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冗談で作った秘密結社が世界最大企業になっていた ~平凡な学生を演じる創設者の俺は、今さら全部作り話だったと言い出せない~  作者: てへろっぱ


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第35話 王宮で「みんなと同じ部屋でいい」と言ったら、最高幹部十人が廊下の向かいを「連絡室」にした



 旧商業区を出た頃には、王都の空が赤く染まり始めていた。


 俺たち学生四十八人と教師六人は、レティシア王女に案内されながら王宮へ向かう。


 後ろから《アウローラ》の三千二百人がぞろぞろ付いてくる――ということはなかった。


 さすがに王都でそれをやると迷惑だと理解したらしく、大部分は支社や展示施設、宿泊施設へ散っている。


 ただし。


「アレン」


「何かなー」


「右後ろ」


 トーマが前を向いたまま、小声で言った。


「うん」


「三十メートルくらい後ろに、新聞を逆さに持ってる女がいる」


「いるねー」


「左の露店」


「うん」


「さっきから同じリンゴを十五分くらい眺めてる奴がいる」


「悩んでるんじゃない?」


「リンゴ一個に十五分悩むな!」


 その声に反応したのか、露店の前にいた女性が慌ててリンゴを買った。


 直後。


 耳元の通信具へ何か囁く。


「報告してるぞ!」


「何を?」


「俺が聞きたい!」


 普通に振る舞う。


 どうやら《アウローラ》にとって、かなり難しい仕事らしい。


     ◇


 王宮は、近くで見るとさらに大きかった。


 白い石造りの城壁。その奥には大小いくつもの宮殿があり、中央には青い尖塔を持つ本宮がそびえている。


 学院の寮を何十個並べても入りそうだ。


「すごいねー」


「でしょう?」


 隣を歩くレティシア王女が、少し誇らしそうに笑った。


「王宮そのものは約四百年前に建てられました。増改築を繰り返しているので、古い区画と新しい区画が混在しています」


「迷いそう」


「実際、初めていらした方はよく迷います」


「殿下も?」


「私は生まれた場所ですよ?」


「じゃあ大丈夫かー」


「……七歳の頃、一度だけ迷いました」


「迷ってるじゃんー」


「昔の話です!」


 少しだけ頬を赤くする。


 王女というより、普通の女の子みたいだった。


「アレン」


 後ろからトーマが囁く。


「何?」


「王女様にその喋り方できるお前、本当にすごいな」


「普通に話してるだけだよー」


「それができねえんだよ」


 そうなのだろうか。


 レティシア本人が気にしていないのだから、いい気がする。


     ◇


 王宮へ入ると、最初に滞在中の説明が行われた。


 学生たちが泊まるのは、本宮から少し離れた東側の迎賓宿舎。


 外国から来た学生や研究者のために使われる建物らしく、一室四人。


 食堂。


 浴室。


 談話室。


 小さな中庭まで付いている。


「よかった」


 俺は配られた部屋割りを見る。


「トーマと同じ部屋だねー」


「おう」


「あと二人も同じクラスだ」


「修学旅行っぽくなってきたな」


「教育交流だよー」


「お前がそれ言うのかよ!」


 さっきまで旅行と言っていたのは俺だけど。


 細かいことだ。


「それでは」


 案内役の侍従が続ける。


「クロフォード様につきましては――」


「はい?」


「別途、西迎賓宮にお部屋をご用意しております」


「……」


 俺は部屋割りを見る。


 もう一度、侍従を見る。


「俺?」


「はい」


「どうして?」


「第二王女殿下の専属案内対象であり、また《アウローラ》側からも重要な――」


「待ってください」


 レティシア王女が止めた。


 侍従が口を閉じる。


 王女は俺の顔を見てから尋ねた。


「アレンさんは、どちらを希望されますか?」


「みんなと同じでいいですよー」


 即答した。


「せっかく学院のみんなと来たんだし」


「承知しました」


 レティシア王女も即答した。


「では、当初の部屋割り通りに」


「殿下?」


「本人の希望です」


「しかし――」


「今回の主目的は教育交流です。特別扱いをして学生同士の交流を妨げる方が、目的に反するでしょう」


 侍従が少し考え、頭を下げる。


「承知いたしました」


「ありがとうございますー」


「いえ」


 レティシア王女が笑う。


「私も、その方がアレンさんらしいと思います」


「そう?」


「はい」


 話は終わった。


 簡単だった。


 ところが。


 少し離れたところにいた十人の最高幹部たちは、なぜか全員が黙っていた。


「セレス?」


「はい」


「どうしたの?」


「何でもありません」


 にこり。


「ラグナ?」


「問題ない」


「エルシア?」


「問題ない」


「ミコト?」


「……」


「ミコト?」


「情報整理中」


「何の?」


「部屋割り」


「俺の?」


「全体」


 一拍。


「主にアレン」


「やっぱり俺じゃんー」


     ◇


 荷物を置くため、俺たちは東迎賓宿舎へ移動した。


「おお!」


 部屋へ入ったトーマが声を上げる。


「結構いいじゃん!」


「広いねー」


 四つの寝台。


 中央に丸机。


 窓からは王宮の庭園が見える。


 学院の寮より少し広いくらいで、確かに学生向けの宿舎だった。


「俺、窓側」


「いいよー」


「アレンは?」


「どこでもいい」


「じゃあ隣な」


 残り二人の同級生も荷物を置き始める。


 やっと。


 本当に。


 普通の学生旅行――ではなく。


 教育交流らしくなってきた。


「夕食まで一時間あるな」


「談話室行く?」


「その前に荷物ほどこうぜ」


「そうだねー」


 そのとき。


 廊下から。


 がたがたがた。


 何か。


 重いものを運ぶ音がした。


「……」


 トーマと目が合う。


「何だ?」


「分からないねー」


 扉を開けた。


 向かい側の部屋。


 さっきまで。


 確か。


 空き部屋だった。


 そこへ。


 机が運び込まれている。


 通信装置。


 書類棚。


 魔導端末。


 救急箱。


 飲み物。


 簡易寝台。


「……」


「……」


 さらに。


 扉の上。


 新しい札が取り付けられた。


 ――《教育交流支援臨時連絡室》。


「アレン」


「うん」


「嫌な予感するよな」


「最近、トーマのが移ったかも」


「俺のせいにすんな」


 部屋の中から。


 リゼットが出てきた。


「アレン」


「リゼット」


「はい」


「何してるの?」


「業務です」


「ここで?」


「はい」


「《アウローラ》の支社あるよね?」


「あります」


「王宮にも企業代表用の部屋あるよね?」


「あります」


「どうして」


 俺は。


 自分たちの部屋。


 向かいの部屋。


 見比べる。


「ここなの?」


「連絡効率を考慮しました」


「誰との?」


「現地参加者です」


「俺?」


「……含みます」


「ほぼ俺?」


「その質問への回答は」


 一秒。


「業務上不要と判断します」


「答えたくないんだねー」


「はい」


 正直だ。


「ちなみに」


 トーマが聞く。


「ここ、誰が使うんです?」


「《アウローラ》教育交流支援担当者です」


「何人?」


「交代制です」


「だから何人?」


「十名」


「最高幹部全員じゃねえか!」


 やっぱり。


     ◇


「おかしいと思う」


 夕食前。


 東迎賓宿舎の談話室。


 俺は十人へ言った。


「何がでしょう?」


 セレスが首を傾げる。


「連絡室」


「必要です」


「王宮の反対側に本物の連絡室あるよねー」


「遠いです」


 リゼット。


「徒歩六分四十二秒を要します」


「近いよー」


「緊急時には致命的です」


「何の緊急?」


「さまざまです」


「例えば?」


「……」


 リゼットが考える。


「寝具が合わない」


「王宮の人に言うよー」


「飲料水が不足する」


「廊下にあるよー」


「急病」


「医務室あるねー」


「寂しい」


「誰が?」


「……」


 全員。


 黙った。


「みんな?」


「次の議題へ移ります」


 セレスが言った。


「逃げたねー」


「円滑な会議運営です」


「会議だったの?」


 普通に話しているだけだと思っていた。


「そもそも」


 俺は十人を見る。


「みんな、どこに泊まるの?」


「西迎賓宮です」


 カレンが答える。


「さっき俺用だったところ?」


「はい。企業代表団用としても確保されていますので」


「じゃあ、そっちで休めばいいじゃん」


「休みます」


「連絡室はいらないんじゃ?」


「必要です」


 今度は。


 十人。


 全員だった。


「そんなに?」


「はい」


 揃った。


 仕方ない。


「まあ」


「うん」


「仕事ならいいけど」


 十人の表情が。


 明るくなった。


「ただし」


 一斉に固まる。


「夜はちゃんと寝てねー」


「……」


「交代で徹夜とかしないこと」


「……」


「聞いてる?」


「はい」


 セレスが。


 少しだけ。


 困ったように笑った。


「分かりました」


「よし」


 これで解決。


「あと」


 俺は続ける。


「俺も友達といるから」


「はい」


「用がないときは来なくていいよー」


「……」


「……」


「……」


「何で全員そんな顔するの?」


「いえ」


 ヴィオラが扇を開く。


「覚悟していたことよ」


「何の?」


「子どもはいつか」


「うん」


「親元を離れるものだもの」


「俺が親じゃない?」


「似たようなものよ!」


「違うと思うなー」


     ◇


 夕食は王宮の大食堂だった。


 ただし正式な晩餐会ではなく、学生交流用の気軽な形式らしい。


 長いテーブルへ料理が並べられ、好きなものを取って座る。


 肉料理。


 魚料理。


 野菜。


 スープ。


 パン。


 果物。


 昼間食べたものとは違う王宮料理だけど、堅苦しくない。


「アレン!」


「うん?」


「これうまいぞ!」


 トーマが串焼きを持ってくる。


「どれ?」


「これ」


「一個もらう」


「自分で取れよ!」


「近いじゃんー」


「仕方ねえな」


 一本もらう。


 香草が強い。


「おいしい」


「だろ?」


「お前たち」


 同級生の一人が笑う。


「普段と何も変わらないな」


「外国だからって急に変わらないよー」


「お前はもう少し緊張しろ」


「何で?」


「ここ王宮だぞ」


「ご飯食べるところでしょ?」


「その認識できるのお前くらいだよ!」


 みんな。


 楽しそうだ。


 やっぱり。


 同じ部屋にしてもらってよかった。


「こちら」


「空いていますか?」


「はいー」


 顔を上げる。


 レティシア王女だった。


 学生たち。


 一斉に。


 固まる。


「どうぞ」


 俺が椅子を引く。


「ありがとうございます」


 レティシア王女が俺の隣へ座った。


「……」


「……」


「……」


 同じテーブル。


 静か。


「みんな食べないの?」


「食えるか!」


 トーマだけが返した。


「何で?」


「王女様が横にいるんだぞ!」


「私のことはお気になさらず」


 レティシア王女が笑う。


「今夜は公式晩餐ではありません。皆様と同じ交流参加者として席を用意していただきました」


「それでも王女様でしょうが!」


「では」


 王女が。


 少し考える。


「皆様が食べ始めるまで、私も食べません」


「えっ」


「……」


「……」


 トーマ。


 串焼きを。


 食べた。


「うまい!」


「それでいいの?」


「王女様を空腹にさせるよりマシだ!」


「賢いねー」


「お前が原因だ!」


 そこから。


 少しずつ。


 会話が始まった。


     ◇


 最初は緊張していた学生たちも、レティシア王女が思ったより普通に話すことに気づくと、徐々に質問を始めた。


「王女殿下も学校へ通われているんですか?」


「はい。王立高等学院に籍があります」


「護衛付きで?」


「基本的には」


「友達と買い物とかは?」


「……」


 王女が。


 少し困ったように笑う。


「難しいですね」


「やっぱり?」


「私が店へ入ると、店主が全商品を無料にしようとしますので」


「あー」


 分かる気がする。


「断るのですが」


「はい」


「翌日、王宮へ代金が返送されます」


「大変ですねー」


「アレンさんに言われると」


「うん?」


「不思議な気分です」


「何で?」


「いえ」


 王女が笑う。


「何でもありません」


 その表情を見て。


 少し思った。


 王女も。


 普通の買い物とか。


 普通の食堂とか。


 そういうことをしてみたいのかもしれない。


「じゃあ」


「はい?」


「明日」


 俺は言った。


「普通に買い物しましょうか」


「……」


「市場だけじゃなくて」


「うん」


「学生街とかも行くんでしょ?」


「はい」


「俺たちがいたら」


「多少は普通のお客さんっぽくできるかも」


「……アレンさん」


「はい?」


「それは」


 レティシア王女が。


 ほんの少し。


 頬を赤くする。


「例の一時間とは」


「別ですよー」


「……」


 後ろ。


 別のテーブルから。


 十人分の。


 安堵したような音が聞こえた。


「何でそこ反応したの?」


「反応しておりません」


 セレス。


「したよー」


「偶然です」


 便利だなー。


     ◇


 食事の途中。


 レティシア王女が、昼間の旧商業区について話し始めた。


「先ほど王都商業組合から連絡がありました」


「何かあった?」


「旧商業区の来客が、夕方になっても普段より多いそうです」


「へえー」


「菓子店だけでなく、周辺の店にも客が流れています」


「よかったですねー」


「はい。ただ」


 王女が。


 《アウローラ》側を見る。


「一時的なものになる可能性もあります」


「そうだねー」


「それに」


 俺も。


 同じ方を見る。


「みんなが買い続けたら駄目だよー」


「……」


 十人。


 姿勢が正しくなる。


「俺が好きって言ったからって」


「はい」


「《アウローラ》の人だけで店を埋めたら」


「はい」


「普通のお客さん来られないでしょ?」


「おっしゃる通りです」


 セレスが答える。


「すでに買い占め禁止を通達しております」


「ならいいや」


「ただし」


 レティシア王女が。


 少し身を乗り出した。


「アレンさんが言っていたことは、興味深いと思いました」


「何だっけ?」


「古いものを隠さなくてもいい」


「あー」


「新しい中央市場と同じことをしても勝てない」


「言ったねー」


「旧商業区には、昔から残る工房や店が多くあります」


「うん」


「それを弱みではなく」


 王女は。


 少し考えるように言葉を選ぶ。


「その場所へ行く理由にできるのではないかと」


「できるんじゃない?」


「簡単に言いますね」


「俺、商売の専門家じゃないし」


「……」


 向こうの席で。


 ヴィオラが。


 盛大にむせた。


「ヴィオラ?」


「何でもないわ!」


「金融の専門家いたねー」


「いるわよ!」


「じゃあ後で聞けばいいや」


「……ほんと」


 ヴィオラが。


 少し笑う。


「あなたって人は」


「何?」


「何でもないわ」


 最近。


 何でもないことが多い。


     ◇


 夕食後。


 明日の予定表が配られた。


 午前。


 王立高等学院との合同授業。


 昼。


 学生食堂で交流昼食。


 午後。


 王都職人街と学生街の見学。


 そして。


 十六時から十七時。


 自由時間。


「アレンさん」


「はい」


 レティシア王女が。


 予定表の最後を指さした。


「ここです」


「うん」


「約束の一時間」


「覚えてますよー」


「……」


「そんなに忘れそうに見える?」


「少し」


「ひどいなー」


「七日前のお約束なので」


「七日くらい覚えてるよー」


「では」


 レティシア王女。


 嬉しそうに笑った。


「明日」


「はい」


「十六時に」


「うん」


「学生街の時計塔前で」


「分かりましたー」


 背後。


 かりかりかりかりかり。


 すごい音。


 振り返る。


 リゼット。


 予定表へ。


 何か書いている。


「リゼット」


「はい」


「何してるの?」


「明日の予定調整です」


「見せて」


「業務上の機密です」


「俺の予定なのに?」


「……」


「見せて」


「……はい」


 渋々。


 渡された。


 十五時五十分。


 ――アレン自由時間開始予定地点確認。


 十五時五十五分。


 ――周辺安全確認。


 十五時五十八分。


 ――不測事態待機。


 十六時。


 ――対象時間開始。


 十六時三分。


 ――状況確認。


 十六時六分。


 ――状況確認。


 十六時九分。


 ――状況確認。


「三分刻みになってるよー」


「はい」


「確認しすぎじゃない?」


「必要最低限です」


「一時間に二十回確認するの?」


「十九回です」


「そこじゃないよー」


     ◇


「レティシア殿下」


 セレスが声をかけた。


「はい」


「一点、確認させてください」


「どうぞ」


「明日の自由時間ですが」


「はい」


「護衛配置について」


 レティシア王女は。


 少しだけ。


 笑った。


「王国側の護衛は距離を取らせます」


「……」


「また」


 一拍。


「《アウローラ》の皆様にも」


 十人を見る。


「同様にお願いいたします」


「具体的には?」


 ミコト。


「時計塔から」


 王女。


「半径二百メートル以内への立ち入りをご遠慮ください」


「二百」


 ミコトの目が。


 少し細くなる。


「長距離観測は?」


「ミコト様」


 カレンが止めた。


「聞かないでください」


「音声観測」


「駄目です」


「上空」


「駄目です」


「地下」


「もっと駄目です」


「では」


 ミコトが。


 俺を見る。


「どうすれば」


「普通に待ってれば?」


「……」


「難しい?」


「非常に」


「市場と同じじゃんー」


     ◇


 最終的に。


 十人とも。


 約束した。


 明日の一時間。


 妨害しない。


 覗かない。


 通信を傍受しない。


 遠距離観測しない。


 変装して近づかない。


 偶然を装って店へ入らない。


「最後だけ妙に具体的だねー」


「必要でしたので」


 カレンが遠い目をした。


 誰か。


 やろうとしていたらしい。


     ◇


 その夜。


 部屋へ戻る。


「アレン」


「何?」


 寝台へ寝転がったトーマが。


 俺を見る。


「明日」


「うん」


「デートなんだって?」


「そうみたい」


「王女様と」


「うん」


「一時間」


「うん」


「緊張しねえの?」


「何で?」


「何でって……」


 トーマが。


 天井を見る。


「もういい」


「何が?」


「お前に聞いた俺が悪かった」


「変なのー」


 俺も寝台へ座る。


 明日は。


 他国の学校。


 職人街。


 学生街。


 それに。


 王女との一時間。


 かなり予定が詰まっている。


「まあ」


 トーマが笑った。


「楽しんでこいよ」


「うんー」


「ただ」


「何?」


「一つだけ」


 トーマが。


 廊下側の壁を見る。


「向かいの連中をどうにかしろ」


 壁の向こう。


 かすかに。


「明日十五時五十五分、第一待機班――」


「声聞こえてるねー」


「連絡室じゃねえ!」


 トーマが叫ぶ。


「作戦本部だ!」


 直後。


 向かいの部屋が。


 しん。


 と静かになった。


「聞こえてたみたい」


「当たり前だ!」


     ◇


 五分後。


 俺は向かいの扉を開けた。


「みんな」


「はい!」


 十人。


 揃っている。


「寝てねー」


「……」


「返事」


「はい」


「ちゃんと西迎賓宮へ戻ること」


「はい……」


「明日も仕事あるんでしょ?」


「はい」


「じゃあ解散」


「……」


 十人が。


 ゆっくり立ち上がる。


 何だか。


 怒られた子どもみたいだ。


「おやすみ」


「おやすみなさい、アレン」


 セレス。


「よい夢を」


 ラグナ。


「明日」


 ミコト。


「十五時五十九分までには」


「ミコト」


「……おやすみ」


「うん」


 一人ずつ。


 帰っていく。


 最後に。


 リゼットが残った。


「リゼット?」


「はい」


「どうしたの?」


「……」


 少し迷ってから。


 手帳を閉じる。


「予定を」


「うん」


「捨てることを覚えましたので」


「そうだったねー」


「明日の一時間については」


「はい」


「何も予定を入れません」


「いいじゃん」


「ただし」


「うん?」


「十七時一分から」


「……」


「全員」


「何?」


「集合予定です」


「何で?」


「感想を聞くためです」


「誰の?」


「アレンの」


「やっぱり会議するんだねー」


「はい」


 リゼットは。


 すごく真面目な顔で。


 頷いた。


 翌日。


 レティシア王女との一時間が。


 俺にとって初めての問題になるのか。


 それとも。


 その一時間を二百メートル外から待つ十人にとって。


 もっと大きな問題になるのか。


 このときの俺は。


 まだ。


 知らなかった。


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