22話 料理はどんな味を持つ
昼下がり、のんびりとした時間の中で……
先日の話で出ていた、何かを探そうと考え続ける僕が居た。
「すぅ……すぅ……」
「ん……」
気持ち良さそうに寝ている里遠ちゃんと、
その隣で眠そうな顔をしている巫女さんを見る。
本当に、静かで何も無い一日がそこにあった。
(一旦、考えるのを止めてみようか……)
そう思った僕は、何か話をしてみようと思ったが……
自分の状況を思い返して、止めた。
(足を怪我してる以上、無理は禁物だ)
そう思っていると、
巫女さんが気付いたらしく、僕の方に近付いて来てくれた。
「足の方は、痛みませんか?」
「大丈夫ですよ、今はあまり痛くないです。
ただ、無理して動くのは止した方が良いかなと……」
そういえば、怪我をしているという事は……
「何か気付きましたか、来人さん?」
「気付いたも何も……
この怪我も、いつかは必ず治りますよね?」
僕は自分の足を指差して、巫女さんに問う。
「当然です。いつかは治りますよ」
微笑みながら巫女さんは答えてくれた。
「それなら、治る過程もある程度解りますよね?」
「ええ、それは当然……ですよね?」
当たり前だと思いながら、巫女さんは話しているが……
「当然ではないかもしれないから聞いてみたんだ。
もしも、これが明日になって唐突に治っていたら絶対に変ですよね」
「そんな事、普通に考えれば無いと思いますよ」
確かに。だけど、本当に聞きたいのは……
「里遠ちゃんはこれまでに、大きな怪我を負った事はありますか?」
「私の覚えている範囲では……
確か、無かったのではと思います」
「という事は、処置が手馴れていたのは練習していたからなのかな」
「そういえば……
自然に、私は手当てをしていましたね」
つまり、最初から日常で必要な知識として知っていたのだ。
「明日もまた、手当てをする機会があるのか……
注意をして見た方がいいですね」
「是非とも、そうしてください」
考えたくは無い事だが、
一つ一つの疑問を潰していけばいつかは見つけられるだろう。
怪我の話をしていたら、一つ気になった事があった。
「僕の足の治療に使った薬の入手先は……」
「これは、境内の裏手にて採取した物になります」
「裏手?
そんな場所があったのか」
僕が立ち入った事の無い場所だ。
「そうです、薬草などが自生している場所があるのです」
「そんな場所があるのか……」
「はい、ですが……
あまり立ち入る機会が無いので、来人さんが知らなくても無理はありませんね」
一度見てみたいと思ったが、この足の状態では無理そうだ。
治ったら、改めて案内してもらって見せてもらおう。
「考えてみれば、私達も擦り傷や切り傷などを受ける事はあるのですが……
些細な事が多いので、あまり覚えていません」
「大きな怪我が無いのは、
むしろ単に幸運だったからだと思う」
「それでも、薬草を使う機会はあったはずです」
「巫女さん、多分それは……
日常的に必要となる事は知識として存在していると考える方が……」
「それならば……
来人さんの怪我の事もいつか忘れてしまうのでしょうか?」
ああ、それは……
確かに、足を挫いた程度の事ならば日常の範囲なのかもしれない。
もっと重症な、骨折や肉離れを起こしたわけではない。
(そう考えると……)
これもまた、一つの謎と答えの関係。
確認して納得できれば、何かが掴めるかもしれない。
「この怪我の事も、遅かれ早かれ忘れるとして……」
「最初から無かった事にはならないでしょう。
ずっと覚えているのではないかと思います」
「そう、願いたいね……」
それは、本当に時間が流れてみないと判らない。
外を見れば、青かった世界が夕焼けの赤い色に変わりつつあった。
「日が暮れていく……か」
「一日は、確実に流れているのですね」
「ああ……」
ここには、間違いなく一日という流れが存在している。
月日という形では感じ取れないが、恐らく見えていないだけなのだろう。
「うみゅぅ……」
「あら?」
「おっと、目を覚ましたのかな」
夕方になって里遠ちゃんが目を覚ましたのだろう。
寝ぼけながら、もたれ掛っている相手の僕よりも先に巫女さんの方を見ている。
「おねえちゃん……ごはん……は?」
「えっ……あっ……」
巫女さんの驚いた表情。
考えにくいが、夕食の事を忘れていたのだろうか。
それとも……
「来人さん、後で少しだけお話があります」
どうやら、もう一つの方だったみたいだ。
「気付いた事がある……という事ですか」
「はい、来人さんはご自身の怪我の件で違和感を覚えていましたが、
私は私で、何か大切な事を思い出せないまま変な気分になっていました」
「それは……一体?」
僕と巫女さんの間に、張り詰めた空気が流れる。
「みゅぅ?」
「里遠ちゃん?」
その間に挟まれ、どうすれば良いのか判らない里遠ちゃん。
「おにいちゃん、おねえちゃん、おやすみぃ……」
可哀想なので助けようと思ったら……
突然そんな事を言い出して狸寝入りを始めた。
「こらこら、起きろっ、寝るなっ」
「起きてください里遠ちゃん。
夕食は今から急いで作りますから……」
とりあえず、僕はその体を出来る限りの範囲で揺さ振り、
巫女さんは里遠ちゃんの肩を突きながら起こそうとするが……
「おはなしおわるまで、ねるぅ……」
里遠ちゃんは、狸寝入りを続けようとしていた。
それを引き剥がしながら……
「駄目だ、とりあえず起きて僕から離れてくれないか」
怪我をした方とは反対側の足にしがみ付いて離れてくれないので、
足が動かせなくて少々不便な状態になっている。
「里遠ちゃん……
来人さんから、離れてくださいっ!」
「みぃうっ!」
巫女さんが突然大きな声で言った。
普段あまり見かけないその光景に、僕は驚いた。
里遠ちゃんも、その白色に負けて僕から飛び退く。
だが、よく考えてみると……
「う~ん、巫女さんのその言い方……
少しばかり問題があるような気がする」
「そ、そうですか?」
膨れっ面をするなんて珍しいが、
そのことを口に出すとそこで文句を言われかねないので自重する。
「あの、来人さん?」
「え?」
膨れっ面のまま巫女さんが僕を見ている。
「変な事、考えていませんでしたか?」
「べ、別に考えてなんかいませんよ」
「顔に出てますっ!」
「お、怒らないでください、全く……」
「もうっ……」
必死に僕は巫女さんの事を宥めようとする僕。
里遠ちゃんの方を向くと……
「これで里遠ちゃんの目も確実に覚めますよね?」
「おねえちゃん、ごめんなさい……」
微妙に泣き顔になっている里遠ちゃんがそこに居たのだった。
直接怒られるよりも、破壊力は高いと思う……
とばっちりを受けたのは少し困るが、仕方ない。
ただ、里遠ちゃんがふとこちらを見た時に、
小悪魔のような笑顔を見せていたのは……
気のせいだとは思いたいが、忘れないで置こう。
ついでに、巫女さんもいつの間にか笑顔になっていた。
先ほどまでの膨れっ面は一体どこに行ったのか。
(どうやら、上手く使われてしまったか)
こういう時は仕返しするに限る。
「巫女さん、一喜一憂はそこまでにしてください。
晩御飯、手早く作った方が良いと思いますが?」
軽く睨みを利かせて僕は巫女さんに警告をしたのだが……
「来人さんが作って頂いても良いと思いますよ?」
「おにいちゃんのつくるごはん?」
「そうですよ、里遠ちゃん。
もしかするととても美味しい物が食べられるかもしれません」
待て、頼むからちょっと待ってくれ……
二人揃って笑顔で僕を見ないでくれ。
というか、何時の間にこんなに劣勢に……
「いや、その前にまず足が治らないと無理だろう……」
「冗談ですよ、安心してください」
正直、全てにおいて冗談に聞こえなかった。
話の勢いに押されてた上に、二人の息がよく合っていて二倍焦った。
「あしいたいのに、むりしちゃだめだよね」
「そうですよ、でも……
来人さんの手料理もいつか食べてみたいとは思っているのですよ」
「ははは……
それは機会があれば、だね」
ただ、思わずこう言ってしまったのだが……
ここにやって来てからは一切調理器具に触っていない。
ついでに、実際に食す事ができる物を作れるかどうかも覚えていない。
「みゅぅ……
おねえちゃん、ねえ?」
「何ですか、里遠ちゃん」
里遠ちゃんが巫女さんの服を引っ張り、何かを訴えかけている。
「もう、よるになっちゃうよ?」
「あら、これはいけませんね」
すっかりと頭の中から抜け落ちていたであろう事を指摘されて、
巫女さんは立ち上がり大慌てで台所へと向かっていった。
(やれやれ、全く……)
それにしても、どうしてここまで料理の話題になってしまったのか。
ふと、側に居た里遠ちゃんを見て、そんな疑問が湧いてきた。
「おにいちゃん……」
「ん?」
「おにいちゃんは、しらないんだよね」
「何を、かな?」
唐突にそんな事を聞かれても、
思い当たる事など何も無い。
「おやさいとか、おにくのあるばしょ……
どこか、わかる?」
「そういえば、知らないな」
食材の保管庫……か。
「薬草が取れる場所も含めて、
僕が知らない場所はまだまだ有るみたいだね」
「おねえちゃんにきけば、おしえてもらえるの~」
「そうだね、何か大変な事が起きた時の為に、
僕も知っておきたい所だね」
そうなると、僕の料理の腕を確かめる事も必要かもしれない。
「治ってからが大変かな。色々とやる事が増えそうだ」
「はやくよくなってね」
「ありがとう」
本当に、治ったら巫女さんに色々と教わろう。
なるべく早く知っておけば、後悔しなくて済むはずだ。
「おにいちゃんのしりたいことは、
おねえちゃんのしりたいことでもあるんだよ」
「えっ……
今、何て言った?」
僕は思わず、里遠ちゃんの顔を見ていた。
思わぬ相手から出てきたその言葉に動揺を隠せなかった。
「おにいちゃんが、みんなはこんできてくれたの」
「僕がここに居るから、現状があるのか」
「あしたもいっしょ、なの。
それでも、おなじじゃないんだよ」
「ふむ……」
一緒だが、同じではない。
(謎掛けのような言葉だな……)
毎日同じ場所、面子、時間の流れもほぼ同じではあるけれど、
今日みたいに僕が怪我をしていたり、
笑顔で談笑しあったり、遊んで見たり……
暦が読めずとも、一日という世界がそこにある。
そして、そこには……
「いっぱい、いっぱいいっしょだよ」
「ああ、一緒だ……」
僕達三人が一緒に居るという、事実がある。
それだけが、揺るぐ事の無い物ではないかと思った。
ふと、料理の話をしていたら思い当たった事があった。
僕は里遠ちゃんの頭を撫でながら、聞いてみる。
「里遠ちゃんはきちんと答えられるかな?」
「おにいちゃん、なに?」
「里遠ちゃんの好きな食べ物は?」
そう、好き嫌いの有無が気になった。
「みゅぅ……
よく、わかんない」
「ふむ、それなら巫女さんの好きな食べ物は?」
「それも、よくわかんない……」
何故かは判らないが、まともな答えが返ってこなかった。
僕が知らない事は多いのは当然で、二人が互いに知らないであろう事もあるだろう。
だけど、明らかに一緒に居れば解るであろう好みが解らない。
「でも、おねえちゃんのりょうりはいつもおいしいよね」
「それは僕も知っているさ」
「おなじなのに?」
「同じ?」
「うん、おなじなの」
何だろうか、この妙な胸騒ぎ。
里遠ちゃんがあえて強調して言った、同じという言葉。
「何がどう、同じなんだろうか……」
「おかず、おんなじものがいっぱい。
おいしいけど、おんなじなの」
「あれ?」
そうだったか?
献立なんて僕はあまり深く考えて食べていない。
それに、毎食巫女さんが作っているからそもそも……
(いや、何か見落としていないか?)
思い出せば、何かが見える気がする。
過去の献立を、頭の中から引っ張り出そうと試みる。
「だから、すきなたべものもわからないの」
「巫女さんの献立が偏っている?
いや、そういうわけじゃないのか?」
覚えている範囲では、ここ数日の献立は……
(殆ど変わり映えがしない?)
確かに変化に乏しく、同じと言っても過言ではない。
「おにいちゃん、わかった?」
「なるほど、侮れないね、全く……」
好意的に考えれば、巫女さんという職業が関係しているのかもしれない。
だけど、これを巫女さんが気付いていたというのなら、
後で僕と話がしたいと言った理由も納得できる。
(それにしても、よく気付いた物だ……)
子供の洞察力、本当に舐めていてはいけない。
身近な物しか見えない分だけ、よりしっかりと見ているのだろう。
「晩御飯、出来ましたよ~」
僕がそのことに感心していると、巫女さんの呼び声が聞こえた。
「早く来ないと冷めてしまいますよ~」
「おいおい……」
「わすれてるよね、おにいちゃんのあしのこと」
「間違いない」
しっかりしているはずなのに、時折思いっきり抜けている。
そんな巫女さんだからこそ、一緒に居て面白いと思えるのだが……
とりあえず、僕は少し時間が掛かるのを覚悟しつつ、食堂へと向かうのだった。
僕が食堂に入ると……
「来人さん……ごめんなさい」
早々に巫女さんは頭を下げた。
どうやら、本当に途中まで素で忘れていたらしい。
「いや、まあ……
いつもの癖だろうしね、仕方ないさ」
「おねえちゃん……」
僕は許していたが、里遠ちゃんは呆れた顔で巫女さんの事を見ていた。
多分それは、僕に対しての扱いについてだけではない。
里遠ちゃんの目線は、料理に向いていた。
「やっぱり、いっしょ」
「えっ……」
「おねえちゃんは……」」
「里遠ちゃん、その件は僕が代わりに伝えよう。
それ以上言ってはいけないよ」
「あうっ……」
僕は里遠ちゃんの頭を軽く突くと……
それ以上何も言わせないように、言葉を被せた。
二人が仲違いしてしまっては意味が無い。
その為の、作戦だ。
「巫女さんの料理、最近似た物ばかりだと感じています。
得意料理だとしても、あまり繰り返すのは不味いのでは?」
「そんなに同じものばかり出しているつもりはありません」
「ということは、食材を活用して……ですか、なるほど」
それならば、似通った献立になるのも不思議は無い。
「文句があるなら食べないでくださいと言う人も居るかもしれませんが、
私としてはそれはあまり良い事ではないと思います。
ですが、料理に関しては文句を言われても変え辛い部分なのです」
「作って頂いている以上、本当にその点では頭が上がりません」
「みゅぅ……」
僕と里遠ちゃんは揃って、巫女さんに対して一礼した。
「ですが……
元々の食材の種類に乏しい以上、後は私の工夫で埋めるしかないのも事実なのです」
「そうなんだぁ……」
本当に、感謝してもしきれない。
そこに文句を言うなんて、罰当たりになりかねない。
「確かに、それは難しいところですね」
「私もまた、似通っている事を気にしていたのです」
それでも、巫女さんは何とかしようと考えている。
その決意を、まずは僕に一言。
「だからこそ、正直な意見を私にいただけますか?」
「了解しました」
続けて、里遠ちゃんに一言。
「私は私で、努力はしてみます」
「おねえちゃん、がんばってね~」
つまり、巫女さんの料理の腕を疑うのは今の所は筋違いという事だ。
ただ、巫女さんはまだ何か不安な事があるのだろうか。
僕の方を見て、何かを言いたそうにしている。
「巫女さん、何か他に言いたい事でも……」
「はい、話は少し変わるのですが……
今の話の延長線上にも位置する件で、疑問が幾つかあります」
「みぅ?」
里遠ちゃんが首を傾げる。
その仕草が妙に可愛らしいが、巫女さんの話はかなり真剣な物になりそうだ。
どんな話が来ても怯まない様に、僕は気を引き締めなおした。
「これだけでは終わらない……
何かがある、と言いたいんですね」
「はい」
「ならば、後でと言わずに今ここで……」
それを早く聞かせて欲しいと思ったが、
巫女さんは首を横に振った。
「来人さん、まずは食事を済ませませんか」
「みゅぅ、そうだよぉ~」
「あ、はい……」
そうだ、食事をすっかり忘れそうになっていた。
とりあえず食べよう。
話はまた、その後から始めれば良い。
食べ終わって、一段落する。
ここに居ても仕方ないので、部屋に戻ることにした。
なるべく無理はしたくないところだが、
部屋の行き来くらいは頑張ろう。
「来人さん、痛いのならば無理はしないでくださいね」
「最低限、動かないといけない事はあります」
「おにいちゃん、しんぱいなの……」
苦労して部屋に戻れば、また退屈な時間がやってくる。
ここからの時間は退屈凌ぎになりそうな物が無いので困ると思っていたが、
一応暫くの間は二人がこの部屋に居てくれるという事になった。
「さて、巫女さん。
先程食堂で話していた事の続きを聞かせてくれませんか?」
「はい、そうですね。
実は、食材庫の方を一緒に見ていただきたかったのですが、
足が治るまではお預けになりました」
「確かに、今の状態で無理をするわけにはいかないか」
まあ、昼間なら……
「ひるまならだいじょうぶ?」
僕が思っていた事を里遠ちゃんが巫女さんに聞いていた。
「駄目では無いかと思います。
昼間でも薄暗い場所ですし、足元もあまりよくありません」
「なるほど、里遠ちゃんが下手に入ると怪我をする場所……だね」
「そういう事です」
「みゅぅ……」
里遠ちゃんは残念そうな顔をしているのだが、
僕の負った怪我よりも酷い怪我をされては困るので仕方ない。
「それで、食材庫を何のために見に行くのかな?」
「それは……
補充した覚えの無い食材が、勝手に入っているのです」
「なっ……何だって?
信じられないから、もう一度お願いします」
何か、信じられないような事を聞いた気がする。
「これまで食材の補充をした覚えはありません。
それこそ、一度も無いと思います。
それなのに気が付くと食材が必ず保管庫に置かれているのです」
「それ、本当なのか?」
「確かめるために、協力していただくつもりでした」
「なるほど」
まあ、流れからすればそうなるか。
ただ、あまりにも不可解な内容だったので理解するのに時間が必要だったが……
「気付いたのは最近の事かな?」
「いえ、今日の話が出てきた中で、
ふと浮かんだので確認してみたところ……」
話……ああ、献立の話だろうか。
思い当たる節が幾つかあるから少し定まらない。
「昨日使い切ったはずの食材が置かれていたとか、
使ったはずの調味料が戻っているとか、
あまり信じたくないような奇怪な事が起きていたとでも?」
「そんなのないよね?」
僕と里遠ちゃんが、信じられないという目つきで巫女さんに迫った。
だが、返ってきた答えは……
「里遠ちゃんも、来人さんも……
残念ですが、おっしゃる通りなのです。
信じられない事かもしれませんが、確かにそんな事が起きているのです」
巫女さんもまた、半信半疑なのだろうか。
断言しているはずなのに、表情で自信が無いと判った。
「普通に聞いていたら信じられないかもしれないが……
今の僕達からすれば、それを信じるだけの根拠はある」
「みゅぅ……」
「巫女さんもそう思うから僕に相談してくれたわけだ」
「はい……」
もう、僕達は既に気付いているのだ。
忘却状態が繰り返されていて、肝心な事に気付けていなかった事に。
だから、今度は行動に移していかなければならない。
「明日の朝改めて確認してみます」
「それが良いと思う。
無論、そのことすら忘れている可能性もある」
「その時は……」
「僕が覚えていれば、教えれば大丈夫」
「そうですね。
悪い予感が当たらなければ、良いのですが……」
「何にせよ全て、明日の朝になれば判る。
今の僕達には、夜明けを待つ以外の選択肢は無い」
「もどかしいよね……」
「ああ……」
里遠ちゃんが少しだけ難しい言葉を使った事に驚く暇が無いほどに、
僕と巫女さんは妙な緊迫感を保って話をしていたのだった。
この変化が揉み消されて明日になってしまったら、
また取っ掛かりから作っていかなければならない。
だが、恐らく期待していた通りの結果はなかなか……
「おにいちゃん、あせっちゃだめだよ」
「あ、ああ……
解っているさ、だけど……」
「里遠ちゃんの言う通りですよ、来人さん。
もしここで何も見つからなくても、
歪みはいずれ、何らかの形で私達の前に現れると思います」
それは、巫女さん流の予言のような物なのだろうか。
今の僕は、それを否定せずに受け入れる方が正しいと思っている。
「今まで色々と積み重ねている分……か」
「これは全員が知った事です。
掻き消せば、反動も出るのではないかと思います」
「まるで、予知みたいな事ばかり……」
巫女さんはきっと、そういう力もあるのだろう。
「いえ、今回は少し予知とは違います。
変化と修正の力の関係性や順序から考えれば、
こちらから変化を続ければいつかは修正の力とぶつかります」
「いつかは、みえる?」
「そうですよ、里遠ちゃん」
「なるほど」
驚いた、まさかこちらから仕掛けるとは……
「流されるだけでは、見出せない!」
「みゅっ!」
「はい、その通りです!」
元気の良い返事が重なり、前に進む勇気のような物が生まれた気がした。
この妙な一体感、知っているかもしれない。
「まあ、それが明日来るかは別問題だが……」
「ええ……」
「げんじつ、だよね」
「仕方ないね」
意気消沈する展開も一致してしまった。
本当にこの妙な一体感、何物なのだろうか……
(正体は解らずとも、心地良い)
思わず、そんな事を思ってしまった。
これもまた、何かの力がそうさせているのだろうか……
考えても仕方ない。
「そうと決まれば、早く寝てしまうに限るな」
よく解らない時は、じっくりと考える。
今日みたいに身動きが取れないときは、不貞寝でもしてしまえ。
少しでも良くなれば、真実に迫れるかもしれないのだから。
「みゅぅ、もうちょっと……」
「お昼寝していたから、寝れませんか?」
「おはなし……して」
「あらあら、仕方ありませんね」
僕の近くで聞こえてくるこのやり取りもまた、妙に心地良い。
しかし、しかしだ……
「出来れば、今日は巫女さんの部屋でお願いします。
久々に考えたい事がありますので……」
「ごめんなさい……
ほら、里遠ちゃん、行きますよ?」
「うみゅぅぅぅぅ……」
同意を求めながらそのまま引っ張られていく里遠ちゃん。
少し、可哀想な事をしてしまったかもしれない。
(とりあえず、早く治ってくれよ……)
そんな事を思いながら、今日は更けていった。
考えようと思っていたら、
そのまま寝入ってしまった事に気付いたのは翌朝だった。




