第2話 世界最強の将軍は、初対面のふりが下手すぎる
俺の平凡な学生生活を守るため、王立魔法学院の周囲には国家一つを滅ぼせるほどの戦力が配置されたらしい。
もちろん、その事実を俺は知らない。
ただ――。
「昨日まで、ここに監視塔なんてあったかなー」
「なかったぞ」
翌朝。
学院の正門前で立ち止まった俺に、友人のトーマが即答した。
石造りの外壁には、見慣れない小さな塔が三つ増えている。
門の左右に立つ警備員も、昨日までは年配の男性二人だったはずだ。
今日は女性が十二人。
全員が学院警備員の制服を着ているものの、姿勢がよすぎる。
生徒の身分証を確認しながらも、視線は周囲の屋根、窓、路地、空まで絶えず巡っていた。
そのうち一人が、俺の姿に気づく。
「創――」
女性警備員の口を、隣にいた同僚が素早く塞いだ。
「おはようございます、学生の皆様」
「おはようございますー」
俺が軽く手を上げると、十二人全員が一斉に背筋を伸ばした。
「お、おはようございます!」
声がきれいに揃う。
「ずいぶん礼儀正しい人たちだねー」
「新任初日にしても緊張しすぎじゃないか?」
トーマが不思議そうに警備員たちを見る。
女性たちは何事もなかったように職務へ戻った。
ただし、俺が門を通り抜けるまで、全員が息を止めていた。
「《アウローラ》が学院の警備を無料で強化してくれたらしいぞ」
「親切だねー」
「親切という規模じゃないんだよ。昨夜だけで外壁を補強して、防御結界まで最新型へ交換したらしい」
トーマが新しい監視塔を指さす。
「あそこから放たれる迎撃魔法は、大型飛竜を一撃で落とせるそうだ」
「学院に大型飛竜が来る予定でもあるのかなー」
「そんな予定があってたまるか」
俺たちは正門を抜け、中庭へ向かった。
昨日まで雑草が残っていた花壇は、美しく整えられている。
手入れをしている庭師も、全員女性だった。
一人が枝切り鋏を動かす。
刃が軽く触れただけで、成人男性の胴ほどある木の枝が音もなく切断された。
「高性能な鋏だねー」
「あれ、本当に園芸用なのか?」
「最近の庭師さんは大変なんだねー」
俺たちが通り過ぎる。
背後から、押し殺した声が聞こえてきた。
「第一監視対象、校舎へ移動」
「創設者様のご友人も同行中」
「周囲に敵意なし。引き続き警戒を――」
「聞こえてるよー」
庭師たちの動きが止まった。
俺が振り返ると、全員が一斉に花壇へ顔を向ける。
「何かおっしゃいましたか?」
「独り言ですよー」
どうやら仕事熱心な人たちらしい。
ただ、創設者というのが誰のことなのかは少し気になった。
◇
教室へ入ると、昨日の件がすでに噂になっていた。
「来たぞ、《アウローラ》に目をつけられた男!」
「やめてよー」
クラスメイトたちが、俺の周りへ集まってくる。
「昨日、セレスティア会長と何を話したんだ?」
「研究部門へ勧誘されたの?」
「まさか、卒業後の就職が決まったとか?」
「魔法理論について、少し質問されただけだよー」
嘘ではない。
魔法理論の話より、百二十七年ぶりの再会と、俺が冗談で作った秘密結社の話をしていた時間の方が長かっただけだ。
「それで世界最大企業の会長と個人面談できるわけないだろ」
トーマが呆れたように言う。
「偶然じゃないかなー」
「お前は何でも偶然で済ませすぎなんだよ」
授業開始を知らせる鐘が鳴った。
クラスメイトたちは渋々、自分の席へ戻っていく。
しかし、教室へ入ってきた教師は、教壇へ立たなかった。
「本日の一時限目は変更となった」
「変更?」
「《アウローラ》軍事・警備部門による、学院防衛設備の視察が行われる」
教室がざわめく。
「視察責任者は、軍事・警備部門総司令ラグナ・ヴァルガ様だ」
今度は歓声が上がった。
ラグナ・ヴァルガ。
世界最強の将軍。
数万の魔物による大侵攻を、わずか三百人の部隊で食い止めた竜人。
敵対国からは、彼女一人で一個軍団に相当すると恐れられているらしい。
「ラグナまで来たんだねー」
「お前、また知り合いみたいに呼んだな?」
「同じ名前の子を知ってるだけだよー」
昔のラグナは、今よりもずっと小さかった。
奴隷闘技場から救い出した直後は、誰に対しても牙を剥き、俺が近づくたびに噛みつこうとしていた。
けれど、一緒に暮らし始めてからは、俺の姿が少し見えなくなっただけで探し回るようになった。
気が強いくせに寂しがり屋だった少女が、世界最強の将軍になった。
昔の仲間が立派に成長しているのは嬉しい。
ただし、昨日の通信で一番大きな声を出していたのもラグナだった。
学院では静かにしてほしいと伝えたはずなので、大丈夫だとは思うが。
返事だけは、誰よりも元気だった。
◇
全校生徒が、学院の訓練場へ集められた。
しばらくすると、上空から巨大な飛竜が舞い降りてくる。
翼が風を巻き起こし、生徒たちの髪と制服を激しく揺らした。
飛竜の背から、二人の女性が降り立つ。
一人は、燃えるような赤い長髪と二本の角を持つ竜人。
鍛え上げられた身体へ軍服をまとい、腰には人間が扱えば両手剣になるほど大きな剣を下げている。
ラグナ・ヴァルガ。
その一歩後ろには、白い翼を持つ天翼族の女性がいた。
淡い金色の髪。
冷静な瞳。
手にした書類へ目を落としながらも、周囲の動きを一つも見逃していない。
ラグナの専属副官、カレン・グレイスだ。
「ラグナ・ヴァルガ総司令、ならびにカレン・グレイス副官であらせられる!」
学院長が緊張した声で二人を紹介する。
生徒たちから大きな拍手が起こった。
ラグナは堂々と片手を上げた。
「我ら《アウローラ》軍事・警備部門は、本日より王立魔法学院の防衛設備を――」
そこまで話したところで、ラグナの視線が俺を捉えた。
表情が一変する。
威厳に満ちていた世界最強の将軍の顔が、喜びを抑えきれない少女のように輝いた。
「アレ――!」
カレンがラグナの足を踏んだ。
「……ン?」
ラグナが片足を上げたまま、隣を見る。
「閣下。ご挨拶の途中です」
「分かっている!」
あまり分かっていない顔だった。
ラグナは咳払いをして、何とか演説を続ける。
「学院の防衛設備を視察する! 異常がないか、この我が直々に確認しよう!」
生徒たちが再び拍手する。
ラグナは学院長と話しながらも、何度もこちらを見ていた。
視線が合うたび、口元が緩む。
そのたびに、カレンがラグナの背中を小さくつねっていた。
「総司令、さっきからアレンを見てないか?」
トーマが小声で尋ねる。
「気のせいじゃないかなー」
「いや、絶対に見てるぞ」
「後ろに珍しい鳥でもいるのかもねー」
「お前の後ろは壁だ」
視察が始まった。
ラグナは学院長の案内を受け、訓練場の防壁や、魔法障壁の起動装置を確認していく。
俺たち生徒は、世界最高峰の警備技術を学ぶという名目で見学させられていた。
「この防壁は薄すぎる!」
ラグナが石壁を軽く叩く。
直後、壁全体に大きな亀裂が走った。
「こ、これでも王国の基準を十分に満たしております」
「基準が甘い! この程度では、我が拳の一撃にも耐えられぬではないか!」
「総司令の一撃に耐えられる建物は、王都にもほとんどございません」
カレンが冷静に指摘する。
「ならば、すべて建て直せ!」
「王都の建物をですか?」
「この学院だ!」
学院長の顔が青くなった。
カレンが書類を一枚確認する。
「《アウローラ》本部より、必要な改修費用は全額負担すると連絡を受けております」
「ぜ、全額ですか!?」
「はい。創――会長が、将来ある学生の安全を最優先するよう命じておりますので」
カレンの言葉が、一瞬だけ不自然に途切れた。
「すごいな。セレスティア会長は学生思いなんだな」
トーマは感心している。
「そうみたいだねー」
俺一人のために学院を建て直そうとしているわけではないだろう。
世界最大企業ともなれば、社会貢献にも熱心らしい。
「次に、生徒たちの実技訓練を確認する!」
ラグナが振り返った。
「代表者を一名選べ!」
「でしたら、成績上位の生徒を――」
「いや!」
学院長の提案を、ラグナが即座に遮る。
その指が、まっすぐ俺へ向けられた。
「あの男がよい!」
全員の視線が俺へ集まる。
「俺ですかー?」
「そうだ! アレン・クロフォード!」
「俺、まだ名乗ってないけどねー」
訓練場が静かになった。
ラグナが固まる。
カレンだけが平然と書類をめくった。
「昨日、セレスティア会長が魔法理論について面談した学生として、事前資料に記載されております」
「あ、ああ! その資料で見た!」
「閣下が資料へ目を通した形跡はございませんが」
「見たのだ!」
「承知いたしました。そういうことにしておきます」
カレンの声は冷静だったが、目は冷たかった。
周囲の生徒たちは首を傾げている。
「やっぱり、お前と《アウローラ》には何かあるんじゃないか?」
トーマが疑いの眼差しを向けてくる。
「会長さんと面談したから、名前を覚えられたんじゃないかなー」
「総司令は資料を読んでないらしいけどな」
「記憶力がいいんだねー」
「何の記憶だよ」
俺はラグナの前へ進み出た。
「何をすればいいですかー?」
「我と戦え!」
「閣下」
カレンの低い声が響く。
「一学生を相手に、世界最強の将軍が実戦を行うおつもりですか?」
「もちろん手加減する!」
「閣下の手加減によって消失した訓練場は、過去に七か所ございます」
「今度は加減を間違えぬ!」
「その言葉も八度目です」
カレンは書類を閉じた。
「実戦訓練は不要です。アレン・クロフォード学生には、個別の聞き取り調査へ協力していただきます」
「聞き取り調査?」
「昨日、会長との面談を行った学生です。学院の警備に関して、本人からも意見を聞くべきでしょう」
自然な理由だった。
ラグナを止めるため、その場で考えたようには見えない。
学院長も納得したように頷く。
「では、応接室をご用意いたします」
「防音性の高い部屋を」
「なぜ防音性が必要なのですか?」
「閣下の声が大きいためです」
「カレン!」
「事実です」
◇
学院の奥にある来賓用応接室。
部屋へ入ると、カレンが扉と窓を閉めた。
さらに杖を取り出し、壁、床、天井へ防音結界を展開する。
一枚。
二枚。
三枚。
「ずいぶん念入りだねー」
「必要な措置です」
カレンが四枚目の結界を重ねる。
「閣下。まだです」
「何がだ?」
「まだ結界の構築中です。お待ちください」
「もう十分であろう!」
「閣下の声量を基準にした場合、不十分です」
五枚目。
六枚目。
カレンが七枚目の防音結界を完成させる。
「これで――」
「アレン!」
最後まで言わせず、ラグナが俺へ飛びついた。
俺の身体へ両腕を回し、そのまま力いっぱい抱き締める。
普通の人間なら、背骨が何本か折れていただろう。
「久しぶりだねー、ラグナ」
「百二十七年だぞ!」
「大きくなったねー」
「我はもう子どもではない!」
「角も立派になったねー」
「だから子ども扱いするな!」
怒鳴りながらも、ラグナは俺から離れようとしなかった。
肩が小さく震えている。
「どこにいたのだ……」
先ほどまでの大声が、嘘のように小さくなる。
「我らが、どれほど探したと思っている」
「ごめんねー」
「謝るくらいなら、もう二度といなくなるな」
「善処するよー」
「善処では駄目だ!」
ラグナが顔を上げる。
赤い瞳の端に涙が浮かんでいた。
昔から、泣いているところを見られるのが嫌いな子だった。
俺はラグナの頭へ手を置く。
「ラグナも立派になったねー。世界最強の将軍なんだって?」
「当然だ! アレンに救われた我が、弱いままでいられるものか!」
「よく頑張ったねー」
「う、うむ……」
ラグナの角の先まで赤くなった。
褒められることには、昔から弱い。
「ところでアレン!」
ラグナが俺の肩を掴む。
嫌な予感がした。
「我はもう十分に成長した!」
「そうだねー」
「世界最強にもなった!」
「すごいねー」
「軍事部門も、秘密結社の実働部隊も、すべて我が守っている!」
「頑張ったねー」
「ならば今日こそ我を妻にしろ!」
応接室全体が震えた。
七枚の防音結界へ、一斉に亀裂が走る。
カレンが即座に杖を振った。
八枚目。
九枚目。
十枚目。
「ラグナはまだ若いからねー」
「年齢なの!?」
再び結界が震える。
「強さでは誰にも負けぬぞ!」
「元気でいいねー」
「話を逸らすな!」
十一枚目。
十二枚目。
カレンが無表情のまま、次々に結界を重ねていく。
「敵国の軍勢より、閣下の求婚を隠蔽する方が難しいとは思いませんでした」
「カレン、お前も何か言ってやれ!」
「申し上げております。主に閣下へ」
「我は百二十七年待ったのだぞ!」
「以前から何度もお伝えしておりますが、待っているだけでは婚姻は成立しません」
「だから今、求婚している!」
「同じ文言を百年間繰り返した結果、成功率は上昇しましたか?」
「今度こそ成功する!」
「根拠をお聞かせください」
「我が以前より強くなった!」
「恋愛と戦闘を同じ基準で考えるのをおやめください」
ラグナは俺から離れると、拳を握り締めた。
「ならばアレン! 我に足りぬものを言え! 国か? 財産か? 敵の首か!?」
「もっと落ち着きかなー」
「落ち着いている!」
防音結界が十三枚まとめて震えた。
カレンが額へ手を当てる。
「せめて声量を落としてください。聞いているこちらまで、複雑な気分になりますので」
ラグナの動きが止まった。
「……複雑?」
「言葉どおりの意味です」
「もしやカレン、お前もアレンを――」
「閣下」
カレンが笑った。
目だけは笑っていない。
「防音結界を解除してもよろしいでしょうか」
「なぜだ!?」
「学院の皆様にも、閣下の求婚を聞いていただこうかと」
「それは駄目だ! アレンの正体が露見する!」
「でしたら余計な詮索をせず、声量を落としてください」
「むぅ……」
世界最強の将軍が、専属副官に言い負かされている。
昔から二人の関係は変わっていないらしい。
「カレンも久しぶりだねー」
俺が声をかけると、カレンの肩がわずかに揺れた。
彼女はすぐに表情を整え、俺の前へ進む。
そして片膝をついた。
「《ノクス・アウローラ》軍事部門副官、カレン・グレイス」
胸元へ手を当て、深く頭を下げる。
「創設者様のご無事を、心より嬉しく思います」
「立っていいよー」
「ありがとうございます」
カレンが立ち上がる。
「羽も立派になったねー。昔より、ずっときれいになったよー」
「……」
カレンが停止した。
瞬きもしない。
「カレン?」
「少々、お待ちください」
表情は変わっていない。
ただし、白い翼が大きく広がり、羽毛がふわりと逆立っている。
「どうしたのだ、カレン?」
「問題ありません」
「顔が赤いぞ」
「応接室の温度が高いだけです」
「先ほどまで適温だったではないか」
「閣下は黙っていてください」
カレンが素早く背を向ける。
耳まで真っ赤だった。
「カレンも元気そうでよかったよー」
「……創設者様」
「何かなー?」
「他の女性へも、同じようなことを簡単におっしゃるのでしょうか」
「セレスにも、大きくなったねーって言ったよー」
「そうではありません」
「羽のこと?」
「もう結構です」
なぜか少し不機嫌になってしまった。
女性の気持ちは、四百年以上生きても難しい。
「それで、二人とも今日は俺に会いに来ただけなのかなー」
「それが最優先だ!」
ラグナが即答する。
カレンが咳払いをした。
「表向きは、学院防衛設備の視察です」
「そうだった!」
「お忘れにならないでください」
カレンが書類を一枚取り出す。
「昨夜、セレスティア会長から、創設者様の学院生活を妨げないよう厳命されました」
「それなら、あまり警備を増やさないでねー」
「現在配置されている人員は、最低限です」
「三個師団が最低限なの?」
二人の動きが止まった。
「知っておられたのですか」
「昨日、通信で少し聞いたからねー」
「さすがアレンだ! すべてお見通しなのだな!」
「聞いただけだよー」
「警戒網の全容を一夜で見抜かれたと、各部隊へ伝えておきます」
「伝えなくていいからねー」
カレンが何かを書類へ記録する。
「俺は一人でも大丈夫だよー。それより、学院のみんなが安心して過ごせるようにしてあげてねー」
ラグナとカレンが黙った。
二人は顔を見合わせる。
「ご自身の安全より、学院の者たちを優先されるのか……」
「昔と何も変わっておられませんね」
「普通のことじゃないかなー」
ラグナが力強く頷いた。
「分かった! アレンの望みどおり、学院のすべてを守ろう!」
「そこまで大げさじゃなくてもいいよー」
「このラグナ・ヴァルガに任せろ! 学院へ敵意を向ける者は、国ごと――」
「滅ぼさなくていいからねー」
「では都市だけにする!」
「人の話を聞いてねー」
カレンが再び書類へ何かを書き込む。
「創設者様のご意向を、正確に各部隊へ通達いたします」
「カレンなら安心だねー」
「お任せください」
返事は冷静だった。
けれど、翼は再び嬉しそうに広がっていた。
◇
聞き取り調査を終え、俺たちは訓練場へ戻った。
ラグナは世界最強の将軍らしい威厳を取り戻している。
俺も、ただの学生としてその後ろを歩いた。
「お前、ずいぶん長かったな」
トーマが近づいてくる。
「警備について、いろいろ聞かれてたんだよー」
「総司令とは何を話したんだ?」
「学院の壁が薄いとか、声が大きいとかかなー」
「何の聞き取り調査だよ、それ」
トーマが疑わしそうに俺を見る。
ラグナは周囲の視線を意識し、俺を見ないよう正面だけを向いていた。
初対面を装うつもりらしい。
ただし、口元は緩みっぱなしだった。
「総司令、随分機嫌がよさそうだな」
「学院の警備に問題がなかったんじゃないかなー」
「さっき壁を全部建て直すって言ってたけど」
「これからよくなるのが嬉しいんだよー」
学院長がラグナの前へ進み出る。
「本日の視察は、これにて終了でしょうか?」
「ああ!」
ラグナは大きく頷いた。
これで騒がしい一日も終わる。
そう思った。
「ただし、学院の防衛体制は不十分だ!」
「やはり、全面改修が必要でしょうか」
「それだけでは足りぬ!」
ラグナが腕を組む。
「我が直接、学院へ残り、学生たちを鍛える!」
「え?」
俺と学院長の声が重なった。
「本日より、我は王立魔法学院の特別実技講師に就任する!」
生徒たちから大歓声が上がった。
世界最強の将軍から、直接指導を受けられる。
普通の学生なら喜ぶところなのだろう。
「聞いてないよー」
俺が小声で呟く。
カレンが隣へ立ち、周囲に聞こえない声で答えた。
「先ほど決定しました」
「誰が決めたのかなー」
「閣下です」
「学院長の許可は?」
「《アウローラ》が新校舎建設費を全額負担するとお伝えしたところ、快諾されました」
仕事が速い。
「カレンも残るの?」
「閣下の監視役が必要ですので」
カレンはそう答えたあと、ほんの少しだけ視線を逸らした。
「それに、創設者様の学院生活にも興味がございます」
ラグナが訓練場の中央から、俺を指さした。
「まずはアレン・クロフォード!」
また全員の視線が集まる。
「なぜ俺からなんですかー?」
「会長が将来性を見出した学生なのであろう? ならば我が直々に鍛えてやる!」
表向きは、どうにか筋が通っている。
「手加減してねー」
「任せろ!」
その返事を聞いたカレンが、静かに首を横へ振った。
「創設者様。明日から予備の訓練場をご使用ください」
「どうしてー?」
「現在の訓練場は、おそらく明日なくなります」
世界最強の将軍と、その専属副官。
二人との再会は嬉しい。
けれど俺の平凡な学生生活は、昨日よりさらに遠ざかった気がした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になる、面白かったと思っていただけましたら、ページ下部からブックマークと評価で応援していただけると嬉しいです。
皆さまの応援が、今後の更新の大きな励みになります。




