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冗談で作った秘密結社が世界最大企業になっていた ~平凡な学生を演じる創設者の俺は、今さら全部作り話だったと言い出せない~  作者: てへろっぱ


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第3話 冗談で考えた災厄が、学院の地下に封印されているらしい



 世界最強の将軍が、王立魔法学院の特別実技講師になった。


 しかも、就任した翌日の授業で最初に指名されたのは俺だった。


「アレン・クロフォード! 前へ出ろ!」


「あー、やっぱり俺なんだねー」


 朝の訓練場に、ラグナの声が響き渡る。


 同じ授業を受ける生徒たちの視線が、一斉に俺へ集まった。


「昨日、総司令に個別で呼ばれてたよな?」


「セレスティア会長とも面談してなかった?」


「どうして《アウローラ》の最高幹部に、立て続けに目をつけられてるんだ?」


 周囲から聞こえてくる疑問はもっともだった。


 俺自身、できれば目をつけられたくなかった。


 世界企業アウローラの会長セレスティア・エルノア。


 軍事・警備部門総司令ラグナ・ヴァルガ。


 二人とも、俺が昔救った少女たちだ。


 百二十七年ぶりに再会できたことは嬉しい。


 ただ、俺は王立魔法学院で目立たない学生として暮らしたい。


 そのため、学院では俺と《アウローラ》の関係を隠してもらっている。


 ラグナも、そのことは理解しているはずだった。


「今日は剣術の基礎を学ぶ!」


 訓練場の中央で、ラグナが木剣を掲げる。


「戦場では、敵が教本どおりに攻撃してくるとは限らぬ! 重要なのは、いかなる状況でも生き残ることだ!」


 世界最強の将軍と呼ばれるだけあって、立っているだけでも迫力がある。


 赤い髪。


 竜人特有の二本の角。


 学院から借りた普通の木剣でさえ、ラグナが持つと伝説の武器のように見えた。


 その一歩後ろには、専属副官のカレンが控えている。


「閣下。授業内容について、事前に提出された計画書をご確認ください」


「必要ない! 実戦で教えればよい!」


「訓練初日に校舎を破壊した場合、始末書を作成するのは私です」


「破壊せぬよう加減する!」


「閣下の加減は信用しておりません」


「なぜだ!?」


「過去の実績です」


 カレンは冷静に答え、手元の書類へ視線を落とした。


「本日の授業では、学生同士による基本訓練を予定しております。閣下が直接剣を振るう必要はありません」


「だが、アレンの腕を――」


 ラグナが途中で口を閉じる。


 カレンの視線が鋭くなったからだ。


「アレン・クロフォード学生の腕を、確認したいのでしょうか」


「そうだ! 会長が将来性を認めた学生だからな!」


 ぎりぎり不自然ではない理由だった。


 少なくとも、俺が秘密結社の創設者だから選んだようには聞こえない。


「アレン、お前、本当に何をしたんだ?」


 隣にいたトーマが小声で尋ねる。


「最新術式の間違いを指摘しただけだよー」


「それだけで、世界最大企業の会長と総司令から注目されるのか?」


「運がよかったんじゃないかなー」


「最近のお前、運がよすぎるだろ」


 俺は訓練場の中央へ進んだ。


 ラグナと向かい合う。


 近くで見ると、彼女は笑顔を隠しきれていなかった。


「初めまして、アレン・クロフォード」


「初めましてー、ラグナ総司令」


「……」


「……」


 ラグナの眉が下がった。


 少し寂しそうな顔をしている。


 人前では初対面のふりをすると、昨日決めたばかりだ。


 それなのに、自分から言っておいて傷つかないでほしい。


「閣下」


 カレンが小声で呼びかける。


「分かっている!」


 ラグナは咳払いをした。


「これより、我が攻撃を行う! アレン・クロフォードは、自由な方法で防いでみせよ!」


「学生同士による基本訓練はどこへ行ったのですか」


「予定を変更した!」


「聞いておりません」


「今伝えた!」


「事前連絡とは呼べません」


 カレンの指摘を無視し、ラグナが木剣を構える。


「安心しろ! 十分に手加減する!」


「ほどほどにお願いしますねー」


「任せろ!」


「不安しかありませんね」


 カレンが訓練場の外側へ防御結界を張った。


 一枚では足りないと判断したのか、二枚、三枚と重ねていく。


 見学している生徒たちが後ろへ下がった。


「始め!」


 ラグナが地面を蹴った。


 石畳が砕ける。


 世界最強の将軍の姿が、一瞬で視界から消えた。


 普通の学生なら、何が起きたか理解する前に吹き飛ばされる速度だった。


 俺は身体を半歩だけ横へずらした。


 木剣が制服の肩をかすめる。


「ほう!」


 ラグナの顔が輝く。


 二撃目。


 三撃目。


 四撃目。


 俺は木剣を構えたまま、すべての攻撃を避けた。


「すごいぞ、アレン!」


 見学していたトーマが声を上げる。


「総司令の剣を避けてる!」


「いや、総司令がものすごく手加減しているんだろ」


「それでも、俺たちには見えない速さだぞ!」


 目立っている。


 非常にまずい。


「ラグナ総司令、もう十分じゃないですかー?」


「まだだ!」


 ラグナの踏み込みが、先ほどより速くなる。


「閣下」


 カレンの声が低くなった。


「手加減している!」


「速度が一・七倍に上昇しております」


「アレンなら、この程度は――」


「ただの学生です」


「そうであった!」


 ラグナが慌てて木剣を止めた。


 剣先は、俺の額から指一本分の位置にある。


 俺は微笑みながら両手を上げた。


「降参しますよー」


「まだ一度も剣を振っておらぬではないか!」


「ラグナ総司令の攻撃を避けるだけで精いっぱいでしたー」


「嘘をつけ! 昔よりさらに動きが――」


「閣下」


「……妙に落ち着いていたではないか!」


 カレンの視線を受け、ラグナが言葉を変えた。


 危ないところだった。


「アレン、お前、総司令と戦ったことがあるのか?」


 トーマが近づいてくる。


「今日が初めてだよー」


「総司令が、昔より動きがどうとか言ってなかったか?」


「聞き間違いじゃないかなー」


「俺にも聞こえたぞ」


「昔見た記録映像と比べたんだよー」


「総司令が、自分の記録映像とお前を比較したのか?」


「世界最高の将軍は勉強熱心なんだねー」


「説明が苦しくなってきてるぞ」


 トーマは納得していない。


 それでも、俺が《アウローラ》の創設者だと疑うことはないだろう。


 長く生きている正体不明の種族であることすら、誰にも知られていない。


 世界最大企業と秘密結社の創設者だなんて、普通は想像もしない。


「訓練を続ける!」


 ラグナが再び木剣を構えた。


「次は、我の攻撃を受け止めてみせよ!」


「閣下。先ほど学生同士の基本訓練と申し上げました」


「これも基本だ!」


「世界最強の将軍の一撃を受け止める行為は、王国軍では最終試験に相当します」


「では、よい卒業試験になるではないか!」


「彼らは入学したばかりです」


 ラグナとカレンが言い合っていた、そのときだった。


 訓練場の地面が、わずかに揺れた。


 最初は、ラグナの踏み込みで石畳が壊れたのだと思った。


 しかし揺れは止まらない。


「地震か?」


「全員、訓練場から離れろ!」


 教師たちが生徒を避難させる。


 地面に刻まれていた古い魔法陣が、赤黒い光を放ち始めた。


 昨日までは存在しなかったものではない。


 長い年月で模様が消え、ただの装飾だと思われていた古代術式だ。


「この魔力は……」


 ラグナの表情が変わった。


 先ほどまでの笑顔が消え、世界最強の将軍の顔になる。


「カレン、生徒たちを下がらせろ!」


「すでに避難誘導を開始しています」


 石畳が内側から砕ける。


 土煙の中から、巨大な腕が突き出した。


 黒い石で作られた腕だ。


 続いて、三メートルを超える巨体が地面から這い出してくる。


 頭部に顔はない。


 胸元には、赤く輝く魔石。


 両腕には、古代文字で何重もの術式が刻まれていた。


「古代戦闘ゴーレム!?」


 教師の一人が叫ぶ。


「なぜ学院の地下に!」


「今は原因より、生徒の避難を優先しろ!」


 ゴーレムの胸部が開く。


 内部に魔力が集まり始めた。


 狙いは、まだ逃げ切れていない生徒たちだ。


「させぬ!」


 ラグナが前へ出る。


「閣下、お待ちください! ここで全力を出せば校舎まで消失します!」


「ならば、消えぬ程度に殴る!」


「その調整ができないから止めているのです!」


 ラグナなら、ゴーレムを一撃で破壊できる。


 ただし、訓練場と周囲の校舎も無事では済まないだろう。


 カレンが防御結界を展開する。


 だが、生徒たちとゴーレムの距離が近すぎる。


 放たれる魔力を完全に防げば、衝撃が周囲へ逃げる。


「面倒な仕組みだねー」


 俺は足元に落ちていた小石を拾った。


「アレン、何をしている! 下がれ!」


 トーマが叫ぶ。


「大丈夫だよー」


 ゴーレムの胸部で光が膨れ上がる。


 古代の戦闘用魔導兵器。


 それにしては、魔力回路が古すぎる。


 百年前どころではない。


 少なくとも千年以上前の術式だ。


 けれど、組み方には見覚えがあった。


「第三接続点が逆なんだねー」


 昨日、授業で見つけた最新術式と同じ欠陥。


 いや。


 おそらく、こちらが原型なのだろう。


 俺は小石へ微量の魔力を込め、軽く指で弾いた。


 小石がゴーレムの腕の隙間を通り抜ける。


 胸部の奥。


 魔力回路をつなぐ第三接続点へ命中した。


 集められていた魔力が一瞬で霧散する。


 赤い光が消えた。


 ゴーレムの巨体が停止する。


 静寂のあと、膝から崩れ落ちた。


「……止まった?」


 教師も生徒も、何が起きたのか分かっていない。


「ラグナ総司令が何かしたのか?」


「さすが世界最強の将軍だ!」


 歓声が上がる。


 どうやら、ラグナが止めたと思われたらしい。


 俺は安心して、拾った木剣を元の場所へ戻した。


「アレン」


 ラグナだけは、こちらを見ていた。


「今のは――」


「総司令のおかげで助かりましたねー」


「我は何もしておらぬぞ?」


「閣下」


 カレンがラグナの横へ立つ。


「学院と生徒を守るため、古代ゴーレムを無力化した。表向きは、そのように処理いたします」


「だが、止めたのはアレンだ!」


「声を落としてください」


「なぜ功績を隠す!」


「創設者様が平凡な学生として過ごすためです」


「そうであった!」


 二人が小声で話している。


 周囲の生徒には聞こえていないようだ。


「アレン、本当に大丈夫だったか?」


 トーマが駆け寄ってくる。


「大丈夫だよー」


「さっき、小石を投げなかったか?」


「怖くて手から落としただけじゃないかなー」


「落とした石が横に飛ぶのか?」


「風が強かったねー」


「訓練場は無風だったぞ」


「不思議なこともあるんだねー」


「お前、俺に隠してることが多すぎないか?」


「誰にでも秘密の一つや二つはあるよー」


「一つや二つで済むのか……?」


 トーマは疑わしそうだったが、それ以上追及しなかった。


 教師たちは停止したゴーレムを調べ始める。


 その間に、カレンが俺へ近づいてきた。


「創――アレン・クロフォード学生」


「はいー」


「先ほどの件について、追加の聞き取りが必要です」


「またですかー?」


「今回は正当な理由がございます」


「昨日もそう言ってなかった?」


「昨日も正当な理由です」


 俺はラグナとカレンに連れられ、昨日と同じ応接室へ向かった。


     ◇


 扉が閉まる。


 カレンが防音結界を展開する。


 昨日の経験を生かしたのか、最初から十五枚だった。


「アレン! やはり、お前はすごい!」


 結界の完成と同時に、ラグナが俺へ抱きついた。


「小石一つで古代兵器を止めるとは!」


「構造が分かりやすかっただけだよー」


「千年以上前の古代術式だぞ!」


「昔の術式は単純だからねー」


「普通の学生は、単純かどうかも分かりません」


 カレンが淡々と指摘する。


「創設者様。あのゴーレムについて、何かご存じなのですか?」


「見たことはないねー」


「ですが、術式には見覚えがあった」


「少しだけねー」


 俺は、昨日の授業で見た魔力回路を思い出す。


 王立研究院が三年前に発表したとされる最新術式。


 それと、千年以上前に作られた古代ゴーレム。


 同じ場所に、同じ欠陥があった。


 偶然にしては、少し不自然だ。


「ゴーレムの回収と調査は、学院側の許可を得て《アウローラ》が行います」


 カレンが書類を差し出す。


「すでに学院長から承認をいただきました」


「仕事が速いねー」


「お褒めいただき光栄です」


 カレンの翼が少しだけ広がった。


 表情は変わらない。


「それと、情報部門から緊急報告が届いております」


「ミコトから?」


「はい」


 カレンが黒い封筒を取り出した。


 封蝋には、九本の尾を持つ狐の紋章が刻まれている。


「ゴーレムが出現した直後、情報部門が学院地下の調査を開始しました」


「ずいぶん早いねー」


「情報部門は昨夜から学院地下も監視しておりますので」


「どうして学院地下まで監視してるのかなー」


「創設者様が、あえて王立魔法学院をお選びになった理由を調査するためです」


「食堂のパンがおいしいから選んだんだけどねー」


「その発言も、暗号である可能性を含めて報告いたします」


「普通の感想だよー」


 カレンが封筒を開く。


 中には、地下空間を記録した魔法写真が入っていた。


 巨大な石造りの扉。


 扉の中央には、黒い円と、その中から伸びる七本のひび割れが描かれている。


 俺は、その紋章を知っていた。


「……懐かしいねー」


「ご存じなのですか?」


「昔、俺が考えた印だよー」


 百二十七年以上前。


 救ったばかりの少女たちと、焚き火を囲んでいた夜。


 ラグナが俺へ尋ねた。


 自分たちは、何と戦う組織なのかと。


 答えを何も考えていなかった俺は、燃え尽きた薪の灰を眺めながら、適当な敵を作った。


 世界には七つの災厄が封印されている。


 その一つ、《灰冠の王》。


 目覚めれば大地を灰で覆い、すべての命を奪う。


 扉に刻まれた紋章は、そのとき俺が地面へ棒で描いたものと同じだった。


「創設者様が予言された、《灰冠の王》の封印紋ですね」


 カレンが真剣な声で告げる。


「予言というほどのものじゃないよー」


「我も覚えているぞ!」


 ラグナが拳を握る。


「あの夜、アレンは言った! 灰の王は大地の下で眠り、偽りの炎が広がるとき、再び目覚めると!」


「よく覚えてるねー」


「一言一句、忘れるものか!」


 困った。


 俺はそこまで考えて話した覚えがない。


 たぶん、少女たちが喜ぶので話を盛り上げただけだ。


「似た紋章を、誰かが偶然作ったんじゃないかなー」


「情報部門による解析結果がございます」


 カレンが次の書類を取り出す。


「地下遺跡の建造年代は、少なくとも千二百年以上前」


 俺が《灰冠の王》の話を作るより、千年以上も前だ。


「紋章を構成する線、角度、古代文字の配列は、創設者様が残された記録と完全に一致しています」


「完全に?」


「はい。偶然に一致する確率は、限りなくゼロに近いとのことです」


 ラグナが誇らしげに胸を張る。


「やはり、アレンはすべてを知っていたのだ!」


「知らなかったんだけどねー」


「我らが成長し、災厄と戦える日が来るまで、あえて真実を伏せていたのだな!」


「作り話だと思ってたんだけどねー」


「謙遜なさる必要はありません」


 カレンまで真剣な顔をしている。


 違う。


 本当に適当に考えた。


 全部冗談だった。


 しかし、千二百年以上前の遺跡に、俺が考えたはずの紋章が存在している。


 どう説明すればいいのか、俺にも分からない。


「創設者様」


 カレンが新しい魔法写真を机へ置いた。


 最初の写真では閉じていた石扉。


 二枚目の写真では、その中央に細い亀裂が入っている。


「古代ゴーレムが起動した直後、地下の封印扉にも変化がありました」


「開き始めてるのかなー」


「はい」


「中には何がある?」


 ラグナの問いに、カレンが答える。


「まだ確認できておりません。ただし、扉の奥から生命反応が検出されています」


「生き物?」


「人間でも魔物でもありません」


 カレンは一度言葉を切った。


「測定可能な範囲だけでも、古代竜を上回る魔力が確認されています」


 応接室の空気が変わった。


 ラグナが剣の柄へ手を置く。


「面白い。我が斬る」


「学院の地下で戦わないでねー」


「では、地下ごと切り離して運ぶ!」


「もっと被害が出そうだねー」


 そのとき、学院全体が揺れた。


 机の上に置かれた魔法写真が落ちる。


 地下の奥深くから、何か巨大なものが脈打つ音が聞こえた。


 ドクン。


 ドクン。


 まるで、長い眠りから覚めようとする心臓の音だった。


 カレンの通信魔道具が赤く輝く。


『緊急報告』


 聞こえてきたのは、寡黙な女性の声だった。


『こちら情報部門、シズク・アヤメです』


「状況を報告してください」


『地下封印区画で、新たな古代文字が発光しました』


「内容は?」


 短い沈黙。


 それからシズクは、読み取った文字を淡々と告げた。


『夜明けの創設者、帰還せり』


 応接室にいる全員が、俺を見た。


「やはり、アレンを待っていたのだ!」


 ラグナが嬉しそうに叫ぶ。


「創設者様は、すべてご存じだったのですね」


 カレンが確信に満ちた目を向ける。


 もちろん、俺は何も知らなかった。


 ただ一つ分かったことがある。


 俺が冗談で作った秘密結社だけではない。


 適当に考えたはずの敵まで、本当に存在しているらしい。


 平凡な学生生活を楽しむには、少し面倒なことになってきた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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