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神ノ社  作者: 空橋 駆
4章 来人の存在
18/36

18話 不可思議との対峙

その日が、いつやって来たのかは知らない。

ただ、巫女さんの秘密の一面を知った日とはまた、別の日の夜。


(代わり映えの無い、平穏を繰り返す日常……)


星空の輝く夜。

他愛の無い話。


巫女さんと、僕だけで話す夜。


本当に、今日も変わらない会話が続いていた。

何を話していたのか、覚えていないほどにどうでも良い事しか話していなかったはずだ。


(僅かに、曖昧になっている気がする……)


この感覚が、気のせいでなければ良い。

そうすれば、また何かが判る可能性もある。


「さて……そろそろ、戻りますか」

「そうですね……」


何かを気にしているような、そんな顔をしていた巫女さんが居た。


「何か、気になる事でも?」

「い、いえ……」


これは……

巫女さんから切り出してくる可能性は、低いかもしれない。


「戻るのは止めにしましょう。

 もう少しだけ、話をさせてください」


僕がそう話を振ると、巫女さんは……

何故か少し困った顔をしていた。


「いや、えっと、あの……

 申し訳ないのですが、少し考えさせてくれますか?」

「もしかして、頭の中真っ白になりかけてませんか?」

「う……ううっ……」


図星だったみたいだ。

しかし、あまり人の事を言える立場でもない。


(こちらも、予感だけで引き留めたから次をどうやって切り出すべきか困っているわけで……)


話題になる事は山ほどあると思っているのに、

いざ話し合おうとすると出てこない。


先日の話から追いかけていけば、何か……


(この世界の成り立ちとか……)


いや、それを聞いても理解できる自信が無い。


(何かもっと具体的な物があれば良いのだけど……)


何というか、話の取っ掛かりになるような物がこの場所には少ない。

改めて思うが、それだけここが閑静な場所であり、

神社という聖域のような世界であると思わされる。


「うーん……」

「何か、考え事ですか?」

「いや、世界の成り立ちについてとか色々想像して頭の中で整理していました」

「世界の成り立ち……ですか。

 断片的にしか知らないので、結局何も説明できないと思います」

「なるほど……」


やはり、ここを取っ掛かりにするのは難しいか。


(ん……?)


断片的に知っている事は、他にもあるのではないだろうか。

その中の一つでも引き出せれば、手掛かりが見つかるかもしれない。


「巫女さんの記憶は断片的……と先日聞きました」

「はい、繋がれていない点だらけの記憶です」

「もしかして、その点の中には……

 僕に関することも混じっている可能性はありますか?」

「多分、存在していても都合良くは繋がって行かないのではないかと思います」


巫女さんの言う事は間違っていない。

しかし、そこで納得してしまっては何も生まれない。


「それならば、僕がここに居る理由も断片的に知っているなんて事はありませんよね?」

「それを聞いてしまうのですか?」


意地悪な質問かもしれないが、

答えを聞いてみなければ納得できない。


「可能性があるのだから、聞いてみるのが筋かなと」

「本当にそれを、あえて私に聞きますか?」

「僕の想像を超えた範囲で何かを言ってくれると思った。

 それだけで巫女さんに聞くのは、十分でしょう?」

「ううっ……」


言葉に詰まる巫女さん。

答えは二つに一つしかないだろうとは思うのだが……

僕は巫女さんが自分から語りだすのを待った。


「順を追って話さないと伝わらないのですが……

 結論だけを申しますと、来人さんの問いに対する答えは、

 知っている方に属していると思います」

「遠回しなのは、そんな予感だけで……

 前後の繋がりが殆ど見えないからかな?」

「そうです、一つ一つの事柄しか……

 それでも僅かにそんな気がするのです」

「それならば、今紡げる言葉で紡いでほしい」


少し意地悪かもしれないが、聞かねば何も手に入らない。

結論を急かすつもりは無いが……


「来人さんは、ここに時折顔を見せる、

 風のように消えてしまう人々とは違う存在です」


ということは……


「ここ、参拝客来てるのか……」

「最近は見かけませんが、以前は居たのです。

 もちろん、人数は本当に数えられるほどなので、

 秘境なのは今も昔も変わりません」


今の方が秘境の度合いは増している気がする。

まるで閉ざされているかのような印象があるから余計にそう思う。

しかし、それは……


「なるほど……と言いたいのですが、

 それが僕の事とどう関係するのですか?」


聞けば聞くほど、その先が聞きたくなる。

だが、焦ってはいけない。


「そんな人々とは違う、特別な人。

 だからこそ、私達が繋ぎ止められたのかもしれないと考えています」

「ここに居るのは二人だけだったから……

 元を辿ればそこに行き着くと思ったわけだ」

「そうです。互いが互いを意識している中で……

 仲直りしたいという想いが、来人さんをこの場所に引き寄せたのでしょう」


非常に都合の良い考え方ではないのかと思っているが、

そうでもない限り説明がつかないのだからここは納得しておこう。

しかしそうなると僕の存在というのは……


「互いの背中を押せる存在として、

 僕が選ばれたということですか?」

「確証はありません。単なる私の願望かもしれません。

 ですが、願いが形になるのならば……」

「信じられる話ではありませんが、どんな経緯にせよ……」


そう、答えは最初から変わらない。


「何らかの理由で僕はこの場所と関係を持ち、

 二人の間に立って話をしていた経緯を辿ってみれば……」


結論は一つだけ。


「確かに僕は、いつの間にかここに繋ぎとめられていたわけだ」

「色々と、ご迷惑をおかけいたしました」

「いえいえ、別に構いません。

 それよりも、そうなると……」


本当に偶然なのだろうかと、考えたくもなる。


「あえてここは、断言した方がいいかもしれませんが、

 二人の意思が僅かにでも影響しているのならば、

 僕がここに居るのは偶然などではなく必然の事態に変わる……」

「そうです」


つまり、拡大して考えるなら……

ここに姿を現していない僕達以外の誰かが何かを仕組んでいた、

もしくはこの形に収まるように僕達から変化していった……

どちらの可能性も考えられるわけだ。


現に、二人の仲をある程度取り持った現在でも、

未だに僕はここに繋ぎとめられている。

それどころか今は、里遠ちゃんの悪夢を始めとした放置しては置けない物事も多いので、

外に出たいと思う気持ちは最初の頃と比べると極端に薄れている。

その上、力の流れによる制限のような物まで現れつつある……


考えれば考えるほど、大掛かりな話になっていく。

そしてそれがまだ収束を見せようとしていないという事は、

この場所から抜け出せるような状態にはまだ辿り着いていないのだろう。


「巫女さんと里遠ちゃんの二人の仲を取り持つだけで無いとすれば、

 僕は一体どんな事を……」

「それこそ、風の流れがもう少し緩やかな場所で考えていれば、

 自然と浮かんできたり、風に乗って向こうからやってくるかもしれませんよ?」

「何をのんきな事を言っているのですか……」

「それくらいで丁度いいと思うのです」


肩肘張って、真剣に悩んで考えてみたとしても、

状況が変化した先でしか見つけられない答えの方が多いだろうから、

向こうからそれがやってくるのを待ち構える方が正しい……


(なるほど、そう思えば僕は少し考えすぎかもしれないな)


考えすぎなのも、考え物だ。


「果報は寝て待てという言葉が思い浮かびましたよ」

「それに、風に乗ってやってくる物の中に答えになる物が混じっているかもしれません」

「なるほどね……」


冗談だと思いながらも、あながち間違いではないのではと直感が示している気がした。

広い空を見上げながら、考え方を切り替えると思っても見ない物が浮かぶのを体験しているからだ。


「もう一度外に、出てみませんか?」

「はい、私も丁度そう思っていたところです」


思い立ったが行動、僕たちはすぐに動いていた。



僕達は外に出て、再び鳥居の前にやってくる。


「風……

 静かな風が、吹いていますね」

「来人さん……」


優しい風が、僕達の近くを通り過ぎていくのを感じる。

空には相変わらず星が輝いていて、辺りは静かだ。


「先程の話の続きですが……」

「ん?」

「もし、来人さんが風を呼び込んでいるのなら、

 悪い風を呼び込むのだけは止めてくださいね」

「そこまで気に掛けながら、それでも僕をここに繋ぎ止めるのは間違っていませんか?」

「それは言わないでください。

 ですが、私達を優しく包み込んで癒してくれる風を邪険になどしたくはありません。

 本当に、来人さんは意地悪ばかり……」


顔を背けられて、その先は何も教えてくれなくなった。

僕は、少し納得がいかない。


「混乱の元になるのなら、突き放す方が最も安全な方策のはずでは?」

「それは……」

「それよりも大切な事があるから、無茶を承知で動いている。

 もしそうならば、本当に甘いとしか言えない。

 間接的に危険を呼び込んでいるのは巫女さんの方だ」


僕は思わず強い口調で言ってしまった。


「その通りです。

 愚かなのはきっと、私なのです」

「言い過ぎましたか……」

「いいえ、それを言っていただける相手が今まで居なかったのです。

 色々な事を相談できる相手が今まで居なかったのです。

 私はちゃんと見ていなかったのですね、里遠ちゃんの事を」

「巫女さん、あなたって人は……」

「私は……私はっ……」


巫女さんが俯くと同時に……


(何だ……)


風の流れが、変わる瞬間を感じ取った。


「私はっ……どうしてっ……」


先程までの優しい風はどこか遠くに去り、

その力増し始めている……


(巫女さん、このままではっ!)


駄目だ、巫女さんは気付いていない!


先程から妙だと思っていたのだが……

外に向けて強い風が吹き荒れて、それがどんどん強まっている!


「いい加減にしてください!

 今ここで懺悔なんてしていたら……」


咄嗟に身構えて、巫女さんの体を掴む。


「それこそ風に流されて何処か遠くに消されてしまう!」

「あ、ああっ……そんな、ことっ……」


鳥居の側から強い力が掛かっているのを感じる。

流れが完全に、外へ、外へと強まってく。


「人に足元を救われるななんて告げておきながら、

 自分でそれを体現してどうするっ!」

「そう……ですね……

 正気に、戻らないと……いけ……ません……」


巫女さんが零した言葉のか弱さに、僕は焦りを感じた。

こんな状況の中では、長くは持たない。


「来人さん……私を……ここから……離れ……」

「解った……」


実際に引き摺られているような感覚。

この場を支配する風が悪さをしているのを感じる。

巫女さんも抗っているのだが、耐え切れていない……


(抱えていくしか、ないか?)


考えている余裕は無い。行動しなければ。

鳥居の方に吸い寄せられていくような力が……ある。

それに引っ張られる巫女さん……

まるで、これは……


(里遠ちゃんの夢で出た光景は、これなのか?)


何かが頭の中で繋がった気がした。

そして、僕は何所からか力が湧き上がるのを感じた。


(それならば……)


悟れば、行動できる。


(変えてみせる、その結末を)


実体の風とはまた違う、力の流れが作る風。

巫女さんならば説明できそうな存在を、感覚として捉えていたが……


(このままでは、不味い!)


体が自然に動いていく。

無我夢中で行動して、いつの間にか僕は巫女さんを抱えていた。


「ひゃ、ひゃぁっ!」

「へ、変な声を出さないでくれますか」

「だって……」

「謝りますから、今は……」

「わかってますっ!」


これ以上巫女さんを怒らせたくはないので、

とにかく腋の下から腕を通して固定して……


(絶対に……抜け出してみせる!)


全身全霊を籠めた全力の後退りを続ける。


「負けて……たまるかっ!」


形としては短くて、本当に長い時間が過ぎた気がした。


(流石に……疲れた……)


全身に心地よい疲れを感じた瞬間、

鳥居からそこそこ離れた場所にまで進んで居た事に気付いた。


あれほど荒れ狂っていたはずの風は収まり、

辺りは再び静寂の世界に包まれていたのだった。



「ありがとう……ございます。

 何とか、なりました」

「巫女さん……」

「ご迷惑を、お掛け……致しました……

 はぁ……はぁ……」


その場に座り込み、息を切らしていた巫女さんが言った。

僕は僕で、もう何が何だか……


「これは洒落に……なりませんよ……」

「謎……ばかり……です」

「何が起きているのか、巫女さんも……」

「わかり……ません……

 もう、何が、何だか……」


巫女さんが頭を抱えている。

本当に、何がどうなっているのか全く……


「戻った方が……良いのか、この場合」

「そうですね、戻りましょう」


座り込んでいた巫女さんが立ち上がった。


「その状態で……」

「何とかなります」

「そうは見えないが……」

「戻って休めば、平気です」


明らかに辛そうなので、

先程助けた時のように引っ張っていっても……


「来人さん、何か良からぬ事を考えていませんか?」

「い、いえ、別に?」

「そうですか。

 先程助けていただいたので、今回は見逃しましょう」

「はは……

 とりあえず、ありがとうございます」


冗談のつもりだったのに、悟られていた。

まあ、仕方ないか。


まだ僕と巫女さんには少しだけ余裕があったのだろう。

忘れていた事に、気付くまでは、間違いなくあった。


「あ……」

「ん、どうしましたか?」


巫女さんはそれに気付き、歩みを止めた。

その瞬間、僕は僕で引っ掛かる事があった。

気付いたのは恐らく、同時だった。


「来人さん、気付いていますか?」

「確認しないといけない事がありますね、早急に……」



行かねばなるまい。

危険だから、この先は一人で……


「巫女さんは部屋に戻って大人しく寝ていてください。

 僕が行きます」

「はい、ですが……

 心配なので、私も里遠ちゃんの顔を見たいと思います」


なるほど、確かに心配でゆっくり休めないのも困る。

ここは巫女さんを安心させるためにも……


「それなら、僕の部屋で待っていてください」

「はい、それから……

 里遠ちゃんの事、お願いします。

 手に負えない状態になった時は、呼んでください」

「わかった」


最悪の事態が、迫っていた。


(手遅れにさえならなければ、良いのだが……)


一瞬だけ、鳥居と巫女さんの方を振り返る。


謎が謎を呼ぶばかりで、繋がらない。

もし、その全てが繋がった先にあるのは何なのか。


(何処をどう結んでいけばいいのかも判らないのに……)


駒だけを投げられただけでは、答えなど導けない。

駒同士がどう動き結ばれていくかが見えねば、解決などされない。


(厄介だが、繋いでいかなければ……)


この出来事も何かと繋がっているのなら……

いずれ答えに辿り着ける何かに遭遇できるのだろう。


(それまでは、離れる事など出来ない)


もう、鳥居の先にある場所には戻れない。

今起きた出来事は、決意をするのに十分な事件だった。


(まずは、里遠ちゃんの安否からだ……)


現実を知る為に。

仲間を助ける為に。


(仲間……か)


この言葉が、明日に繋がる道を導く。

そんな予感が頭を通り過ぎるのを感じながら……


僕は大急ぎで、神社の中へと入っていった。



「ぐっ……」


社殿の中に入った瞬間から感じるこの妙な重圧。


(これは、予想以上……だな……)


建物の中なのに、風の流れも乱れているような感覚。


(まるで、別世界だ……)


そんな事を思ってしまうほどに、

いつもと変わりの無い場所は、姿を変えずに異様な雰囲気を纏っていた。


(どうなっているんだ、これは……)


すぐに辿り着ける……

そう思っていたのだが、世の中はそんなに甘くなど無かった。


疲れた体に更に圧し掛かるような、力。

纏わりついて離れようとしない、そんな感覚を受け続けて進む。


(里遠ちゃん、大丈夫だろうか……)


心配は尽きない。

何が起きていても不思議ではないのだから。


(既に、何らかの悪い状態に巻き込まれて……)


考えたくは無いが、最悪の事態をどうしても考えてしまう。

それを振り払いながら、正気でいなければと何度も心に渇を入れる。


そして、進んだ先で微かに声が聞こえた。


「う……いやぁ……」


最悪の事態と思っていた状態より……酷いかもしれない。

何か大変な事が起きていると思って、俄然力が入る。


「やだよぉっ、きえないでよおっ!

 うみゃぁぁぁぁぁぁっ!」


里遠ちゃんのいつも使っている部屋に近付く毎に聞こえてくる叫び声。

近付いているはずなのに、その距離が遠く感じているが……

声がはっきりと聞こえてくるのを掴み取れるという事を考えると、

間違いなくそちらに向かって僕は近付いているはず。


(今、助けに行くから……)


悲痛な叫びを聞くごとに、その想い強くなっていく。

だが、それに反するように体の動きが鈍っていく。


「いっちゃ、いやだぁぁぁっ、

 おにいちゃん、おねえちゃん、きえないでぇぇぇっ!」


僕と巫女さんが消える悪夢にでもやられているのだろうか。

一段と強烈な叫び声が聞こえてきた。


(早く……行かなければ。手遅れに、なる前に……)


早足で僕は向かおうとしているのに、足はあまり動いていない。

この雰囲気だけではない、僕は限界に近いのだ。


先程の巫女さんを運んだ時に相当な体力を使っている。

特に足には過大な負荷を掛けていたから、動きが尚の事鈍くなっている。


それでも、諦める事は決して出来ない。

気力だけで前に進もうと試み、現実に前進を続けている。


なのに、辿り着けない。


「いない……よぉ……

 おにいちゃんも、おねえちゃんも……

 ぐすっ……ひっく……」


そもそも、こんな泣き声が聞こえるというのに、

何故それを放って置く事が出来るのだろうか。


(当たり前だ、出来るわけが……ない)


泣いて、縋ってくる子供に声を掛けずに立ち去る選択肢は選ばない。


先日の件でも僕は、助けたいと思ったのだ。

子供が好きだから、そんな理由ではない。

ただ、放っておけないだけ。それだけで理由なんて十分だ。


僕が得体の知れない存在だったとしても、

ただこれだけの理由で全て説明できるじゃないか。


(……ん、あれ?)


急に、足が軽くなった気がした。

まるで心の奥底にある何かが邪魔をしていたかのように、

里遠ちゃんの部屋に向かって、僕の足はまた動き始めた。


それでも、気力が限界にまで達する所まで追い込まれながら……


(やっと、辿り……ついた……)


途中で半分気が狂いそうになりながらも、

何とかその場所へと辿り着く事ができた。


(里遠ちゃん……待っていてくれ……)


言葉にしたつもりなのに、声になっていなかった。

もはや、声を出す気力もあまり残されていないらしい。


ともかく、疲れてどうにもならない体を何とか動かして……

祈るような思いで里遠ちゃんの部屋へと入っていった。


だが……


(ど……こ……だ?)


いつもいるはずの場所に、里遠ちゃんの姿は無かった。


僕は確かに、その近くに近付いていたはず?

悲鳴を上げる体を引き摺り、どうにかして辿り着いていたはずだったのに……


(何処に……居るんだ?)


泣く事に疲れ、恐らく虚ろな目をしているであろう少女の姿が全く見えない。


辺りを見回してみても、それらしい気配が感じられない。

この小さな部屋の何処にも、姿らしき物が見当たらなかった。


声も聞こえなければ、微細な息遣いすらも……感じられない。


あるのは、先程から延々と纏わりついて離れない重苦しい何かと、

誰もいなくなった、明かりの無い静かな部屋だけだった。


「何故だ、どうしてだ?

 何処だ、どこに行ってしまったんだ……

 里遠ちゃん……里遠ちゃん……」


呟かれた言葉が本当に人に届いているのかは知らない。

ただ人に伝えたくて言葉にしているわけでもない。


その呟きは、光の入らない暗い部屋の中へ……

あっという間に飲み込まれてしまったのだった。

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