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転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中
【第二章】

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牛すじの赤ワイン煮込み

「え、ロゼッタ、まかない、いらないのか……?」


「うん……。本当は食べたいよ。でもルグス様と約束があるから」


 忙しい週末初日の「キャンディタフト」の営業を終え、急ぎ「ザ シークレット」の開店準備をし、デグランのまかないタイムとなった。デグランは牛すじの赤ワイン煮を密かに作っており、それを赤ワインと共に、食べさせてくれることになっていた。でも花より団子とはならず、まかないよりルグス様になるのは……恋する乙女なのだ。仕方ない。


「ロゼッタがルグス様と出掛けるなら……バートン様が来るのかしら?」


 私が尋ねるとロゼッタは、首をふるふると振る。


「お兄ちゃんは街の集まりがあるから、しばらく夜は顔を出せないって言っていました。あ、『キャンディタフト』の手伝いはちゃんとできるので、安心してください!」


 私がカフェをオープンさせてからずっと。


 デグランのまかないを、ロゼッタもバートンも楽しみにしていた。

 その日常が崩れつつあることに、猛烈な寂しさを感じる。

 そこでハッと気づく。

 ここ連日、取り残されたデグランは、きっとこんな気持ちになっていたんだ。


 ごめんね、デグラン。

 寂しかったわよね。

 でも大丈夫。

 私は変わらず、ここにいるから。


「デグラン様。バケットも焼けたので、食べましょう!」


「そうだな。じゃあロゼッタ、気を付けて。バートンにもよろしくな」


「はーい! ではお先に失礼しまーす!」


 ロゼッタを見送り、席に着こうとすると「あの……」という声が聞こえ、慌てて振り返る。

 店の入口に見えたのは、ダークブラウンのおかっぱ頭に琥珀色の瞳、ドロシーだ!


「ドロシーさん! どうしました? あ、よかったら一緒に、デグラン様のまかない、食べますか!?」


「! それは有難い申し出です。ぜひいただきたいのですが……。この後、予定がありまして。ごめんなさい!」


 突然のお誘い。予定があって無理は、仕方のないこと。すぐに話題を変える。


「今日は、どうしました?」

「あ、手紙をいただいた件の、お返事を伝えようと思いまして」


 この世界、電話もスマホもインターネットもないわけで。

 手紙では時間がかかるとなると、誰かに言付けを頼むか、直接訪問するしかない。


「! それは月曜日の件ですね?」


「はい! ぜひ、同行させてください。まさか東方の料理を出している方に、私の陶磁器を採用していただけるなんて……。これも全部、ナタリー様や皆さんのおかげです。本当にありがとうございます!」


「いえいえ、これも全部、ドロシーさんの実力の結果ですよ。私はただ、橋渡しの場を提供したに過ぎません。何より、阿闍梨様と知り合うきっかけはアレン様……サンフォード副団長様が作ってくれました。彼と会うことがあれば、ぜひ御礼を伝えてあげてください」


 アレン様に手紙を届けたものの、返事はまだ、受け取っていない。でも帰宅したら、屋敷に届いているだろう。


「! そうだったのですね。勿論、御礼させていただきます!」


 ドロシーはそう言った後、「気分転換に作ったペーパーウェイトです。よかったらどうぞ」と、なんと手の平サイズのガラス製の雪ウサギを、プレゼントしてくれたのだ。


 グリーンの葉の耳、赤い瞳もちゃんとガラスで表現されており、可愛らしい。


「これもタンモノに描かれていたんです。雪の中に描かれていたので、きっと東方では、雪でこれを作るのかもしれません」


「ドロシーさん、正解だと思います! これ、絶対に売れると思いますよ。このカウンターに飾りますが、令嬢やマダムが『可愛い! 欲しい!』となるかと。よかったら時間がある時に、沢山作っておいてください。……阿闍梨様の件といい、これからドロシーさん、大忙しですよ」


「わあ、ナタリー様、嬉しいです。本当に……ありがとうございます!」


 こうしてドロシーが店を出て行き、改めてデグランと乾杯し、牛すじの赤ワイン煮込みを口に運ぶ。今日一日がかりでコトコトと煮込んだだけあり、肉の旨味が存分に出ている。濃厚で、赤ワインの風味もしっかり効いていた。牛すじと言うが、もはや筋っぽさは感じられず、にんじんもとても柔らかい。


 この一品料理とワインだけで、店を開けそうだった。


「パンケーキの甘い香りで誤魔化しながら、こっそり作っただけあるな。我ながらこれは、よくできたと思う。たたき売りされていた安物肉を使ったが、そうとは思えないだろう?」


「思えませんよ。これ、国王陛下夫妻も泣きながら食べてくださると思います。……というか、出張で料理を作りに、王宮へは行かないのですか?」


「行くよ。店休を見計らって、行くつもりだけど……。あ、そうそう。そうか。そうだな。……マルティネス侯爵令嬢が招待してくれた婚約周年祝いパーティー。あれな、すまないけど俺、別行動するわ」


 この言葉を聞いた瞬間。

 牛すじの赤ワイン煮込みの美味しさに、ぽかぽかと温まっていた心が凍り付く。

 そして思い出してしまう、あの朝の貴婦人。

 もしかするとデグランは……あの貴婦人を同伴エスコートし、婚約周年祝いパーティーに行くつもりなのでは? そこでみんなに「俺の婚約者だ」と発表するのでは?


 ――「諦めるしかないでしょう。好きなお相手の幸せを願う。そういう決断も、時に必要です」


 双子の令嬢へのアドバイスが、脳内でリフレインする。

 好きな相手だからこそ、幸せになって欲しいと願う……。


 唇をきゅっと噛みしめる。

 デグランに、あの貴婦人は誰なのかと、聞きたいと思っていた。

 今はまさに、チャンスだった。

 でも……もう尋ねる気持ちはなくなっていた。


「ナタリーお嬢さん」

「!」

「時々さ、そうやってなんとも思いつめた表情、するよな」


 これにはドキッとしてしまう。

 なるべく顔を下に向け、皆に気づかれないようにしているのに。

 でも、今はデグランと二人きりだし、隠しきれないよね……。


「ナタリーお嬢さんは、強い女性だと思う。政略結婚から逃げるため、カフェを開いてしまうくらいな。自分の力でなんとかしようとする。それは立派だと思うし、とても尊敬できるよ。でもさ、なんでもかんでも一人で抱えると、疲れるだろう? 時には肩の力を抜いて、頼ってくれよ。これでも巨大なクマを捌いたり、こんな大きなマグロを捕まえたり、寸胴鍋だって一人で持つから、ちょっとやそっとの力では、揺らいだりしないからさ」


 あ、ダメだ。

 泣きそう。

 こんな優しい言葉、今、デグランに言われたら……。

 ツンとする鼻の奥に涙を感じ、必死に笑って誤魔化す。


「マグロって……それ、私より身長ありそうですよ。捕らえた後、どうしたんですか?」


「あー、それな」


 甘くてほろ苦い時間が流れる――。

お読みいただき、ありがとうございます!

お知らせです。


明日、5月31日(金)の朝7時に新作を公開します。

くすっと笑えるようなコミカルでかわいい、けれど公爵様素敵♡となれるような作品です。

R-15ですが、とあるたった一つの単語だけのためにつけており、至って健全で安心して、ほっこり気分でお読みいただけます。初日は増量更新しますので、ぜひ明日、お時間ある時に、遊びに来ていただけると嬉しいです!

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