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異世界にきたから婚活するよ!  作者: つられるクマー
2章 自立をしたいと思います
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26話 お買い物へ行きました

 思っていたよりも多い人の波に流されそうになりつつも、なんとかラァスさんの後ろを着いて行く。

 各お店の前にはお店の呼び込みをする人が居て、その口上に釣られて足を止めて品物を見る人、口上を聞くだけ聞いてまた今度と冷やかす人、最初から目的があるのかそれだけ買っていく人、ぶらぶらと目的もなく面白そうにいろんなお店を見て回る人。たくさんの人で通りは賑わっていた。

 隣のお店へ移動するのさえやっとの賑わいに、今日はお祭りでもあるのかと思ったが、そうではないらしい。商店の多いこの通りは、毎日この状況なのだとラァスさんが言う。

 毎日こんなに元気なのかと感心した私が、賑やかでいい街ですねと言うと、彼は照れながらも嬉しそうに笑った。


「あー、あった。おい、あっちに行くぞ」


 おのぼりさんよろしく、きょろきょろと辺りを見回しながら歩く私に、ラァスさんが大きな声で言った。

 周りの喧騒に負けないように私も「はーい!」と叫ぶように返事をしてから、彼からはぐれない様に人の波を縫いながら進んでいく。

 ぶつかりそうでぶつからず、こげ茶の頭を目標(ラァスさん)に、離れずに。手刀を作って「すいません通ります」と言いながら歩く様は、日本に居た時に習得した技術だ。…と言えばかっこいいが、ただ単に毎朝の通勤ラッシュにもまれながらに身に着けた技術(もの)であるが。


 なんとか人込みを抜けると、お店の中から手招きするラァスさんが見えた。


「こっちこっち」

「いらっしゃいませ!」


 手招きする彼の元へ到着すると、このお店の店員さんだろうか。薄桃色の髪と水色の目をした12・3歳くらいのセイレーンの女の子がにこにこと笑顔でお茶を出してくれた。

 飲んでいいのかよくわからなかったのでラァスさんを見る。すると頷いてくれたので、「ありがとう」とお礼を言ってからお茶を受け取る。

 湯気の立つそのお茶は、湯呑を持つだけでわかるくらいに熱く、ふーふーと少し冷ましてから口に入れた。

 お煎餅のようなお茶漬けのような香ばしい風味が口の中に広がる。

 これは……玄米茶か!


「こ、このお茶」

「はい! レンゲ屋特製マイマイ茶です!」


 思わずお茶から顔を上げて女の子に言えば、女の子は笑顔で元気に答えてくれた。

 マイマイ茶というのか…マイマイって「米米(マイマイ)」という意味だったりして?


「もしかして、材料って“マイマイ”なんですか?」

「はい、そうですよ!」


 聞いてみると彼女は頷きお店の奥へ行き、材料のお茶として加工する前の“マイマイ”を取ってきて見せてくれた。

 まぎれもなくこれは、お米、である。

 もちろん日本で売っていたような白米ではなく、薄茶色の精米前のお米――玄米ではあるが。


「こ、この“マイマイ”って、売っていたりしますか!」

「え? ええと…」

「故郷で食べていたものとそっくりなんです! 味も見た目も!」


 勢いよく言う私に女の子は少し言葉を詰まらせたが、私の“故郷”発言に目を見開くと、店長に聞いてきますと言ってお店の奥へと入っていった。

 ラァスさんはその様子を見ていたのか、不思議そうに私に問いかけた。


「マイマイを食べるって……、おまえ、リリスレイア出身なんじゃないのか?」

「話すと長くなるんですけど、リリスレイアに保護してもらっていたんです。生れた国はもっと遠くの……帰り方がわからない場所にあるんです」


 正確には、保護ではなく誘拐であったし、国どころか世界が違う。

 が、そんなことは言わなくてもいいだろう。誘拐と言っても待遇は悪いものではなかったのだし、魔術や言葉を教えてくれたことにはとても感謝している。


 ラァスさんは私の言葉にそうかと頷き、苦労してるんだなと私の頭を撫でた。

 私が言うのもなんだが、そんなに素直に信じていいのだろうか。人間の魔術師というのに警戒を見せた貴方は何処に行ったのか。一度信用したら…というタイプであろうか。いつか騙されますよラァスさん!

 まあ、言ってないけどね。信じてもらえるならもらえたで、それはそれでいい。もめたい訳ではないのだし。

 それよりなにより、ずっと思っていたんだけども。

 日本人が異世界へ行くと実年齢より若く見えやすいっていうお約束のアレ。もしかしてこの世界でも当てはまったりしているのだろうか。元の世界ではちゃんと年相応であったのだが、その法則がある場合、顔立ちも少し違うと自覚しているのもあるので、あり得ないとは言い切れない。

 メフィトーレスさんも私の事をどこか子供扱いしていた節があったし、よくよく思い返してみると他の人たちもどことなく私を娘や妹を見るような目で見ていた気がする。

 …私に色気がないだけという線もかなりの確率であり得るが、切ないので考えてはいけない。


「ラァスさん」

「ん?」

「ラァスさんは何歳なんですか?」

「いくつだったかな……今年で24になるな」


 どうやら寿命はわからないが、成長速度は人間もセイレーンも同じくらいのようだ。

 そしてやっぱり、私より年下だったかと、自分の不甲斐なさと彼の落ち着きっぷりを比べて、ちょっと落ち込む。種族と性別以外に、彼と私は何が違うのだろうか。


「…私は何歳に見えますか?」

「20くらいじゃないのか?」


 即答である。まさかの10歳若返り。

 ルーイ・ルーあたりがこれを言っていたらお世辞の線が多大にあるのだが、答えたのはラァスさんである。

 ぶっきらぼうだが優しい、お世辞のおの字すら知らなさそうな純朴な若者のラァスさんである。

 この世界でも日本人は異世界へ行くと若くみられる法則は適用されていたのか…!

 いやまあ、この世界も何も、この世界(リーグルレイト)元の世界(地球)しか知らないけどね。


 私がひとつ溜息をつくと、突然何を言い始めたのかと首をひねりながらラァスさんが私を見ていた。この場合、ちゃんと実年齢を告白した方がいいのだろうか。

 いやでも、若く見られてるならそれはそれで…いやいやそれでも10歳もサバを読むのは行き過ぎではないだろうか。これは悩む。


「――いらっしゃい。なんだ。マイマイを欲しがるからどんなやつかと思ったら、ラァスの連れかい」

「お父さん、ダメよ。お客さんなんだからちゃんとしないと!」


 どうしようか悩んでいたら、お店の奥から女の子と、彼女と同じ目の色をした黒髪の50代くらいのお兄さん(20歳差くらいなら、おじさんではなくお兄さんと呼ぶべしと上司に教わった)が出てきた。

 女の子がお父さんと呼んでいるから、二人は親子だろう。髪の色も顔立ちも違うが、目元とその色は瓜二つである。

 口ぶりからして、どうやらラァスさんはこのお店の常連さんであるようだ。


「…今日は麦粉を買うついでにコイツの紹介に来たんだ」

「へぇ、女連れとは珍しいと思ったが……人間か」

「長に許可はもらってる」

「ほう、そいつはいいねぇ。ラァスにもやっと春が来たか」

「そんなんじゃねぇよ。行き倒れそうになってたのを拾っただけで」

「もっと珍しいじゃねぇか! おまえが女とはいえ人間を助けるとはなぁ」


 長生きはするもんだと頷くお兄さんに、ラァスさんは眉間にしわを寄せる。

 険悪ではないが、なんとも言えない雰囲気にオロオロしていると、お兄さんの横にいた女の子と目が合った。


「おねえさん、ラァスさんのお(うち)に住むんですか?」

「あ、はい。そうです。しばらくお世話になります。スイナ・カゲウです」

「ご丁寧にありがとうございます! 私はレンゲ屋の看板娘のレティーナと言います。レティって呼んでくださいね!」


 いつもの習慣でぺこぺことお辞儀をしながら言うと、女の子――レティちゃんも大きく丁寧にお辞儀をして自己紹介をしてくれ、そしてトドメに眩しいくらいの笑顔をくれた。かわいい。

 私もこのくらいかわいければ……いかん。人と比べると落ち込むのだから、比べない比べない。かわいいものは比べるものではなく、愛でるものなのだ! うん。


「スイナちゃんっていうのか。オレはレンゲ屋のオルティス。娘のレティ共々、よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」


 レティちゃんのお父さんのオルティスさんは気さくにそう挨拶してくれたので、そちらもちゃんとお辞儀で返す。

 気になったのだが、セイレーンの人たちって名字というか家名というか。そういうのってないのかな。ラァスさんもリシスさんもレティちゃんもオルティスさんも、今まで挨拶を交わしたセイレーンの人たちはみんな名前だけである。

 聞いてみたいが、聞いてもいいものなのかと悩んでしまう。


「んで、麦粉とマイマイでいいのか?」

「マイマイを売ってもらえるんですか!」

「普通は売らないんだがな。これがスイナちゃんの故郷の味っていうのなら話は別だ。帰れない故郷を懐かしむのは心を守る為に必要な事だからな」


 オルティスさんの言葉に私が驚いた。

 帰れない故郷――私が異世界から来たという事を知っているのだろうか。いや、もしかしたらラァスさんとの会話が聞こえていただけかもしれない。帰り方がわからないと言ったのを伝言ゲームの要領で、帰れない故郷に変換されたとか、そういうのだってあり得る。


「まあ、なんだ、その。特別にマイマイを売る代りに、レンゲ屋を今後もご贔屓に!」


 訝しげにしていたからか、オルティスさんは少し気まずそうに、それから人のよさそうな顔でそう言うと、ニカッと笑った。

 難しい事はとりあえず置いといて、私はありがたく好意を受け入れる事にしたのだ。

 お買い物の途中ですが、ここで一度切ります。

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