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冗談で作った秘密結社が世界最大企業になっていた ~平凡な学生を演じる創設者の俺は、今さら全部作り話だったと言い出せない~  作者: てへろっぱ


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第29話 情報部門長に「昨日はデートだったの?」と聞いたら、世界中の情報網が止まった



 翌日の昼休み。


 俺は。


 トーマに言われたことを、そのまま実行することにした。


「ミコトー」


「はい」


 呼んだ瞬間。


 教室の窓の外から返事が来た。


「……」


 トーマが固まる。


「どうしているんだよ!?」


「呼ばれましたので」


 いつの間にか。


 窓の外。


 二階の壁に。


 ミコトが立っていた。


「そこ、足場ないぞ!?」


「情報部門ですので」


「説明になってない!」


「入ってくればー?」


「はい」


 窓が開く。


 ミコトが教室へ入ってきた。


 周囲の生徒たちが。


 何事かとこちらを見る。


「アレン」


「うん」


「ご用件は?」


「昨日のことなんだけどねー」


「……」


 ミコトの身体が。


 ほんの少し。


 固くなった。


     ◇


 同時刻。


 世界各地。


 《アウローラ》情報部門。


 中央情報局。


 東方支部。


 西方支部。


 北方監視局。


 海洋情報室。


 天空監視所。


 地下通信管理室。


 全拠点へ。


 同じ表示が出ていた。


 ――最高優先案件。


 ――対象、ミコト・クズノハ情報部門長。


 ――想定質問。


 ――「昨日はデートだったの?」


 ――回答待機。


 情報部門の女性職員たちが。


 息を止める。


「第一回答案!」


「『いいえ、現代学生文化の実地講習です』!」


「安全!」


「しかし部門長の恋愛的利益がありません!」


「第二案!」


「『一般的にはデートと分類される可能性があります』!」


「逃げです!」


「第三案!」


「『アレン様がお望みならデートということで』!」


「重い!」


「第四案!」


「『はい』!」


「直球すぎます!」


「だが部門長らしくないからこそ有効!」


「回答予測不能!」


「過去百二十七年分の恋愛記録を解析しろ!」


「すでに完了しています!」


「結論は!?」


「参考データ不足!」


「百年以上追いかけていて!?」


「正式な交際経験がゼロです!」


「役に立たない!」


 世界最大級の情報組織が。


 一人の女性の返事を決めるため。


 本気で混乱していた。


     ◇


「ミコト」


「はい」


「昨日ってさー」


「はい」


「デートだったの?」


 ぴしっ。


 何か。


 音がした。


「ミコト?」


「……」


「固まった?」


「固まっていません」


「返事なかったよー」


「情報を処理しています」


「そんな難しい質問かなー」


「人生最大級です」


「そんなに?」


「はい」


 ミコトは。


 いつものように。


 笑って誤魔化さなかった。


 俺を見る。


 少しだけ。


 頬が赤い。


「アレン」


「うん」


「誰から」


「その概念を?」


「トーマ」


「……」


 ミコトが。


 ゆっくり。


 トーマを見る。


「な、何だよ」


「トーマ・ベルク」


「はい」


「情報部門として」


「うん」


「今後、あなたの重要度を上方修正します」


「何で!?」


「有益な助言者」


「俺、味方認定されたの!?」


「暫定」


「暫定かよ!」


「それでー?」


 俺が聞く。


 ミコトが。


 こちらへ向き直る。


「昨日の行動内容」


「うん」


「二人で遊ぶ」


「うん」


「二人で写真を撮影」


「うん」


「手をつないで移動」


「うん」


「次回の約束」


「したねー」


「現代学生文化における分類では」


「うん」


 一度。


 目を閉じる。


「デートに該当する可能性が」


「可能性?」


「九十八・七パーセント」


「ほとんどデートだねー」


「……はい」


「じゃあ」


 俺は。


 昨日もらった写真を見る。


「デートだったんだねー」


「……」


「ミコト?」


「もう一度」


「やっぱり言うのー?」


「必要です」


「昨日はミコトとデートしてたんだねー」


「……」


 ミコトの。


 偽装魔法が。


 ぶわっ。


 と一瞬だけ乱れた。


 九本の尾が。


 教室いっぱいに広がりかける。


「わっ」


「見ないでください!」


「もう隠れたよー」


「今のは幻覚です!」


「九本あったねー」


「ありません!」


「ミコト」


「はい!」


「声大きいよー」


「申し訳ありません!」


 珍しく。


 完全に余裕を失っている。


     ◇


 その瞬間。


 世界各地の情報拠点。


「部門長より回答!」


「内容は!?」


「『はい』!」


「アレン様!」


「『昨日はミコトとデートしてたんだねー』!」


「……」


 通信室が。


 静まり返った。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


「通信処理停止!」


「中央演算装置が止まりました!」


「なぜ!?」


「喜びによる情報量過多です!」


「機械が!?」


「違います!」


「操作員が全員止まっています!」


 東方支部。


「業務再開してください!」


「無理です!」


「部門長が!」


「ついに!」


 西方支部。


「記念日登録!」


「全社暦へ載せるな!」


「最高機密記念日に!」


「それなら可!」


 北方支部。


「昨日の行動記録の分類を変更!」


 ――現代学生文化調査。


 削除。


 ――ミコト・クズノハ、第一回デート。


 登録。


「第一回!?」


「第二回がある前提です!」


「正しい!」


 世界中の情報網が。


 十二秒間。


 本当に止まった。


 後に。


 《アウローラ》情報部門史上。


 最大級の通信障害として記録されたらしい。


 原因欄には。


 ――部門長私事。


 とだけ書かれた。


     ◇


「じゃあ」


 俺はミコトを見る。


「今度の残り十六か所もデート?」


「……!」


 ミコトの身体が。


 また止まった。


「アレン!」


 トーマが叫ぶ。


「何かなー」


「お前!」


「今のは!」


「自分から次のデートを誘ってるぞ!」


「前から行く約束だったよー」


「分類が変わったんだよ!」


「あー」


 なるほど。


「じゃあ」


 ミコトを見る。


「嫌?」


「嫌ではありません!」


「ならいいねー」


「はい!」


「残り十六か所、ゆっくり行こうー」


「……はい」


 ミコトは。


 今度こそ。


 真っ赤になった。


「一日で全部じゃなくていいからねー」


「承知しました」


「遊びは効率じゃないんでしょー?」


「……覚えていたのですか」


「昨日のことだからねー」


 ミコトが。


 小さく笑う。


「では」


「はい」


「ゆっくり」


「一緒に回りましょう」


「うん」


「ただし」


「何?」


「十六か所を一回ずつ回る必要はありません」


「そうなの?」


「気に入った場所は」


「何度行っても構いません」


「じゃあ、盤上ゲームはまた行かないとねー」


「……!」


「再戦するんでしょ?」


「はい」


「次は負けない?」


「絶対に勝ちます」


「楽しみにしてるねー」


 狐耳は見えない。


 でも。


 たぶん。


 今。


 すごく立っている。


     ◇


 ミコトが戻ったあと。


 トーマは。


 長い間。


 俺を見ていた。


「何かなー」


「アレン」


「うん」


「お前」


「最近、変わったよな」


「そう?」


「前だったら」


 トーマが言う。


「今の話も」


「『そうだねー、いつかねー』」


「とか言って逃げてたんじゃないか?」


「あー」


 そうかもしれない。


「最近は」


「うん」


「料理の次も約束して」


「ピクニックの次も約束して」


「今も次のデートを約束した」


「そうだねー」


「どういう心境の変化だ?」


「心境?」


 考える。


 昔。


 俺は。


 みんなを子どもだと思っていた。


 今も。


 その感覚が。


 完全になくなったわけではない。


 百年以上。


 姿を見ない間に。


 みんな。


 世界を動かすような女性になった。


 それでも。


 俺の前では。


 昔と同じ顔をする。


「せっかく会えたからねー」


「……」


「一緒にやりたいことがあるなら」


「今度は」


「ちゃんとやっておこうかなー、って」


 トーマが。


 少しだけ目を丸くした。


「お前」


「何?」


「それ」


「女全員に言うなよ」


「どうして?」


「死人が出る」


「大げさだねー」


「お前の場合は本気だ!」


     ◇


 放課後。


 教室を出ようとしたところで。


 今度は。


 一人の少女が待っていた。


 灰銀色の髪。


 小柄。


 表情は。


 ほとんど変わらない。


「エルシア」


「はい」


「今日は偽装してないんだねー」


「学院側には、研究部門長として訪問許可を取得しています」


「仕事?」


「個人指導です」


「仕事じゃないねー」


「研究教育活動です」


「どっちなのかなー」


「アレン」


「何?」


「私の番です」


 真剣だった。


「何の?」


「現代魔導技術を」


「私が教えます」


「あー」


 前に。


 進路希望で。


 知らないことをいろいろ学びたいと書いた。


「お願いしますー」


「……」


「エルシア?」


「もう一度」


「また?」


「お願いします」


「現代の魔道具、教えてよー」


「はい」


 エルシアの周囲で。


 ぱら。


 ぱら。


 小さな雪が降った。


「嬉しい?」


「平常です」


「雪降ってるよー」


「学院内気象です」


「廊下だけ?」


「局地現象です」


「エルシアの周りだけ?」


「偶然です」


「最近みんな偶然が多いねー」


     ◇


「研究所へ行くのー?」


 俺が尋ねる。


「その予定でした」


「でした?」


「変更します」


「どうして?」


「昨日」


 エルシアが。


 一枚の紙を見せる。


 俺の進路希望調査。


 ――まだ、いろいろな人から教わりたい。


「研究所では」


「専門的すぎると判断しました」


「そうなの?」


「はい」


「アレンが知りたいのは」


「現在の一般生活で使われている魔導技術」


「……だと思います」


 少し。


 自信がなさそうだ。


「当たりー」


「……!」


 雪が。


 少し増えた。


「俺」


「百年前の生活用品しか知らないからねー」


「学院で初めて見る物も結構あるよ」


「では」


「こちらへ」


     ◇


 連れていかれたのは。


 《アウローラ・グランド》。


 魔導生活用品区画。


「広いねー」


「世界最大規模です」


「エルシアの研究部門の商品もある?」


「多数あります」


「じゃあ詳しいねー」


「当然です」


 自信満々だ。


 最初。


 自動洗浄箱。


「服を入れます」


「うん」


「魔石を起動します」


「うん」


「一時間後」


「洗浄と乾燥が完了します」


「便利だねー」


「はい」


「エルシアは使ってるの?」


「……」


「エルシア?」


「使用人が」


「自分で使ったことないんだねー」


「仕組みは完全に理解しています」


「使い方は?」


「……」


 説明書を見る。


「現在確認中です」


「一緒に覚えようかー」


「はい」


 二つ目。


 自動温度調整寝具。


「寝ている人の体温に合わせ」


「温度を調節します」


「エルシア向けだねー」


「なぜ?」


「寝てるとき寒くならない?」


「私自身が温度を調節できます」


「じゃあいらないねー」


「……」


「どうしたの?」


「アレンと同じ温度設定なら」


「使用価値があります」


「俺と?」


「研究用データ比較です」


「そうなのー?」


「はい」


 説明員の女性が。


 口元を押さえていた。


 笑っている気がする。


 三つ目。


 自動調理鍋。


「材料を入れれば」


「料理が完成します」


「セレスに教えたら怒られそうだねー」


「なぜ?」


「この前、二人で料理覚えたから」


「……」


 温度が。


 三度下がった。


「エルシア?」


「正常です」


「冷えてない?」


「空調です」


「さっきまで暖かかったよー」


「省エネルギー制御です」


「便利だねー」


「便利です」


 少し。


 不機嫌そうだった。


     ◇


「これは?」


 小さな透明の球。


「《星灯投影器》」


「星?」


「室内の天井へ」


「夜空を再現します」


「へえー」


「本来は教育用」


「現在は家庭用としても人気です」


 店員さんが。


 体験室を案内してくれた。


 小さな暗室。


 俺とエルシア。


 二人で入る。


「起動します」


 エルシアが。


 球へ触れる。


 ぱっ。


 天井が。


 夜空になった。


「おー」


 星。


 月。


 流れる光。


「すごいねー」


「現在の星空を」


「誤差〇・〇〇三度以内で再現しています」


「本物みたいだねー」


「はい」


「エルシアが作ったの?」


「基礎技術は」


「私の研究部門です」


「すごいねー」


「……」


「エルシア?」


「もう一度」


「今日はみんな二回欲しがるねー」


「お願いします」


「すごいねー」


「はい」


 足元へ。


 薄い霜が広がる。


「喜ぶと寒くなるんだっけー?」


「感情によります」


「嬉しいときも?」


「制御が乱れる場合があります」


「昔は雪降らせてたねー」


「……覚えていますか」


「うん」


 昔。


 エルシアは。


 感情を表へ出すのが。


 あまり上手ではなかった。


 嬉しい。


 悲しい。


 寂しい。


 怒る。


 顔には出ない。


 代わりに。


 周囲の温度が変わった。


「一回」


「夏なのに雪積もらせたよねー」


「……」


「どうしたの?」


「それは」


 エルシアが。


 星空を見る。


「アレンが」


「三日間帰らなかったときです」


「あー」


 魔獣退治だったかな。


「私は」


「あなたが帰らないと思いました」


「みんな似たこと考えてたんだねー」


「はい」


「でも帰ったよー」


「三日後に」


「うん」


「それから」


 小さな声。


「百年以上」


「帰りませんでした」


「……」


 少し。


 空気が冷える。


「その間」


「研究所で雪が降った?」


「いいえ」


「我慢できるようになった?」


「違います」


 エルシアが。


 俺を見る。


「感情を」


「研究へ変換する方法を覚えました」


「……」


「考えないように」


「研究しました」


「眠らないように」


「研究しました」


「思い出さないように」


「研究しました」


「そうすると」


「百年は」


「比較的短かったです」


「エルシア」


「はい」


「それ」


「たぶん」


「短く感じてないよー」


「……」


 返事がない。


「すごく長かったんじゃない?」


「……」


 天井の星が。


 少し。


 揺れた。


「はい」


 エルシアは。


 初めて。


 素直に認めた。


「長かったです」


「そっかー」


「はい」


「ごめんねー」


「謝罪は不要です」


「でも」


「待たせたのは俺だからねー」


「……」


「今は」


 天井を見る。


「こうして一緒にいるしねー」


「はい」


「研究しなくても」


「星を見るだけの時間があってもいいんじゃない?」


「何の成果もありません」


「きれいだよー」


「……」


「それじゃ駄目?」


 エルシアが。


 夜空を見上げる。


 長い。


 沈黙。


「いいえ」


「うん」


「悪くありません」


 足元の霜が。


 ゆっくり。


 消えていった。


     ◇


「アレン」


「何かなー」


「一つ」


「確認があります」


「うん」


「昨日」


「ミコトと」


「デートだったのですか?」


「あー」


 情報が速い。


「そうみたいだねー」


 ぱきっ。


 床に。


 薄い氷。


「エルシア?」


「問題ありません」


「凍ってるよー」


「室温調整」


「感情でしょー?」


「……はい」


「珍しく認めたねー」


「では」


 エルシアが。


 まっすぐこちらを見る。


「今日のこれは」


「何ですか?」


「現代魔導具の勉強?」


「……」


「それだけ?」


「エルシアは、どうしたいのー?」


 完全に。


 止まった。


「私?」


「うん」


「ミコトは」


「本人に聞いたらデートだったみたいだからねー」


「エルシアも」


「自分で決めていいんじゃない?」


「……」


 暗い体験室。


 星の光。


 エルシアは。


 たぶん。


 ものすごく考えている。


「では」


「うん」


「デート」


「うん」


「が」


「いいです」


「分かったー」


 その瞬間。


 天井の星灯投影器とは別に。


 きらきらと。


 本物の氷の粒が。


 部屋中へ舞った。


「きれいだねー」


「暴走です」


「嬉しい?」


「……」


「エルシア?」


「非常に」


「そっかー」


「はい」


 少しだけ。


 笑っていた。


     ◇


 そして。


 数分後。


 《アウローラ》魔導研究部門。


 緊急通信。


 ――研究部門長より重要報告。


 ――本日の現代魔導技術指導。


 ――分類を変更。


 職員たちが。


 画面を見る。


 旧分類。


 ――教育活動。


 削除。


 新分類。


 ――デート。


「……」


 研究所が。


 静まり返った。


 一秒後。


「研究部門長が!?」


「自分から!?」


「デートと!?」


「雪が!」


「研究所全域で雪が降っています!」


「室内です!」


「止めろ!」


「無理です!」


「部門長が幸せです!」


「なら仕方ない!」


 研究所の中で。


 季節外れの雪が。


 十分ほど降り続いた。


     ◇


 その夜。


 最高幹部会議室。


「異議があります」


 セレス。


「私もよ」


 ヴィオラ。


「我もだ!」


 ラグナ。


「情報部門として」


 ミコトが。


 非常に不満そうな顔で言う。


「重大な先例問題です」


「何が?」


 エルシアは平然としている。


「私が」


 ミコトが指を向ける。


「デート認定まで一日かかりました」


「はい」


「エルシアは?」


「アレンと相談し」


「その場で認定」


「不公平です」


「情報戦で負けています」


「……!」


 ミコトの尾が。


 逆立った。


「研究者が情報部門へ情報戦を挑むのですか?」


「事実を述べただけ」


「再戦」


「不要」


「再戦!」


「何を競うのー?」


 俺が尋ねると。


 全員。


 動きを止めた。


「アレン」


 セレスがこちらを見る。


「いつから?」


「さっき来たよー」


「聞いていたのですか?」


「最後の方だけねー」


「……」


 十人。


 一斉に。


 少し姿勢を正した。


「ところで」


「はい」


 俺は。


 セレスたちを見る。


「料理も」


「ピクニックも」


「遊びも」


「今日の魔道具見学も」


「みんなデートなの?」


 十人。


 完全停止。


「違うのー?」


 返事がない。


「セレス?」


「……」


「ラグナ?」


「……」


「ミコト?」


「……」


「エルシア?」


「私は」


 エルシアだけが。


 静かに手を上げた。


「デートです」


「うん」


「そこは聞いたねー」


 残り九人が。


 エルシアを睨む。


「じゃあ」


 俺は少し考える。


「みんなも」


「そういうつもりだったなら」


「最初から言ってくれてよかったのにねー」


「……」


 会議室の温度。


 上昇。


 下降。


 上昇。


 尾。


 翼。


 耳。


 全部が。


 一斉に反応した。


「アレン」


 セレスが。


 震える声で尋ねる。


「では」


「今後」


「私たちが」


「デートへお誘いしても?」


「予定が空いてればいいよー」


 沈黙。


「ただ」


「ただ?」


「一人ずつねー」


 十人の目が。


 一斉に鋭くなった。


「公平に?」


 リゼット。


「そうだねー」


 次の瞬間。


 最高幹部会議室の中央へ。


 あの。


 不正防止術式つき抽選箱が。


 置かれた。


「また出てきたねー」


「必要です」


「最近こればっかりだねー」


「公平性は重要です」


 十人。


 抽選箱を見る。


 そして。


 全員。


 警戒した。


 過去。


 不正を試みた者ほど。


 遠い席へ飛ばされた。


 あの箱だ。


「今回は」


 リゼットが宣言する。


「次回デート順を決定します」


 世界最大企業を動かす。


 最高幹部五人と。


 その側近五人。


 十人による。


 最も重要な抽選が。


 始まろうとしていた。


 俺としては。


 ただ。


 今の時代のことを教えてもらっているだけのつもりだった。


 でも。


 どうやら。


 普通の学生生活には。


 デートというものも。


 含まれているらしい。


「学生って、忙しいねー」


「お前だけだ!」


 なぜか。


 その場にいないはずのトーマの声が。


 聞こえた気がした。


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