↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冗談で作った秘密結社が世界最大企業になっていた ~平凡な学生を演じる創設者の俺は、今さら全部作り話だったと言い出せない~  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/67

第59話 世界中の帰還点を全部止めたら、最初に帰ってきた少女が『十一人いるのはおかしい』と言った

《全帰還点、開通》


《迎え入れ準備を開始》


《未帰還者――帰還を開始します》


《帰還予定数――十一》


世界地図の上で、十一個の光点が同時に明滅している。


しばらく眺めたあと、俺はエルシアへ尋ねた。


「これ、止められる?」


「確認します」


返事をしながら、彼女はもう術式解析を始めていた。


昔の俺なら、十一人が帰ってくると言われれば、とりあえず一人くらい迎えてから考えようとしていた気もする。


でも今回は、すでに《黎明喰らい》という前例がある。


帰りたい人間の声を使う。


帰還経路を逆に辿る。


俺の名前まで使う。


そんなものが関わっている以上、「帰還者」と表示されたからといって、そのまま全員を通すわけにはいかない。


「強制停止は難しいですが、受け入れ承認を保留できます」


「じゃあ十一か所全部お願い」


「すでに十地点へ停止指示を送っています」


セレスが横から言った。


いつの間にか世界規模の緊急通信網を開いている。


投影盤の端へ、各地の《アウローラ》拠点から次々と応答が届いた。


《第一地点、受入保留》


《第二地点、帰還区画封鎖完了》


《第三地点、周辺職員退避済》


《第四地点、医療班待機》


《第五地点――》


速い。


十地点すべてから報告が揃うまで、三十秒も掛からなかった。


トーマが世界地図とセレスを交互に見る。


「今さらだけどさ」


「何?」


「世界中の謎の古代施設が突然起動して、それを三十秒くらいで全部止められる学生って何なんだ?」


「止めたの俺じゃないよー」


「お前の横に世界最大企業の会長がいることも含めて言ってるんだよ!」


それは俺に言われても困る。


セレスはすでに次の指示を出していた。


「各地点、武装部隊は第二線で待機させてください。帰還区画へ入るのは、医療、魔力汚染検査、通訳担当を優先。相手が敵対行動を取らない限り、武器を向けないこと」


ラグナが腕を組む。


「最初から包囲しておいたほうが安全ではないか?」


「帰ってきた瞬間、知らない人たちに剣を向けられるの嫌じゃない?」


俺が言うと、ラグナは少し考えた。


「……確かに、帰還者であった場合は不愉快であろうな」


「でしょ?」


敵かもしれない。


でも、本当に何百年、何千年と帰れなかった人かもしれない。


なら最初から敵として扱うのは違うと思う。


必要なのは、歓迎と警戒を同時にやることだ。


「食べられる状態か分からないから、食事は検査後。でも水と毛布は準備しておいて」


「各拠点へ追加します」


セレスが指示内容を書き換える。


その様子を見ていた北方歴史学院の教授が、小さく呟いた。


「帰還者受入手順……」


「何か変ですか?」


「いえ。むしろ逆です」


教授は世界地図を見た。


十一地点のうち十地点。


現在ではすべて《アウローラ》系列の主要施設になっている。


医療拠点。


物流拠点。


避難所。


研究施設。


通信中継地。


災害時の物資集積所。


「まるで最初から、誰かが帰ってきた時に対応できるよう整備された場所ばかりです」


「でも、そんなつもりで作ってないですよ?」


セレスが頷く。


「ありません。必要な場所へ必要な施設を置いただけです」


それが結果として。


何千年も止まっていた帰還点を、十か所全部守る形になっていた。


世界最大企業になった今では、どこで誰が帰ってきても。


治療できる。


食べさせられる。


連絡できる。


家族がいるなら探せる。


帰る場所がないなら、しばらく住ませることさえできる。


俺は地図を見ながら、少し笑った。


「便利になったねー」


トーマがこっちを見る。


「お前、その一言で世界最大企業の存在意義をまとめるなよ」


「だって昔は、誰か拾ったら寝床増やすところからだったし」


「比較対象がおかしい」


けれど実際、やっていることは四百年前とそれほど変わっていないのかもしれない。


困っている人が来る。


寝る場所を作る。


食べ物を用意する。


必要なら治す。


帰りたいなら帰す。


人数と規模だけが、かなり大きくなった。


「アレン」


エルシアに呼ばれ、投影盤へ近づく。


「十一地点すべて、受け入れ直前で保留できました。ただし完全停止ではありません」


各帰還点に、


《受入承認待機》


と表示されている。


「向こう側との接続自体は?」


「成立しています。ですが、こちらが承認しなければ実空間への帰還は始まりません」


「それなら一人ずつにしよう」


カレンが俺を見る。


「帰還させるのですか?」


「一人はね。何も分からないまま十一人全部止め続けるのも違うと思う」


もちろん、誰でもいいわけではない。


十一地点の中から、もっとも安全に対応できる場所を選ぶ。


エルシアとセレスが候補を絞った結果、選ばれたのは第七帰還点だった。


南方医療統括都市。


三百五十一年前、身元不明の来訪者が《十一へ帰る》と書き残した場所でもある。


現在は《アウローラ》最大級の医療研究都市になっており、魔力汚染や未知の感染症へ対応できる隔離区画もある。


「第七地点だけ受け入れ承認。他はそのまま待機で」


「承知しました」


現地側との映像通信が開く。


白い壁に囲まれた広い区画。


中央には、古代施設が存在すると思われる床面がある。


周囲には医療担当者が待機しているが、剣や杖を構えている者はいない。


武装部隊はさらに二枚の隔壁の向こう。


俺の指示ではなく、すでにそう配置されていた。


「セレス」


「はい?」


「いい組織になったね」


彼女は少し驚いたあと、嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます」


エルシアが第七地点への承認術式を確認する。


「開きます」


「お願い」


《第七帰還点》


《受入承認》


《帰還処理を開始》


映像の中で、床へ円形の光が広がった。


いきなり人が飛び出してくるわけではない。


最初に薄い膜のようなものが現れ、その向こうへ別の空間が見え始める。


暗い。


ほとんど何もない場所。


その中央に、人影があった。


小さい。


「子供?」


トーマが呟いた。


俺にもそう見えた。


人影はこちらを向いている。


やがて接続が安定すると、姿がはっきりした。


十五、六歳くらいだろうか。


肩より少し長い灰色の髪。


見たことのない形の白い服。


両腕へ黒い帯のようなものを巻いている。


武器らしいものは持っていない。


少女は光の向こう側から、こちらを何度も確認していた。


その顔には喜びより、不安のほうが強く出ている。


エルシアが警告する。


「魔力波形、人類系統と高確率で一致。ただし既知人種との完全一致なし」


「《黎明喰らい》の反応は?」


「現時点で検出されません」


現地の担当者が古代言語で何か話しかける。


通じない。


少女も返事をしたが、こちらには理解できなかった。


「言葉違うね」


「当然だろ。何千年前かも分からないんだぞ」


トーマに言われて、それもそうだと思う。


ただ。


その少女がこちら側へ一歩踏み出した時。


俺には彼女の言葉が分かった。


『――帰って、いいの?』


古代帰還点の文字と同じだった。


耳で聞いた言語そのものは知らない。


それなのに意味だけが直接分かる。


「いいよー」


反射的に答えてから気づいた。


現地にいる少女が、こちらを見た。


正確には。


映像通信の向こうにいる俺を。


『……聞こえた?』


「うん」


エルシアが俺を見る。


トーマも。


セレスたちも。


どうやら俺以外には意味が分かっていない。


「今、『帰っていいの?』って聞いた」


俺が訳すと、セレスが少しだけ息を呑んだ。


少女は警戒したまま、もう一度何か言った。


『家は?』


「残ってるよ」


自分でも、何を指しているのか分からない。


それでも。


そう答えるのが正しい気がした。


少女の顔が歪んだ。


泣きそうになったのだと思う。


それでも泣かずに、一歩。


光の膜を越えた。


《第七帰還点》


《帰還成立》


現地の医療担当者たちはすぐには近づかない。


まず少女自身が周囲を確認できる時間を作った。


少女は床を触る。


壁を見る。


天井を見る。


知らないものばかりなのだろう。


そして。


「……あさ」


今度は、こちらの言葉で呟いた。


発音は不自然だった。


けれど意味は分かる。


窓の外。


南方都市は昼間だった。


明るい陽光が、医療区画へ差し込んでいる。


少女はそれを見たまま動かなかった。


やがて両手で顔を覆った。


泣き声は出さない。


ただ肩だけが震える。


現地担当者が毛布を差し出すと、少女は驚いたあと、ゆっくり受け取った。


ラグナが腕を組んだまま、ぽつりと言う。


「敵には見えぬな」


「今のところはね」


それでも警戒は続ける。


少女が落ち着くまで待ち、魔力汚染、肉体状態、空間付着物の検査を行う。


すべて問題なし。


そして簡易翻訳術式が、少しずつ彼女の言語を解析し始めた。


およそ二十分後。


会話ができる程度まで精度が上がった。


現地の担当者が名前を尋ねる。


少女は少し考えてから答えた。


「ユノア」


さらに。


「第七帰還者、ユノア」


セレスが記録する。


俺は通信越しに尋ねた。


「どこから帰ってきたの?」


翻訳術式を通して質問が届く。


ユノアは困ったような顔をした。


「分からない」


「分からない?」


「外」


それ以上の表現がないらしい。


場所でも国でもない。


世界の外なのか。


空間の外なのか。


まだ判断できない。


「どれくらい向こうにいた?」


「八日」


今度は全員が黙った。


トーマが聞き返す。


「八日?」


ユノアは頷く。


「七人で出た日から……八日。違う?」


外見年齢も、出発した頃からほとんど変わっていないらしい。


こっちでは、いったい何年経ったのか。


北方歴史学院の教授が慎重に古代施設の年代推定を伝える。


少なくとも。


数百年前ではない。


千年単位。


もしかすると、それ以上。


翻訳された数字を聞いたユノアは、しばらく何も話さなかった。


それでも取り乱さなかった。


ただ、窓の外の朝をもう一度見てから、小さく言った。


「間に合ったんだ」


俺はその言葉が気になった。


「何に?」


ユノアがこちらを見る。


「夜が終わる前に帰るって、約束した」


夜。


またその言葉だ。


「《黎明喰らい》を知ってる?」


その名前だけは翻訳せず、古代語で伝えた。


ユノアの表情が変わった。


「その名前、誰がつけたの?」


「俺」


「……あなたが?」


「四百年くらい前に。冗談で」


トーマが横から言う。


「そこを毎回正直に説明するのすごいな」


「嘘ついても仕方ないし」


ユノアは俺の顔をじっと見ている。


やがて、首を横へ振った。


「私たちは、その名前では呼んでない」


「じゃあ何て?」


答えようとして。


彼女は口を閉じた。


「言わないほうがいい」


「名前を言うと何か起きる?」


「名前を知ると、向こうもあなたを知る」


なるほど。


だったら聞かない。


「分かった。じゃあ言わなくていいよ」


ユノアが少し驚いた。


「聞かないの?」


「危ないんでしょ?」


「……うん」


「なら後で安全な方法考えよう」


また十人が俺を見る。


「何?」


「いえ」


セレスが微笑む。


「本当に成長したと思いまして」


「また?」


今回ばかりはトーマまで頷いた。


「これは褒めていいかもしれない」


どうやらかなり評価が低かったらしい。


ユノアはそんな俺たちのやり取りを不思議そうに見ていた。


少し緊張が解けたようなので、もう一つだけ質問する。


「ほかにも帰ってくる人がいるみたいなんだけど、知ってる?」


「ほか?」


「帰還予定数が十一になってる」


その瞬間。


ユノアの顔から表情が消えた。


「十一?」


「うん」


「もう一回」


「十一人」


彼女は立ち上がった。


現地担当者が身構えるが、ユノアは攻撃しない。


ただ映像通信へ近づいた。


「帰還点はいくつ動いてる?」


「十一全部」


「帰ってくる予定も?」


「十一」


「違う」


即答だった。


「何が?」


「人数」


ユノアは首を横へ振る。


「十一人じゃない」


エルシアの手が止まる。


「本来は何人ですか?」


翻訳された質問に、ユノアが答えた。


「十人」


世界地図の十一個の光点を見る。


「帰還点は十一個だよ?」


「うん」


「じゃあ十一番は?」


ユノアが当然のことのように言った。


「十一番には、誰も割り当てない」


地下施設で見つけた表示を思い出す。


《帰還点・十一》


《待機対象――一名》


《状態――未帰還》


話が合わない。


「どうして十一番だけ空けてあるの?」


俺が尋ねる。


ユノアは少しだけ目を伏せた。


「十個は、帰る人のため」


そこで一度言葉を切る。


「十一番は、帰る場所がなくなった人のため」


俺たちが四百年前。


何も知らずに家を建てた場所。


誰でも帰ってこられるようにと、《ノクス・アウローラ》を残した場所。


そこだけは昔から。


特定の誰かのためではなかった。


「だから十一番には、名前を登録しない」


「でも今は一人登録されてる」


「だったら」


ユノアの声が震えた。


「それは私たちじゃない」


エルシアが第十一帰還点を確認する。


《受入承認待機》


まだ扉は開いていない。


だが。


《待機対象――一名》


その表示だけは消えていない。


さらに世界帰還網の予定表を分離する。


第一から第十。


それぞれ一名。


合計十名。


そして。


第十一。


一名。


確かに十一人目がいる。


「ユノア」


俺は尋ねた。


「十一番から誰か帰ってきたら、どうすればいい?」


彼女はすぐには答えなかった。


何千年もの時間を越えて帰ってきたばかりの少女が。


初めて本気で怯えた顔をした。


「開けないで」


リーネと同じだった。


「絶対に?」


「絶対」


「誰がいるの?」


ユノアは第十一帰還点の表示を見つめる。


そして。


「私たちが外へ逃げた日」


静かに話し始めた。


「十人全員が帰還点を使ったあと、十一番だけは最後まで残した」


帰る場所を失った誰かが現れた時のために。


誰の名前も登録せず。


誰でも受け入れられるように。


「でも、最後に一度だけ」


ユノアの手が震えた。


「十一番の認証が動いた」


「誰か来た?」


「違う」


「じゃあ?」


「中からじゃない」


彼女はこちらを見る。


「私たちが逃げたあと」


「帰還点の外から」


「誰かが十一番に、自分を帰還者として登録しようとしてた」


俺の頭に。


四百年前の古い記録が蘇る。


《要求された帰還者名――アレン・クロフォード》


まだ《黎明喰らい》という名前すら存在しなかった夜。


俺が家の中で眠っていた時。


外から俺の名前を使い。


帰ってきたと言った何か。


ユノアは知らないはずの名前を、古い発音で口にした。


その意味だけが、俺には分かった。


「帰れないもの」


そして続ける。


「帰る場所を持ってはいけないもの」


エルシアの端末が警告音を鳴らした。


《第十一帰還点》


《受入承認待機――解除》


「解除してません!」


エルシアが叫ぶ。


俺たちの操作ではない。


第十一帰還点だけが、自分で承認状態を変更している。


《帰還者認証開始》


《対象情報照合》


セレスが即座に世界帰還網の切断を指示する。


「第十一だけ物理遮断してください!」


だが処理が進む。


《氏名確認》


俺は表示を見る。


《アレン・クロフォード》


トーマが俺の腕を掴んだ。


「お前、ここにいるよな?」


「いるねー」


「確認したかっただけだ!」


さらに表示。


《魔力波形照合》


《不一致》


そこまでは四百年前と同じだった。


しかし。


今回は次の一行が違った。


《代替認証を要求》


《帰還条件――帰る場所を継ぐ者》


第十一帰還点が検索を始める。


四百年前。


リーネ。


その後の帰還所管理者たち。


《ノクス・アウローラ》。


《アウローラ》。


世界中へ広がった帰還網。


何百年もの記録が一つにつながっていく。


そして。


《条件成立》


エルシアの顔色が変わる。


「まずいです!」


第十一帰還点が、俺本人としてではなく。


俺たちが四百年かけて残した《帰れる場所》そのものを鍵にして。


向こう側の何かを認証しようとしている。


最後の表示が現れた。


《帰還者名――登録不能》


《帰還先――ノクス・アウローラ》


俺が子供たちとの冗談で作ったはずの秘密結社。


その名前を。


何千年も前から帰れなかった何かが。


自分の帰る場所として選んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。