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異世界にきたから婚活するよ!  作者: つられるクマー
2章 自立をしたいと思います
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30話 お茶を飲みましょう

 あの事件から数週間ほど経った。

 街にも人にも傷は多く、その傷跡――街の一部はまだ瓦礫の山のままであり、亡くなった人のお葬式は先日まとめて行われたばかり――もまだ癒えていない。

 哀しみ、嘆き、それでも…と。人々は生きていくために、傷を手当てし、涙をぬぐい、瓦礫となった家々を少しずつ建て直して行く。その前へ進む力強さが、とてもまぶしい。


「こんにちは、レティちゃん」

「あ、スイナおねえさん! いらっしゃいませ!」


 ラァスさんに教えてもらった通りに道を進み、以前とは違う建物の暖簾をくぐりながら声をかけると、レンゲ屋看板娘のレティちゃんがにっこりと笑って挨拶をしてくれた。その顔につられて私も笑顔になる。

 その声に気付いたのか、店の奥からオルティスさんが出てきて、私を見つけると笑顔で挨拶してくれる。


「スイナちゃん、いらっしゃい。今日はラァスや長と一緒じゃないのか?」

「はい。ラァスさんは今日は見回りだそうで、リシスさんは会議があるそうです」


 ひとりで家に居ても暇なのでリハビリを兼ねて遊びに来ましたと言うと、レティちゃんもオルティスさんも、もちろん歓迎だよと笑顔で頷いてくれた。

 本当に短期間に事件はいろいろとあったが、出会う人には恵まれていると思う。その事に感謝し、彼らに恥じない人間でありたい。


 そして、リハビリというのはそのままの意味である。

 古代魔術を使った後にやはり倒れたらしい私は、以前よりは短かったとはいえ、それでも3日ほど寝込んでいたらしい。起きた時はいろいろ――巨大な花の中で眠っていた事やリシスさんの性別の事など――と驚く事が多くて気付かなかったのだが、それでも前に古代魔術を使い倒れた時の衰えもまだ残っていた私は、その3日でまた身体が……よくよく考えるとそんな短期間寝込んだだけでここまで衰えるか?! というくらい、筋肉が衰えてしまった私は、歩くはもちろん手をご飯を食べる事さえも、やっとの状態だった。

 その為、昨日まではラァスさんかリシスさんのどちらかが――着替えやお風呂の時だけはメリィさんが来てくれたが――付いていてくれて、リハビリやら生活やらを手伝ってくれていたのだ。だいぶ回復したので、今日からやっと一人で動いてもいいだろうとお医者さんにお墨付きをもらったので、こうしてレンゲ屋まで一人で来ることが出来たのだ。


 …お医者さんのお墨付きをもらったとはいえ、倒れた後の私の衰えっぷりにうろたえていたラァスさんはレンゲ屋までとはいえ私が一人で出かける事に渋い顔をし、リシスさんは私の考えをわかってるっぽい上で楽しそうに心配だから一人に出来ないわとか言っていた。正直それがうっとおしかったので、子供じゃないんだし大丈夫だからと、お仕事があるでしょと無理やり家から追い出して、ひとりの時間を確保したのは内緒である。

 ラァスさんは心配してくれてるから逆に申し訳なかったのもあるのだけれど、リシスさんは確信犯というヤツである。

 性別を黙っておいて、後で判明した時の相手の反応を楽しんでいる事からもわかるように、なかなかにイイ性格をしている。見た目も声も可憐で美しいのに、なかなかに勿体ない(セイレーン)である。


「おねえさん、こっちでお茶飲みましょう!」


 店内の隅にある畳敷きの場所で、お盆の上にお茶とお茶菓子を乗せ、レティちゃんが私を手招きする。

 一人歩きを許してもらえた事が嬉しくてついレンゲ屋まで来てしまったが、その事に仕事を増やして悪かったかなと思い反省するが、それでも嬉しさが勝り、レティちゃんの素敵な笑顔にごめんねとも言えない。私は「ありがとう」とお礼を言って、靴を脱いでその畳の上へと上がった。

 湯呑を受け取り、湯気の立つレンゲ屋特製マイマイ茶――玄米茶のような味――を口へと運び、そのおいしさに口がゆるむ――最初から緩んでる気もするが――のは仕方のない事だと言えよう。懐かしさや、思い出補正もあるだろうが、このマイマイ茶は本当においしい。


「ごめんください」

「はい、いらっしゃいませー!」


 のんびりとレティちゃんとお茶を飲んでいるとレンゲ屋の暖簾をくぐってお客さんがやってきた。

 お客さんの声にレティちゃんは慌てて立ち上がり、そちらへと笑顔で向かう。

 見れば、上等そうな生地で作られたワンピースを着た上品そうな仕草の――セイレーンではない女性がきょろきょろと店内を見回していた。人間かな? とも思ったが、この街(システィ)に来てから私以外の人間を見たことが……というかセイレーン以外を見たことがない。

 まあ、この街に来た途端、事件があったのだし、その後もほぼ動けずに居たので、行動範囲が狭かっただけである。見てない――行動範囲外にはたくさん住んでいたりもするかもしれないではないか。


 その女性は、レティちゃんに顔を向けると頬に手を添えて首を傾げながら尋ねた。


「こちらに“お米”があると聞いたのですが……」

「“オコメ”、ですか?」


 聞かれたレティちゃんも首を傾げる。

 が、私はその言葉に顔を上げ、女性をまじまじと見てしまった。

 歳はおそらく20前後くらい。茶色い髪にリンゴのような赤い瞳。ショートボブの髪はゆるく波打っており、顔立ちは整っていて――間違いなく美人さんである。声は少し低めであるが、ちゃんと女性の――セイレーンではないようなので女性のはず――ものだ。

 そんな美人の女性は、私の聞き間違いでなければ、“お米”と彼女は言った。つまり、異世界人――日本人、もしくはその関係者(親しい人)の可能性が高い。

 だから、気付けば口を挟んでいた。


「たぶん、“マイマイ”の事じゃないですか?」


 私の言葉に、女性とレティちゃんが私を見た。

 美人さんとかわいい娘さんに見つめられてちょっと照れるが、照れてる場合ではないのでちょっと目をそらして深呼吸して落ち着く。

 自分の身の上を考えると話していいのか少しだけ悩んだが、市橋嬢や鳴海嬢以外にも日本人がいるのならば、やはり話をしてみたい。

 私はひとつ頷くと二人を見て、口を開いた。


「“お米”って、あのお米ですよね?」

「!! そうです!」


 お椀に盛った白いご飯をお箸で口にかきこむ動作を見せれば、女性は目を開いてから勢いよく頷く。

 この動作でわかるとは……やはりこの女性は異世界人(日本人)関係ではないだろうか。


「それならきっとマイマイの事だと思いますよ」


 私がにっこりと営業スマイルを作りそう言うと、女性は目を輝かせて「ありがとう」と私に言い、レティちゃんに向かってマイマイを売ってくれないかと交渉に入った。

 逆にレティちゃんは困ってしまったようで、私と女性を見比べている。

 そういえば最初にマイマイを売ってくれと言った時はレティちゃんはオルティスさんに聞きに行っていたなと思いだし、もしかしたらマイマイはお茶用であって普段は売っていないのかなと思い当たる。

 女性が日本人かどうかを知りたいばかりに、そこまで考えてなかった自分に嫌気がさしてしまう。

 が、今は自己嫌悪している場合ではないので、頭を必死に動かして、もう一度口を開いた。


「……えと、お嬢さんはどうしてマイマイが欲しいんですか?」


 そう問うと、女性は一瞬きょとんとしてから「私の事ですか?」と首を傾げたので、私は頷く。

 女性は少し驚いた顔をしたが、すぐに真面目な顔になり、拳を握った。


「カツ丼が食べたいんです!」


 なるほど、カツ丼に限らずだが丼モノを食べたいのならば、お米は必須である。

 心の中で頷き、そしてどう返事をするか悩んでいると、女性は私が無言である事に何かを感じたのか、説明を始めた。


「おいしいんですよ、カツ丼! さくさくの衣に包まれた分厚いお肉にとろとろの玉ねぎと卵のハーモニー! その下に輝く白いお米にじんわりと染みていく黄金色のおつゆ。単品でもよし、その二つを一緒にかき込むもよし。お店やご家庭、地域によっては卵とじではなくさらさらのとんかつソースをたっぷりかけて刻みキャベツが乗る事もあるカツ丼。味噌ソースももちろんアリです! ああ、なんておいしいカツ丼。言葉だけでは言い尽くせないカツ丼。あれは一度………いや、何度食べても病みつきに、人類文化の極みだと思うんですカツ丼!」


 私の両手を握り、ぐいっと身体を乗り出して力説する女性の勢いがすごい。

 言ってることはよくわからないけど、カツ丼が大好きなのはよくわかった。うん。


「か、カツ丼がとてもお好きなんですね」

「はい!」


 そんな彼女に言ってもいいのかと少し悩んだが、一応言っておくべきか。


「言いにくいんですけど、ええと…」

「あ! 失礼しました。私、レイコと言います」

「はい。私はスイナと言います」


 日本人名である。茶色い髪はともかく、目が赤いのはアルビノというものであろうか?

 しかし服はこちらの世界の物のようである……と思ったが、私もこちらの世界の服を着ているので、こちらの世界で暮らしている分には当たり前かと思い直した。

 つまり、彼女はこちらの世界に住んでいる何かしらの原因で日本から来た人……という事でいいのかもしれない。ひょっとしたら、親や先祖に日本人が居た…というだけかもしれないが。


「それで、レイコさん?」

「はい」

「マイマイ…“お米”はあるんですけれど、精米は自分でしないとですよ?」

「え゛!?」


 ちなみに私は玄米のまま炊いて食べている。

 白いお米も好きだが、玄米を炊いたものも実は好きなので。


「ここのマイマイは“マイマイ茶”…ええと、玄米茶ってわかります?」

「え、ええ。祖母の家で飲んだことがあります」

「そのお茶の材料に使われているものなので、玄米の状態なんですよ。あと、この街では食べる習慣はないらしいので、炊くとしても自分で調理しないとなのですけれど、炊けます?」


 ちなみに私は炊ける。

 日本では炊飯器というものもあったが、それはそれ。これはこれ。

 フライパンで炊いたお米も香ばしくてなかなか好きだった。


 レイコさんは私の言葉に呆けた表情になり、気のせいでなければ少しずつその目が潤んでいく。

 そして、間を置かずにえぐえぐとレイコさんは泣き始めた。


「……え、えと」

「わ、わたし、お米さえ見つかれば、なんとか。なんとかなるって、思って」

「ああああ、泣かないでくださいレイコさん。精米方法は思いついてませんけど、炊くだけなら私にもできますから」


 教えますからと涙するレイコさんに言えば、レイコさんは痛いくらいに私の手を握り、本当に?と目で聞いてくるので、力強く私は頷く。

 すると涙は止まるどころかますます溢れ、私に抱きついて彼女は泣き始めた。

 私は焦りながらも、それでも故郷(日本)が恋しい気持ちはわかるので、彼女の背中をぽんぽんと撫でながら彼女を抱きしめ返した。


 数分後、店の奥から戻ってきたレティちゃんとオルティスさんが私とレイコさんの様子に目を丸くしたが、二人は何も言わずにレイコさんが落ち着くまで待っていてくれた。

 次で30話だ! と思ったら気が抜けました。

 そして、気が抜けたままボーっとしていて、気が付いたら1週間が過ぎていましたorz

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