↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冗談で作った秘密結社が世界最大企業になっていた ~平凡な学生を演じる創設者の俺は、今さら全部作り話だったと言い出せない~  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/67

第65話 十二個目の帰還点を探したら、地図ではなく俺自身が光っていました

《帰還条件――成立済》


《帰還者アウローラ》


《帰還処理を再開します》


そして世界中に存在する十一個の帰還点とは別の場所で、十二個目の反応が灯った。


全員の視線が世界地図へ集まる。


俺も身を乗り出した。


第一から第十一までの帰還点は、それぞれ位置が固定されている。現在では十か所が《アウローラ》の主要施設となり、第十一だけが《最初の家》の地下に眠っている。


ところが、新たに現れた十二個目だけは違った。


光点がない。


代わりに地図の端へ、


《第十二帰還座標――算出中》


と表示されている。


「十二番も昔からあったの?」


俺がユノアへ尋ねると、彼女は勢いよく首を横へ振った。


「ない」


「絶対?」


「絶対。帰還点は十一個。そこは間違えない」


何千年もの時間差があるとはいえ、ユノアは実際にこの帰還網を使った側だ。少なくとも彼女の時代には十二番目など存在しなかったらしい。


エルシアがすぐ解析へ入る。


「そもそも表示が《第十二帰還点》ではありません」


「違うの?」


「はい。《第十二帰還座標》です」


トーマが眉間に皺を寄せた。


「似たようなもんじゃないのか?」


「まったく違います。帰還点は固定施設ですが、座標なら必ずしも施設である必要はありません」


エルシアが古代帰還網の情報を分解していく。


《固定帰還点――十一》


《臨時帰還座標――一》


そこまで表示されたところで、俺も何となく嫌な予感がした。


「臨時?」


「はい」


「どこ?」


「今計算しています」


数字が高速で変化している。


緯度らしき値。


経度らしき値。


標高。


魔力位相。


空間位置。


ようやく数値が止まった。


北方歴史学院の教授が現在地図へ重ねる。


光点が一つ現れた。


「……ここですね」


トーマが地図を見る。


「ここって、どこだ?」


「この建物です」


全員が黙った。


俺たちが今いる調査室。


北方歴史学院が用意した滞在施設。


十二個目の帰還反応は、この建物から出ている。


ラグナが立ち上がった。


「地下か?」


「待って」


エルシアが制止する。


「座標が動いています」


地図の光点が、ほんの少し横へずれた。


数十センチ程度。


そしてまた動く。


トーマが不思議そうに地図と部屋を見比べる。


「地震じゃないよな?」


「建物側に移動はありません」


「じゃあ何が動いて――」


そこで俺は椅子から立った。


地図の光点も動いた。


全員が俺を見る。


俺は試しに右へ二歩歩く。


光点も右へ動く。


左へ戻る。


戻った。


「……俺?」


誰も答えない。


もう一度歩いてみる。


十二個目の反応も付いてくる。


ラグナが腕を組み、大きく頷いた。


「首領が十二番目であるな!」


「嬉しくないねー」


トーマは両手で顔を覆った。


「とうとう人間やめて施設になったのか、お前」


「まだ人間だよ」


「世界最大企業を作っただけじゃ飽き足らず、今度は自分が支店になるのか?」


「支店じゃないって」


「なら何なんだよ!」


俺も知りたい。


エルシアが古代語の原文を確認し、しばらくして小さく息を吐いた。


「分かりました」


「何?」


「これは帰還点ではありません。《生体帰還標》に近いものです」


聞き覚えがあるような、ないような言葉だ。


「人間を帰還先にできるの?」


「正確には、その人間がいる場所を臨時の帰還先として設定します」


ユノアが映像の向こうから驚いた顔をした。


「そんなの、まだ残ってたの?」


「知ってる?」


「昔あった。でも滅多に使わない」


「危ないから?」


「それもある」


ユノアは少し考えながら説明した。


「普通は家へ帰るでしょ? 町とか、帰還点とか。でも、場所が決められない時がある」


「例えば?」


「逃げてる途中で離れた家族」


なるほど。


どこへ逃げたか分からない。


でもその人のところへ戻りたい。


そういう時。


特定の建物や土地ではなく、人そのものを帰還先として指定する。


「ただ、条件がすごく厳しかったはず」


「どうして?」


「人は動くから」


それは見れば分かる。


俺が椅子へ戻ると、地図上の十二個目も一緒に移動した。


さらに。


人が死ぬこともある。


帰還を拒否することもある。


危険な場所にいる場合もある。


固定施設よりずっと不安定だ。


だから緊急時以外には使わない。


「アウローラは俺を帰還先にしてた」


「はい」


エルシアが記録を表示する。


《帰還補助者――アウローラ》


《帰還状態――未完了》


《帰還先――アレン・クロフォード》


《帰還条件――アレン・クロフォードが帰る場所を得ること》


俺自身が帰る場所を持つ。


それが彼女の帰還条件だった。


そして四百年前。


俺が十人と《最初の家》を作った時点で、その条件自体は成立していた。


「でも何で四百年前に帰ってこなかったの?」


俺が尋ねる。


そこが一番不思議だ。


条件はもう満たされていた。


俺もその後、しばらくは十人と暮らしていた。


帰還処理をする時間はいくらでもあったはずだ。


エルシアが関連情報を確認する。


答えは、意外と単純だった。


《帰還条件一――帰還先成立》


《達成》


《帰還条件二――帰還網完全接続》


《未達成》


「二つあったんだ」


「はい」


古代帰還網は長い間壊れていた。


第一から第十の帰還点も、現在まで完全な形では接続されていなかったらしい。


第十一帰還点も地下で眠っていた。


そのため。


俺が四百年前に《帰る場所》を得ても、アウローラ側から帰還経路を作ることができなかった。


そして今。


俺が《最初の家》へ戻った。


十一個の帰還点が再接続した。


世界帰還網が復旧した。


二つ目の条件まで揃った。


「それで今なんだ」


「そのようです」


妙に納得してしまった。


世界規模の古代装置が四百年間止まっていた理由としては、かなりまともだ。


トーマが俺を横目で見る。


「お前絡みなのに、珍しく筋が通ってるな」


「普段も通ってるよ?」


「通った結果が世界最大企業なんだろ」


それは結果論だと思う。


問題はここからだった。


帰還条件が揃った。


帰還経路も作れる。


つまり。


アウローラをこちらへ帰そうと思えば、帰せる可能性が高い。


十人が微妙な表情で俺を見ている。


特にラグナ。


「首領」


「何?」


「どうする?」


「どうするって?」


「帰還先が貴様なのであろう?」


「そうみたい」


「女であろう?」


「それもまだ確定じゃないよ」


俺の記憶に残っている人影は、長い髪の細い人物だった。


声も女性に近かった気がする。


ただ、古代帰還網側の記録には性別情報がない。


ラグナが腕を組んだ。


「ならば帰還するまで分からぬな」


ミコトがぽつり。


「増える?」


「何が?」


「争奪戦」


「そこ心配してたの?」


シズクまで考え込んでいる。


「四百年前より前。強い」


「何が?」


「先住権」


「そんな制度ないよ?」


カレンが額を押さえた。


「今はそこではありません」


「我には重要だ!」


「重要ではありません!」


いつもの空気が少し戻る。


俺としてはありがたい。


何千年も前の謎ばかり考えていると、頭がおかしくなりそうだ。


セレスは何も言っていなかった。


ただ画面を見ている。


俺は横から顔を覗く。


「気になる?」


「当然です」


「恋愛的な意味で?」


「アレン」


「はい」


「今は調査中です」


どうやら聞くタイミングを間違えた。


でも好意に気づいている以上、完全に無視するのも違うと思う。


「帰ってきても、いきなりどこか行ったりしないよ」


「……分かっています」


少し間があって。


「それに、相手がどなたであっても、まず安全確認です」


「うん」


そこは俺も同じだった。


名前が《アウローラ》。


俺の記憶にいる存在。


帰還先として俺を指定している。


それだけで扉を開けてはいけない。


俺たちはついさっきまで、


名前。


声。


顔。


記憶。


それら全部を真似する何かと戦っていた。


懐かしいから本物。


なんて判断だけはできない。


「本人確認できる?」


俺が聞く。


エルシアがすぐ調べる。


「帰還経路を開かずに確認可能な情報があります」


《帰還対象・基礎識別》


《魂魄識別情報――保存済》


《自己連続性――確認可能》


俺の過去記録を調べた時にも出てきた項目だ。


これなら。


昔、俺を帰還させた存在と。


今帰ろうとしている存在が。


少なくとも同一個体かどうかは判定できる。


「やってみよう」


「承知しました」


ただし帰還経路は開かない。


情報照会だけ。


エルシアが何度も安全確認を行ってから実行する。


《帰還者アウローラへ識別照会》


十秒。


二十秒。


やがて返答。


《魂魄識別――一致》


《自己連続性――一致》


《初回帰還補助者との同一性――確認》


本物。


少なくとも古代帰還網の判定上は。


昔。


俺をどこかからこの世界へ帰した存在と。


今帰還を待っている存在は同じだ。


「……一歩進んだね」


それでも扉は開かない。


トーマが俺を見る。


「開けないのか?」


「まだ」


「意外だな」


「最近評価低くない?」


「昔のお前なら?」


十人が俺を見る。


「……たぶん開けてる」


「だろ?」


認めざるを得ない。


「通信だけできない?」


俺が尋ねる。


ユノアが少し緊張した顔になる。


《黎明喰らい》との一件があるからだろう。


エルシアも慎重に確認した。


「帰還経路とは別に、照会用の単方向情報路があります。文字情報だけなら送受信できます」


「それでいこう」


「何と送ります?」


聞きたいことはいくらでもある。


誰なのか。


俺とはどういう関係だったのか。


どこにいるのか。


俺は昔どこへ行っていたのか。


なぜ記憶がないのか。


でも。


最初から全部聞く必要はない。


少し考えて。


「《そっちは大丈夫?》」


トーマが俺を見る。


「第一声それなのか?」


「長い間帰れてないんでしょ?」


「まあ……そうだけど」


送信。


返事はなかなか来なかった。


一分。


二分。


古代帰還網が長い距離を越えているのか。


相手が言葉を考えているのか。


三分近く経って。


文字が現れた。


《大丈夫》


短い。


続けて。


《あなたは?》


俺は少し笑った。


「大丈夫だよー」


「そのまま送るのですか?」


セレスが聞く。


「俺っぽいでしょ?」


「非常に」


エルシアが送る。


《大丈夫だよー》


十数秒。


返事。


《その話し方》


さらに。


《変わってない》


十人が俺を見る。


トーマまで見る。


「何?」


「本当に昔からなんだなと思って」


「みたいだねー」


返事が来た。


《それも》


俺は思わず笑った。


少なくとも会話はできそうだ。


「本人しか知らないこと聞いたほうがいいかな」


「記憶がないお前に確認できるのか?」


トーマの指摘は正しい。


俺が覚えていない秘密を答えられても、検証できない。


逆に。


俺が現在覚えている出来事は、何らかの方法で情報を取られている可能性もある。


本人確認は古代帰還網の照合へ任せたほうがいい。


だから別のことを聞く。


《何で俺を帰還先にしたの?》


返事まで少し時間があった。


《約束したから》


「約束?」


記憶にない。


続き。


《あなたが先に帰る》


《帰る場所を見つける》


《見つけたら、私もそこへ帰る》


調査室が静かになる。


俺を先に帰した。


アウローラは向こう側へ残った。


そして。


俺がこの世界で帰る場所を見つけるのを待っていた。


「俺、何で先に帰ったの?」


送信する。


今度はすぐ返ってきた。


《あなたが言った》


《一人なら帰れる》


《二人では経路が持たない》


頭の奥が少し痛んだ。


暗い場所。


何も見えない。


誰かと話している。


――一人ならいける。


そんな言葉。


俺が言った気がする。


次の文字。


《私は残ると言った》


《あなたが怒った》


「俺が?」


《すごく怒った》


トーマが笑いそうになる。


「想像つかないな」


「俺だって怒る時あるよ」


ラグナが腕を組む。


「我らが知る首領は、他人が犠牲になると言えばかなり怒るぞ」


「そう?」


十人が頷く。


そこは今も変わっていないらしい。


続き。


《だから順番を決めた》


《あなたが先》


《私があと》


《帰った側が道を作る》


俺は画面を見る。


「……作れてないね」


四百年以上。


完全に忘れていた。


秘密基地なんか作って遊んでいた。


帰還網のことも。


アウローラのことも。


全部。


《ごめん》


送ろうとすると、セレスが俺の手を止めた。


「待ってください」


「何?」


「それは、本当にアレンが謝ることですか?」


「だって忘れてたし」


「なぜ忘れていたのか分かっていません」


確かに。


意図的に捨てた記憶なのか。


事故なのか。


帰還の代償なのか。


何も分からない。


トーマも頷く。


「少なくとも事情聞いてから謝れ」


「そうだねー」


代わりに。


《遅くなった》


と送った。


返事。


《うん》


少し間。


《すごく》


ラグナが笑った。


「四百年以上であるからな!」


「笑うところ?」


《でも》


文字が続く。


《待ったのは私が決めた》


さらに。


《あなたのせいにするつもりはない》


セレスがその文章をじっと見ていた。


少しだけ。


表情が柔らかくなった気がする。


俺も安心した。


どんな相手なのかまだ分からない。


でも。


少なくとも。


「俺が忘れてたから四百年怒ってました」


みたいな第一声ではなかった。


「帰還させてもいいと思う?」


俺が尋ねる。


当然。


自分一人で決めるつもりはない。


セレスが答える。


「本人照合は通っています」


カレン。


「帰還経路を開く前に、災厄追跡の有無を確認すべきです」


エルシア。


「同意します。アウローラ本人が安全でも、経路を追われる可能性があります」


ユノアも強く頷いた。


「絶対調べたほうがいい」


「じゃあ聞こう」


《そっちに、帰還経路を追ってくるものはいる?》


返事はすぐに来なかった。


少し嫌な沈黙。


やがて。


《いる》


全員の顔から表情が消えた。


やっぱり。


俺は画面を見つめる。


続く。


《だから今すぐ開けないで》


《帰れるようになったことだけで十分》


少しして。


《先に、十人を帰して》


ユノアが立ち上がった。


「十人?」


第一から第十帰還点。


本来割り当てられている十人。


ユノアは、そのうち一人。


残り九人がまだ向こう側にいる。


「知ってるの?」


俺が送る。


《知ってる》


返事。


《私が送り出したから》


ユノアが持っていたカップを落としかけた。


「……え?」


彼女の顔色が変わる。


「アウローラ?」


映像の向こうから、翻訳を待たず古代語で何かを言う。


その言葉を俺だけが理解できた。


「《黎明管理官アウローラ》……?」


ユノアが俺を見る。


「その名前を、どうして?」


「今、君が言ったから」


「違う」


彼女は首を振る。


「アウローラって音じゃない」


ユノアが使ったのは古代語。


意味は。


《夜が終わったことを確認する者》。


あるいは。


《帰還者が朝へ着いたことを見届ける者》。


俺が昔。


長すぎるその呼び名を面倒がって。


勝手に《アウローラ》と呼んでいた可能性が、急に高くなった。


「ユノアは知ってる人?」


「私たちは全員知ってる」


彼女は信じられないものを見る顔で、俺の画面の向こう――まだ姿すら映っていない帰還者を見つめる。


「帰還点を管理してた人」


「十一個全部?」


「違う」


ユノアの声が震える。


「帰還点じゃない」


「じゃあ何を?」


彼女は答えた。


「外から帰ってくる人を」


つまり。


施設管理者ではない。


帰還そのものを管理していた。


「じゃあ、古代帰還網を作った人?」


「分からない。でも、ずっといた」


「どれくらい?」


ユノアは首を横へ振った。


「私が生まれる前から」


何千年前かも分からない時代。


さらにその前から。


《アウローラ》は帰還者を送り返す側にいた。


そして最後。


災厄が現れた時。


十人をそれぞれ第一から第十へ逃がし。


俺を。


この世界そのものへ先に帰した。


自分だけが外側へ残った。


「……それで俺を帰還先にした?」


通信で尋ねる。


少しして。


《違う》


否定された。


《役目としてなら》


《帰還点を指定した》


《あなたを指定したのは》


そこで一度止まる。


十人の視線が妙に強くなった。


俺も嫌な予感がする。


《私がそうしたかったから》


ラグナが机へ両手をついた。


「やはり女ではないか!」


「そこ!?」


「重要である!」


「まだ性別確定してないって!」


ユノアが不思議そうに俺たちを見てから答えた。


「女の人だよ?」


終わった。


ラグナが大きく頷く。


ミコトがぽつり。


「十一人目」


「だから増やさないで」


セレスは笑っている。


笑っているのだが。


ちょっとだけ怖い。


「セレス?」


「何でしょう?」


「怒ってる?」


「いいえ?」


笑顔だ。


「では、安全確認を続けましょう」


「はい」


ここは逆らわないほうがいい気がする。


トーマが俺の肩を叩いた。


「頑張れ」


「何を?」


「知らん」


それから俺たちは、アウローラと最低限の情報交換を続けた。


帰還経路は開かない。


画像も送らない。


音声も使わない。


文字だけ。


分かったことは少ない。


アウローラ自身は無事。


向こう側の時間では、俺と別れてからそれほど長い時間は経っていないらしい。


正確な期間は彼女自身にも測れない。


《黎明喰らい》に相当する存在は、今も向こう側にいる。


リーネが閉じ込めているものと同一なのかは不明。


そして。


帰還を待つ残り九人は生存している可能性が高い。


「だったら順番は決まったね」


俺が言う。


まず。


第一から第十。


本来の帰還者を一人ずつ、安全確認しながら帰す。


同時に《帰還案件・零号》のリーネを救う方法を探す。


アウローラは最後。


追跡されない方法ができてから。


《それでいい?》


と送る。


返事。


《うん》


続けて。


《昔もそうだった》


「何が?」


《あなたはいつも、自分を最後にした》


俺は少し黙った。


十人も画面を見る。


《だから私は》


《あなたを先に帰した》


《そうしないと、絶対に帰らなかったから》


トーマが噴き出した。


ラグナも笑う。


カレンは額へ手を当てた。


ミコトは、


「昔から」


と呟いた。


俺としては納得いかない。


「そんなに?」


十人が全員頷いた。


通信の向こうからも。


《うん》


と届いた。


四百年前どころではないらしい。


俺が何でも自分だけで抱え込む癖は。


思っていたよりずっと昔からだった。


「じゃあ今は違うって教えないとねー」


俺は送った。


《今回はみんなでやるよ》


少し長い間があった。


返事。


《みんな?》


《あなた一人じゃなくて?》


《うん》


俺は十人を見る。


トーマを見る。


映像の向こうにいるユノア。


北方歴史学院の教授。


世界中で待機している《アウローラ》の職員たち。


四百年前の俺には想像もできなかったくらい。


大勢いる。


《今は頼れる人いっぱいいるから》


送信。


今度の返事は。


かなり長く来なかった。


一分。


二分。


エルシアが通信異常を確認する。


問題はない。


三分近くして。


ようやく文字が一つ現れた。


《そっか》


次。


《作れたんだ》


そして。


《帰る場所》


俺は自然と笑った。


「うん」


声へ出してから。


文字でも送った。


《作れたよ》


四百年前。


秘密基地として。


冗談半分で始めた場所。


それが今では。


世界中へ広がっている。


最初から何かに選ばれた組織だったわけじゃない。


古代文明に命令されたわけでもない。


俺たちが勝手に始め。


勝手に人を助け。


勝手に大きくした。


でも。


結果として。


何千年も帰れなかった人たちまで迎えられる場所になった。


《アウローラ》から最後に返事が来る。


《じゃあ》


《私も帰れるね》


その一文を見た時。


十二個目の反応が一度だけ強く光った。


ただし、帰還経路は開かなかった。


俺たちの承認を待っている。


勝手に入ってこない。


俺の名前を使わない。


俺たちの記録を利用して、無理やり家へしない。


それだけでも。


第十一帰還点へ入り込もうとしていた《何か》との違いは十分だった。


「今日はここまでにしよう」


俺が言うと、誰も反対しなかった。


アウローラにも送る。


《また話そう》


返事。


《うん》


そしてもう一つ。


《アレン》


《何?》


少し間が空いた。


《十人も、ちゃんといる?》


俺は画面を見た。


「……十人を知ってる?」


セレスたちも反応する。


四百年前より前に外側へ残ったはずのアウローラ。


十人とは会ったことがないはずだ。


俺が十人を助けたのは、もっと後。


俺が《最初の家》を作る直前まで。


アウローラは帰還できなかった。


なのに。


《いるよ》


そう送る。


返事はすぐに来た。


《よかった》


続けて。


《今度は、ちゃんと十一人で帰って》


俺は眉を寄せた。


「今度は?」


十人も同じ疑問を持ったらしい。


俺が送るより先に。


アウローラから最後の文章が届いた。


《前は》


《あなた一人しか帰せなかったから》


調査室の空気が止まった。


前。


それは。


俺がこの世界へ最初に帰還した時のことではない。


文章の意味が違う。


《前は、あなた一人しか》


つまり。


あの時。


本当は。


俺以外にも一緒に帰るはずだった誰かがいた。


さらに文字が続く。


《今度こそ》


《十一人全員を》


《外に残さないで》


俺は画面を見たまま動けなかった。


現在。


俺と一緒にいる十人。


そして何千年前。


帰還点へ割り当てられた十人。


同じ数字。


偶然だと思っていた。


けれど。


アウローラは最初から。


**「十一人」**


という人数を知っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。