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冗談で作った秘密結社が世界最大企業になっていた ~平凡な学生を演じる創設者の俺は、今さら全部作り話だったと言い出せない~  作者: てへろっぱ


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第6話 俺が線を二本つなぎ直したら、世界中の教科書が古くなった



 俺が魔法陣の線を二本つなぎ直した翌朝。


 世界中で使用されていた火属性増幅術式が、旧式になった。


 もちろん、その事実を俺が知ったのは、いつもどおり王立魔法学院へ登校してからだった。


     ◇


 時間は、前日の最高幹部会議まで遡る。


 円卓へ表示された大陸地図。


 第一災厄《灰冠の王》の封印地点とは別に、六つの赤い光が浮かび上がった。


「残りの六災厄も目覚めるのか!?」


 ラグナが椅子を蹴るように立ち上がる。


「ならば、我がすべて斬る!」


「まだ覚醒したとは決まっていません」


 エルシアが空中へ複数の観測結果を展開した。


「現在、魔力上昇が確認されているのは《灰冠の王》のみです」


「では、この六つの光は何なのです?」


 セレスが尋ねる。


「共鳴反応です」


 エルシアの指が、大陸地図の光点を順番に示す。


「第一災厄の封印が覚醒工程へ移行したことで、同種の封印術式が反応した可能性があります」


「つまり、ほかの六つも実在する可能性が高いということですね」


 ミコトが笑みを消した。


「ですが、今すぐ目覚めるわけではない」


「現時点では」


 エルシアが付け加える。


「《灰冠の王》の覚醒が、ほかの封印へどのような影響を及ぼすかは不明です」


「では、第一災厄への対処を最優先とします」


 セレスが即座に決断した。


「残る六地点は、情報部門と魔導研究部門が共同で調査してください。現地には正式構成員を派遣し、国家には悟られないように」


「承知しました」


「すでに調査班を編成しています」


 ミコトとエルシアが同時に答えた。


「仕事が速いねー」


 俺が感心すると、ミコトの九本の尾が嬉しそうに揺れる。


「アレンが七つの災厄について語った日から、百年以上準備してきましたので」


「作り話かもしれないのに、よく続けたねー」


「あなたが、意味のない話をするはずがありません」


「結構するんだけどねー」


「謙遜ですね」


「違うよー」


 俺の言葉は、今回も信じてもらえなかった。


 問題は、世界各地で使用されている旧式増幅術式だ。


 使われるたび、余剰魔力が《灰冠の王》へ流れ込む。


 新しい術式へ交換しなければ、封印の覚醒は止められない。


「新術式の検証を完了しました」


 エルシアが告げる。


「安全性、安定性、出力、魔力効率。すべて旧式を上回っています」


「量産は可能ですか?」


「魔道具の構造変更は容易です。新たな部品も必要ありません」


「では、全世界へ無償公開します」


 セレスがリゼットへ視線を向ける。


「特許取得は行いません。使用料も不要です」


「承知いたしました」


 リゼットは、すでに用意していた書類へ記入を始めた。


「各国の魔導具工房に、設計図を即時送付します」


 ヴィオラも通信魔道具を起動する。


「設備更新に必要な費用は、《アウローラ》金融部門が無利子で融資するわ。重要施設については返済も不要よ」


「随分と大きな金額になりそうだねー」


「大陸が滅びれば、保有資産の価値もなくなるもの」


「現実的だねー」


「それに、あなたが作った術式を世界中へ広めるためですもの。この程度、安い投資よ」


「俺の名前は出さないでねー」


「分かっているわ」


 ヴィオラは余裕のある笑みを浮かべた。


「匿名の偉大な魔導師が世界を救ったことにしておきましょう」


「偉大な魔導師もいらないんじゃないかなー」


「功績まで消すことは認めないわ」


「俺の意見は?」


「却下よ」


「セレスだけじゃなく、ヴィオラにも却下されるんだねー」


 俺の作ったはずの組織なのに、俺の意見は意外と通らない。


「情報部門は、旧式術式に重大な安全上の問題が発見されたと発表します」


 ミコトが報道用の文書を表示する。


「新術式への交換を推奨し、《アウローラ》系列の通信網を通じて、設計図を無料配布します」


「古い術式を作った研究者を責めないでねー」


「承知しています」


 ミコトが俺を見る。


「術式の欠陥は、発見当時の技術では予測できなかったものとして扱います」


「うん。それがいいねー」


「人々の怒りを、誰か一人へ向けさせないためですね」


「知らなかった人を怒っても仕方ないからねー」


「やはり、アレンはお優しい」


「普通だと思うけどねー」


 ミコトが満足そうに記録板へ書き込む。


 また俺の発言が、重要な教えとして保存されているらしい。


「一つ問題があります」


 カレンが大陸西部を指した。


 二つの国家が国境地帯で交戦を始め、旧式術式を搭載した魔導兵器を使用している。


 このまま戦闘が続けば、《灰冠の王》の覚醒がさらに早まる。


「我が向かう!」


 ラグナが拳を握った。


「両軍の兵器をすべて破壊すればよいのだな!」


「人は傷つけないでねー」


「任せろ!」


「都市も壊してはいけません」


 カレンが付け加える。


「分かっている!」


「国境線も消してはいけません」


「分かっていると言っている!」


「山脈の形を変えることも禁止です」


「我を何だと思っているのだ!」


「過去の実績から、必要な注意事項を申し上げています」


 ラグナが不満そうに腕を組む。


「アレン。我は信用されていないようだ」


「元気でいいと思うよー」


「それは褒めているのか!?」


「褒めてるよー」


「ならばよい!」


 簡単に機嫌が直った。


「戦いを止めるだけなら、兵器を壊さなくてもいいんじゃないかなー」


 俺は赤く点滅する国境地帯を眺めた。


「魔導兵器を動かせなくして、新しい術式へ交換するまで休んでもらえばいいよねー」


 会議室が静かになる。


「それだけでは、通常兵器で戦闘を続ける可能性があります」


 セレスが指摘した。


「じゃあ、戦ってる間は《アウローラ》との取引を休むって伝えたらどうかなー」


「取引の一時停止……」


 ヴィオラの赤い瞳が細くなる。


「両国は食料輸入の四割、魔石供給の六割、通貨決済の八割を《アウローラ》系列に依存しています」


「止めたら困るよねー」


「三日で国家機能が停止するわ」


「そこまで止めなくていいよー」


「では、停止を予告するだけにしましょう」


 ヴィオラが微笑んだ。


「戦闘を継続した場合、三時間後に金融、物流、通信のすべてを段階的に停止すると通告します」


「情報部門が、両国の国民にも同じ情報を伝えます」


 ミコトが続く。


「政府が隠蔽することはできません」


「軍事部門は国境上空へ展開する!」


 ラグナが立ち上がった。


「攻撃はしないでねー」


「分かっている! 両軍の間に立つだけだ!」


「閣下が戦場へ降り立てば、それだけで十分な脅迫です」


 カレンが冷静に告げた。


「我は何もしておらぬぞ?」


「存在が戦略兵器ですので」


 少し言いすぎではないだろうか。


 そう思ったが、誰も否定しなかった。


「三十分で停戦させます」


 セレスが宣言する。


「そんなに早くできるの?」


「アレンが望まれましたので」


 世界最大企業の最高幹部たちは、一斉に動き始めた。


     ◇


 二十三分後。


 大陸西部で争っていた二つの国家は、無条件の一時停戦に合意した。


 ヴィオラが両国の中央銀行へ資金決済停止を予告。


 ミコトが全国民へ、政府が戦争を継続した場合に失われる物資と資産を公開。


 セレスが停戦後の復興支援と、新術式への無償交換を提案。


 そしてラグナが、両軍の中央へ飛竜から降り立った。


 剣は抜いていない。


 攻撃もしていない。


 ただ腕を組み、両軍を交互に見ただけだという。


「二十三分かかりました」


 セレスが申し訳なさそうに頭を下げる。


「予定より七分遅れてしまいました」


「十分早いと思うよー」


「両国の代表が、最初は条件交渉を求めましたので」


「条件はどうなったの?」


「ラグナが到着した瞬間、すべて撤回されました」


「我は何もしていないぞ!」


 通信映像の向こうで、ラグナが胸を張る。


 背後では、数万人の兵士が武器を地面へ置いていた。


「本当に立っていただけだ!」


「ラグナは強くなったねー」


「そうであろう!」


 ラグナの顔が、一瞬で輝いた。


「帰還後、改めて我を褒めてくれ!」


「いいよー」


「できれば頭も撫でてほしい!」


「ラグナ総司令。全軍が聞いております」


 カレンの冷たい声が入る。


 ラグナが慌てて通信を切った。


 世界最強の将軍にも、まだ成長する余地はあるらしい。


     ◇


 翌朝。


 俺は何事もなかったように、王立魔法学院の教室へ座っていた。


「全員、静かに!」


 老教師が、いつになく興奮した様子で教室へ入ってくる。


 腕には大量の新しい資料を抱えていた。


「本日の授業内容は変更する! いや、今後の魔法教育そのものが変更される!」


 生徒たちがざわめく。


「昨夜、《アウローラ》魔導研究部門が、まったく新しい火属性増幅術式を無償公開した!」


 黒板へ魔法陣が表示される。


 俺が昨日、線を少しつなぎ直した術式だった。


「従来型と比べて、魔力消費は約三割減少! 出力は一割以上向上! さらに暴発の危険も、理論上ほとんど存在しない!」


「一晩でそんな術式を作ったのか!?」


「さすが《アウローラ》だ!」


「これまでの教科書はどうなるんですか?」


「すべて改訂だ!」


 老教師は、なぜか嬉しそうに叫んだ。


「我々が数十年かけて学んだ理論の一部が、一夜で過去のものになった!」


「先生、喜ぶところなんですか?」


「これほど美しい術式を前にして、喜ばずにいられるか!」


 研究者というのは、少し変わった人が多い。


「なあ、アレン」


 隣の席から、トーマが小声で話しかけてくる。


「この術式、どこかで見たことがないか?」


「有名な形だからじゃないかなー」


「昨日、お前が黒板で直した術式と、ほとんど同じだぞ」


「偶然だねー」


「また偶然か?」


「世の中には不思議なことが多いからねー」


「最近、お前の周りだけで起きすぎなんだよ」


 トーマが疑うように俺を見る。


 黒板の前では、老教師が新術式を説明していた。


「重要なのは、ここだ!」


 教師が第三接続点を指す。


「旧式では余剰魔力が外部へ流出していた! 新術式では、その魔力を内部で循環させている!」


 教室中の視線が、ゆっくりと俺へ集まった。


 数日前。


 俺は同じ教師の授業で、第三接続点が逆だと指摘している。


「アレン・クロフォード」


「はいー」


「お前は、この新術式を知っていたのか?」


「昨日発表されたなら、知るはずないですよー」


「では、なぜ同じ欠陥を指摘できた?」


「勘ですかねー」


「勘で魔法理論を覆すな!」


 教師が頭を抱える。


「偶然ですってー」


「偶然で済ませられる一致ではない!」


「《アウローラ》の研究者さんと、考え方が似てたのかもしれませんねー」


 間違いではない。


 あの研究部門を率いているのは、俺が育てたエルシアだ。


「将来、《アウローラ》へ入れるかもしれないぞ!」


 クラスメイトの一人が言った。


「会長にも総司令にも目をつけられてるんだろ?」


「今度は魔導研究部門か?」


「普通の学生だと思ってたのに!」


「今も普通ですよー」


 誰も信じてくれなかった。


 これ以上騒がれると、平凡な学院生活から遠ざかってしまう。


「先生、この術式を作った人の名前は分からないんですか?」


 トーマが尋ねる。


「《アウローラ》は、複数部門による共同研究成果と発表している」


「個人名は?」


「非公開だ」


 教師は資料を読み上げる。


「開発者本人が、名誉も報酬も求めず、世界中の人々が自由に使えるよう希望したそうだ」


 教室が静まり返る。


「すごい人だ……」


「きっと高名な大魔導師なんだろうな」


「世界を救うような術式を、無料で公開するなんて」


 俺は窓の外へ視線を向けた。


 線を二本つなぎ直しただけなのに、随分と大げさな話になっている。


「アレン」


 トーマが俺を見る。


「何かなー」


「どうして遠い目をしてるんだ?」


「世の中には立派な人がいるんだなーと思ってねー」


「他人事みたいに言うなよ。お前が指摘した内容と同じなんだぞ」


「似てるだけだよー」


 そのとき、教室の扉が開いた。


 学院の事務員が、教師へ一通の封筒を渡す。


「アレン・クロフォード学生へ、《アウローラ》魔導研究部門から面談の要請です」


 また教室中の視線が集まった。


「今度は研究部門まで……」


 トーマが呆然とする。


「本当に、お前は何者なんだ?」


「普通の学生だよー」


「世界最大企業の三部門から個別に呼ばれる普通の学生はいない!」


 もっともな意見だった。


     ◇


 放課後。


 俺は、学院地下の仮設会議室へ向かった。


 表向きは、魔導研究部門による面談。


 実際には、昨夜の調査結果を聞くためだ。


「アレン様、お待ちしていました!」


 扉を開けると、ノエルが勢いよく飛びついてきた。


「おっと」


 俺は小さな身体を受け止める。


「今回は接触検査です!」


「昨日、エルシアに止められてたねー」


「今日は先に抱きつきました!」


「ノエル」


 会議室の奥から、エルシアの声が聞こえる。


 室温が下がり始めた。


「検査終了です!」


 ノエルが素早く離れた。


「元気でいいねー」


「はい!」


「褒めていません」


 エルシアが淡々と言った。


 円卓には、セレス、ミコト、ヴィオラも集まっている。


 ラグナとカレンは停戦監視のため、通信での参加だった。


「新術式の普及状況を報告します」


 セレスが資料を広げる。


「公開から十二時間で、主要国家の七割が旧式術式の停止を決定しました」


「残る三割も、二日以内に交換を開始する見込みよ」


 ヴィオラが続ける。


「《灰冠の王》への魔力流入量は、すでに四十一パーセント減少しています」


 エルシアが封印の観測結果を表示した。


「覚醒までの予測時間は、六日から八日へ延長されました」


「時間が増えたんだねー」


「はい。新術式への交換が完了すれば、さらに延長できます」


「これで少し安心かなー」


「安心するには早いです」


 ミコトが黒い石板の映像を表示した。


「旧式増幅術式の出所を調査しました」


「王立研究院が三年前に発表したんだよねー」


「研究者たちが、一から開発した術式ではありませんでした」


 ミコトの九本の尾が、静かに揺れる。


「三年前、王立研究院へ一枚の古代石板が匿名で届けられています」


「古代石板?」


「石板には、旧式増幅術式の原型が刻まれていました」


 つまり、王立研究院は古代術式を解読し、現代向けに調整して発表しただけらしい。


「研究院の人たちも、魔力が災厄へ流れるとは知らなかったんだねー」


「はい。彼らは、善意で技術を普及させています」


「なら、責めたら駄目だねー」


「すでに情報は保護しました」


 ミコトが頷く。


「問題は、石板を研究院へ送った者です」


「送り主は分からないの?」


「名前も住所も偽造されていました」


 空中に、荷物の記録が表示される。


 送り主の欄は存在しない商会。


 輸送担当者も架空の人物。


 代金は、追跡不可能な古い金貨で支払われていた。


「完全な匿名です」


「ずいぶん用心深いねー」


「ですが、一つだけ痕跡が残っていました」


 シズクが新たな書類を机へ置く。


「石板を包んでいた布へ、転移魔法の残留反応が付着していました」


「転移元が分かったのかなー」


「特定しました」


 会議室中央へ、王立魔法学院の立体図が浮かび上がる。


 校舎。


 学生寮。


 訓練場。


 図書館。


 そして、その下に広がる古い地下区画。


 赤い光が、一か所で点滅した。


「石板が最初に転移した場所は、王立魔法学院です」


 セレスたちの視線が鋭くなる。


「正確には、学院の旧地下資料庫」


 ミコトが俺を見た。


「《灰冠の王》が封印されている遺跡と、同じ地下区画です」


 部屋が静まり返った。


「やはり、アレンは知っていたのですね」


 セレスが確信に満ちた声で言う。


「何をかなー」


「学院の内部に、災厄を目覚めさせようとしている者がいることを」


「知らないよー」


「だからこそ、世界中の学院ではなく、この王立魔法学院へ入学した」


「食堂のパンがおいしいって聞いたからだよー」


「それさえも偽装理由だったのですね」


「本当なんだけどねー」


「さすがアレンです!」


 通信映像の向こうで、ラグナが感動している。


「我らにすら目的を知らせず、単身で敵の懐へ潜り込んでいたのだな!」


「普通に入学しただけだよー」


「ご安心ください」


 ミコトが笑みを浮かべた。


「学院内の全教職員、生徒、使用人、出入り業者。すでに調査を開始しています」


「生徒まで疑うの?」


「可能性は排除できません」


「怖がらせないようにしてねー」


「もちろんです。誰にも気づかれないよう調査します」


 ミコトの笑みが深くなる。


 その言葉が、なぜか一番怖かった。


「一つ、気になる点があります」


 シズクが告げる。


「旧地下資料庫は、三十年前に完全封鎖されています」


「三年前に石板が送られたのに?」


「はい」


「誰かが封鎖された場所へ出入りしていたんだねー」


「その可能性が高いです」


「入口は?」


「一つだけです」


 立体図の一部が拡大される。


 旧地下資料庫へ続く隠し階段。


 その入口は、学院内のある建物に存在していた。


「どこかなー」


 ミコトが場所を示す。


「男子学生寮です」


「俺の住んでる建物だねー」


「さらに申し上げますと」


 シズクが、俺の学生寮の部屋番号を表示した。


「隠し階段の入口は、創設者様のお部屋の真下です」


 全員の視線が俺へ集まる。


「やはり、すべて見抜いておられたのですね」


「偶然だよー」


「偶然で、封印遺跡の上にある部屋を選ばれるとは思えません」


 セレスは完全に信じ込んでいる。


 俺だって、そんな偶然があるとは思わない。


 けれど本当に、何も知らずに選んだ。


 窓から中庭が見えて、食堂にも近かったからだ。


「アレン」


 ミコトの声が低くなる。


「昨夜、あなたのお部屋の真下で、誰かが隠し階段を使用した形跡が見つかりました」


「いつ?」


「あなたが最高幹部会議へ参加していた時間です」


 つまり、俺が部屋を空けることを知っていた者がいる。


「学院内に、我々の動きを把握している者がいる可能性があります」


 世界を滅ぼす災厄へ魔力を送る術式を、意図的に広めた何者か。


 その人物は、俺が平凡な学生として通っている学院の中にいる。


 しかも、俺の部屋の真下にある隠し通路を使っているらしい。


「学生寮まで物騒になってきたねー」


「今夜から我が同室で警護する!」


 通信映像の向こうで、ラグナが叫んだ。


「認めません」


 セレスが即答する。


「ならば私が隣室を購入します」


 ミコトが言う。


「学生寮は購入できないよー」


「学院ごと購入するわ」


 ヴィオラが平然と告げた。


「もっと駄目じゃないかなー」


「では、私が部屋へ防御結界を追加します」


 エルシアが立ち上がる。


「現在の枚数は?」


「百二十八枚です」


「十分だと思うよー」


「不十分です」


 敵より先に、仲間たちの過剰な警護で学生寮が壊れそうだった。


 平凡な学生生活を守るために作られたはずの警戒体制は、今夜からさらに強化されるらしい。


 そして俺はまだ知らなかった。


 俺の部屋の床下で。


 閉じたはずの隠し扉が、音もなく開き始めていることを。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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