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神ノ社  作者: 空橋 駆
5章 取り残された地
23/36

23話 三人だけで生きる世界

朝が来た。

どう考えても、いつもと変わらない朝だ。

寝ぼけた頭で辺りを見回しても、気になる物は無い。


外に出て鳥居を眺めるが日常の光景が流れていて、

後ろで、箒を掃く音が聞こえてくるのみ……


「早朝から掃き掃除ですか、大変ですね」

「おはようございます。

 珍しいですね、こんな時間にこちらにいらっしゃるなんて」

「いつもよりも早く目が覚めて、少し気晴らしに来ただけですよ」

「そうですか」


そういえば、いつも僕はもう少し遅い時間に目が覚めて、

朝食が仕上がるより少し前に部屋を出ていた気がする。


「ところで、どうして来人さんはここに?」

「何となくだね。少しばかり気になる事があった気がして……

 巫女さんならば何か知っているかなと思って外に出てきました」

「足の方は大丈夫でしたか?

 無理をして出てきて悪化しては困ります」

「怪我……

 ああ、そういえば」


そうだ、僕の足の怪我はどうなった?

昨日と比べると痛みは少なく、気をつければ歩くのに支障が無い程になっているが……


「まさか、治っているのですか?」

「痛みがあまり出ない程度で、まだ完全には治ってませんよ」

「歩ける程度までは回復しているのですね」

「はい、確かに」


巫女さんの手当てが良かったのだろう。

あっという間に回復しているので、完治もすぐだろう。


「ところで、どうして私を探していたのですか?」

「何か確認しなければならない事があったはず。

 何かは覚えていないけど……」

「そうです、私も何か忘れている気がするのです」

「食べ物が関係している気がするけど……

 何故か、思い出せないんだ」


断片的で、繋がって来ない。

巫女さんが前言っていた感覚は、これなのだろう。


「それならば、朝食の支度を手伝っていただけますか?

 昨日相談していたのはその件のはずです」

「そういえば、そんな話をしていたような気がするね。

 あの時は確か、僕が作れば良いとか何とか……」


断片的で、情報が全然繋がって来ない。

それでも、曖昧で不確実なのに妙な確信を持ててしまう。

まるで、本当にその全てが……


「気づいていますか、来人さん?」

「巫女さんはもう気付きましたか」


そうだ、そういうことだ。


「昨日の懸念が当たりました」

「悪い予感が当たったわけだ」


僕と巫女さんはお互いに顔を見合わせて……

同じ事を口走っていたのだった。


「食材庫、案内してくれますか?」

「はい、今すぐ行ってみましょう!」


そして、巫女さんと共に僕は食材の保管場所へ向かったのだった。


食材庫の前に着いた。

見た限り、不審な様子は無い。


「来人さんが警戒していた通りになるとは思いませんでした」

「僕としても、これは想定外です」


万が一備えておけばと思っていた程度だった。


「巫女さん、昨日の食材の在庫はきちんと覚えていますか?」

「大体覚えています。

 それでは、入りますね」


僕は足の怪我でそれを確認していないので、

現状を確実に把握できるのは巫女さんしか居ない。



入り口の前で暫く待っていると、巫女さんが出てきた。


「来人さん……

 補充、されていました……食材……」

「やはり、そうだったのか……」


やはり、この世界は普通ではなかったのだ。

疑惑は、確証になってしまった。


あの鳥居に引っ張られる感覚も含めて、ここには謎が多すぎる。

世界が普通でない可能性もあるし、何が起きても不思議ではない。


(最悪の場合、常識すらも疑わなければならなくなるのか)


ここまで来ると、僕がここに居る事も……

ああ、謎ばかりで何が何だか分からなくなりそうだ。


「それだけではないのです。

 補充された食材、全て新鮮な物でした」

「気付かれることなく、逐次補充されていたという事だね」

「管理していたのに、私は実情を把握できずに何の疑問も持ちませんでした。

 本当に、不覚です」


責任を感じているのか、それともこの事実が衝撃的過ぎたからなのかは判らない。

ただ、巫女さんはずっと悔しそうな顔をしていた。


「誰にでも、知らない物や把握できない事の一つ二つはある。

 あまり自分を責めない方が良いですよ」

「はい……

 それでも責任を感じずにはいられません」


励ましたつもりだったが、

巫女さんは割り切れずに顔を俯けていた。


「色々な事が解り、考えがまとまりません。

 少しだけ、時間をいただけますか?」

「それは、構いませんが……」


巫女さんは何をしようと考えているのだろうか。

僕はただ、食材庫を眺めて何かを考えているのを、

後ろからそっと眺めている事しかできなかった。


「朝食、どうするんですか?」


痺れを切らせて、僕は聞く。


「そうですね……

 もう、考えるのは止めにしましょう。

 すぐに朝食の準備を致しますね」

「待ってください」


そのままこの場を離れようとする巫女さんを僕は制止した。


「な、何で止めるのですか?」

「どうしてその結論に至ったのか、説明して欲しい」


巫女さんの頭の中で完結されても、僕には解らない。


「食べなければ、生きることもできません。

 どれほど理屈を並べてみたとしても、現実の壁は迫っています。

 ここにある食材の出所を気にしてなどいられません」

「なるほど、しかし……

 不審な物を口にするのは抵抗があるね」


毒でも入っていたら大変だろう。

その辺りについても、巫女さんは考えているのだろうか。


「理由が欲しいのならば、

 ここが形式上であったとしても神社であることを理由にしましょう。

 奉納されたものと考えれば、不自然さも失われるでしょう」


その言葉は、恐らく巫女さん自身に対する言い訳のような物だろう。


「随分と強引ですね」

「私も、そう思っています。

 それでも、これまで食べてきた物ですから……」

「なるほど、確かにそれは一理あるね」


巫女さんの考えを否定する気はない。


「出所が知らないと無視をして、食べねばいずれ腐る。

 それはそれで後々大きな問題になるかもしれないね」

「はい、それに……」


まだ、何かあるのか?


「食材のこと以外にも奇妙なことは沢山あります。

 何かの延長線上に、この出来事もあると思います」

「辿る方法などを含めて、どうするべきか考える必要があるか。

 本当に謎が謎を呼び続けてばかりで頭が混乱しそうだ」

「はい……」


異常だとして疑えば、いずれ正常なものが無くなる。

だから、今は事実を忘れることなく受け入れておく。

もしこれを拒絶した場合、明日以降の僕達は居ないかもしれない。


傷を回復させる力も、時間を廻らせる為の鍵も、

空気も、水も、季節も、全て……

その根本の部分の謎は、大きすぎる。


(それでも、手をつけられる場所はつけたいが……)


目の前にある、あまりにも大きな壁。

崩していくのに、どこから手をつけるべきか。


(本当に、判らない事だらけだ……)


いつの間にか巫女さんは居なくなり、

食材庫の前では僕一人。

腹が減ってきた事に気付くまで、ずっと考えていたのだった。



全てが繋がっているとすれば、

全貌はとてつもなく大きな物になるのかもしれない。


変わらないから、気付かない事もあり、

変わらないから、気付ける事もある。


まるで何事もなく、全てが普通に見えているというのに……

実は、至る所にその欠片が埋められている。


そもそも、僕にとって普通とは何かと問われると、

定義からして曖昧だとは思うのだが……


まるで誘うかのようにその尻尾を至るところで見せ、

正体に迫ろうとすればするほど逃げられているかのような、

延々と続く追いかけっこをさせられている気分だった。


何より一番不可解なのは……


(時折、その追いかけていた相手を忘れる事か……)


消えていると評した方が良いのだろうか。

それとも覆い隠されているのか。


重要な事に限って、曖昧な世界へと溶け込み始めている。

今で言うならば、朝食を食べなければならない事実以外、

全てが瞬く間にどこか遠くへと遠ざかっている、そんな感じだ。


何を覚えていて、何を忘れているのか。

ただ一晩眠るだけで忘れてしまっては、

真実に辿り着く事など到底不可能だと考える。



本当に、どう打開していけば良いのだろう。

目の前に置かれているものから目を背けつつ、僕は考えに浸ろうとする。


「あの……

 来人さん、食事中まで考え事をするのはどうかと思いますが……」

「おにいちゃん……だめだよぉ……」

「ん……ああ……」


手に持った茶碗。食べているのは間違いなく、ご飯。


当たり前のように朝食を食べているはずなのに、

この満たされない感じは何処から……


先程の、食材庫の件が影響しているわけではない。

そちらよりも僕にとってはもっと重要なのは、足の怪我。

昨日の状況を覚えていなければ、何があったのかを忘れるほど。

本当に、酷い怪我をしていたはずなのだが……


「いい加減にしてください、来人さん?」

「はぁ……」


とうとう、巫女さんが苛立ちを抑えられずに僕を怒鳴りつけてきた。

しかし、僕は溜息を返す事しかできなかった。


食事に集中していない自分が怒られるのは当然。

しかし、今ここで目の前に広がる光景を考えると……

事情はまた、違ってくる。


「いい加減にして欲しいのは、巫女さんの方です」


そう、こうなった原因は巫女さんにある。


「何で皆の朝食がこんなに悲惨な事になっているんですか?

 流石に、絶句して箸を進める気にもならないですよ」

「あうぅ……」


申し訳無さそうな顔をしているが、大事な事なのでもう一度言う。

全ての原因は、巫女さんに起因する。


「おにいちゃんよりも、おねえちゃんのほうがひどいよ。

 だけど、おにいちゃんはおねえちゃんをいじめちゃだめだよ?」

「はうぅぅ……里遠ちゃんまで私を……」


里遠ちゃんの一言が追い討ちとなり、

更に巫女さんを凹ませていた。


原因は、僕があまり食事に集中できていなかった理由と同じ。

巫女さんの場合、そこに時間が足りなかったという側面が加わる。

考え事をしつつ大慌てで朝食に取り掛かっていたから、

結果としてまともな朝食が一切作れなかったわけだ。


そして、何とか食べられるものを探した結果、

机の上には漬物とご飯、そして山菜の和え物が残った。

ご覧の通り、いつもよりもはるかに質素であり、

火の通った食材はご飯以外存在していない。


「恒例の卵焼きは大失敗で目も当てられない……か。

 巫女さんの作る卵焼き、結構気に入っているんですよ?」

「そう言って頂けるのは本当に嬉しいのですが……

 本当にごめんなさい、お願いですから許していただけませんか」


元から責めるつもりは無いのだが、相当堪えているのだろう。

先程から何度も何度も巫女さんは僕達に謝っていて、

その度に僕は申し訳ない気持ちになる。


ちなみに、焦げて失敗した物で食べられそうな物は、

巫女さんが無理をして食べていたわけで……

多分、二重の意味で辛かったのでは無いだろうか。


「おねえちゃん、それ……

 たべさせて、おねがい」

「いいえ、いけません。

 食べ物を粗末にするのはいけませんが、

 失敗してしまった物を出してしまうのも、許せないのです」


と、まあ……

里遠ちゃんも含めて、このままでは駄目だと手を貸したくても、

妙な所で意地を張られ、全然譲ってくれなかった。


「それよりも、私が料理を失敗した事と来人さんの行儀の悪さは別の話です。

 里遠ちゃんが真似するといけませんので、反省してください」

「すみません、本当に現実を見たくなかったんです。

 逃げて良いのなら、一日部屋に引きこもりたいくらいです」

「あうぅ……酷すぎます……」


確かに自分にも悪い点はあるだろう。それは認める。

だが、食べないという選択肢を選ばずにここに居る時点で既に耐え難き苦行。

他の事でも考えなければ、到底気持ちが切り替えられそうに無い。


「ただ、今度はなるべく我慢せねばと……

 そう思ってなるべく机の上を見ないようにしているだけです」

「ううっ……」


半泣きの巫女さんなんて初めて見た。

そもそも、失敗をする巫女さんも珍しいと思う。


ただ、最初の時のような堅苦しさが無くなった代わりに、

こんな変化をしてしまったというのなら、少し心配だ。

まあ、巫女さんも同じ心配を僕に対してしているみたいだが……


「おねえちゃん、おひるはちゃんとしてねっ」

「代わりに作ってください、来人さんっ!」

「こんな状態で投げないでくださいよ……」

「あうぅ……」


もう、何と言うか……

巫女さんはからかってみると結構楽しいと気付かされた。

但し時折妙な方向にぶっ飛ぶのだけは勘弁してください。


本当、こんな朝食は初めてだった。

今まで味わった事の無い雰囲気を、感じていたのだった。



食後、暫くして……

僕の部屋に皆集まっていた。


皆で、のんびりと外を見る。

暇な時間をこうして過ごすのも良いものだが……


「ここは何も無いね、本当に……」

「それが本当の姿なのかもしれませんし、

 意図的にそうされているのかもしれません」

「みゅぅ?」

「里遠ちゃんには少々解り辛い事かもしれないね」

「みゅっ……」


擦り寄ってきて、首を傾げて僕を見ている里遠ちゃんの頭を、

いつものように軽く撫でてあげる。


「おおきなてだよね、おにいちゃん……」

「気持ち良いですか、里遠ちゃん。

 少し、羨ましいと思ってしまう時もあるのですよ?」


巫女さんが笑顔でそう言った。

まあ、先程あった事を考えると仕方ないのだろう。


朝食の件は仕方ないとして、

食事の時間に至るまでの間に色々と謎に迫ってきたのだ。

少しは巫女さんも褒められたいと思っているのだろう。

まあ、その原因が巫女さんの可能性もあるのは……仕方ない。


「ところで、里遠ちゃんは僕の怪我のこと、覚えている?」

「あしのこと?」

「うん、そうだよ」

「みゅぅ……あんまり、おぼえてない」


その返答に、僕と巫女さんは顔を見合わせた。


「まさか……」

「やっぱり、そうなのか」


となると、もしかすると……


「更に聞くけど、どうして僕は昨日怪我をしたのか。

 里遠ちゃんは、覚えているかな?」

「みゅぅ?」


里遠ちゃんは、首を傾げていた。

多分、嘘をついているような感じではない。


「うみゅぅ?

 うーん、なんだろう……」

「どうしたんだい?」

「わかんないの、たいせつなこと。

 きっとそれ、とってもだいじなのにおもいだせないよ……」


里遠ちゃんはうろたえていた。


「里遠ちゃん、まずは落ち着こうか」

「みゅぅ……」


僕はそっと、里遠ちゃんの両肩を掴んで落ち着けさせた。

しかし、自分もまたその事実に動揺しているのは違いない。


巫女さんも、里遠ちゃんも気付いていなかった。

足を痛めた事も、数日間動けなかった事も含めて目の前から一気に薄らぎつつある。

本当にどうなっているのかと、僕の方が問いたかった。


「思い出せない事を無理に思い出す必要は無い。

 だけど、それがあった事を忘れてはいけない」

「そうですね」

「しかし、その思い出せない事を並べていくと、

 その全てが繋がって如何にも妙な形に見えてくるから、尚の事気になる」

「来人さんには、その答えは見えていますか?」

「殆ど見えないに等しいけど、このまま進んだ先にあるのは……」


延々と続かされるために修正されているような気分。

もしそれが思い違いでないのならば、

ここは変化も何も無い世界に戻ろうとしているのだろう。


「三人で居る事、三人で生きる事、その全てが当たり前になっている。

 無論、今でもほぼそれに等しいけど、過去を忘れてしまう。

 重要な事は全て忘れて、同じ瞬間の繰り返しが続く……」

「それがもし本当ならば、

 待ち受けるのはつまらない世界になりますね」

「みゅぅ、つまらないのはいやぁ~」


二人共、そんな世界は嫌なのだろう。

無論、僕も勘弁して欲しいと思っている。


日常は、単なる繰り返しだけではない。

そこに何らかの変化を常に包括しているはずなのだから。


だからこそ……


「時は廻っているのにそれを掴む事は出来ない。

 反対に、無かった事にされてしまいそうになる」


まるで、最初から無かったかのように。

まるで、最初から変わっていないかのように。


「ここは、世界の片隅でひっそりと存在する、

 止まりかけの、忘れ去れた場所なのかもしれない。

 単なる予測ですが、巫女さんはどう思いますか?」


自分で説明しておきながら、何とも形容しがたい。

おまけに、少しばかり極端な事を言っている気がしないでもない。

だが……


「来人さんの表現は、非常に的確ではないかと思います」


巫女さんは僕の言葉を聞いて、納得した顔を見せてくれた。

ただ、そこには今まで見た事の無いような愁いの表情が浮かんでいた。


何か確信を得たのだろうか、それとも何かを思い出したのだろうか。

少しだけ、知りたくなった。


「最初からそう答えるつもり……

 いや、ここまで辿り着くのを待っていたのですか、巫女さんは」


どんな言葉を出せば良いのか解らないのに、

自然に僕の口からはそんな言葉が流れ出ていた。


「その通りです。私はこの瞬間を待っていたのかもしれません。

 来人さんの推測のおかげで、私は大切な事を思い出せそうな気がします」

「そうですか、それは良かった」


正直、こんな適当な予想で前進できるなんて予想外だが……

良い方向に向かっているのならば、喜ぶべきか。


「色々な事を忘れているのはお互い様ですが、私は……

 来人さんよりも記憶が無い事に悩まなければならない立場なのかもしれません」

「なるほど……」


力の無い笑顔を見せ、巫女さんはそう言った。

その姿が、小さく、儚く見えてしまうのは何故だろう。


あるいは、それだけ……

色々な事を忘れてしまった巫女さんがそこに居るのかもしれない。

故に、そこに儚さを見てしまうのだろうか。


「だからこそ、来人さんは私達にとっては希望でもあるのですよ」

「うん、おねえちゃんのいうとおり」

「謎を解く鍵を見つけ、答えを捜し求める存在……か。

 自分では少し信じられないけど、もしその立場に僕が居るのならば、

 今の僕は二人を護るべき立場に居るのかもしれないね。

 それなら、逃げる事は許されない……か」


少しくらいならば独りでも問題ないと思っていたが、

もう、傍観者では居させてなどくれない。


「みゅぅ、おにいちゃんといっしょにいたいよぉ……」


甘えるような声で、里遠ちゃんが懇願してきた。


「いっしょじゃなきゃ、いやだもん」


前よりも格段と甘えん坊になっているであろう里遠ちゃん。

まあ、精神的な年齢はまだ子供……


(ん?)


前より……前より?

僕は、一体何時の頃と比べているんだ?


(思い出せないのにそう思うという事は……)


時間が過ぎている証拠、なのかもしれない。


「里遠ちゃんも、来人さんも……

 色々な事を忘れたとしても、この絆だけは忘れてはいけませんよ?」

「うんっ!」


勝手に盛り上がっている巫女さんと里遠ちゃん。

その横でずっと考えていた僕は返事をし損ねた。


「来人さん、そこは賛同していただかないと……」

「ん、ああ。話はちゃんと聞いている。

 ただ、それはきっと忘れられないと思っているから……」

「それでも、です」

「そうだよぉ~」


二人に迫られ、僕は渋々首を縦に振った。


「おにいちゃんがわすれたら、いちばんだめだよ!」

「ああ、心配ないさ」


元を辿れば、部外者だったとしても。

決して忘れることは無いだろう。


「でも、おにいちゃんは……

 なにか、たいせつなこと、みつけたの?」

「えっ?」


一段落したと思ったら、里遠ちゃんの唐突な一言で、

巫女さんは驚いていた。


「なかなか勘が鋭いね。

 子供だと侮ってはいけない、本当にね」


僕は、それを指摘してくれるのを待っていた。


「里遠ちゃんも、気付いているのだろう?」

「うん」


きっと、里遠ちゃんならそれに気付いてくれると思った。


「わすれるだけじゃ、へんだよね」

「ああ、そういう事だ」

「忘れるだけでは……」


僕と里遠ちゃんがお互いに納得して頷く横で、巫女さんは首を傾げて考えている。


「変、ですよね」


僅かに間を置くと、巫女さんは納得したらしくそう呟いた。

事の重大さに気付いていたのか、体は僅かに震えているみたいだった。


「そうですよね、何で気付かなかったのでしょうか……

 忘れる事ばかりに目を向けて、それ以外の事に目が向いていませんでした」

「都合の悪い事を忘れていく方が、返って都合が悪くなる事もある」

「ええ、そうですね」

「だとすれば、ただ消されているだけではない。

 何らかの方法で強制的に維持しようと修正されている可能性があるね」

「来人さん……

 そこまで、掴んでいたのですか?」

「偶然です。ただ思うがままに考えた結果が、これです」


この言葉に、嘘偽りは無い。

自信を持って答えると、巫女さんの表情が暗くなっていた。


「巫女さん?」

「きっとここは、来人さんの推測の通りの場所。

 私達三人の為だけにある世界と呼ぶべきかもしれません……」

「みゅぅ?」

「事実とは……考えたくないですね」


それならば、常識と非常識の境目が無くなりかねない。だが……


「誰が何の為に作ったのかは判りません。

 そこで私が関わっている可能性も、あります」

「巫女さんは、それを忘れていた……」

「先程の来人さんの言葉で引き出されました」


つまり、そんな機構を持った世界。

常に、都合の良い形へと収めるために改変を続ける。

その中心に居るのは誰かはまだ知らないが、それすらも隠れている。

変化が掴めなかったのは、隠そうという働きがあったからなのだろう。


「来人さんがここに居るのも、既に必然なのでしょう」

「いつの間にか、当たり前になっていたな……」

「いっしょなの……

 ずっと、いっしょなの……」


里遠ちゃんは、離れる事に対して少し恐れを抱いているのかもしれない、

先程から僕の傍を離れてくれようとしないのだ。


「最初は違ったのに、何時の間にそれが正しくなった。

 今はもう、疑念も持たない」

「少し複雑な気持ちです。まるで、私達が一緒に居る事を強制され、

 その上で世界に馴染む為に矯正もされているみたいで……」

「例えそんなものが入っていたとしても、

 僕としてはこの心地よい世界は気に入っている。

 悔しいが、暫くは様子を見るしかないだろう」


それに、僕としては……

一度関わってしまったことなので、そう簡単に見捨てる気は無い。

だからこそ皆で明日を作り、力に影響されない日常を紡ごう……


「おにいちゃん、おねえちゃん……

 いっしょが、いちばんたのしいの」

「一緒である事は義務じゃない、居心地が良いからだ」

「私もそれが自然だと思えるからです」


三人で、納得した。

三人で、答えを出した。


「だから、探そう」

「はいっ」

「うんっ!」


きっとこれが僕達の生きる世界。

そして、隠された謎を解き明かせば、恐らくもっと広がるであろう世界。


三人の世界が、今ここにある事を、

僕達は互いに噛み締めていたのだった。

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