両親と共に、鑑賞していた。だが劇場で、バッタリ再会はない。ところが観劇後に向かったレストランで、二人は再会。そこから家族ぐるみで交流が始まり、共に年齢も近かったので、「良かったら見合いをしてみないか」となり――。
その頃にはお互いを異性として意識し、好意を覚えていた。よって縁談話が浮上した時、二人とも「ぜひ、お願いします!」と前のめりだったと言う。
前世のイメージから、縁談話なんて、見知らぬ他人とするものかと思っていた。だが知り合いとお見合いというのも、割とあるようなのだ。舞踏会に顔を出すだけで、広く浅い知り合いは増える。しかも舞踏会には、妙齢の男女の参加も多い。顔見知りで縁談話になる……言われてみたらその通りだった。
そんな感じで馴れ初めを私に聞かせ、程よく酔っ払いになった両親と共に、帰宅することになる。
「ナタリー、あなたの部屋は、そのままなのよ。調度品は離れの部屋にもあるから、あなたも衣類や宝飾品を運んだだけでしょう? いつでも母屋に戻っていいのよ。ただ、毎朝厨房を使うなら、離れの方が都合がいいのだろうけど」
「そうだぞ、ナタリー。いつでも母屋に戻っていいんだぞ」
改めて両親にそんな風に言われ、心が温かくなる。
母屋の部屋に戻り、カフェの準備のため、離れの厨房を使わせてもらう。それでもいいかな、と思えた。
そんな日曜日が終わると、翌日の店休日は……阿闍梨のお店にみんなで行く日だった。
お読みいただき、ありがとうございます!
昨日予告した新作のお知らせです。
【新作公開】
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生!
でも安心してください。
軌道修正してハピエンにいたします! 』
https://ncode.syosetu.com/n0824jc/
ヒロインに婚約破棄を言い渡す、ダメ令息の母親である公爵夫人に転生していた私。ダメ令息のおかげで、ヒロインも夫である公爵も、不幸になっていると気づいてしまう。そこで私は決意する。まだ六歳の令息は、私が責任をもってちゃんと育ててみせます……!
ページ下部にタイトルバナーがございます。
クリックORタップで目次ページへ遷移。
ぜひ遊びに来てください☆彡


















