第65話 十二個目の帰還点を探したら、地図ではなく俺自身が光っていました
《帰還条件――成立済》
《帰還者アウローラ》
《帰還処理を再開します》
そして世界中に存在する十一個の帰還点とは別の場所で、十二個目の反応が灯った。
全員の視線が世界地図へ集まる。
俺も身を乗り出した。
第一から第十一までの帰還点は、それぞれ位置が固定されている。現在では十か所が《アウローラ》の主要施設となり、第十一だけが《最初の家》の地下に眠っている。
ところが、新たに現れた十二個目だけは違った。
光点がない。
代わりに地図の端へ、
《第十二帰還座標――算出中》
と表示されている。
「十二番も昔からあったの?」
俺がユノアへ尋ねると、彼女は勢いよく首を横へ振った。
「ない」
「絶対?」
「絶対。帰還点は十一個。そこは間違えない」
何千年もの時間差があるとはいえ、ユノアは実際にこの帰還網を使った側だ。少なくとも彼女の時代には十二番目など存在しなかったらしい。
エルシアがすぐ解析へ入る。
「そもそも表示が《第十二帰還点》ではありません」
「違うの?」
「はい。《第十二帰還座標》です」
トーマが眉間に皺を寄せた。
「似たようなもんじゃないのか?」
「まったく違います。帰還点は固定施設ですが、座標なら必ずしも施設である必要はありません」
エルシアが古代帰還網の情報を分解していく。
《固定帰還点――十一》
《臨時帰還座標――一》
そこまで表示されたところで、俺も何となく嫌な予感がした。
「臨時?」
「はい」
「どこ?」
「今計算しています」
数字が高速で変化している。
緯度らしき値。
経度らしき値。
標高。
魔力位相。
空間位置。
ようやく数値が止まった。
北方歴史学院の教授が現在地図へ重ねる。
光点が一つ現れた。
「……ここですね」
トーマが地図を見る。
「ここって、どこだ?」
「この建物です」
全員が黙った。
俺たちが今いる調査室。
北方歴史学院が用意した滞在施設。
十二個目の帰還反応は、この建物から出ている。
ラグナが立ち上がった。
「地下か?」
「待って」
エルシアが制止する。
「座標が動いています」
地図の光点が、ほんの少し横へずれた。
数十センチ程度。
そしてまた動く。
トーマが不思議そうに地図と部屋を見比べる。
「地震じゃないよな?」
「建物側に移動はありません」
「じゃあ何が動いて――」
そこで俺は椅子から立った。
地図の光点も動いた。
全員が俺を見る。
俺は試しに右へ二歩歩く。
光点も右へ動く。
左へ戻る。
戻った。
「……俺?」
誰も答えない。
もう一度歩いてみる。
十二個目の反応も付いてくる。
ラグナが腕を組み、大きく頷いた。
「首領が十二番目であるな!」
「嬉しくないねー」
トーマは両手で顔を覆った。
「とうとう人間やめて施設になったのか、お前」
「まだ人間だよ」
「世界最大企業を作っただけじゃ飽き足らず、今度は自分が支店になるのか?」
「支店じゃないって」
「なら何なんだよ!」
俺も知りたい。
エルシアが古代語の原文を確認し、しばらくして小さく息を吐いた。
「分かりました」
「何?」
「これは帰還点ではありません。《生体帰還標》に近いものです」
聞き覚えがあるような、ないような言葉だ。
「人間を帰還先にできるの?」
「正確には、その人間がいる場所を臨時の帰還先として設定します」
ユノアが映像の向こうから驚いた顔をした。
「そんなの、まだ残ってたの?」
「知ってる?」
「昔あった。でも滅多に使わない」
「危ないから?」
「それもある」
ユノアは少し考えながら説明した。
「普通は家へ帰るでしょ? 町とか、帰還点とか。でも、場所が決められない時がある」
「例えば?」
「逃げてる途中で離れた家族」
なるほど。
どこへ逃げたか分からない。
でもその人のところへ戻りたい。
そういう時。
特定の建物や土地ではなく、人そのものを帰還先として指定する。
「ただ、条件がすごく厳しかったはず」
「どうして?」
「人は動くから」
それは見れば分かる。
俺が椅子へ戻ると、地図上の十二個目も一緒に移動した。
さらに。
人が死ぬこともある。
帰還を拒否することもある。
危険な場所にいる場合もある。
固定施設よりずっと不安定だ。
だから緊急時以外には使わない。
「アウローラは俺を帰還先にしてた」
「はい」
エルシアが記録を表示する。
《帰還補助者――アウローラ》
《帰還状態――未完了》
《帰還先――アレン・クロフォード》
《帰還条件――アレン・クロフォードが帰る場所を得ること》
俺自身が帰る場所を持つ。
それが彼女の帰還条件だった。
そして四百年前。
俺が十人と《最初の家》を作った時点で、その条件自体は成立していた。
「でも何で四百年前に帰ってこなかったの?」
俺が尋ねる。
そこが一番不思議だ。
条件はもう満たされていた。
俺もその後、しばらくは十人と暮らしていた。
帰還処理をする時間はいくらでもあったはずだ。
エルシアが関連情報を確認する。
答えは、意外と単純だった。
《帰還条件一――帰還先成立》
《達成》
《帰還条件二――帰還網完全接続》
《未達成》
「二つあったんだ」
「はい」
古代帰還網は長い間壊れていた。
第一から第十の帰還点も、現在まで完全な形では接続されていなかったらしい。
第十一帰還点も地下で眠っていた。
そのため。
俺が四百年前に《帰る場所》を得ても、アウローラ側から帰還経路を作ることができなかった。
そして今。
俺が《最初の家》へ戻った。
十一個の帰還点が再接続した。
世界帰還網が復旧した。
二つ目の条件まで揃った。
「それで今なんだ」
「そのようです」
妙に納得してしまった。
世界規模の古代装置が四百年間止まっていた理由としては、かなりまともだ。
トーマが俺を横目で見る。
「お前絡みなのに、珍しく筋が通ってるな」
「普段も通ってるよ?」
「通った結果が世界最大企業なんだろ」
それは結果論だと思う。
問題はここからだった。
帰還条件が揃った。
帰還経路も作れる。
つまり。
アウローラをこちらへ帰そうと思えば、帰せる可能性が高い。
十人が微妙な表情で俺を見ている。
特にラグナ。
「首領」
「何?」
「どうする?」
「どうするって?」
「帰還先が貴様なのであろう?」
「そうみたい」
「女であろう?」
「それもまだ確定じゃないよ」
俺の記憶に残っている人影は、長い髪の細い人物だった。
声も女性に近かった気がする。
ただ、古代帰還網側の記録には性別情報がない。
ラグナが腕を組んだ。
「ならば帰還するまで分からぬな」
ミコトがぽつり。
「増える?」
「何が?」
「争奪戦」
「そこ心配してたの?」
シズクまで考え込んでいる。
「四百年前より前。強い」
「何が?」
「先住権」
「そんな制度ないよ?」
カレンが額を押さえた。
「今はそこではありません」
「我には重要だ!」
「重要ではありません!」
いつもの空気が少し戻る。
俺としてはありがたい。
何千年も前の謎ばかり考えていると、頭がおかしくなりそうだ。
セレスは何も言っていなかった。
ただ画面を見ている。
俺は横から顔を覗く。
「気になる?」
「当然です」
「恋愛的な意味で?」
「アレン」
「はい」
「今は調査中です」
どうやら聞くタイミングを間違えた。
でも好意に気づいている以上、完全に無視するのも違うと思う。
「帰ってきても、いきなりどこか行ったりしないよ」
「……分かっています」
少し間があって。
「それに、相手がどなたであっても、まず安全確認です」
「うん」
そこは俺も同じだった。
名前が《アウローラ》。
俺の記憶にいる存在。
帰還先として俺を指定している。
それだけで扉を開けてはいけない。
俺たちはついさっきまで、
名前。
声。
顔。
記憶。
それら全部を真似する何かと戦っていた。
懐かしいから本物。
なんて判断だけはできない。
「本人確認できる?」
俺が聞く。
エルシアがすぐ調べる。
「帰還経路を開かずに確認可能な情報があります」
《帰還対象・基礎識別》
《魂魄識別情報――保存済》
《自己連続性――確認可能》
俺の過去記録を調べた時にも出てきた項目だ。
これなら。
昔、俺を帰還させた存在と。
今帰ろうとしている存在が。
少なくとも同一個体かどうかは判定できる。
「やってみよう」
「承知しました」
ただし帰還経路は開かない。
情報照会だけ。
エルシアが何度も安全確認を行ってから実行する。
《帰還者アウローラへ識別照会》
十秒。
二十秒。
やがて返答。
《魂魄識別――一致》
《自己連続性――一致》
《初回帰還補助者との同一性――確認》
本物。
少なくとも古代帰還網の判定上は。
昔。
俺をどこかからこの世界へ帰した存在と。
今帰還を待っている存在は同じだ。
「……一歩進んだね」
それでも扉は開かない。
トーマが俺を見る。
「開けないのか?」
「まだ」
「意外だな」
「最近評価低くない?」
「昔のお前なら?」
十人が俺を見る。
「……たぶん開けてる」
「だろ?」
認めざるを得ない。
「通信だけできない?」
俺が尋ねる。
ユノアが少し緊張した顔になる。
《黎明喰らい》との一件があるからだろう。
エルシアも慎重に確認した。
「帰還経路とは別に、照会用の単方向情報路があります。文字情報だけなら送受信できます」
「それでいこう」
「何と送ります?」
聞きたいことはいくらでもある。
誰なのか。
俺とはどういう関係だったのか。
どこにいるのか。
俺は昔どこへ行っていたのか。
なぜ記憶がないのか。
でも。
最初から全部聞く必要はない。
少し考えて。
「《そっちは大丈夫?》」
トーマが俺を見る。
「第一声それなのか?」
「長い間帰れてないんでしょ?」
「まあ……そうだけど」
送信。
返事はなかなか来なかった。
一分。
二分。
古代帰還網が長い距離を越えているのか。
相手が言葉を考えているのか。
三分近く経って。
文字が現れた。
《大丈夫》
短い。
続けて。
《あなたは?》
俺は少し笑った。
「大丈夫だよー」
「そのまま送るのですか?」
セレスが聞く。
「俺っぽいでしょ?」
「非常に」
エルシアが送る。
《大丈夫だよー》
十数秒。
返事。
《その話し方》
さらに。
《変わってない》
十人が俺を見る。
トーマまで見る。
「何?」
「本当に昔からなんだなと思って」
「みたいだねー」
返事が来た。
《それも》
俺は思わず笑った。
少なくとも会話はできそうだ。
「本人しか知らないこと聞いたほうがいいかな」
「記憶がないお前に確認できるのか?」
トーマの指摘は正しい。
俺が覚えていない秘密を答えられても、検証できない。
逆に。
俺が現在覚えている出来事は、何らかの方法で情報を取られている可能性もある。
本人確認は古代帰還網の照合へ任せたほうがいい。
だから別のことを聞く。
《何で俺を帰還先にしたの?》
返事まで少し時間があった。
《約束したから》
「約束?」
記憶にない。
続き。
《あなたが先に帰る》
《帰る場所を見つける》
《見つけたら、私もそこへ帰る》
調査室が静かになる。
俺を先に帰した。
アウローラは向こう側へ残った。
そして。
俺がこの世界で帰る場所を見つけるのを待っていた。
「俺、何で先に帰ったの?」
送信する。
今度はすぐ返ってきた。
《あなたが言った》
《一人なら帰れる》
《二人では経路が持たない》
頭の奥が少し痛んだ。
暗い場所。
何も見えない。
誰かと話している。
――一人ならいける。
そんな言葉。
俺が言った気がする。
次の文字。
《私は残ると言った》
《あなたが怒った》
「俺が?」
《すごく怒った》
トーマが笑いそうになる。
「想像つかないな」
「俺だって怒る時あるよ」
ラグナが腕を組む。
「我らが知る首領は、他人が犠牲になると言えばかなり怒るぞ」
「そう?」
十人が頷く。
そこは今も変わっていないらしい。
続き。
《だから順番を決めた》
《あなたが先》
《私があと》
《帰った側が道を作る》
俺は画面を見る。
「……作れてないね」
四百年以上。
完全に忘れていた。
秘密基地なんか作って遊んでいた。
帰還網のことも。
アウローラのことも。
全部。
《ごめん》
送ろうとすると、セレスが俺の手を止めた。
「待ってください」
「何?」
「それは、本当にアレンが謝ることですか?」
「だって忘れてたし」
「なぜ忘れていたのか分かっていません」
確かに。
意図的に捨てた記憶なのか。
事故なのか。
帰還の代償なのか。
何も分からない。
トーマも頷く。
「少なくとも事情聞いてから謝れ」
「そうだねー」
代わりに。
《遅くなった》
と送った。
返事。
《うん》
少し間。
《すごく》
ラグナが笑った。
「四百年以上であるからな!」
「笑うところ?」
《でも》
文字が続く。
《待ったのは私が決めた》
さらに。
《あなたのせいにするつもりはない》
セレスがその文章をじっと見ていた。
少しだけ。
表情が柔らかくなった気がする。
俺も安心した。
どんな相手なのかまだ分からない。
でも。
少なくとも。
「俺が忘れてたから四百年怒ってました」
みたいな第一声ではなかった。
「帰還させてもいいと思う?」
俺が尋ねる。
当然。
自分一人で決めるつもりはない。
セレスが答える。
「本人照合は通っています」
カレン。
「帰還経路を開く前に、災厄追跡の有無を確認すべきです」
エルシア。
「同意します。アウローラ本人が安全でも、経路を追われる可能性があります」
ユノアも強く頷いた。
「絶対調べたほうがいい」
「じゃあ聞こう」
《そっちに、帰還経路を追ってくるものはいる?》
返事はすぐに来なかった。
少し嫌な沈黙。
やがて。
《いる》
全員の顔から表情が消えた。
やっぱり。
俺は画面を見つめる。
続く。
《だから今すぐ開けないで》
《帰れるようになったことだけで十分》
少しして。
《先に、十人を帰して》
ユノアが立ち上がった。
「十人?」
第一から第十帰還点。
本来割り当てられている十人。
ユノアは、そのうち一人。
残り九人がまだ向こう側にいる。
「知ってるの?」
俺が送る。
《知ってる》
返事。
《私が送り出したから》
ユノアが持っていたカップを落としかけた。
「……え?」
彼女の顔色が変わる。
「アウローラ?」
映像の向こうから、翻訳を待たず古代語で何かを言う。
その言葉を俺だけが理解できた。
「《黎明管理官アウローラ》……?」
ユノアが俺を見る。
「その名前を、どうして?」
「今、君が言ったから」
「違う」
彼女は首を振る。
「アウローラって音じゃない」
ユノアが使ったのは古代語。
意味は。
《夜が終わったことを確認する者》。
あるいは。
《帰還者が朝へ着いたことを見届ける者》。
俺が昔。
長すぎるその呼び名を面倒がって。
勝手に《アウローラ》と呼んでいた可能性が、急に高くなった。
「ユノアは知ってる人?」
「私たちは全員知ってる」
彼女は信じられないものを見る顔で、俺の画面の向こう――まだ姿すら映っていない帰還者を見つめる。
「帰還点を管理してた人」
「十一個全部?」
「違う」
ユノアの声が震える。
「帰還点じゃない」
「じゃあ何を?」
彼女は答えた。
「外から帰ってくる人を」
つまり。
施設管理者ではない。
帰還そのものを管理していた。
「じゃあ、古代帰還網を作った人?」
「分からない。でも、ずっといた」
「どれくらい?」
ユノアは首を横へ振った。
「私が生まれる前から」
何千年前かも分からない時代。
さらにその前から。
《アウローラ》は帰還者を送り返す側にいた。
そして最後。
災厄が現れた時。
十人をそれぞれ第一から第十へ逃がし。
俺を。
この世界そのものへ先に帰した。
自分だけが外側へ残った。
「……それで俺を帰還先にした?」
通信で尋ねる。
少しして。
《違う》
否定された。
《役目としてなら》
《帰還点を指定した》
《あなたを指定したのは》
そこで一度止まる。
十人の視線が妙に強くなった。
俺も嫌な予感がする。
《私がそうしたかったから》
ラグナが机へ両手をついた。
「やはり女ではないか!」
「そこ!?」
「重要である!」
「まだ性別確定してないって!」
ユノアが不思議そうに俺たちを見てから答えた。
「女の人だよ?」
終わった。
ラグナが大きく頷く。
ミコトがぽつり。
「十一人目」
「だから増やさないで」
セレスは笑っている。
笑っているのだが。
ちょっとだけ怖い。
「セレス?」
「何でしょう?」
「怒ってる?」
「いいえ?」
笑顔だ。
「では、安全確認を続けましょう」
「はい」
ここは逆らわないほうがいい気がする。
トーマが俺の肩を叩いた。
「頑張れ」
「何を?」
「知らん」
それから俺たちは、アウローラと最低限の情報交換を続けた。
帰還経路は開かない。
画像も送らない。
音声も使わない。
文字だけ。
分かったことは少ない。
アウローラ自身は無事。
向こう側の時間では、俺と別れてからそれほど長い時間は経っていないらしい。
正確な期間は彼女自身にも測れない。
《黎明喰らい》に相当する存在は、今も向こう側にいる。
リーネが閉じ込めているものと同一なのかは不明。
そして。
帰還を待つ残り九人は生存している可能性が高い。
「だったら順番は決まったね」
俺が言う。
まず。
第一から第十。
本来の帰還者を一人ずつ、安全確認しながら帰す。
同時に《帰還案件・零号》のリーネを救う方法を探す。
アウローラは最後。
追跡されない方法ができてから。
《それでいい?》
と送る。
返事。
《うん》
続けて。
《昔もそうだった》
「何が?」
《あなたはいつも、自分を最後にした》
俺は少し黙った。
十人も画面を見る。
《だから私は》
《あなたを先に帰した》
《そうしないと、絶対に帰らなかったから》
トーマが噴き出した。
ラグナも笑う。
カレンは額へ手を当てた。
ミコトは、
「昔から」
と呟いた。
俺としては納得いかない。
「そんなに?」
十人が全員頷いた。
通信の向こうからも。
《うん》
と届いた。
四百年前どころではないらしい。
俺が何でも自分だけで抱え込む癖は。
思っていたよりずっと昔からだった。
「じゃあ今は違うって教えないとねー」
俺は送った。
《今回はみんなでやるよ》
少し長い間があった。
返事。
《みんな?》
《あなた一人じゃなくて?》
《うん》
俺は十人を見る。
トーマを見る。
映像の向こうにいるユノア。
北方歴史学院の教授。
世界中で待機している《アウローラ》の職員たち。
四百年前の俺には想像もできなかったくらい。
大勢いる。
《今は頼れる人いっぱいいるから》
送信。
今度の返事は。
かなり長く来なかった。
一分。
二分。
エルシアが通信異常を確認する。
問題はない。
三分近くして。
ようやく文字が一つ現れた。
《そっか》
次。
《作れたんだ》
そして。
《帰る場所》
俺は自然と笑った。
「うん」
声へ出してから。
文字でも送った。
《作れたよ》
四百年前。
秘密基地として。
冗談半分で始めた場所。
それが今では。
世界中へ広がっている。
最初から何かに選ばれた組織だったわけじゃない。
古代文明に命令されたわけでもない。
俺たちが勝手に始め。
勝手に人を助け。
勝手に大きくした。
でも。
結果として。
何千年も帰れなかった人たちまで迎えられる場所になった。
《アウローラ》から最後に返事が来る。
《じゃあ》
《私も帰れるね》
その一文を見た時。
十二個目の反応が一度だけ強く光った。
ただし、帰還経路は開かなかった。
俺たちの承認を待っている。
勝手に入ってこない。
俺の名前を使わない。
俺たちの記録を利用して、無理やり家へしない。
それだけでも。
第十一帰還点へ入り込もうとしていた《何か》との違いは十分だった。
「今日はここまでにしよう」
俺が言うと、誰も反対しなかった。
アウローラにも送る。
《また話そう》
返事。
《うん》
そしてもう一つ。
《アレン》
《何?》
少し間が空いた。
《十人も、ちゃんといる?》
俺は画面を見た。
「……十人を知ってる?」
セレスたちも反応する。
四百年前より前に外側へ残ったはずのアウローラ。
十人とは会ったことがないはずだ。
俺が十人を助けたのは、もっと後。
俺が《最初の家》を作る直前まで。
アウローラは帰還できなかった。
なのに。
《いるよ》
そう送る。
返事はすぐに来た。
《よかった》
続けて。
《今度は、ちゃんと十一人で帰って》
俺は眉を寄せた。
「今度は?」
十人も同じ疑問を持ったらしい。
俺が送るより先に。
アウローラから最後の文章が届いた。
《前は》
《あなた一人しか帰せなかったから》
調査室の空気が止まった。
前。
それは。
俺がこの世界へ最初に帰還した時のことではない。
文章の意味が違う。
《前は、あなた一人しか》
つまり。
あの時。
本当は。
俺以外にも一緒に帰るはずだった誰かがいた。
さらに文字が続く。
《今度こそ》
《十一人全員を》
《外に残さないで》
俺は画面を見たまま動けなかった。
現在。
俺と一緒にいる十人。
そして何千年前。
帰還点へ割り当てられた十人。
同じ数字。
偶然だと思っていた。
けれど。
アウローラは最初から。
**「十一人」**
という人数を知っていた。




