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冗談で作った秘密結社が世界最大企業になっていた ~平凡な学生を演じる創設者の俺は、今さら全部作り話だったと言い出せない~  作者: てへろっぱ


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第58話 世界に十一か所ある古代の『帰還点』を調べたら、十か所全部《アウローラ》の拠点になっていました

《帰還点・十一》


《待機対象――一名》


《状態――未帰還》


表示された文字を見ても、さすがにその場で地下を掘ろうとは思わなかった。


思わなかったのだけれど。


「首領。本当に戻るのか?」


森へ出たところで、ラグナがもう三回目になる質問をしてきた。


「戻るよー」


「地下二十七メートルに、正体不明の古代施設があるのだぞ?」


「あるね」


「しかも貴様だけが文字を読める」


「みたいだね」


「掘りたくならぬのか?」


「なるけど、今日は掘らない」


ラグナが信じられないものを見るような顔をした。


その隣ではカレンが満足そうに頷き、シズクが小さく「成長」と呟いている。


最近、この扱いにも慣れてきた。


俺たちは《最初の家》跡から少し離れた共同調査隊の仮設拠点まで戻った。


地下施設そのものは封鎖。


《帰還案件・零号》への能動通信も停止。


古代構造物については、地盤を傷つけない遠隔測定だけ継続する。


誰か一人を現地へ残すこともしない。


決めたことを確認したあと、俺は普通に椅子へ座った。


するとセレスが少し離れた場所から俺を見ている。


「何?」


「いえ」


「また成長したと思ってる?」


「少し」


「もう今日だけで何回目だろうねー」


トーマが向かいの椅子へ座りながら言った。


「四百年前のお前がどれだけ信用なかったのか、だんだん気になってきたぞ」


「信用はあったよ?」


十人を見る。


誰も否定しない。


ただし、ヴィオラが苦笑した。


「信用はしていました。ただ、自分を大事にする部分だけは信用していませんでしたね」


「なるほど」


トーマが即座に納得した。


俺だけ少し納得していない。


そんなやり取りをしている間にも、エルシアは地下から持ち帰った測定結果を大型投影盤へ移していた。


今回分かった最大のことは、リーネたちが三百九十八年前から造り始めた地下施設より、さらに古い人工構造物が存在すること。


そしてその外周へ、


《第十一帰還点》


と刻まれていたことだ。


「問題は、この『第十一』です」


エルシアが世界地図を表示する。


「番号が十一から始まるとは考えにくい。通常なら、第一から第十までが存在したと推測すべきでしょう」


北方歴史学院の教授たちも同意する。


ただ、四百年前以前の文献を調べても《帰還点》という名称の遺跡は確認されていない。


「埋まってるとか?」


俺が尋ねると、教授の一人が頷いた。


「その可能性は高いでしょう。今回の第十一帰還点も、後世の地下施設が偶然ほぼ真上へ建設されなければ、発見されなかったはずです」


「偶然、ねえ」


トーマがその言葉へ妙な強調を入れた。


分かる。


ここまで来ると、俺も少し疑いたくなる。


俺たちが《最初の家》を建てた場所。


その後、リーネが帰還所を作った場所。


さらに現在まで《帰る場所》として維持された場所。


その真下に、何百年どころではなく古い《帰還点》がある。


全部偶然です、と言われると少し多い。


「ほかの十か所を探せないの?」


俺が聞くと、エルシアが一枚の古い術式図を出した。


「可能性はあります」


それは第十一帰還点の外周構造から読み取った魔力回路だった。


完全に機能しているわけではない。


むしろほとんど死んでいる。


それでも、十一番以外の場所へ何らかの信号を送るための接続痕跡が残っていた。


「この接続先を逆算します。ただし、現在の地形変動や魔力脈の移動があるため、正確な座標は――」


話している途中で、エルシアが止まった。


「どうしたの?」


「……おかしいですね」


「何が?」


「接続先候補を出す前に、既存の現代設備と一致しました」


世界地図へ十個の光点が追加される。


大陸北西部。


中央平原。


西部沿岸。


東方諸島。


南方砂漠。


山岳国家。


海峡都市。


大小さまざまな場所へ、十個。


トーマが地図を見つめる。


「これ、どっかで見たことある配置だな」


俺も見覚えがあった。


正確には場所を全部覚えているわけではない。


けれど、地図上でその十点を結んだ形には見覚えがある。


セレスが無言で別の情報を重ねた。


金色の印が世界各地へ現れる。


《アウローラ》の主要拠点。


現在では何千という支社や施設があるため、それだけなら世界中が印だらけになる。


セレスが表示対象を絞った。


「現存する主要拠点ではありません」


四百年前から現在までの歴史を遡る。


《アウローラ》という企業形態が成立する以前。


《ノクス・アウローラ》がまだ各地へ小規模な支援拠点を作っていた時代。


最初期に設置された十か所だけが残った。


それを古代帰還点の推定位置へ重ねる。


一つ目。


一致。


二つ目。


一致。


三つ目も。


四つ目も。


地図の光点が順番に重なっていく。


十個目まで。


全部だった。


誰もすぐには話さなかった。


俺が最初に口を開く。


「……偶然にしては、多いねー」


「ようやく貴様もそう思ったか!」


ラグナが机を叩いた。


トーマはもっと直接的だった。


「十か所全部なら、もう偶然って言わないんじゃないか?」


「でも、誰かが古代遺跡を知ってて拠点を作った可能性もあるよ」


そう言ってセレスを見る。


彼女は首を横へ振った。


「少なくとも、私たちは知りませんでした」


「十人とも?」


「はい」


ラグナが腕を組む。


「我が最初に西部へ騎士団拠点を置いたのは、戦争で家を失った者が多かったからだ」


ミコトも続けた。


「東方拠点。避難民が集まってた」


カレンは中央平原。


ヴィオラは海峡都市。


ノエルは北部街道。


十人がそれぞれ、最初の拠点を置いた理由を確認していく。


共通していたのは、古代遺跡でも魔力脈でもなかった。


人だった。


戦争から逃げた人。


住む場所を失った人。


遭難者が集まる場所。


孤児が多い地域。


長距離輸送の途中で人が行方不明になりやすい土地。


「要するに」


トーマが地図を見る。


「帰る場所が必要な人間が多いところを選んだら、全部古代の《帰還点》だった?」


「そうなります」


セレスの声は静かだった。


俺は少し考える。


「帰還点があるから人が集まったのかな?」


「可能性はあります」


エルシアが新しい測定結果を出した。


「第十一帰還点からは、極めて弱いですが継続的な魔力波が発生しています。人体へ直接作用する強度ではありません。ただし……」


「ただし?」


「《帰還》に関連する魔力反応だけ、わずかに増幅する性質があります」


例えば。


帰りたい。


ここへ戻りたい。


誰かを帰してあげたい。


そうした意志に反応する。


それが何百年、何千年と続けば、人の流れへ影響する可能性はある。


もちろん、現時点では仮説にすぎない。


「では我らは、古代装置に操られておったのか?」


ラグナの問いに、エルシアはすぐ首を振った。


「そこまで強い干渉は確認できません。少なくとも、意思を書き換えるような術式ではありません」


「ならば?」


「例えるなら……暗い場所に小さな灯りがあるようなものです」


進む方向を強制はしない。


けれど、迷っている人間からは見つけやすい。


「帰る場所を探している人間が、結果的に帰還点の近くへ集まりやすくなる?」


俺が聞くと、エルシアは頷いた。


「その可能性があります」


するとトーマが、ゆっくり俺を見る。


「お前も?」


「俺も?」


「四百年前、お前が十人連れて森を歩いてたんだろ?」


「そうだね」


「家を建てる場所を探してた」


「うん」


「で、《帰れる場所》を必要としてた」


そこまで言われると、分かってしまう。


俺は地図上の十一番を見る。


ここへ来た時。


どうして立ち止まったのか覚えていない。


ただ、ここにしようと思った。


理由は曖昧なまま。


「俺も呼ばれた?」


「可能性はあると思うぞ」


嫌な言い方だ。


でも、少し違和感もある。


「だったら、何で俺だけ文字が読めるんだろうね?」


部屋が静かになった。


そう。


それが説明できない。


帰還点が人を導く程度なら、俺だけ古代文字を理解できる理由にはならない。


北方歴史学院の専門家ですら読めない。


エルシアが術式として解析しても意味を取れない。


なのに俺は、見た瞬間に《第十一帰還点》と分かった。


「昔、同じ文字を見たことがあるとか?」


トーマに聞かれ、俺は首を傾げる。


「覚えてないなあ」


「四百年生きてるやつの『覚えてない』は信用しづらいんだよ」


「ひどいねー」


「昨日、自分で忘れ物から世界救難網の原型出しただろ」


それを言われると弱い。


セレスは俺ではなく地図を見ていた。


「一つ、確認したいことがあります」


「何?」


「十か所の初期拠点です」


彼女が最古の設立記録を並べる。


どれも十人が直接関わった場所だ。


そして、不思議な共通点がもう一つあった。


それぞれの拠点が作られた直後。


必ず最初の数か月以内に、


**誰か一人が帰ってきている。**


西部拠点では、戦死したと思われていた兵士。


東方では、三年間行方不明だった交易商。


北部では、雪山で遭難した調査員。


海峡都市では、漂流していた船員。


中央平原では、奴隷商に連れ去られていた子供。


どれも当時は、


《ノクス・アウローラ》の捜索活動が成功した例。


として記録されていた。


ただし詳しく調べると、おかしい。


「見つけたのは私たちではありません」


カレンが記録を読む。


「本人たちが、自力で拠点まで戻ってきています」


「場所を知らなかったのに?」


「はい」


一人なら偶然で済む。


二人でもあるだろう。


十か所全部。


しかも最初期だけ。


俺は少し嫌な予感がした。


「帰ってきた人たち、その後は?」


セレスが順に確認する。


九人は普通に暮らした。


家族のもとへ戻った者もいる。


《ノクス・アウローラ》へ残った者もいる。


長生きした者。


早く亡くなった者。


特に共通点はない。


「十人目は?」


誰も答えない。


セレスが最後の記録を開いた。


第七拠点。


現在の《アウローラ》南方医療統括都市。


三百五十一年前。


帰還者一名。


身元不明。


名前を尋ねても答えなかった。


拠点の外で倒れていたところを保護。


その人物についての記録は、わずか三日分しかなかった。


一日目。


治療。


二日目。


会話可能。


三日目。


消失。


「逃げた?」


トーマが尋ねる。


カレンが首を横へ振る。


「建物から出た記録がありません」


部屋。


窓。


廊下。


出入口。


当時としてはかなり厳重な監視が行われていた。


それでも、朝になるといなくなっていた。


残されていたのは、一枚の紙だけ。


保存された写本が表示される。


そこには短い文章があった。


《ここは違った》


その下。


《十一へ帰る》


誰も声を出さなかった。


「十一って……」


トーマが地図の一点を見る。


《最初の家》。


第十一帰還点。


「その人、こっちへ来た記録ある?」


「確認します」


セレスとエルシアが同時に記録を探す。


帰還所側。


リーネの管理記録。


地下施設建設記録。


三百五十一年前。


該当する時期。


一件だけあった。


《外部来訪者 一名》


《氏名申告なし》


《帰還標反応なし》


《本人は「ここへ帰ってきた」と主張》


俺は記録を覗き込む。


「リーネは会ってる?」


「はい」


続きには、リーネ本人の記録が残されていた。


《来訪者は若い男性に見える》


《年齢不明》


《食事不要》


《睡眠を確認できず》


《魔力波形、人類既知種と一致せず》


そして。


《地下を開けてほしいと要求》


そこから、記録の文章が急に短くなる。


《拒否》


《再要求》


《拒否》


《相手、アレン・クロフォードの名を出す》


俺は眉を上げた。


三百五十一年前。


その時、俺はもうとっくに姿を消している。


《「彼なら開ける」と主張》


《私は「だから開けない」と回答》


トーマが吹き出した。


「会ったことないのに、お前の扱い完璧じゃねえか」


「セレスの日記読んでたからねー」


「日記の教育効果が高すぎる」


セレスは複雑そうだった。


記録は続く。


《来訪者、帰還点十一の開放を要求》


《目的を質問》


《回答――》


そこで一度文章が途切れる。


古い記録の損傷部分をエルシアが補正する。


やがて最後の一文が浮かび上がった。


《帰還対象を迎えに来た》


俺たちは《第十一帰還点》の表示を思い出す。


《待機対象――一名》


《状態――未帰還》


三百五十一年前。


その誰かを迎えに来た者がいた。


しかしリーネは扉を開けなかった。


「その後は?」


セレスが次を読む。


《来訪者、地下施設内で消失》


「また消えたのか」


トーマが顔をしかめる。


ただ。


今回は紙が残されていた。


リーネはその文章まで記録している。


《また来る》


そして。


《首領が帰れば、門も帰る》


俺はしばらく、その一文を見ていた。


「門も帰る?」


人ではない。


帰還点そのもの。


あるいは。


帰還点の向こう側にある何か。


エルシアが世界地図へ十一個の帰還点を表示する。


そのうち十個には、《アウローラ》の最初期拠点がある。


十一番には、《最初の家》。


まるで俺たちが何百年もかけて。


知らないうちに全部の帰還点を拾い集めたように見える。


「セレス」


「はい」


「これ、俺がいなくなったあとに十か所作ったんだよね?」


「そうです」


「誰かに場所を指定された?」


「一度もありません」


「地図を共有して選んだとか?」


「それもありません。必要な場所へ、それぞれが拠点を作った結果です」


俺は頭をかいた。


「じゃあ本当に偶然、全部取ったんだ」


トーマが即座に言う。


「だから十個一致した時点で、その言葉やめろ」


「でも俺たち、狙ってないよ?」


「狙ってないから余計に怖いんだよ!」


それはそうかもしれない。


俺が冗談で作った秘密結社は、本物の世界最大企業になった。


冗談で作った災厄には、本物の元らしき何かがいた。


子供たちを迷子にしないための帰還標は、世界規模の救難網になった。


そして。


俺たちがただ困っている人を助けるために広げた拠点は。


遥か昔に作られた十一個の《帰還点》を、いつの間にか全部覆っていた。


「……俺たち、何かの続きをやってたのかな」


思わず口にした。


誰も答えられない。


俺自身も分からない。


でも。


それだけは、今までとは少し違う気がした。


今までは。


俺の冗談や小さな行動が、後世で大きくなった話だった。


今回は逆だ。


俺たちより遥か昔から存在した何かの上を。


俺たちが知らないまま、同じ形で歩いている。


その時。


エルシアの端末が警告音を鳴らした。


《世界帰還網・異常同期を検出》


「何?」


エルシアがすぐに情報を開く。


十か所。


現在の《アウローラ》主要拠点の地下。


これまで通常の地脈反応だと思われていた場所から、同時に信号が発生している。


第一。


第二。


第三。


順番に。


十個の地点が点灯した。


最後に。


俺たちがいる第十一帰還点。


十一個すべてが、一本の線でつながる。


《帰還点網――再接続》


その下に、新しい表示。


《十一地点確認》


《帰還経路復旧率――一〇〇%》


エルシアの顔色が変わった。


「アレン」


「うん」


「まずいかもね」


「かなり」


俺が《最初の家》へ帰ってきたことで。


四百年どころではない昔に止まった古代の帰還網が。


世界中で再起動している。


そして最後に表示された文章は。


俺だけが読める古代文字ではなかった。


現代語だった。


まるで。


今の俺たちに読ませるために。


たった今、書き換えられたように。


《全帰還点、開通》


《迎え入れ準備を開始》


続いて。


《未帰還者――帰還を開始します》


待機対象は一名。


しかし。


表示された到着予定数は。


《一》


ではなかった。


《帰還予定数――十一》


俺たちが探していた《未帰還者》は。


最初から一人ではなかったらしい。

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