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冗談で作った秘密結社が世界最大企業になっていた ~平凡な学生を演じる創設者の俺は、今さら全部作り話だったと言い出せない~  作者: てへろっぱ


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第31話 世界最高の密偵と猫喫茶へ行ったら、俺にだけ気配を消せなかった



 ヴィオラと露店街へ行った翌日。


 《ノクス・アウローラ》最高幹部会議室には。


 また。


 例の抽選箱が置かれていた。


「最近、これを見る機会が多いねー」


「公平性は重要です」


 リゼットが答える。


「次回のデート順を決定します」


「もう普通にデートって言うんだねー」


「定義が確定しましたので」


「そうなのー?」


「はい」


 いつの間にか。


 俺の知らないところで。


 正式名称になったらしい。


「次は我だ!」


 ラグナが手を上げる。


「この前行ったでしょー」


「もう一度だ!」


「閣下」


 カレンが止める。


「未実施者が優先です」


「なら我は未実施に戻る!」


「記録は消せません」


「ミコト!」


「情報部門は記録改竄を行いません」


「こういうときだけ真面目だな!」


「常に真面目です」


「嘘をつけ!」


 騒がしい。


 その中で。


 一人だけ。


 何も言わず。


 壁際に立っている女性がいた。


 黒い猫耳。


 細い尾。


 小柄な身体。


 ミコトの側近。


 シズク・アヤメ。


「シズク」


「はい」


「参加しないのー?」


「参加しています」


「遠くない?」


「いつもの位置です」


「こっち来ればいいのにー」


「問題ありません」


 そう言う。


 昔から。


 シズクは。


 少し離れたところにいることが多い。


 必要なら。


 いつの間にか近くへ来る。


 でも。


 自分から中央へ出ることは。


 ほとんどない。


「では」


 箱へ手を入れる。


「引くねー」


 一枚。


 開く。


「シズクだねー」


「……」


 壁際。


 黒い猫耳が。


 ぴん。


 と立った。


「聞こえたー?」


「はい」


「じゃあ、こっちおいでよー」


「……はい」


 歩いてくる。


 表情は。


 いつもどおり。


 ほとんど変わらない。


 でも。


 尾が。


 左右へ。


 ものすごく速く揺れている。


「シズク」


「何でしょう」


「嬉しい?」


「平常です」


「尻尾すごいよー」


「風です」


「室内だねー」


「局地的な風」


「エルシアみたいな言い訳になってきたねー」


「……」


 尾が。


 ぴたり。


 止まった。


     ◇


「それで」


「何を教えてくれるのー?」


「気配遮断」


「使うかなー」


「尾行」


「もっと使わないねー」


「潜入」


「学生生活から離れていくねー」


「毒物判別」


「大事だけど、普通じゃないねー」


「暗殺者の見分け方」


「学院にそんなにいるのー?」


「今月だけで七名」


「いるんだねー」


「全員処理済みです」


「処理って何かなー」


「安全確保」


「詳しく聞かない方がよさそうだねー」


 シズクは。


 少し考える。


「では」


「うん」


「猫」


「猫?」


「はい」


「猫について教えます」


「急に平和になったねー」


「《月灯り書房》で」


「アレンが選んだ本を読みました」


 あー。


 《猫との暮らし》。


「シズク、猫飼うのー?」


「飼いません」


「じゃあ何で?」


「……」


 黒い猫耳へ。


 自分で触れる。


「参考情報です」


「何の参考?」


「同族的行動」


「シズクは猫じゃないよー」


「影猫族です」


「猫寄りなんだねー」


「否定できません」


 少し。


 面白そうだった。


「じゃあ」


「猫、見に行こうかー」


「……!」


「詳しい場所ある?」


「あります」


「さすが情報部門」


「昨日から」


「四十二店舗調査しました」


「やっぱり調べすぎだねー」


     ◇


 放課後。


 学院都市南区。


 静かな住宅街の一角。


 木造の小さな店。


 看板には。


 眠っている猫の絵。


 ――《昼寝猫亭》。


「猫喫茶?」


「はい」


「今の時代は、こんなお店もあるんだねー」


「保護された猫や」


「使役契約を終えた老齢の使い魔などを預かり」


「客と触れ合える場所です」


「へえー」


「飲み物代の一部が」


「猫の食費と治療費になります」


「いいお店だねー」


「はい」


 シズクの返事が。


 ほんの少し。


 柔らかい。


「楽しみ?」


「調査です」


「デートじゃないのー?」


「……」


 シズクが。


 止まった。


「違った?」


「いえ」


「じゃあデート?」


「……はい」


 小さい。


「聞こえないよー」


「デートです」


「うん」


「では入りましょう」


「切り替え早いねー」


「これ以上話すと」


「体温が上がります」


「正直だねー」


     ◇


 店へ入る。


「いらっしゃいませ」


 中は。


 静かだった。


 木の床。


 低い机。


 柔らかな椅子。


 窓辺。


 棚の上。


 あちこちに。


 猫。


 猫。


 猫。


「多いねー」


「二十八匹」


「数えてたの?」


「入店前情報では二十七」


「一匹増えてるんだねー」


「奥に新規個体」


「見ただけで分かるのー?」


「はい」


「情報部門すごいねー」


「猫を見る能力ではありません」


 受付を済ませる。


 店員さんが。


 俺たちを見た。


 そして。


 シズクの猫耳を見る。


「あら」


「はい」


「影猫族のお客様は珍しいですね」


「そうですか」


「猫ちゃんたちに好かれる方、多いんですよ」


「……」


 シズクが。


 少しだけ。


 胸を張った。


「嬉しそうだねー」


「平常です」


「耳立ってるよー」


「通常角度です」


     ◇


 席へ座る。


 俺の前。


 シズク。


「どうすればいいのー?」


「待ちます」


「待つ?」


「猫は」


「無理に触ろうとすると逃げます」


「なるほどー」


「目を合わせすぎない」


「急に手を出さない」


「大きな声を出さない」


「向こうから来るまで」


「待つ」


「詳しいねー」


「本を十二回読みました」


「ミコトと似てきてるよー」


「上司ですので」


「そういうもの?」


「分かりません」


 二人で。


 待つ。


 一分。


 二分。


 三分。


 猫。


 来ない。


「シズク」


「はい」


「全然来ないねー」


「おかしい」


「嫌われた?」


「理論上」


「猫系種族は好感を得やすいはず」


「理論あるんだねー」


 五分。


 すると。


 一匹。


 白い猫が。


 ゆっくりこちらへ。


「来たー」


「はい」


 シズクの瞳が。


 少し輝く。


 猫は。


 俺たちの前まで来て。


 匂いを嗅ぐ。


 そして。


 俺の膝へ。


 ぴょん。


「……」


「乗ったねー」


「……はい」


「シズクじゃなかったねー」


「……」


 黒い尾が。


 ぺし。


 床を叩いた。


「怒ってる?」


「平常です」


 ぺし。


「音してるよー」


「猫が尾を動かすのは普通です」


「シズク、猫じゃないって言ってなかったー?」


「今は猫寄りです」


「都合いいねー」


     ◇


 次。


 茶色の猫。


 俺の横。


 次。


 黒猫。


 俺の足元。


 次。


 三毛猫。


 俺の隣。


「……」


 シズク。


 ゼロ。


「シズク」


「何でしょう」


「猫に嫌われてる?」


「違います」


「じゃあどうして?」


「アレンの方が」


「好かれているだけ」


「そうなのー?」


「おそらく」


 シズクが。


 俺を見る。


「昔から」


「動物に好かれます」


「あー」


「そうだったかなー」


「狼」


「鳥」


「小型竜」


「精霊獣」


「全部」


「アレンのところへ行きました」


「餌持ってたからじゃない?」


「私も持っていました」


「じゃあ不思議だねー」


「……」


 シズクが。


 手にしていた。


 猫用のおやつを見る。


「使う?」


「……はい」


 一匹へ。


 差し出す。


 猫。


 匂いを嗅ぐ。


 食べる。


「食べたねー」


「はい」


「よかったー」


「……」


 シズクの耳が。


 嬉しそうに。


 ぴくぴくする。


 でも。


 食べ終わった猫は。


 俺の膝へ移動した。


「……」


「戻ってきたねー」


「敵」


「猫だよー」


「恋敵」


「もっと違うねー」


     ◇


「シズク」


「はい」


「こっち来る?」


「どこへ?」


「隣」


「……」


「ここなら猫も触れるよー」


 俺の隣。


 椅子一つ分。


 空いている。


「……よろしいのですか」


「デートなんでしょー?」


「……はい」


「じゃあ近くてもいいんじゃない?」


「……」


 シズクが。


 ものすごく。


 ゆっくり。


 隣へ移動する。


「距離あるねー」


 椅子の端。


 俺との間に。


 二十センチくらい。


「十分近いです」


「そう?」


「普段の私からすれば」


「非常に」


「じゃあ、このままねー」


 白猫を。


 少し撫でる。


「シズクも」


「はい」


 そっと。


 手を出す。


 猫の頭。


 撫でる。


「……」


「どう?」


「柔らかい」


「シズクの耳も柔らかそうだねー」


 手が。


 止まった。


「……」


「シズク?」


「今」


「何を?」


「耳」


「うん」


「触りたいという意味ですか」


「言ってないよー」


「では」


 少しだけ。


 顔を寄せる。


「触りたくはない?」


「急に難しい質問になったねー」


「回答を」


「嫌ではないかなー」


「……」


 シズクの。


 顔が。


 真っ赤になる。


「でも」


「嫌なら触らないよー」


「……」


「シズク?」


「条件があります」


「何?」


「猫と同じように」


「優しく」


「それはもちろんー」


「……どうぞ」


 猫耳が。


 少し。


 こちらへ傾く。


「本当にいいの?」


「二度聞かないでください」


「みんなは二回聞きたがるのにねー」


「私は」


「一回で限界です」


「分かったー」


 そっと。


 指先で。


 黒い猫耳へ触れる。


「……」


「柔らかいねー」


「……はい」


「シズク」


「……」


「大丈夫?」


「現在」


「非常に危険です」


「何が?」


「心拍」


「やめる?」


「やめないでください」


「どっちなのー?」


「継続を希望します」


「正直だねー」


「今日は」


「デートですので」


 小さな。


 震える声。


 いつもの。


 無表情なシズクからは。


 想像できない。


     ◇


 猫耳から。


 手を離す。


「……」


「終わりー」


「……短い」


「長いと嫌かなって」


「……」


「もう一回?」


「……後ほど」


「予約なんだねー」


「はい」


     ◇


 しばらく。


 猫を眺める。


 何もしない。


 静かな時間。


「シズク」


「はい」


「こういうの好き?」


「はい」


「珍しく即答だねー」


「静かですから」


「情報部門なのに?」


「だからこそ」


 シズクは。


 猫を撫でながら答える。


「普段は」


「音が多いです」


「音?」


「報告」


「通信」


「暗号」


「警報」


「足音」


「会話」


「嘘」


「本音」


「全部」


「聞かなければなりません」


「あー」


 情報部門。


 世界中の。


 秘密。


 噂。


 陰謀。


 争い。


 それを。


 集める仕事。


「静かなところだと」


「楽?」


「はい」


「なら」


「休みの日は来ればいいんじゃない?」


「一人で?」


「誰か誘っても」


「……」


 シズクが。


 こちらを見る。


「アレンを?」


「俺でもいいよー」


「……」


「シズク?」


「予約」


「何の?」


「次回来店」


「もう?」


「はい」


「早いねー」


「情報戦は」


「先手必勝」


「猫喫茶に情報戦持ち込まないでねー」


     ◇


 一匹の黒猫が。


 俺たちの前へ来た。


「シズクっぽいねー」


「色だけです」


 黒猫は。


 俺を見る。


 次に。


 シズクを見る。


 そして。


 シズクの膝へ。


 ぴょん。


「……!」


「ようやく来たねー」


「はい」


 シズクの両手が。


 どうすればいいか分からないみたいに。


 少し浮いている。


「撫でていいんじゃない?」


「逃げないでしょうか」


「ゆっくりなら」


「……」


 そっと。


 黒猫の背中へ。


 手。


 逃げない。


 むしろ。


 丸くなった。


「気に入られたねー」


「……はい」


「よかったねー」


「はい」


 小さな。


 本当に小さな。


 笑顔。


 昔。


 シズクを助けた頃。


 彼女は。


 ほとんど。


 声を出さなかった。


 物陰。


 壁際。


 木の上。


 いつも。


 誰かから見つからない場所にいた。


「シズク」


「はい」


「昔も」


「猫好きだった?」


「……分かりません」


「そうなの?」


「好きなものを」


「考える余裕が」


「ありませんでした」


「……」


「生き残ること」


「見つからないこと」


「必要とされること」


「それだけ」


 黒猫へ。


 指を滑らせる。


「アレンに助けられたあとも」


「うん」


「役に立とうと思いました」


「ミコトの?」


「はい」


「情報を集め」


「気配を消し」


「誰にも見つからず」


「必要なことだけをする」


「それが」


「私の価値だと思いました」


 また。


 同じような話だ。


 セレスも。


 ラグナも。


 エルシアも。


 みんな。


 少しずつ違うけれど。


 助けられたあと。


 役に立とうとした。


「でも」


 シズクは。


 俺を見る。


「一つだけ」


「困ることがあります」


「何?」


「アレンには」


「気配を消しても」


「見つかります」


「あー」


「そうだねー」


「百二十年前から」


「ずっと」


「何度隠れても」


「アレンだけ」


「見つけます」


「見つけてほしくなかった?」


「……」


 沈黙。


 猫耳が。


 少し。


 下がる。


「最初は」


「怖かったです」


「うん」


「でも」


「そのうち」


「……」


 声が。


 さらに小さくなる。


「見つけてほしくなりました」


「……」


「ほかの誰にも」


「気づかれなくても」


「アレンだけは」


「私がいることに」


「気づいてほしかった」


 黒猫の背中へ。


 顔を隠すみたいに。


 少し俯く。


「変でしょうか」


「全然ー」


「……」


「だって」


「シズクが近くにいたら」


「普通に分かるしねー」


「どうして?」


「気配消してても?」


「うん」


「どうして?」


 真剣だった。


「うーん」


 説明しろと言われると。


 難しい。


「昔から見てるからかなー」


「……」


「歩き方とか」


「呼吸とか」


「気配がない感じとか」


「気配がない感じ?」


「シズクだけ」


「いないようにしてるのが分かるんだよねー」


「……」


「だから」


「隠れてると」


「そこかなー、って」


「……」


 シズクが。


 固まっている。


「変だった?」


「いいえ」


「では?」


「アレン」


「うん」


「それを」


「ほかの人にも?」


「何を?」


「見つける」


「……」


「あー」


「みんな気配消さないからねー」


「……」


 少し。


 安心したように。


 耳が戻る。


「じゃあ」


 俺は。


 黒猫を見る。


「これからも見つけるよー」


「……!」


「隠れててもねー」


「……」


「嫌?」


「嫌では」


「ありません」


「じゃあ決まりー」


「……はい」


 尾が。


 俺の背中側へ。


 そっと。


 回った。


「シズク」


「はい」


「尻尾、俺に巻きついてるよー」


「事故です」


「結構しっかり巻いてるけどー」


「局地的事故」


「新しい言い訳だねー」


「解きます」


「別にいいよー」


「……」


 解こうとしていた尾が。


 止まった。


「このままで?」


「邪魔じゃないからねー」


「……」


「シズク?」


「今日は」


「はい」


「帰りたくありません」


「猫喫茶に住むのー?」


「そうではありません」


「じゃあ?」


「もう少し」


「ここに」


「二人でいたいです」


「うん」


「まだ時間あるよー」


「……はい」


 黒い尾が。


 ほんの少し。


 強く巻きついた。


     ◇


 結局。


 二時間。


 猫を眺めていた。


 本当に。


 それだけ。


 途中。


 飲み物を一杯ずつ。


 猫のおやつ。


 話したことも。


 少ない。


 でも。


「楽しかったねー」


 店を出る。


「はい」


「シズクも?」


「非常に」


「よかったー」


「アレン」


「何?」


「今日」


「私は」


「何かを教えられましたか?」


「あー」


 もともとは。


 みんなが。


 俺へ何かを教える。


 そういう話だった。


「猫の触り方?」


「……それだけ」


「あと」


「待つことかなー」


「待つ?」


「猫も」


「向こうから来るまで待つんでしょー?」


「はい」


「何もしない時間も」


「悪くなかったしねー」


「……」


「シズクは」


「静かな時間の楽しみ方を教えてくれたんじゃない?」


「……」


 少し。


 笑う。


「それなら」


「よかったです」


     ◇


 帰り道。


 人通りの少ない路地。


「アレン」


「何かなー」


「一つ」


「お願いがあります」


「うん」


「私は」


 シズクが。


 少し先へ出る。


「今から」


「本気で」


「気配を消します」


「うん」


「見つけてください」


「遊び?」


「確認です」


「何の?」


「今日の約束」


「あー」


 これからも。


 隠れていても。


 見つける。


「分かったー」


「では」


 次の瞬間。


 消えた。


 音。


 匂い。


 魔力。


 全部。


 なくなる。


 さすが。


 世界最高峰の情報部門。


「本気だねー」


 路地。


 屋根。


 影。


 風。


 人。


 普通なら。


 分からない。


 でも。


「シズクー」


「……」


 返事なし。


 少し歩く。


 一軒の店。


 その横。


 細い路地。


 さらに。


 上。


「そこー?」


「……」


 屋根の陰。


 黒い猫耳が。


 ほんの少し。


 見えた。


「見つけたー」


「……」


 シズクが。


 屋根から。


 音もなく降りる。


「どうして?」


「さっき言ったでしょー」


「シズクがいない感じがするから」


「意味が分かりません」


「俺も分からないねー」


「……」


「でも」


「見つけたよー」


「はい」


 シズクは。


 俺の前。


 数秒。


 立っていた。


 そして。


 珍しく。


 自分から。


 俺の胸へ。


 額を。


 こつん。


 と当てた。


「シズク?」


「……」


「どうしたのー?」


「ご褒美」


「俺への?」


「私への」


「シズクがやってるよー?」


「はい」


「自分で自分に?」


「はい」


「便利だねー」


「情報部門ですので」


「それで説明できるのかなー」


「今日は」


「できます」


 しばらく。


 額をつけたまま。


 動かなかった。


     ◇


 その夜。


 最高幹部会議室。


「報告」


 ミコトが言った。


「本日のシズク」


「何で上司が報告するんです?」


 カレン。


「情報部門ですので」


「それで全部通すようになりましたね」


「成果」


 一。


 猫喫茶で二時間。


 二。


 アレンから猫耳を触られる。


「何!?」


 ラグナが叫んだ。


 三。


 尾をアレンへ巻く。


「待ちなさい!」


 ヴィオラ。


 四。


 「隠れていても見つける」と約束。


「……」


 セレスの長い耳が。


 ぴくり。


 五。


 帰路において。


 シズクからアレンへ身体接触。


「身体接触?」


 エルシア。


「額を胸へ」


「……」


 室温。


 急低下。


「シズク」


 ミコトが。


 隣を見る。


「説明」


「ご褒美」


「誰への?」


「私」


「なぜ自分から?」


「欲しかったので」


「……強い」


 ミコトが呟いた。


「側近が!」


 ラグナが立ち上がる。


「堂々としすぎではないか!?」


「閣下」


 カレンが。


 冷静に答える。


「側近だからといって」


「遠慮する決まりはありません」


「……カレン?」


「何でしょう」


「お前」


「目が本気だぞ」


「当然です」


 白い髪。


 《片翼の髪留め》。


「私も」


「側近ですので」


「……」


 今度は。


 全員が。


 カレンを見る。


「カレン」


 セレスが尋ねる。


「まさか」


「次の抽選で」


「はい」


「当選した場合」


 カレンは。


 微笑んだ。


「一切」


「遠慮いたしません」


「……」


「宣戦布告?」


 ノエル。


「はい」


「側近組が!」


 ラグナ。


「強くなりすぎではないか!?」


「閣下が育てました」


「我か!?」


「百年以上」


「一番近くで見ておりますので」


「何を!?」


「閣下の失敗を」


「カレン!」


 会議室が。


 騒がしくなる。


 ただ。


 その中で。


 シズクだけは。


 いつもの壁際。


 いつもの無表情。


 でも。


 黒い尾は。


 とても。


 嬉しそうに揺れていた。


     ◇


 翌朝。


「アレン」


「何かなー」


 教室。


 トーマが。


 俺を見る。


「昨日は?」


「猫見てたー」


「一人で?」


「シズクと」


「女だな?」


「そうだねー」


「デートだな?」


「そうだねー」


「……」


「トーマ?」


「もう否定しなくなった……」


「最近覚えたからねー」


「成長してほしくなかった方向へ成長した!」


「普通の学生生活でしょー?」


「お前のは密度がおかしい!」


「猫見てただけだよー」


「本当に?」


「うん」


「手は?」


「握ってないねー」


「よし」


「耳は触ったけどー」


「何で!?」


「本人がいいって」


「尻尾は!?」


「巻かれたねー」


「何で!?」


「あと、胸に頭つけてたかなー」


「何でだよ!?」


「ご褒美だってー」


「何のご褒美だ!」


「俺が見つけたから?」


「意味が分からない!」


「俺もー」


 トーマは。


 しばらく。


 何も言わなかった。


 そして。


 俺の肩を。


 両手で掴む。


「アレン」


「何かなー」


「頼む」


「うん」


「一回」


「うん」


「自分が今」


「十人の美人と順番にデートしてる男だって」


「自覚してくれ」


「あー」


「……」


「そう言われると」


「結構すごいねー」


「今さらかよ!」


 教室中に。


 トーマの声が響く。


 俺は。


 少しだけ。


 考えた。


 十人。


 順番に。


 デート。


 確かに。


 普通の学生生活としては。


 少し多いのかもしれない。


 ただ。


 みんな。


 百年以上。


 待っていたらしい。


 なら。


 今くらい。


 一人ずつ。


 ちゃんと一緒に過ごしても。


 いいんじゃないかなー。


 そう思った。


 その頃。


 《ノクス・アウローラ》最高幹部会議室では。


 次の抽選に備えて。


 カレン。


 リゼット。


 ノエル。


 クラリス。


 残る側近四人が。


 なぜか全員。


 正装で。


 抽選箱の前へ座っていたらしい。


 まだ。


 抽選開始まで。


 九時間もあるのに。


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