↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冗談で作った秘密結社が世界最大企業になっていた ~平凡な学生を演じる創設者の俺は、今さら全部作り話だったと言い出せない~  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/67

第62話 『家を返して』と訴えた管理者を調べたら、本物は四百年前に『その声を信じるな』と残していました

《もう、私を待つ人はいないから》


四百年前、俺たちが《最初の家》を建てるより先に。


第十一帰還点には、すでに一人の帰還者がいた。


名前は自分の希望で記録から消されている。


帰還は完了済み。


そして最後には、自分が使っていた帰還先を次の誰かへ譲った。


その人物が四百年前、森を歩いていた俺へ《ここ》を示した。


俺には見えていたらしい。


少なくとも当時の俺は、その誰かと話していた。


なのに十人には見えず、現在の俺にもほとんど記憶が残っていない。


「……やっぱり気になるなあ」


俺が呟くと、セレスがすぐこちらを向いた。


「調べること自体は止めません」


「まだ何も言ってないよ?」


「ですが、その次に『ちょっと見てくる』と言いそうでした」


「言わないって」


「本当に?」


「今日は帰るって約束したでしょ」


セレスが数秒ほど俺の顔を確認する。


やがて納得したらしく、小さく頷いた。


「では、調査はここでできる範囲までにしましょう」


トーマが俺たちを見比べた。


「昔のお前って、本当にどれだけ勝手にいなくなってたんだ?」


「そんなに頻繁じゃないと思うけど」


「頻度の問題ではない」


カレンから即座に訂正された。


ラグナまで珍しく真面目な顔で頷く。


「一度でも十分なのである」


十人対一人では勝ち目がない。


俺は諦めて、エルシアが復元している古代記録へ視線を戻した。


問題は、前に第十一帰還点から聞こえた声だ。


『家を返して』


古代帰還網は、発信者を、


《識別情報――管理者》


と判定した。


その時は、何らかの管理者が外側に存在していると思った。


けれど今分かったことと噛み合わない。


第十一帰還点の旧管理者は、自分から場所を譲っている。


しかも、


《もう、私を待つ人はいないから》


とまで残している。


そんな人物が四百年後になって突然、


《家を返して》


と言い出すだろうか。


「エルシア。前の《管理者》って、本当に本人確認まで通ってた?」


「確認しています」


彼女が過去の受信記録を呼び出した。


《発信元――第十一帰還点・外部》


《帰還者認証――失敗》


《帰還対象――登録なし》


《識別情報――管理者》


エルシアは最後の行を拡大する。


そして、しばらく黙った。


「……認証ではありません」


「どういうこと?」


「私たちが読み違えています。《識別情報》は本人確認結果ではなく、相手側が送ってきた自己申告情報です」


トーマが眉をひそめる。


「つまり?」


「向こうが勝手に『私は管理者です』って名乗っただけみたい」


俺が言うと、エルシアが頷いた。


「その通りです」


「そんな雑なのかよ!」


「古代帰還網では、本来この後に管理権限照合が行われます。しかし当時はこちらが通信を遮断したため、そこまで進んでいません」


つまり。


《管理者》と表示されたから管理者なのではない。


ただ名乗っただけ。


トーマが額を押さえる。


「四百年前から詐欺の基本が変わってないの、嫌すぎるな」


「名前を名乗れば信用してもらえると思ったのかな」


「お前の名前で玄関開けさせようとしてたやつだぞ。やってることは一貫してる」


確かに。


最初は俺を名乗った。


魔力波形が違って拒否された。


次は《ノクス・アウローラ》そのものを帰還先として利用しようとした。


それも拒否された。


そして管理者を名乗った。


本人として入れないなら、別の肩書きを使う。


少しずつやり方を変えている。


「……学習してる?」


俺が口にすると、ユノアが映像の向こうで頷いた。


「するよ」


先ほどまでより表情が硬い。


「何を?」


「人を」


「人を学習する?」


「名前。声。帰る場所。大切な人。何を言えば扉を開けるか」


それを聞いて、セレスたちの表情も変わった。


四百年前の《ただいま》。


俺の声。


セレスたちしか知らない記憶。


全部同じ性質なら説明できる。


「だから名前を言っちゃいけないって話?」


「うん」


ユノアは自分の名を口にしてしまったことへ今さら不安を覚えたのか、少し顔を曇らせた。


俺はそれに気づいた。


「ユノア」


彼女が顔を上げる。


「もう言ったものは仕方ないし、そこはこっちで守り方考えよう」


「……怖くないの?」


「怖いよー」


「そう見えない」


「よく言われる」


トーマが横から口を挟む。


「こいつ、危険な時ほど普段通りだから分かりにくいんだよ」


「それ褒めてる?」


「半分くらい」


ユノアの緊張がほんの少し緩んだ。


それでいい。


怖がるべきことと、怖がらせ続けることは別だ。


「それより」


セレスが古代記録を指した。


「名前を消した理由が、本人の希望だけではない可能性がありますね」


俺も同じことを考えていた。


《本人希望により、以後の記録から氏名を削除》


なぜわざわざ名前を消したのか。


待つ人がいないから。


それだけなら、記録自体を消す必要はない。


「続きがあるか調べよう」


「はい」


エルシアが《旧管理者》の引継ぎ処理をさらに遡る。


破損している部分は多い。


それでも、管理権限を手放した際に作られた補助記録が残っていた。


《第十一帰還点 管理権限返納》


《個人割当解除》


《恒久共有帰還点へ復旧》


ユノアがそれを見て頷く。


「それが正しい状態」


誰にも属さない。


だから誰でも、新しく帰る場所を必要とした時に使える。


さらに一行。


《旧管理者個人識別情報を消去》


その理由。


《外部模倣対策》


全員が黙った。


「やっぱり」


エルシアが小さく呟く。


続きがある。


《氏名を残すな》


《声を残すな》


《姿を残すな》


《帰還経路へ個人記憶を接続するな》


古代の安全規定。


どうやら当時から。


名前や声を使って帰還経路へ侵入する何かが知られていた。


「じゃあ、この人は」


セレスが人影を見る。


「自分が忘れられることを選んだ?」


エルシアは答えなかった。


答えられなかったのだと思う。


俺も少し胸が重くなった。


誰も待っていない。


名前を残せば危険。


だから消す。


自分が帰ってきた記録だけを残し。


次の誰かへ場所を譲る。


「寂しいね」


俺が言うと、ミコトが小さく頷いた。


「うん」


その人物が男だったのか女だったのかさえ、今は分からない。


顔も。


名前も。


声も。


自分で消した。


でも。


一つだけ消さなかったものがある。


《帰る場所》。


自分のためではなく。


次に必要になる誰かのために。


「……だから俺たちだったのかな」


俺が呟いた。


セレスがこちらを見る。


「あの人が、アレンたちを選んだという意味ですか?」


「うん」


俺一人ではなかった。


十人連れていた。


家族も家も失った子が多かった。


その全員が住める場所を探していた。


第十一帰還点を譲る相手としては、かなり分かりやすかったのかもしれない。


「俺じゃなくて、みんなを見てたのかもね」


十人の表情が少し変わった。


ラグナが鼻を鳴らす。


「我らを見て、首領なら任せてもよいと思ったのであれば、なかなか見る目があるではないか」


「何でラグナが偉そうなの?」


「我らを選んだのであろう?」


「俺も入ってるよ?」


「首領は付属品である」


「ひどい」


少し笑いが戻った。


その時。


エルシアが新しい領域を見つけた。


「待ってください」


「何かあった?」


「引継ぎ完了後に、もう一つ記録があります」


《次期帰還者確認時のみ再生》


次期帰還者。


おそらく俺たちだ。


しかも条件はすでに四百年前に満たされている。


ただ、地下施設そのものを知らなかったため、再生されないまま残ったのだろう。


「再生する?」


俺は十人を見る。


誰も反対しなかった。


ただセレスだけが念を押す。


「外部接続ではありませんね?」


エルシアが何度も確認する。


「完全な保存記録です。通信機能はありません」


「ならお願い」


俺一人で決めずに済んだ。


エルシアが記録を開く。


映像はなかった。


声もない。


本人が全部削除したからだ。


代わりに。


文字だけが現れた。


俺には読める古代文字。


ユノアにも読める。


少し遅れて翻訳術式が現代語へ変換する。


《ここを次の家にした人へ》


俺は黙って続きを読んだ。


《私はあなたを知らない》


《あなたも私を知らなくていい》


《名前を残さないことを許してほしい》


《名前があると、それは名前を使う》


《声があると、それは声を使う》


《顔があると、それは顔を使う》


《だから私について覚えなくていい》


トーマが小さく息を吐いた。


ユノアはカップを握ったまま、画面を見ている。


続き。


《ただ、一つだけ覚えてほしい》


《ここは、誰かの所有物ではない》


《帰る場所を失った人が、新しい帰る場所を見つけるまで使う場所》


《だから、いつか誰かが》


《「ここは私の家だった」》


《「家を返して」》


《そう言って現れても》


俺たち全員が止まった。


四百年以上前に書かれた文章。


まだ俺たちがこの森へ来るより前。


なのに。


第十一帰還点から聞こえた言葉が、そのまま残されている。


《信じてはいけない》


部屋の空気が一気に冷えた。


《私は絶対に、そう言わない》


セレスが息を呑む。


本物だった。


少なくとも。


四百年前より前にここを管理していた人物は、《家を返して》と言う存在が現れることを予測していた。


いや。


予測ではない。


知っていた。


《私はもう、この場所を譲った》


《譲った家を取り返しには来ない》


《本当に帰りたいなら》


《新しい家を探す》


その言葉に、俺は少し笑った。


「ちゃんとしてる人だね」


「アレンと似ています」


セレスが言う。


「そう?」


「自分の物を簡単に人へ渡すところが」


「まだ使えるなら使えばいいし」


トーマがすぐ反応した。


「ほら似てる」


また言われた。


記録はまだ続く。


《もし私を名乗るものが来ても、名前で判断しないで》


《あなたを名乗るものが来ても、声で判断しないで》


《帰る場所は》


そこで一度文章が途切れる。


最後の一文。


《誰が帰ってきたかではなく、誰を迎えるかで決めて》


俺はしばらくその言葉を見ていた。


四百年前。


俺たちがこの場所へ来た時。


あの人は俺へ何かを尋ねた。


『みんなも?』


俺は、


『うん』


と答えた。


そして。


『じゃあ、ここにする』


あれはもしかすると。


この十人も一緒に帰っていいかと聞いたのではない。


俺自身が、


**十人全員をここへ迎えるつもりなのか**


確認されていたのかもしれない。


だから帰還が成立した。


「帰る側だけじゃ駄目なんだね」


俺が言う。


ユノアが頷いた。


「うん」


「待つ側も必要」


「そう」


四百年前。


俺たちには家がなかった。


でも。


俺は十人を迎えるつもりだった。


十人も俺と一緒に暮らすつもりだった。


建物なんてまだ一本も柱が立っていない。


それでも、その瞬間。


そこは帰る場所になった。


《最初の家》は、家を建てたから最初の家になったのではない。


もっと前。


俺たちが、


ここへ一緒にいよう。


と決めた時から始まっていたらしい。


「……後世の研究者が聞いたら喜びそうだな」


トーマが呟く。


北方歴史学院の教授を見る。


泣いていた。


「もう喜んでるねー」


「記録してください! 今の解釈もすべて!」


突然元気になった。


学者は強い。


「まだあります」


エルシアが最後の部分を表示する。


短い。


《最後に》


《もし、それが再び現れたなら》


《家を守るために戦わないで》


ラグナの眉が動いた。


「戦うな?」


《家は壊れても作り直せる》


《帰還点も失えば別の場所を探せる》


《でも》


《待っている人を失えば》


《そこはもう、帰る場所ではなくなる》


セレスが胸元の首飾りへ触れた。


《だから》


《場所より、人を連れて逃げて》


古代記録はそこで終わった。


英雄的な戦い方でもない。


災厄の倒し方でもない。


家を守れ、とすら書いていない。


危なくなったら。


みんなで逃げろ。


そして別のところで。


また家を作れ。


「俺、この人好きかも」


自然と口から出た。


セレスも微笑む。


「私もです」


「我は少々気に食わぬ」


ラグナだけ違った。


「何で?」


「戦うなと言う」


「そこ?」


「だが、人を先に逃がせという点は気に入った」


結局気に入ったらしい。


カレンが古代記録を保存し、複製を作る。


「では、《家を返して》と発言した存在は旧管理者ではないと考えてよさそうですね」


「うん」


俺は頷いた。


これで一つ整理できた。


正体はまだ分からない。


ただ。


**嘘をついている。**


それだけは分かった。


第十一帰還点を昔の自分の家だと言った。


旧管理者を名乗った。


俺を名乗った。


《ノクス・アウローラ》を自分の帰還先として使おうとした。


全部。


自分が迎えてもらうため。


「エルシア」


「はい」


「これからは名前とか肩書きじゃなくて、こっちが迎えるって決めた相手だけ通す仕組みにできる?」


彼女が考える。


「第十一帰還点だけなら可能だと思います。ただし古代術式そのものを書き換えるのではなく、外側へ追加認証を設けるほうが安全です」


「じゃあお願い」


「承知しました」


「セレスは世界の十地点にも同じ仕組みを共有して。ユノアたち本来の帰還者まで止めないように、一地点ずつ本人確認してから」


「任せてください」


「カレンは現地の人たちを今日は全員戻して。調査員も泊まらせない」


「すぐに」


「ラグナは――」


「皆を安全に帰す!」


先に言われた。


「うん。それお願い」


ラグナが嬉しそうに笑う。


ちゃんと仕事を渡すと、こんな顔をするのか。


昔は俺が全部やってしまっていたから、気づかなかった。


準備はすぐに始まった。


俺も荷物をまとめる。


本当に今日は帰る。


地下へ戻らない。


一人で残らない。


壁を壊さない。


古代帰還点も掘らない。


トーマが俺の荷物を見ながら、感心したように言う。


「すごいな」


「何が?」


「ちゃんと帰る準備してる」


「俺を何だと思ってるの?」


「帰る場所を作ったくせに、自分だけ帰ってこなくなるやつ」


かなり痛いところを突かれた。


反論できない。


「今は帰るよー」


「ならよし」


俺たちは仮設拠点を出た。


《最初の家》跡から離れる前に、一度だけ振り返る。


何も見えない。


ただの森。


地下には古代帰還点。


その上には、俺たちが建てた家の跡。


さらにその後世にはリーネたちが作った帰還所。


何千年分もの《帰りたい》が、この場所へ重なっている。


それでも。


場所そのものが大事なのではない。


それは今日、ちゃんと分かった。


「アレン」


セレスが呼ぶ。


「置いていきますよ」


昔なら、その言葉に少し引っかかったかもしれない。


今は普通に歩き出す。


「はいはい。帰ろうか」


十人がいる。


トーマたちもいる。


全員で森を出る。


その途中。


エルシアの端末に、第十一帰還点から最後の自動記録が届いた。


外部通信ではない。


さきほど再生した旧管理者記録へ、隠されていた追記があったらしい。


《次の管理者へ》


《この記録を読めたなら、一つ確認して》


《あなたたちは十一人?》


俺たちは足を止めた。


エルシアが続きを表示する。


《もし十一人なら》


《私が迎えた時と同じ》


そして。


最後の一行。


《でも、十一人の中に》


《最初から一人だけ》


《帰還者が混じっている》


俺は表示を見た。


十人も。


俺を見る。


四百年前。


俺たち十一人は、全員が新しくこの場所を家にした。


そう思っていた。


けれど旧管理者の記録では。


十人は初めて来た者。


そして一人だけ。


ここへ初めて来たのではなく。


**帰ってきた者として認識されていた。**


誰のことかは。


たぶん。


もう考えるまでもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。