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異世界にきたから婚活するよ!  作者: つられるクマー
2章 自立をしたいと思います
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29話 感謝されました

 暗闇の中で起き上がり、あくびをひとつ背伸びもひとつ。

 眠い目をこすりながら……あれ?


 自分が寝ているのは教会のベッドでもリリスレイアのベッドでもラァスさん宅のお布団でもない。

 ふかふかしているし、ほんのりと暖かいが、布や綿の感触ではなく……水のたくさん入った水風船?のような弾力のある、何かだ。その上に、私は寝かされていた。

 暗くてよくは見えなかったが、下手に立とうとすれば転んでしまいそうなその弾力であるから、動けない。

 腕を組み、どうしようかなぁと首を傾げると、天井から何かが開くように光が漏れ始め、それが少しずつ大きく暗闇を薄めるように広がっていった。

 暗闇に慣れていた目には少し眩しく、目を細めて光に目を慣らす。瞬きをする。


「……おおおお?」


 光に照らされた光景に、私は目を開き、よくわからない声が出てしまった。


 周囲には青々とした草花が天高く……それこそ、高層ビルほどに高く、生い茂っている。

 私の居た暗闇はどうやら花の蕾の中であったようで、光が入ってきたのはその蕾が花開いたかららしい。

 そう、私はその花の中心に“おやゆび姫”よろしく座っていたのだ。

 状況が飲み込めない。

 ますます混乱して動けなくなった私に、誰かが声をかけてきた。


「スイナさん」


 バサリと羽ばたく音と共に下りてきたその声に目を向けると、水色の髪のセイレーンの長。リシスさんが私の前に降り立った。

 目が合うと彼女はいつもの穏やかな笑みを浮かべ、大丈夫ですか? と問いかけてきた。

 大丈夫って何がだろうかと一瞬考え、すぐにああそうだったと思い出す。

 水晶にマナを注ぐべく古代魔術を使ったけれど、途中からはよく覚えてないのだがとても哀しくて、気付いたらここに居たのだが……もしかしなくてもまた倒れたのだろうか、私は。

 古代魔術を使うと倒れる法則とかあるならば、やはり滅多な事では使ってはダメなのだろう。今回は急を要する……そういえば、(システィ)はどうなったのだろうか。

 天災とはいえ、雷によって家が焼け、感電した人は死に、怪我を負った人も少なくはなかったはずだが。


「…街の人たちは大丈夫なんですか?」

「ええ。死んだ人も少なくはなかったけれど、アナタが水晶にマナを送ってくれたおかげで街ごと全滅しなくて済んだわ。ありがとう、スイナさん」


 少し哀しそうに、それでもお礼を言ってくれるリシスさん。

 街ごと全滅って……急な嵐に大変だとは思っていたが、そこまでの大事だったのかと驚いた。

 しかしよく考えればこのシスティは海の上の街であるのだし、波に浚われてしまったり水没してしまえば、それで終わりである。なるほどと納得するとともに、そうならなくてよかったと思った。


「それでスイナさん。身体は大丈夫かしら?」

「え?」

「アナタの身体は大丈夫? 古代魔術を使った後、倒れたのよ」


 心配そうに聞いてくる言葉を聞き返せば、リシスさんはそう答えてくる。

 やはり、私は古代魔術のあとに倒れたのか。

 私は人間であるのだし、もしかして力に身体が耐えられない…とかあるのではないだろうかと思ってしまう。そうだった場合、私は長生きできないのではないだろうか。長生きする気があるだけに、それは困ると思った。


「…前に使った後のような倦怠感や身体の筋肉の衰えはないです。少しお腹がすいたくらいで、元気ですよ!」


 自慢できる筋肉はないが、ボディービルダーのように両手でグッとポーズを作りアピールする。

 リシスさんは少し驚いて、それからホッとしたように「それならよかったわ」と、笑ってくれた。


「ところで、ここはどこなんですか?」

「ここ? ここは迷いの森よ。あの水晶の下に広がっている森の中心部。私とスイナさんが初めてであった場所から少し歩いたところにある場所ね」

「…青空が見えるのに地下なんですか?」

「そうね。青空に見えるかもしれないけれど、あれは水よ。水の塊」


 話しながら見上げると青く透き通り、曇りのない昼間の空のような輝きを持った青がある。

 あれは空ではなく、水なのか。

 彼女たちセイレーンを見た時や、迷いの森の水晶のような木や葉、植物にファンタジーだなぁと思ったが、この空に見える水の天井にも同じ事が言えた。

 水族館で似たような展示をしているところはたくさんあったが、あれは水槽であり、どう見ても空ではない。それに比べ、こちらの水の天井は空そのものに見える。

 水の塊というからにはその水を支える、水族館の水槽のような強化ガラスとかが挟まっている訳ではないのだろう。きっとマナとか魔術とか何かで浮いているのだ。

 どういう仕組みなのだろうかと興味を持ったが、説明されてもわかる気がしないので、そういうものとして流す事にした。


「…すごいんですねぇ」

「そうね。すべてはマナと水の水晶の……今回はそこにスイナさんの古代魔術も加わるわ。本当にありがとう。この街(システィ)を守ってくれて。感謝しているわ」


 ちょこちょこお礼を挟んでくるリシスさん。

 たしかに私は褒めて伸びるタイプだが、そんなに褒められたら調子に乗っちゃいますよと無意味に胸を張りたくなってきてしまう。えっへん!とか子供っぽい事をやらかす前に、「お役に立てたのならよかったです」と笑ってごまかした。

 そういえば日本人特有の笑ってごまかすって、他の国の人にはあんまり印象よくないんだったっけとも思ったが、すでにやってしまった後なので気にしても仕方がない。

 リシスさんともう一度目を合わせて、やっぱりえへへと笑ってしまう。笑う以外の選択肢がない!


「…えと、レティちゃんやオルティスさんたちは大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。レティーナはもちろん、オルティスも回復したの。ありがとうね、スイナさん」

「オルティスさん大丈夫だったんですか! よかったぁ」


 あの家に雷が落ちた時、オルティスさんに意識はなかった。息も細く、かろうじて生きている状態だったのだ。それを見たレティちゃんの不安そうな様子に、何より直前まで元気いっぱいだった人が命を落としてしまうかもしれないという事が、私も不安だったのだ。心配だったのだ。

 よかった、回復してくれて。

 これで、レティちゃんも哀しむ事はないだろう。本当によかった。

 そこまで考えて、ふと気になった。


「そういえば、ラァスさんは?」

「ラァスも元気よ。今は街にいるはずよ。スイナさんの事をとても心配していたから、あとで顔を見せてあげてちょうだいね」

「は、はい。もちろんです!」


 彼も元気なのか。よかった。

 今回の件で死んだ人もいるのによかったとか言ってはいけないかもしれないが、それでもやっぱり知ってる人が無事なのは嬉しい。不謹慎と言われても、よかったと思ってしまう。

 これはいけない事なのかなぁと、30になった今でもわからない。


「そうね。動けるようなら、ご飯を食べに行きましょうか」

「ご飯ですか! 食べたいです、お腹すきました」


 少し考えてから出されたリシスさんの提案に、私は即座に頷く。

 ついでにお腹の虫もグゥと鳴いた。鳴かなくていいのに、恥ずかしい。


 リシスさんは私のお腹の音に目を丸くして、うふふと笑うと、私に手を差し出した。

 その白くほっそりした…思っていたよりも大きな手を取ると、思いかけない力強さでリシスさんは私を引っ張り上げた。

 その事に、ちょっと待ってと一瞬思考が止まり、まじまじとリシスさんを上から下まで見てしまった。

 どう見ても女の人だ。声だって美しいソプラノで、どう考えても女の人だ。

 女の人だが、ちょっと待って。


「あ、あの、リシスさん」

「何かしら?」

「失礼な事を聞いてもいいですか?」

「あらあら。うふふ、想像はつくけれど……どうぞ」


 その反応が答えのようなものである。ものではあるが、やはりはっきりさせておくべきだろう。


「もしかして、男性、ですか…?」

「ええ、そうよ。よくわかったわね?」


 人間で気付く人は滅多にいないのにと楽しそうに、うふふとリシスさんは笑う。そして笑いながらさり気なく私の額に軽く口づけをし、それに怯み、ひえっと悲鳴を上げた私を抱き上げ――お姫様だっこ状態にすると、彼女…じゃない、彼は翼を羽ばたかせて飛び上がった。

 驚きすぎて何に驚けばいいのかわからない私は抵抗する余裕もなく、そのままリシスさんに食堂まで運ばれて行き、それを見たレティさんやらオルティスさんやらに楽しそうに冷やかされた(おもちゃにされた)のは言うまでもない。

 見た目や声で判断できない種族。それがセイレーンです。

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