31話 巫女が背負い続けたもの
永い時間の始まりを覚えている人間はいない。
だけど、その中で積み重ねられていた歪みは、
ここ最近急激に大きくなってきているみたいだ。
今日までのすべての出来事の中にある小さな違和感が、
気のせいだと思える範囲で済んでいたなら、どれだけ安堵できただろう。
心の中で渦巻いていたのは、少しばかりの後悔。
焦りこそないが、漠然とした不安が追い立てるように襲ってくる感覚に悩まされる時がある。
これは杞憂ではないはずだと心の中で言い聞かせてはいるが、
現況を殆ど理解できないというのに、元凶を探そうとするのは無茶を通り越して無謀だろう。
尤も、ここに居続ける限り……
近いうちにそんな無理と無茶と無謀を多重に重ねた状況に挑まなければならない日は来る。
願わくばそれが今日では無く、進む覚悟できた時期に来ることを祈りたい。
最近は、そう思っている。
今日もまた、朝が来ていた。
目覚めたら周囲を見渡して、いつもと変わらない風景がそこにあるのを確認して溜息をつく。
いつの間にか、これが日課のようになっていた。
最近は、前よりも朝早く起きる事が増えていた。
何度もそんな事があったので、巫女さんからも少し不自然だと聞かれた。
しかし、僕はその理由を未だに説明できずにいた。
先日の夢のような出来事は本当に起きた事だったのか、
未だに判断がつかないまま悩み続けている。
僕の記憶の中にしか無い出来事を二人に聞いたところで、望んだ答えは得られそうにない。
この神社の境内を隈なく探しても痕跡のような物が残っているとも思えない。
あったとしても、たった一枚の赤く色付いた葉っぱだろうか。
それも幻にも近い、鳥居の向こう側に飛び去った可能性が高い代物だけ。
(結局、刹那の夢を垣間見ていただけだというのか……)
現実は非情だけど、落胆している場合ではない。
だけどその事実はあまりにも重くて、冷たい。
だから今日も鳥居の外が気になって仕方ない。
あの向こう側にも間違いなく世界は続いていて、僕は間違いなくそこからやってきた……
そのはずなのだ。
(向こう側の記憶が無い、それは……)
どこか、もどかしい。本当はそれすらも怪しく思い始めている。
何が正しいのか段々と曖昧になって、いつの間にか暗闇の中を延々と歩き続けさせられている。
どうにかして、光を探し出さなければならない。
点だけでも見つけられれば、線を結ぶのは幾らでもできる。
幸い、大して邪魔をされること無く考え続けられる状況はある。
実のところ、思い当たる節はそれなりにあるのだ。
あの夢のような光景が現実なのかどうかの如何に関わらず、まだまだ色々と聞きたい事はある。
巫女さんや里遠ちゃんも最初からずっとここに居るのではなく、
ある時期からここにやってきたはずだ。
ならば詳細も少しは覚えているかもしれない。
とはいえ、里遠ちゃんは詳しくなど覚えていないだろう。
ここは、巫女さんに聞く方が簡単そうだ。
(もしかすると、もっと大きな確証を得られるかもしれない……)
そう思った僕は、里遠ちゃんがお昼寝をしているのを確認した上で、
巫女さんを鳥居の前に呼び出していたのだった。
鳥居の前で、待つ。
少ししてから、巫女さんがやってきた。
(普段よりも幾分疲れがみえるのだが、大丈夫なのだろうか?)
先日、朝食を失敗した時にも同様に疲れていたみたいだが……
それでも話をしなければならない。
「来人さん、お話とは何でしょうか?」
「唐突に呼び出してしまって、すみません。
今日は鳥居の向こう側について、桃子さんの話を聞きたいと思いまして……」
「私は、あまり詳しいことは答えられません。
最近になって、少し物忘れが出てくるようになってきましたから」
はぐらかされたのではないかと一瞬感じたのだが、
それにしては少しばかり変ではないかと思った。
「それは、今の桃子さんの……
疲れきっているのを隠せていない状況が関係していますか?」
「来人さんには、判ってしまうのですね」
巫女さんは苦笑いしながら返してくれた。
「それならば、ここで無理をして話し合いをする必要は無いですね。
また別の日に改めて……」
「駄目です、気になる事は解決しなければ後悔に繋がります。
私も来人さんとお話したい事がありますから……」
そう言われてしまうと、話さないわけにはいかない。
しかし、負担をかけないようになるべくなら手短に済まさなければと思った。
「なるほど。それならここは……」
「先に私から宜しいですか?」
「ん……
それなら、桃子さんからどうぞ」
僕の疑問が解決するだけではいけない。
お互いの事を考えるなら、譲り合いは大切だ。
「失礼なことを聞いてしまいますが、
来人さんは、ご自身の記憶を取り戻したのですか?」
「いや、まだ戻ってはいない。
取っ掛かりになるような物も見当たらないままだ」
「本当に、ですか?」
「ああ……」
今まであまり問われなかった件だが、今日の巫女さんはそこを突いてきた。
少しばかり珍しいが、何故このような事を聞くのだろうか。
「それならば、鳥居の下に立って遠くを見ているうちに、
外の世界へと踏み出してみたくなりましたか?」
「確かにそれはあるかもしれない。
記憶のことを抜きにしても、外に対しての興味は尽きない」
「そうですか」
「だけど、もう少しの間ここにいる。前から何度も言っているはずだが……」
「そうですね」
当たり障りの無い話し合い。
最初こそ驚いたが、詰まる所はいつも里遠ちゃんが居るところで交わされていた話と同じだ。
「同じような質問を受けても、答えはあんまり変わらないさ」
「それならば、聞き方を変えさせてください。
もしかして、来人さんはここ最近の間に……
何かとても大きな出来事に遭遇していませんか?」
「大きな出来事……
例えば、どんな?」
自分の中でもある程度答えは出ているが、
巫女さんが大雑把に聞いてくるのであえて僕は濁す事にした。
「鳥居の向こう側に関係する事ですが……
何か、ありませんか?」
「なるほど」
大体、僕が聞きたいと思っていた件だった。
それを知って、ほんの少しだけ安心した。
「鳥居の向こう側に関して、少し気になる事に触れてしまった……」
「そうですか、来人さんも……」
どうやら、お互いに何らかの出来事に遭遇していたのだろう。
僕があの夢のような世界を見ていた時、巫女さんにも何かが起きていたらしい。
「もしかして、桃子さんの疲労の原因は……」
「全てを明かすことはできませんが、
概ね的を射ていると思っていただいて構いません」
巫女さんは何を隠そうとしているのだろうか。
明言してくれなければ、一緒に考える事もできないだろう。
「それで良いのか、本当に」
「呆れないでください、説明しなくても大体感付いていますよね?」
「確かに、状況から察しろと言われれば無理ではないが……
一応それなりの確証は欲しいし、やはり本人の口から語って欲しいとは思わないかな?」
「それも、そうですね……」
と、ここまで来て気が付いた。
僕の質問したい事はこれとはあまり関係ないのではないかと。
だからまず、僕の疑問を解決しよう。
「その前に、一つだけ。
桃子さんがこの神社にやって来る前の話を教えてくれませんか」
「えっと、それについては……
実は私も、あまり詳しくは覚えていません。
今となっては里遠ちゃんが来た頃の事も曖昧になっていて解らないのです」
「つまり、一人の頃の話は……
記憶の何処を探っても、出てきそうにないという事ですか」
「そうですね、色々な記憶が繋がっている今でも、
戻ってこないのではと思っている事柄ですから……」
現に自分もここに来た経緯が曖昧になっているのだから、
巫女さんは完全に忘れているのも当然かもしれない。
「鳥居の外に出た事も……
過去には、あったのではありませんか?」
「覚えてはいませんが、そんな事もあったかもしれません」
はぐらかされても困るので、もう少し質問してみようか。
「断片的なものでも、少しくらいは思い出せますか?
村とか、木の葉の色とか、場面ではなく、特徴的な物だけでも……」
「そう、ですね……
村とか人に関しては、あまり鮮明な記憶は残っていません。
ですが、いつもは鮮やかな緑色を輝かせていた木々が、赤い葉をつけていた事は……」
「それだ」
いつもは緑色の木々が赤い葉を纏っていた……
例えこれが曖昧な物だとしても、核心に迫る事はできるだろう。
(紅葉も含めて、鳥居の向こう側にあった世界との関係が見つかったぞ……)
足りなかったはずの何かが埋まり、僕の中で一つの線として繋がっていくような気がした。
「来人さん……
どうしましたか?」
巫女さんの呼びかけで我に返った。
「説明が足りませんでしたね。
桃子さん、あなたは朝早く起きて掃除をしていると言っていますが……」
「それ以上は、聞かないでいただけますか。
私はまだ、巫女であり続けたいと思っていますから……」
巫女さんは、僕にそれ以上の事を言わせてくれなかった。
「つまりそれは、この場所に関する重大な……」
「それ以上は口には出さないでいただけますか」
皆まで言う前に巫女さんは口に人差し指を突きたて、僕の言葉を遮った。
秘密にしておいて欲しい、という事なのだろう。
「何故……」
「可能な限り里遠ちゃんの前以外の場所でも、
朝早くに裏庭の薬草園の掃除をしている事にしていただけませんか?」
縋る様な目で、巫女さんは訴えかけてきた。
それだけ、明かしてはならない大きな秘密が裏にあるのだろう。
「そこまでするのは……
里遠ちゃんに余計な心配させたくないから、かな?」
「はい、それ以外の理由もありますが……」
その事情は、ここでは教えてもらえないのだろう。
本当に、歯痒くて仕方ない。
「事情が何であれ、桃子さんに負担が延々と回り続ける状況を作るのは、
あまり許容したくは無いところなのですがね……」
「それでも、隠させてください」
「嫌だ、と言ったら?」
「意地でも納得していただくまでです。
この場所を護り続けるために必要な事なのですから」
「なるほど」
そこにはいつもの優しい巫女さんの雰囲気は無く、思わず僕も首を縦に振っていた。
この先はきっと、僕が踏み込んではならない領域なのだ。
「それに、お互い様でもあるのですよ?」
「お互い様……
何故、そんな事を言いますか?」
「先日も鳥居に近付いて、異変に巻き込まれかけていましたよね」
僕の中では思い当たる節が無く、困惑したのだが……
ふと、紅い葉の事を思い出した。
「何故、それを?」
「あの時、私は丁度近くに居ましたから……」
「そうだったのか、だから……」
先日の鳥居の下の事、少しだけだがはっきりと謎が解けていくのを感じた。
その裏側で、巫女さんの謎が何倍にも膨れ上がってしまった。
「何はともあれ、助けてくれてありがとうございました」
「お礼は、止めていただけませんか。
私も無我夢中で対処していたので詳細を覚えていないのです」
「つまり、実際に僕の身に何が起きていたのかは知らなかった?」
「残念ながら……」
知っていれば、少しは手掛かりも掴めそうだと思っていたが……
やはり、そう簡単には行かないみたいだ。
「あの時の私は、何らかの異常が見受けられた場所を辿り、
巫女として原因を取り除くために対峙し、退けただけなのです」
「なるほど……
鳥居の前に僕が居たのは偶然で、単に巻き込まれただけだと?」
「原因がどちらにあるのかは判りません。
鳥居の下に来人さんが居たかどうかも私は知りませんし、
見かけたとしても声を掛ける余裕も無かったと思います」
「なるほど」
あの時は色々ありすぎて、細やかな事を気にしていられる余裕は無かった。
その後の朝食が酷かったのも含めて、色々と違和感を覚えていても言い出せなかった。
今の今まで断片的にしか把握していなかったが、
改めて聞くと自分はそれなりに危機的な状況に置かれていたみたいだ。
「どのような理由であれ、今後も来人さんが鳥居に近付くのを引き止めは致しませんが……」
「お互い、話せずに秘密にしておきたい事がある事を忘れるな、か」
「はい」
「そういう事ならば、ここは引くしかないね」
悔しいが、あの光景を思い出してみようとしても出てこないし、上手く言葉にできそうもない。
それでも、巫女さんには伝えるべき事はある。
このまま何も語らずに、一人で背負い込むつもりならば……
「忘れていましたが、僕からの警告を一つ。
桃子さんが倒れてしまうような事態になったら確実に里遠ちゃんが黙っていない。
お互いに無茶はしない事、それだけは忘れないでください」
「はい」
巫女さんは真剣な目で、頷いた。
「私からも、警告させてください。
外の世界や記憶を追い求めたくなるのは構いませんが、言伝も無く消えないでください」
「肝に銘じておきます」
そうだ、僕は僕で反省しなければならないのだ。
一人で突っ走った結果が、八方塞の現状を呼び込んでしまった。
恐らく、巫女さんの疲労が増している原因の一端も僕にあると考えた方が良さそうだ。
「ところで来人さんは、体調に異常などは出ていませんか?」
「今のところは、特に気になるところはありません。
いつもよりも朝早く起きてしまう原因も以前説明した通り、見当もつかないままですよ」
「その事で、本当に心当たりはありませんか?」
「特に……
最初のころと変わったのは、唐突に朝早く目が覚めるようになっただけです。
それ以外は特に体調面で変化してはいないはずですよ」
僕に思い当たる節は無くても、桃子さんには感じ取れる何かがあるのだろう。
巫女さんはずっと複雑そうな顔で、僕の目を見ていた。
「里遠ちゃんも含めて、元気が一番なのは言うまでもありません。
ですが、それでも私のことは、あまり心配しすぎないでください」
「今回の体調不良は、あくまで一時的なものだと?」
「はい……」
どうにも、心配である。
何となくだが、心の底では理解するのを拒んでいる。
しかし、あと一歩が踏み込めない。
「私の体調の件も、来人さんの早起きの件も……
もしかすると、全ては見えないところで繋がっているのかもしれません。
お互いに気付かないようなところで……」
「桃子さんは、確証を持ってそれを言っていますか?」
「いえ、これは私の予感のようなものです。
来人さんこそ、私の疑問を晴らしてくれるような何かを掴んでいるのですか?」
「いいや、さっぱり」
「そう、ですか……」
巫女さんは残念だと思っているのだろう。
表情が、そう物語っていた。
「そんなに残念そうにしないでください。
ここで過ごしていればいずれ見つかると言っていたのは……」
「そうですね、私でした」
巫女さんが微笑むが、どこか陰っているように見えた。
「それでも心配だから……」
「えっ……?」
ふと、僕は巫女さんの手を取る。
「な、何をするのですかっ……」
抗議の声を挙げるが、気にする事はない。
「こうしてじっくりと手を握るのは、初めてですね。
華奢だとは思っていましたが、思っていた以上に小さい。
だけど、温かくて優しい手をしている」
「来人……さん?」
巫女さんは困惑していた。
実を言えば、僕も内心では動揺していたが必死に耐えていた。
「状況はあまり良くない。
それでも、この温かい手が僕を引き戻してくれた」
「あうぅっ……
ちょっとだけ、恥ずかしいのですが……」
「もう少しだけ……」
もう少しだけ、握っていたかった。
そこに言い様がない儚さのようなものを感じ、そのまま失ってしまうような気がして……
(触れて、本当の姿を知る……か)
まるで助けを求めているかのようで、
その手をもう少しだけこちらへと引いていた。
「どう、したのですか……
来人……さん?」
巫女さんが困惑気味に聞いてくる。
だけど僕は、無言でそのまま彼女を見つめていた。
それだけで、全てが伝わっていくような気がした。
(このまま手を離すと、再びこの手を取れなくなりそうだ……)
どこからともなく現れてくる妙な予感。
尚更僕はその手を離すことができなくなる。
自分の身に降りかかる事柄よりも、失う方が僕は怖い。
失ってしまったら、簡単には取り戻せないのだから……
(あれ……?)
そう思った時、僕は僅かだが異変の際に垣間見た光景を思い出していた。
そして、巫女さんの手を握ったまま逃がさないようにとそっと下げる。
「本心を答えていただきたい。
桃子さんは、得体も知れないものと対峙するのは怖くありませんか?」
「怖くないといえば、嘘になります。
ですが、これは私にしかできない事だと思っていますから……」
極上の微笑で巫女さんは答えてくれた。性分だから仕方ないとでも言いたいのだろう。
しかし、それならば……
「もしかして、僕や里遠ちゃんの身に何かあると察知できるとか……」
「流石にそんな力はありませんが、時折妙な予感を得る時はありますね。
この前の時は特に顕著でした」
「なるほど、それなら……」
暗闇に隠されてしまっていた小さな疑問に光が当たる。
一つ、また一つとあの時の光景が頭の中で繋がってゆく。
あの時は、そうだ。僕は……
「僕を助けてくれた際、桃子さんは一度も僕の近くに姿を現さなかった。
例え後々気を失っていたとしても、原因である鳥居の近くに向かわないなんて話は無い」
「え……」
巫女さんの顔が、驚愕へと変わっていく。
やはり、思い当たる節があったのだろう。
「何らかの力を使って助けられるからとしても……」
「そ、それは色々と事情が、ありまして……」
巫女さんの困惑具合を見ていると、大体見当が付く。
「皆まで言わずとも、大方解りそうです。
鳥居に近付きたくなかったから、ですかね?」
真実だったのだろう、巫女さんは返事もなく俯いて黙っていた。
僕は、真実を自分から語るのを待った。
「あの時、私は来人さんの姿を見つけてはいましたが……
その場所からは、足がすくんでしまって動けませんでした。
過去に鳥居に引き摺り込まれかけた時の恐怖が浮かんでしまったのです」
「対峙している物の正体を知っていても、内心では恐れていたという事ですか?」
「そう、です……」
今まで、こんな巫女さんを見た事は無かったが……
これこそが、本来の巫女さんの姿なのだろう。
「最初の頃の印象とは大違いだ。
今の桃子さんは、気張っていてもどこか脆さがあるように見える」
「酷い……です。
私だって、巫女である前に……」
「巫女である前に、一人の女性だから怖くなる事もあるのでしょう。
だからあの時はその場凌ぎに近くとも何とかはしてみせた。
無論、状況的にも間一髪だったとは思いますが……」
「はい、その通りです。
とても厳しい状況になっていましたが、何とか致しました」
巫女さんの表情は暗い。
だけど、これだけは聞かなければなるまい。
「これはあくまで想像の話でしかありませんが、
巫女としての意識や力が弱くなったから、異変を呼び込んでいるのでは?」
「そんな事は……」
そこまで言って、巫女さんは言葉を止めた。
「どうしましたか?
「いえ、もう濁すのは止めましょう」
「つまり……」
巫女さんはゆっくりと首を縦に振った。
今までの疑問が、一気に解けていくような気がした。
「私の力が弱まっている可能性を、以前からずっと危惧していましたし……
半信半疑でしたが、実感のようなものも伴っていました」
「そもそもそんな力があった事すら、驚きですよ」
「表立って使う事は滅多にありませんから……」
「確かに、そうだ」
余程の危機でもなければ人前で力なぞ使わないだろうし、
力がある事すら人に明かしはしないだろう。
「しかし、状況的にはかなり追い詰められていて、
それでも何も僕達に言ってくれないとは……」
「守りきれずに失う姿を見てしまうのは一番怖かったのですが、
真実を知れば、また別の理由で苦しめてしまう……
それはそれで、私は怖いと思っていました」
巫女さんの心の叫び。
繋がっている手から伝わってくる震えと心音が……
これが真実だと、教えてくれる。
「確かに、衝撃的な事実を聞かされれば笑い飛ばせなどしないが……
桃子さんは決して独りではない事を忘れないでください。
全てを背負おうとすれば無理も出るし、流れに任さねばならない時もある」
「来人さん……
これからはもっと相談して、良いのですね。
もう少しだけ、寄りかかってみても、良いのですね……」
「そういう事です。
知ってしまったので、僕も協力するのは道理でしょう」
「安心、致しました……」
巫女さんの顔に、微笑みが戻った。
半分は、泣き顔に近いが……
きっと、それは安堵したからこそ流れた涙なのだろう。
(色々な事が知れて、本当に良かった……)
思わず、僕は僕で感慨に耽ってしまっていて……
「ところで、来人さん、あの……」
巫女さんに呼ばれてその顔を直視すると、真っ赤な顔になって照れている。
更に、握り合っている手の部分を軽く引っ張られた。
「い、いつまで握っているのですか?」
「す、すみません……」
思わず手を離して謝ったが……
巫女さんは僕のことを睨み付けてくる。
「ちょっとだけ、離してしまうと寂しいですね……」
巫女さんの不意打ちのような一言で、僕の心臓が飛び跳ねた気がした。
悪戯が成功したかのように、巫女さんは微笑んでいる。
きっと、巫女さんも同じ事を考えていたのだろう。
(そういう所は、敵わないなぁ……)
思わず、僕も笑顔になっていたのだった。




