27話 突然の事でした
今回、短い上に主人公は出てきません。
それは突然だった。
空にドス黒い雲が立ち込め、東の空が光ったと思った瞬間、それらはやってきた。
空が光り轟音が鳴る度に、家々が燃え上がり、地上には死体が作られていく。炎に巻かれて焼け死んだ者、空から落ちる光に巻き込まれ即死した者、焼け崩れた建物に押しつぶされた者。
先程までの賑わいが嘘のように、物言わぬ死体が山となっていく。
生きてる者は声を掛け合い、落ちてくるひかりから逃げるように道を駆け抜ける。その翼で空へ翔け上がる者は誰もいない。飛べば早く逃げられるかもしれないが、その代わりにその光の標的にーー雷の的になってしまうからだ。
「アハハハハ、楽しいねぇ」
落雷を恐れずに空を飛び、セイレーンたちの逃げ惑う様を眺める1人の男が居た。
男は口元にニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべている。
「――我が祈りに応え焼き尽くせ『炎獄の獣』」
街の中心にある塔から甲冑を着込んだセイレーンの兵士たちが空へと舞いあがり、雷を受けないように何人かの兵士が結界を張った。それ以外の兵士たちは槍を構えて男を取り囲み、その中のひとりが街を見下ろしながら嗤う男へと炎の獣を放った。
男は表情を変えずに召喚術を使った兵士の方へと振り返ると、炎の獣が男を飲み込んだ。
「――我が願いにより凍れる炎を『凍土の渦』」
続いて反対側に居た兵士が炎の獣ごと男を凍らすべく、氷の礫で出来た竜巻を作り、放つ。
男を飲み込んだ炎の獣は抵抗する間もなくその竜巻に飲み込まれ、凍りつく。
それに続いて兵士たちは次々に男を殺す為の術を放ち、その術が炎の獣ごと男を飲み込んでいく。
炎の獣に焼かれ、氷に包まれ凍えさせ、雷により貫かれ、岩が男をすり潰す。
普通に考えればすでに男の命はないものであるが、兵士たちは油断なく槍を構え、術を放つ手を休めない。
「――アハハハハハハ、ひよこちゃんたちもやるようになったじゃねぇか」
絶え間なく攻撃が襲うその中心地から、死んでいてもおかしくないはずの、男の声がした。
兵士たちに動揺が走るが、ひとりの兵士――他の兵士より目立つ鎧を着ている――が「怯むな撃て!」と叫んだ事で士気を取り戻す。先程までよりもさらに術数を増やし、威力を上げ、次々に男へ術を放った。
それでも男の笑いは止まらず、ある瞬間。攻撃を受け続ける男を中心に爆発が起きる。
咄嗟に結界術担当の兵士たちが男へ向けて結界を張るが、結界の効果を得る事に間に合わなかった何人かの兵士が爆風に飛ばされ焼かれ、そのまま海や街の中へと落ちていった。
爆風が収まり無事だった兵士たちが男の方を見れば、男には傷一つなく、炎の獣に飲み込まれる前と同じ姿でニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
「それでもまあ、オレサマには敵わないようだがなぁ」
男の様を見た兵士たちは手を止め息を飲み、それでもリーダーらしき兵士が号令をかけると術を唱えはじめる。
しかし男が手を一振りすると術を唱えていた兵士たちの首が飛び、彼らは重力に逆らえずに落下する。
「言っただろう? ひよこちゃんたちじゃあ、オレサマには敵わないんだよ」
クククと笑みを深くし、男は兵士たちを見回した。その目は口とは真逆で笑っていない。
「絶望してさっさと死ね」
男から立ち上る“何か”の気配に兵士たちは震えあがり一瞬手が止まり、その一瞬が命取りであった。結界担当の兵士たちが少し遅れて結界を幾重にも男へ向けて掛けるが、間に合わない。
“何か”が男から膨れ上がったかと思えば、その瞬間に周囲に居た兵士たちへと襲い掛かり、その“何か”に触れた兵士は苦しむような表情になり、その触れた端から黒い灰となって風の吹くままに飛ばされて消えていった。
「アハハハハハハ、さっさと死なないから苦しむんだよ。バカだよなぁ」
男はそう言うと、街の中心にある高い塔へと向かうのだった。




