第9話 世界を動かす最高幹部たちは、一般店員のふりが下手すぎる
ストックの都合上明日の投稿から1日1話に投稿頻度が下がりますご了承ください。
18時~20時頃を予定してます。皆様宜しくお願いします。
世界最大の秘密結社が用意した、俺専用の地下居住区。
その中央に置かれた予定表には、こう書かれていた。
――アレン様、新居入居記念晩餐会。
――午後七時開始。
――宿泊予定者、十一名。
「今日はトーマと買い物に来ただけなんだけどねー」
俺がそう告げると、十人の女性が一斉に沈黙した。
セレス。
ラグナ。
ミコト。
エルシア。
ヴィオラ。
そして、それぞれの側近であるリゼット、カレン、シズク、ノエル、クラリス。
世界最大企業を動かす最高幹部たちが、深刻な表情で顔を見合わせている。
まるで、世界の存亡を左右する問題が発生したかのようだ。
「アレン」
セレスが慎重に口を開いた。
「そのトーマ・ベルクという学生との約束は、変更できないのでしょうか」
「先に一緒に回ろうって約束したからねー」
「私どもとの晩餐よりも?」
「どっちが大事という話じゃないよー」
「では、トーマ・ベルクも晩餐へ招待します」
リゼットが即座に提案した。
「地下本部へ?」
「はい」
「俺の正体がばれるよー」
「入場時から退場時まで目隠しを施します」
「食事ができないんじゃないかなー」
「口元だけ開けます」
「怖すぎるよー」
リゼットは本気だった。
「ならば、我が地上へ行って事情を説明してくる!」
ラグナが拳を握る。
「アレンは今夜から地下本部へ住む! 貴様は一人で帰れ、と!」
「絶対に駄目だよー」
「なぜだ!?」
「友達を脅したら駄目だからねー」
「脅すつもりはない! 丁寧に命令する!」
「それを脅すって言うんだよー」
「では、私が交渉します」
ヴィオラが優雅に足を組む。
「トーマ・ベルクへ、アレンを一晩借りる対価として金貨千枚を――」
「友達をお金で買収しないでねー」
「少ないかしら?」
「金額の問題じゃないよー」
「ならば、彼の実家の商会へ《アウローラ》との独占契約を」
「もっと駄目だねー」
ヴィオラが不思議そうに首を傾げる。
国家間の交渉では無敗らしいが、友人同士の約束は専門外らしい。
「創設者様」
シズクが俺の前へ進み出る。
「トーマ・ベルクは現在、地上中央広場の長椅子へ座っています」
空中に魔法映像が表示される。
荷物を置いたトーマが、開業記念演奏会を見ながら俺を待っていた。
「待機開始から七分四十二秒」
「もう戻らないとねー」
「売店で飲み物を二つ購入しています」
「俺の分も買ってくれたんだねー」
「はい」
トーマは、自分の隣へもう一つの飲み物を置いていた。
「……ご友人との約束を破らないことも、創設者様の理念なのでしょうか」
セレスが静かに尋ねる。
「理念ってほどじゃないよー。待たせたら悪いからねー」
十人の表情が変わった。
なぜか全員が、また感動したように俺を見ている。
「世界の頂点に立たれても、一人のご友人との約束を軽んじない」
クラリスが柔らかく微笑む。
「アレン様らしいお考えでございます」
「普通じゃないかなー」
「普通ではありません」
セレスがはっきりと否定した。
「権力を得た者ほど、自分の都合を優先するものです」
「それは大変だねー」
「他人事ではありません。あなたは世界最大企業の創設者なのですよ」
「今日は普通の学生だからねー」
「……承知しました」
セレスは少し寂しそうにしながらも、頷いた。
「今夜の晩餐会は延期します」
「延期なんだねー」
「中止ではありません」
即答だった。
「アレン様の予定を確認し、改めて開催します」
リゼットが手帳へ記入する。
「今後百八十日間の学院行事と、トーマ・ベルクの予定を取得済みです」
「どうしてトーマの予定まで持ってるのかなー」
「日程調整に必要ですので」
「本人にも聞いてあげてねー」
「検討します」
「聞くとは言わないんだねー」
俺は地上へ戻るため、昇降魔道具へ向かった。
「それじゃあ、またねー」
「お待ちください!」
ノエルが元気よく手を上げる。
「私たちも地上へ行きます!」
「みんなで?」
「せっかくアレン様が施設へ来てくださったのに、地下で待っているだけなんて寂しいです!」
「仕事があるんじゃないかなー」
「開業初日の運営状況を、現場で確認します!」
「それなら仕方ないねー」
「はい!」
ノエルが嬉しそうに両手を上げた。
それを見たリゼットが、静かに告げる。
「最高幹部と側近が同時に地上へ出れば、一般客の注目を集めます」
「変装すればよい!」
ラグナが自信満々に言った。
「我は潜入任務も得意だぞ!」
「閣下が過去に行った潜入任務の成功率は、十一パーセントです」
カレンが指摘する。
「九回に一回は成功しているではないか!」
「誇れる数字ではありません」
「今回は、エルシアが偽装魔法を担当すれば問題ないでしょう」
ミコトが提案する。
「外見と魔力を変更すれば、一般社員として地上へ出られます」
「目的は現場視察です」
セレスが強調する。
「アレンの後をついて回るためではありません」
「もちろんです」
全員が答えた。
目を逸らしながら。
「絶対についてくるよねー」
「偶然、視察場所が重なる可能性はあります」
「十人全員の?」
「開業初日ですので」
便利な言葉だった。
◇
俺が地下百階から地上へ戻ると、トーマは中央広場の長椅子に座っていた。
「遅かったな、アレン!」
「ごめんねー。昇降魔道具が地下まで行っちゃってねー」
「地下?」
「間違えて従業員用の場所に入ったみたいだよー」
「怒られなかったのか?」
「少し施設の説明を受けたくらいかなー」
「十分近くも?」
「広かったからねー」
嘘ではない。
地下本部は、一つの都市に匹敵するほど広かった。
「ほら、飲み物」
「ありがとうー」
トーマから冷たい果実水を受け取る。
「俺の分まで買ってくれたんだねー」
「お前の荷物を見ててもらってるからな。これくらい当然だろ」
「優しいねー」
「急に褒めるなよ。気持ち悪いだろ」
トーマは照れたように顔を逸らした。
俺たちは荷物を持ち、次の目的地である世界料理区画へ向かった。
その少し後ろ。
一般社員の制服を着た十人の女性が、一定の距離を保ちながら歩いていた。
外見は偽装魔法によって変えられている。
髪の色。
瞳の色。
角や翼、獣耳、尾まで隠されている。
魔力も一般社員程度に抑えられていた。
普通の人間が見ても、《アウローラ》最高幹部だとは分からないだろう。
ただし、俺には全員が誰なのか分かった。
「ずいぶん視察の人が多いねー」
「そうか?」
トーマが振り返る。
十人は一斉に別の方向を向いた。
セレスは壁の案内図を確認するふり。
リゼットは通行人数を記録するふり。
ラグナは柱の強度を確かめるふり。
カレンはラグナを止めるふり。
ミコトは新聞を読むふり。
シズクは植木の影へ半分隠れている。
エルシアは魔力灯を観察するふり。
ノエルは店頭の花へ話しかけている。
ヴィオラは高級店の品物を眺めるふり。
クラリスだけが、完璧な笑顔でこちらへ一礼した。
「開業初日だから、社員さんも多いんだろ」
「そうかもしれないねー」
俺は気づかないふりをして歩き続けた。
◇
世界料理区画には、大陸中の料理店が並んでいた。
東方の米料理。
北方の煮込み料理。
砂漠地方の香辛料料理。
海沿いの魚料理。
妖精族が作る花蜜菓子。
竜人族が好む巨大な骨付き肉。
「どれにする?」
トーマが目を輝かせる。
「迷うねー」
「全部食べよう!」
「お腹が壊れるよー」
俺たちが料理店を眺めていると、一人の女性店員が近づいてきた。
赤茶色の髪を肩まで伸ばした、背の高い女性。
外見は変わっている。
だが、歩き方と声量で誰なのか分かった。
「そこの学生!」
ラグナだった。
「肉を食べろ!」
「接客の第一声が命令なんだねー」
「当店の肉料理は、身体を鍛えるのに最適だ!」
ラグナは巨大な骨付き肉を両手で差し出す。
一人前とは思えない大きさだった。
「すごい量だな!」
トーマが喜ぶ。
「これで一人前ですか?」
「当然だ!」
「多すぎないかなー」
「アレンなら、この程度は――」
ラグナの口を、隣から伸びた手が塞いだ。
「こちらは二名様用の盛り合わせです」
青い髪の女性店員へ変装したカレンが、冷静に訂正する。
「閣下――店員が、説明を間違えました」
「店員なのに閣下って呼ばれてなかったか?」
トーマが首を傾げる。
「当店では、責任者を閣下と呼ぶ文化がございます」
カレンは一切動揺せず答えた。
「珍しい店だな」
「国外発祥ですので」
「どこの国ですか?」
「非常に遠い国です」
「名前は?」
「現在、外交上の理由から非公開です」
「料理店の出身国を外交機密にするのか……?」
トーマは疑っていた。
「二人で食べるなら、ちょうどいいかもしれないねー」
俺が骨付き肉を受け取る。
ラグナの表情が一瞬で輝いた。
「よし! もっと持ってくる!」
「閣下」
カレンが低い声で止める。
「二名様用と説明したばかりです」
「では、二つ目の二名様用だ!」
「四人になります」
「我とカレンも一緒に食べればよい!」
「勤務中です」
「休憩にする!」
「勝手に勤務時間を変更しないでください」
カレンはラグナの襟首を掴み、店の奥へ引きずっていった。
「変わった店員さんたちだねー」
「お前、あの二人と知り合いじゃないよな?」
「初めて会ったと思うよー」
「思うって何だよ」
◇
席を探して歩いていると、狐を模した飾りを髪につけた女性社員が声をかけてきた。
「開業記念の記念撮影はいかがですか?」
ミコトだった。
隣には、小柄なシズクもいる。
「無料ですか?」
トーマが尋ねる。
「もちろんです。学生のお二人には、将来の思い出となる一枚をご提供しています」
「撮ろうぜ、アレン!」
「いいよー」
俺たちは並んで立った。
ミコトが撮影用魔道具を構える。
「では、今後もお二人で当施設へ来館されることを約束してください」
「写真を撮るのに約束が必要なのか?」
「記念撮影用の掛け声です」
「変わってるな」
「アレン。今後も来てくださいますね?」
「あー、そうだねー」
「いつ頃でしょう?」
「そのうちかなー」
「具体的な日付を」
「写真を撮るだけじゃなかったのかなー」
ミコトの笑顔が引きつる。
隣でシズクが記録板へ文字を書き込んだ。
「来館約束確保作戦、失敗」
「まだ失敗していません」
「成功率は三パーセントと予測していました」
「撮影前に言わないでください」
「結果は予測どおりです」
「あなたは私の部下ですよね?」
「はい」
「もう少し応援してください!」
「次回に期待しています」
「今してください!」
トーマが俺へ顔を寄せる。
「さっきから変な店員ばかりじゃないか?」
「開業初日で緊張してるんだねー」
「全員、別の方向に緊張してる気がするぞ」
◇
俺たちは料理を持って、窓際の席へ向かった。
途中で、白い制服を着た女性が立っている。
エルシアだ。
隣ではノエルが、小さな花を配っていた。
「本日は、館内温度についてのアンケートを実施しています!」
ノエルが元気よく近づいてくる。
「暑いですか? 寒いですか? それとも私たちと一緒に過ごしたいですか?」
「最後だけ種類が違わないか?」
トーマが突っ込む。
「新しい選択肢です!」
「温度の話じゃないよねー」
「では、アレンさんはどれですか?」
「ちょうどいいかなー」
「一緒に過ごしたい、ですね!」
「選んでないよー」
「ノエル」
エルシアが淡々と呼ぶ。
「結果を改竄してはいけません」
「エルシア様は、どれを選んでほしいですか?」
「一緒に過ごしたい」
「ご自身の希望が漏れています!」
「質問に回答しただけです」
エルシアの周囲だけ、薄い霜が広がっている。
「この店員さん、どこかで見たことがある気がする」
トーマがエルシアを見つめる。
世界最高の魔導研究者として、その顔を新聞で見たのかもしれない。
偽装魔法で外見は変えている。
それでも、雰囲気までは完全に隠せない。
「有名な研究者に似てないか?」
「世の中には似た人がいるからねー」
「さっきから、それで全部済ませようとしてないか?」
「便利な言葉だよー」
◇
ようやく席へ座ろうとしたところで、黒い給仕服を着た二人の女性が現れた。
ヴィオラとクラリスだ。
「お客様」
ヴィオラが大人の余裕を見せる笑みを浮かべる。
「一般席は混雑しておりますので、上階の特別客室をご用意いたしました」
「俺たちは学生ですよ?」
トーマが戸惑う。
「開業記念の抽選へ当選されました」
「抽選した覚えがないんですけど」
「入館証の番号による自動抽選です」
「そうなんですか?」
「はい」
ヴィオラは堂々と言い切った。
背後でクラリスが小声で補足する。
「抽選制度は、三十秒前に導入されました」
「クラリス!」
「事実でございます」
「今、何か聞こえなかったか?」
トーマが尋ねる。
「店員さん同士の確認じゃないかなー」
「特別客室には、大型浴場と宿泊設備もございます」
ヴィオラが俺を見る。
「お食事のあと、そのままお泊まりいただくことも可能です」
「今日は寮に帰るよー」
「偶然、アレンさんの衣服と日用品も用意されています」
「どうして一般客の服があるのかなー」
「標準的な学生用です」
「俺の名前が刺繍されてるように見えるけどねー」
「同姓同名の学生向けです」
「寸法も俺と同じみたいだねー」
「偶然です」
ヴィオラは目を合わせない。
「この施設、偶然が多すぎないか?」
トーマが本気で怪しみ始めていた。
「開業初日だからねー」
「開業初日って、そんな万能な言葉だったか?」
「ところで、一般席が空いたようです」
クラリスが柔らかく微笑み、空席を示した。
「そちらをご利用くださいませ」
「特別客室は?」
「アレン様――」
クラリスの言葉が止まる。
「アレンさんが、ご希望ではないようですので」
「今、様って言いかけませんでした?」
トーマが尋ねる。
「丁寧な接客を心がけておりますので」
「さんから様に変わることあるんですか?」
「気持ちが高ぶった際に」
「接客で?」
「はい」
クラリスの笑顔は完璧だった。
トーマはそれ以上追及できなかった。
◇
俺たちは、ようやく二人で席へ座った。
骨付き肉を分け、買った飲み物を飲む。
「味はどう?」
「うまい!」
トーマは幸せそうに肉へかぶりついている。
「世界本部の料理っていうから緊張してたけど、思ったより気軽に来られるな」
「そうだねー」
「店員は変な人ばかりだけど」
「みんな頑張ってるんだよー」
少し離れた場所。
変装した十人が、壁や柱の陰からこちらを見ている。
こちらに気づかれていないつもりらしい。
「なあ、アレン」
「何かなー」
「お前、《アウローラ》の採用候補なんじゃないか?」
「どうしてー?」
「会長に面談されて、総司令にも指名されて、研究部門からも呼ばれた」
「偶然だよー」
「それに今日、店員全員がお前だけ妙に丁寧だった」
「開業初日だからねー」
「俺も同じ開業初日の客なんだけどな」
もっともな指摘だった。
「世界最大企業が、優秀な学生を早いうちから囲い込むって噂は聞いたことがある」
「俺は優秀じゃないよー」
「最新術式の欠陥を見抜く奴が何を言ってるんだ」
トーマが声を潜める。
「安心しろ。お前が《アウローラ》から勧誘されてることは、誰にも言わない」
「勧誘されてないんだけどねー」
「隠したいんだろ?」
「そういうわけじゃないよー」
「分かってる。普通の学生として過ごしたいんだよな」
トーマが真剣な顔で頷く。
「友達として、俺が守ってやる」
「ありがとうー」
少し勘違いしている。
けれど、本当のことを知られるよりは都合がよかった。
「その代わり、偉くなっても俺のことを忘れるなよ」
「忘れないよー」
「約束だからな」
「うん」
俺が頷く。
その瞬間。
背後から、何かが倒れる音が連続して聞こえた。
振り返る。
変装した十人の女性が、それぞれ別の方法で動揺していた。
セレスは手にしていた資料を落とし。
リゼットは数秒間停止し。
ラグナは柱へ拳をめり込ませ。
カレンは目を閉じて深呼吸し。
ミコトは記録魔道具を握り締め。
シズクの尻尾は大きく膨らみ。
エルシアの足元には氷が広がり。
ノエルは頬を膨らませ。
ヴィオラは持っていたグラスを砕き。
クラリスだけは笑顔を保っていた。
ただし、背後の壁に指の跡がついている。
「どうしたんだ、あの店員たち?」
「忙しくて疲れてるんじゃないかなー」
「全員同時に?」
「開業初日だからねー」
今日ほど、その言葉に助けられた日はなかった。
◇
『緊急最高幹部会議を開始します』
数分後。
地下本部の通信網に、セレスの冷静な声が響いた。
『議題は、トーマ・ベルクへの対応です』
『敵ではないのであろう?』
ラグナが尋ねる。
『現時点では』
セレスの声が低い。
『しかし、アレンから「忘れない」との約束を得ました』
『音声記録は保存済みです』
ミコトが答える。
『私が百年以上かけても得られなかった明確な約束です』
『成功率を再計算します』
シズクが淡々と告げる。
『トーマ・ベルクが我々より先にアレン様の特別な存在となる可能性――』
『計算しなくていい!』
全員の声が重なった。
『ですが、アレンはご友人を大切にされています』
カレンが冷静に意見を述べる。
『排除や妨害は、創設者様の不興を買います』
『分かっています』
セレスが答える。
『トーマ・ベルクは、アレンの平凡な学院生活に必要な人物です』
『では、どうするの?』
ヴィオラが尋ねる。
短い沈黙。
セレスは、世界最大企業の会長として決断した。
『トーマ・ベルクを、正式な保護対象へ指定します』
『警護等級は?』
『最高位です』
『創設者様と同等ですか?』
『それは認めません』
即答だった。
『アレンのご友人として、危険から守ります。ただし、必要以上に二人きりにさせてはいけません』
『矛盾していませんか?』
『していません』
『していると思います』
『リゼット』
『失礼いたしました』
こうして、俺の知らないところで。
トーマは世界最大の秘密結社から、最高級の警護を受けることになった。
理由は、俺の友人だから。
ただし同時に。
最高幹部五人と側近五人から、最重要恋愛警戒対象にも指定されたらしい。
◇
「明日も来ようぜ、アレン!」
食事を終えたトーマが、楽しそうに言った。
「まだ全部の店を見てないからな!」
「いいよー」
「約束だぞ!」
「うん、約束だねー」
その一言が、施設内の極秘通信網へ流れる。
『アレン様、明日もご来館予定!』
『全職員へ通達!』
『本日以上の歓迎体制を!』
『平常心を維持してください!』
『試食部門、明日の品目を三倍へ!』
『飲食部門、全地域の料理を準備!』
『温浴区画、創設者様の好みを再確認!』
『最高幹部、一般店員偽装計画を継続!』
明日も普通に買い物へ来るだけなのに。
世界最大企業は、すでに全社を挙げて準備を始めていた。
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