24話 巫女の得た確証
思い返せば、僕が怪我を負った時にはもう、
大いなる変化は始まっていたのだろう。
不思議と、今まで以上に僕達の仲は深くなっていた事に気付いた。
今の所、この世界が一体どんな目的で作られたのか、
隠された数多の謎を含めて判らない事だらけなのだが、
僕の怪我や巫女さんの料理などの変化があれば、
必然的にまた鍵となる何かが出てくるのではと思っていた。
故に、警戒していたというのに……
僕は新たな変化に気付けなかった。すぐ傍で起きていたのに……
「巫女さんの料理、最近失敗が増えた気がする。
里遠ちゃんは何か知っている事は?」
「みゅぅ……
なにも、しらないよ?」
「そうか……」
首を横に振って、里遠ちゃんは答えてくれたが……
多分口止めでもされている可能性がある。
真実は、きっと正反対であろう。
実は、最近妙に巫女さんの料理の味が安定していない。
先日の食材庫で見た、見知らぬ所で補填される食材の一件以降、
時折独りで何かをしているのらしいのだ。
(気になって仕方ないな……)
直接聞いてみる方が良いのでは無いかと思ったので、巫女さんの部屋に行く。
部屋の前で、妙に疲れた顔をした巫女さんとすれ違い、
思わず振り返って声を掛けていた。
「巫女さん、大丈夫ですか?」
「え、あ……はい」
「その妙な疲れ様……
何か僕に隠していることでもありますか?」
「な、何でもありませんから……」
明らかに怪しいと思ったが、
簡単に口を割ってはくれないだろう。
「いつまでも誤魔化せるとは思わないでください」
「はい。でも、今は……
なるべくなら、探られたくはありません」
なるほど、そういう事ならばここは引いたほうが無難だ。
気分を変えるために自分の部屋に戻り、
里遠ちゃんの相手をしようと思ったのだが……
「あれ、居ない。
どこに行ったんだろうか……」
いつの間にか、居なくなっていた。
恐らく自分の部屋にでも戻ったのだろう。
(そうだ、食材の確認でもしてくるか……)
何となく気になったので、僕は台所の方に向かった。
食材庫はそこから行かなければならない。
廊下を歩く。
台所が近くなるにるれて、美味しそうな香りが漂ってくる。
(ん、これは……)
巫女さんが料理でも作っているのだろうか。
そう思って、台所を少しだけ覗こうとすると……
「ここをこうして、これを……
いえ、違いましたか」
一生懸命、料理をしている巫女さんの姿が見えた。
「なかなか、上手く行かないものですね……」
どうやら、聞こえてくる溜息や言葉から察するに、
相当難航しているみたいだ。
邪魔をしては悪いので、立ち去るべきか……
いや、少しでも良いから話をしていこう。
「巫女さん、何か悩み事でも?」
「えっ……ら、来人さん、いつからそこにいらっしゃいましたか?」
「今入ってきた所ですが……
そんなに慌てて、何かあったんですか?」
「い、いえ……
少し、研究したい事があって台所にいるのです」
「なるほど、そういう事ならば……
無理はしない程度に、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
何をしているのか大体悟ったが、あえて僕は聞かなかった。
恐らく、話をしようとしても焦るばかりでまともな答えは返ってこないだろう。
それよりも、だ。
巫女さんが料理の研究をしているというのならば、
尚の事食材庫の食材は減っているはず……
「で、何故かしっかりと食材は残っていて、
以前よりも豊富に取り揃っているわけだ……」
思わずそう呟きたくなる状況が、目の前にあった。
(冗談でも錯覚でも……ない)
ここまで毎度同じ状況を見てしまうと、
いつの間にかそこに疑問を抱かなくなってしまう。
それが速いか遅いかを弄っていそうなのが、この世界の不可解な部分だ。
しかし、今はむしろ巫女さんの動向の方が気になる。
食材庫の件以降、行動や思考が少し変わったのではと思っている。
具体的に言葉にはできないのだが……
(以前よりも、親しみやすくなった気がする)
そして、料理に対しての意気込みが強くなった。
手っ取り早く仕上げていたという事が多かった頃と比べ、
時折手の込んだ料理を作ってくれるのだ。
無論、失敗無しというわけではないので、
今までみたいな完璧な人という印象が薄らいできた。
特に、時間配分等の部分で少々難があるらしく、
ご飯が大変な事になる時がある……
先程の状況を鑑みるに、間違いなく今日の昼食もそうなるだろう。
今の段階で、既に普段の昼食の時間は過ぎつつある。
朝食が終わった後から始めていたのならば、
かなり間に合わせの昼食が出てくる事になるだろう。
願わくば、失敗作が出ないことを祈ろう。
その願いは、割と早く崩れ去った。
食卓に並ぶものが、巫女さんの失敗を如実に伝えていた。
「はぁ……」
「すみません、来人さん、里遠ちゃん……」
毎度の如く、謝っている。少し不憫にも感じる。
失敗した本人も落胆しているのを見て、尚更気の毒だとも思った。
「みゅぅ……また、しっぱい?」
「ごめんなさい……
なかなか思う通りの味に仕上がらないのです」
本当に、楽しみで仕方ない料理が出てこないと……
それだけで、少し気分が憂鬱になってしまう。
このまま何度も繰り返されると困るので、事情を聞いてみた方が良いのだろうか。
「巫女さん、それで……
今回は一体何を作ろうとしてたのかな?」
恐る恐る、なるべく平常心を保ちながら聞いてみる。
「それは、今は秘密にさせていただけますか?」
「あまり秘密にされると期待ばかりが膨らんで、
余計に失敗したときの落胆が激しくなりますよ……」
僕はそう文句を伝えたのだが、
巫女さんは首を横に振るばかりだった。
毎度の如く、料理に関する事は秘密主義を徹底している。
目の前に出された料理からその苦労を察してくださいとは、
以前から巫女さんが口にしていた言葉ではあるが……
(何が来るのか解らないからこそ、怖いんだよな……)
多分、それにすら巫女さんは気付いていないのだろう。
それだけ、必死に研究をしていて周囲が見えなくなっているのかもしれない。
ただ、少しばかり僕には理解できない事があって……
あれだけ美味しい料理を作っていた巫女さんが、
何故ここまで頑張って献立の拡充を目指そうとしているのか。
発端も、現状も、知らない僕には解らないのだ。
故に、そこに何か考えがあるのではと思ってしまう。
「色々と献立を研究するのは構いませんが、
もしかして、料理の手法を忘れているなんて事は……」
「いえ、そんな事はありません。
以前から普通に作っていた料理は、問題なく作れる事を確認しています」
「なるほど……
それならば、何故挑戦をしようと?」
「みゅぅ……
おにいちゃん、そこまでだよ」
僕が巫女さんにその理由を聞こうとしたら、
里遠ちゃんが間に入って来たので、僕は追及を止めざるを得なかった。
「なるほど、今回の件は里遠ちゃんも味方しているわけか。
僕だけ理解できないままというのも、嫌な物だな」
「おねえちゃんもがんばってるの。
いそいじゃ、だめなんだよ?」
なるほど、どうやらこの件は里遠ちゃんの方が色々知っているという事か。
急いては事を仕損じるという言葉通りだ。
少しばかり、反省しなければならない。
「それでも、来人さんに疑念を持たれてしまうのは仕方ないと思っています。
だからこそ、あと少しだけ待っていただけませんか?」
「はぁ……
何か根拠があるというのなら、待ちましょう」
恐らく、ここで無理を通しても何も得るものは無い。
「私は既に確証に踏み込むだけの事実を集めています。
あと少しで答えに迫る所にまで色々と進みもしました。
相談したい事も色々とありますが、もう少しだけ時間をいただきたいのです」
「解りました。それ以上は聞きません。
巫女さんに後は任せます」
今は、事の成り行きを見守るしかないか。
煮え切らない思いを抱えながら、大人しく僕は引き下がる事にした。
(本当に解らない事ばかりだ……)
色々な事が繋がっているのは間違いないが、見えていない。
至る所に靄がかかっているような、そんな感じ。
掴みたくても掴めないのがもどかしい。
巫女さんに対して、もう少し色々と問いかけられなかったのを、
少しだけ悔やんだのだった。
部屋の中から外を見た。
夜の闇は、疑問の全てを吸い込んで奪い去って星にしてしまいそうだ。
昼食の後から延々と部屋で悩んでいた。
晩御飯も食べたが、何も変わった事もなく静かに過ぎてしまった。
気がつけば、既に夜になっていた。
静かな時が流れる中で、ずっと考え続けていた。
考えれば考えるごとに……
刹那から生まれた小さな幻想が広がって、僕の頭の中を埋め尽くしてゆく。
その中で一つ、強烈な印象を見せた物が、あった。
料理の研究を必死に頑張っている巫女さん。
その姿は、何か目的があったとしても……
里遠ちゃんの目から見れば、美しいと感じられるだろう。
(僕には、疑わしさの方が先に見えてしまうけど……)
里遠ちゃんは、僕なんかよりももっと近い位置に居る。
だからこそ、僕が知らない事を知っていても不思議ではない。
(それに、女同士だから解る何かがあるのか……)
それならば、僕が足を突っ込めるような領域ではないだろう。
里遠ちゃんに聞いてみても何も教えてはくれないだろうし、
僕が理解できなくて当然だ。
(勝手にそう決め付けるのは良くないが……)
一応、そういう事で納得しておこう。
というか、納得したら別の視点から物事が考えられるわけで……
里遠ちゃんだけでなく自分にも降りかかった異変の後から、
巫女さんの、里遠ちゃんへの接し方が随分と柔和になった気がするのだ。
言葉の上では読み取りきれないところもあるが、
向けている笑顔が今までよりも柔らかい。
何より、以前よりも二人の距離が近くなっている。
(巫女さんは、里遠ちゃんの姉のような存在……か?)
今まで当たり前だと思っていたはずの事だったのに、
改めて言葉にしてみると妙な感じを抱いてしまう。
料理に情熱を燃やし始めた巫女さんの変化もまた、
この辺りの変化が連鎖して呼び起こされたからなのだろうか……
(憶測ばかりだが、妙に納得が行くのも不思議だ)
まあ、どれだけ考えたとしても……
大半の部分において、僕が絡まない部分で起きた事が含まれている限りは、
どうしても一人で考えるのは難しい部分があるだろう。
(そういえば……)
僕が絡まない、里遠ちゃんと巫女さんだけの時に……
関係の変化を呼び起こす重大な何かが起きていた可能性がある。
しかも、今し方思い返していた件だった。
確か、里遠ちゃんを探して巫女さんと一緒に居る所を発見した時……
(そこに至るまでの間に、何かが起きていたのだろう)
巫女さんから聞いた話だけでは足りていない。
僕では窺い知る事のできない真実。
これこそが、僕が踏み込めない領域になるのだろう。
しかし、何か取っ掛かりはあるはずだ。
(そこに至るまでの経緯……)
思い返してみる。
現状に至るまでの変化は、誰の変化から始まったのか。
里遠ちゃんが悪夢にうなされたのも、僕の怪我の発端も……
やはり、里遠ちゃんが絡んできている気がする。
更に最初まで遡ってみよう。
僕が来た事が最大の変化だと言えばそれまでだが、
そこで僕を引き止めたのは、里遠ちゃんだった気がする。
(と、なれば……)
もし、今の僕と巫女さんと里遠ちゃんの三人の関係を外から見た場合、
一体どんな形で見えてくるのか。
「少なくとも、姉妹と居候には見えないだろう……」
呟いてみれば、より納得できる。
既に巫女さんと里遠ちゃんの関係は、同じ場所に住む者同士の関係から、
知人、姉妹と関係を進め、その先に到達しようとしているのだろう。
親と娘という関係には程遠いとは思うが……
少なくとも、養う側と養われる側、依存関係にはあると思って良い。
そして、僕もまたその関係の中に組み込まれている。
(違和感が拭えないのは、最初からその関係自体が変だったからか……)
変化は、恐らくまだ続いていくのだ。
行く先はまだ、随分と遠い場所にあるかもしれない。
「だとすれば、僕達の関係は何処に向かっている?」
帰結する先も含めて、この先の変化が全く予想できない。
「来人さんの疑問は、近いうちに解決できるかもしれません」
「なっ……
巫女さん、いつからそこに」
後ろから巫女さんにいきなり声を掛けられて、
慌てて僕は後ろを振り返っていた。
「考えすぎは良くありませんよ?」
そこには、微笑んでいる巫女さんが居た。
「来人さんも、私と同じ事をを考えていたのでしょう。
今回は、その相談に参りました」
「はぁ……」
巫女さんは、何処まで知っているのだろうか。
いつもよりも、更に真剣な表情で巫女さんは僕の前に座っている。
どんな話が来ても構わないと、僕は覚悟を決めた。
「それでは、相談の内容を聞かせてくれますか?」
「はい、実は……
私も来人さんと里遠ちゃんの関係について気になった事がありました」
「ふむ……」
最初から興味深い話だ。先程まで考えていた事だから尚更。
「最近、二人の関係が歳の離れた兄妹に見えなくなってきました」
「なっ……」
まさか、そんな事が……
「もしかして、僕の考えていた事、口に出していてそれを……」
「いいえ、何も聞いていません。
これは私が普段の行動を見て気付いた事です。それに……」
「まだ、何か?」
「来人さんも、私も、似た者同士ですから。
私が思った事も、来人さんは既に考えていると思いました」
なるほど、それは過去に里遠ちゃんに指摘された事が……
「それなら、発想の起点も同じ部分にあるかもしれないね」
「はい、そうだと思います。
先日の里遠ちゃんの悪夢の件から続いた、一連の出来事ですね」
「同じだ。という事は結論の違いになるのか?」
「もっと、別の物を含んでいると思います」
「ああ……」
そうだ、結論とかそういう次元の物ではなくて……
もっと素直に、その時に何を見たのかを聞かなければならない。
「巫女さん、改めて聞きます」
「来人さん、聞きたいことがあります」
僕と巫女さんは、同時に質問を投げかけようとした。
なのでそのまま、揃って次に続く言葉も紡いだ。
「巫女さんは、あの時の僕に何を見ましたか?」
「来人さんは、あの時の私に何を見ましたか?」
そして、お互いに全く同じ事を聞いていた。
あの時に見た強烈に焼きついた、鮮明な光景が蘇る。
お互いに同じ物を思い出したのか、僕も巫女さんも頷きあっていた。
「それなら、僕から話しましょうか」
「はい、お願いします」
とりあえず、こういう時は譲り合いなのだが……
仕草でこっそりと僕が先に行くようにと勧められてしまった。
「僕は、あの時……
里遠ちゃんを抱いている巫女さんの姿が、聖女のように見えました」
「聖女、ですか」
「神々しくて、尚且つ慈愛に溢れた姿。
愛情と優しさにて幼子を包む姿は、何よりも美しかった。
一言で言うなら、母親の顔をしていた……」
そう、恐怖におびえる我が子を包み、
震える心を落ち着かせているかのような姿を僕は見ていた。
「それならば、私は丁度対になる物を見ていたのですね」
対になる……?
少し遠回しに言っているのだろう。僕にはすぐに思い浮かばなかった。
「あの時の来人さんは、今まで見た事が無いほどに凛々しく、
どんな事があっても助け出してみせるという覚悟が滲み出ていました」
凛々しい顔……
無我夢中だったのだが、あの時はそんな顔をしていたのか。
「そして、里遠ちゃんと私を見つけた瞬間、
緊張が解けた優しい笑顔と、周囲を見張る強い瞳に変わりました。
そこに、父親のような姿を思い浮かべました。」
父親と、母親。
そういうことか、確かに対になるな……
「互いが、互いに対して……
里遠ちゃんを護る、親のような顔を見せていたのか」
「そういう事になりますね」
僕が父親で、巫女さんが母親の立場になるのか。
(何だろうか、とても……)
違和感も無ければ、嫌悪感も無い。
兄妹という関係を口にした時の疑念が、一気に晴れた気がした。
「そもそも、今の私と来人さんは……
里遠ちゃんからすれば親代わりの存在でもあるのです」
「なるほど、確かにその通りだ。
だからこそ、僕達もまた心境の面で変化したと……」
「そうです。
恐らく、あらゆる面での変化が訪れているのでしょう」
僕も、巫女さんも……
その変化を既に感じ取っていたのだ。
しかし、どうやらそれ以上の事を巫女さんは知っている気がする。
「もしかして、確証があるというのは……」
「はい、その通りです。
確証を得る為に、私は一つの実験をしていたのです」
「実験?」
何を実験していたというのだろうか。
思い当たる事といえば、料理の話だが……
「もしも私がまともに料理を作らなかったなら、
ここはどんな変化を起こすのでしょうか……」
「それは……」
思い返してみる。
なるほど、得意としている料理では無い物を意図的に作り続ければ?
「最近の失敗は、意図的だったのか……」
「そうです」
あれだけ美味しかった料理が途端に変になったのだ。
それが不思議だと思うところまでは僕も考えていた。
(掴めなかったのは、仕方ないわけだ……)
倉庫内の品物が補充されていた件よりも、
巫女さんは自分の料理に疑念を持っていたのだ。
「結論は、すぐに出ました。
二人が美味しそうにご飯を食べている姿が見れず、
私はとても辛かったです」
「そうですか」
巫女さんは半分泣きそうな顔でそう言った。
だが、まだここで結論を出してはいけない。
「それこそが、変化ですよ」
「そんな変化は、知りたくありませんでした。
疑問を解決するために、酷い事をして……」
取り乱しつつある巫女さんを見て、僕は思わず叫んでいた。
「それを試せた事が最大の収穫です!」
「ふえっ?」
一瞬で、空気が変わった。
巫女さんは首を傾げているが……
「僕は僕で、巫女さんの料理を美味しく頂いたという記憶しかなかった」
いつもと同じ食卓、料理、味、反応。
「何がどう美味しいのか、気付いていない。
献立も、味の濃い薄いも、ただいつもと同じにしか感じていなかった。
そう、単に食事をしていたという事実しか残されていなかったんです」
当たり前のように出てきた物を食べて、美味しいと返していたのだ。
「そういえば、実験を始めるまでは料理を失敗した覚えはありません。
まさかそれも、何らかの理由で……」
「可能性としては大いにあると思いますよ。
だから、献立が同じでも気付かない。漠然と食べていただけだった」
「私もまた、漠然と料理を作っていただけでした……」
気付けば、全てが繋がっていく。
「改めて理由を聞かせてください。
実験を始めた、発端となる出来事は何ですか?」
次々と出てくる疑問も、恐らく元を辿れば一つ。
そして、今回は巫女さんがそこに辿り着いた。
「倉庫の中身が、偏っていた事です。
なので、工夫して献立を増やしたいと思い……」
そこまで話して、巫女さんは語るのを止めた。
もう、気付いたのだ。
「ここが、起点だったのですね。
そして、私達は一連の流れでそれを忘れかけた……」
「それだけ、この世界に働く力は強いという事かな。
根本となる何かが一切解らないのは、怖くもあるが……」
話しながら巫女さんに目線を移すと、少しだけ俯いていたのが見えた。
「原因は恐らく私にあるのでしょう。
その全てはまだ思い出せそうにありませんが、
来人さんのお陰で前進する事はできました」
「いずれ、辿り着きたいですね」
「はい」
お互いに顔を見合って、頷き合う。
ここからが、本当の戦いの始まりなのだろう。
「話は、ここまでですね。
今日はそろそろ寝ましょう」
「そうですね」
外を見れば、星の輝きは増し、夜が一層更けていた。
「来人さんも、あまり遅くまで考えていてはいけませんよ?」
「ご忠告、痛み入ります」
釘を刺されてしまったが、考えないわけには……
「寝坊したら、朝食を抜きにしますよ?」
「それだけは勘弁してください」
仕方ない、大人しく従おう。
「それでは、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
挨拶を済ませると、巫女さんは自分の部屋へと戻っていった。
さて、僕は……
一つだけ、考えを纏めるとしようか。
まず、これは予想なのだが……
巫女さんと里遠ちゃんの関係はもっと複雑では無いだろうか。
僕がここに来る前の不仲な状態、
原因も含めて、巫女さんは覚えていないのだが、
都合が悪いので覆い隠されている部分と考えれなくもないだろうか。
二人の間にあった、関係の溝を作った要因。
それは、僕が来た事で有耶無耶になって、修復された。
これを、見方を変えて発想を変えてみればどうなるか……
(僕が居なければ修復できない程の何かがあった……のか?)
もしそうだというのならば、
二人の間には未だ僕が知りえない秘密があって、
それが関係の悪化を呼び起こした可能性もある。
原因は、一応心当たりが無いとは言えないが……
まだ、判断するには材料が足りない。
これ以上は、更なる変化に期待するしかないのだろう。
願わくば、その全ての憶測を忘れ無い事を祈ろう。
一段落して、僕はようやく眠りに付く事にした。
明くる日の、朝。
それは突然やってきた。
「あ~さ~だよぉ~っ!」
心地よい目覚めがやってくると思ったが……
「おにいちゃ~ん、お~~き~~てぇ~~!」
別に叫ばずとも聞こえて……
「おきてよぉ~」
「ぐはっ……」
それは、いきなり僕の足を蹴飛ばしてきた。
脛に入ったので、ちょっと痛い。
「め、さめた?」
「痛いな……全く。
起こすならもう少し考えて起こして欲しいな、里遠ちゃん」
「ぜんぜんおきないんだもん」
ものすごい感じで睨まれてしまった。
「そ、そりゃ悪かった……」
「おおねぼうだよ?
おにいちゃん、ねぼすけ~」」
「否定できないのが悔しいね……」
昨日巫女さんに注意されたのにやってしまった。
「ところで、巫女さんは?」
「ここに、いますよ……」
居たのか……
これは、朝食抜きに……
「私も、今起きたところです」
「え?」
「そうだよぉ……」
「他人に注意したのに私がやってしまいました、ごめんなさい。
仕方ないので朝食は簡単なものになりますが……」
「それで、構いませんよ」
とにかく、何でも良いから朝食が食べられれば……
「おねえちゃん、はやくはやく~」
「あら、あらら……
里遠ちゃん、ちょっと、引っ張らないで……
待って、お願いだから待って……」
時間潰しに里遠ちゃんの相手でもと思ったが、
余程お腹が空いていたのか、巫女さんの腕を引っ張っていってしまった。
あのまま、台所まで行ってしまうのだろう……
そして、取り残された僕は思った。
ああ、平和な一日がまた始まるのだな……と。




