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冗談で作った秘密結社が世界最大企業になっていた ~平凡な学生を演じる創設者の俺は、今さら全部作り話だったと言い出せない~  作者: てへろっぱ


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18/22

第18話 学生が作った安い灯りで、世界最大企業が見つけられなかった地下工房が開いた



 世界最高峰の魔導研究者たちが、十日間かけても発見できなかった古代施設。


 その入口を見つけたのは。


 学生が銅貨四十五枚で販売した、小さな照明魔道具だった。


     ◇


「また地下なのか……」


 《学生挑戦市場》の一室。


 トーマが机に置かれた古い本と、浮かび上がった地図を交互に見ていた。


 マヤの《夜机灯》が斜めから照らすと、本の余白に青白い古代文字が現れる。


 ――安価な灯火を作りし者へ。


 ――我らの工房を、託す。


 その下に描かれていた地図。


 印がつけられているのは、《アウローラ・グランド》の建設地だった。


「この施設、地下に何かありすぎじゃないか?」


 トーマが俺を見る。


「大きな施設だからねー」


「大きさで説明できる問題か?」


「昔から人が住んでた都市みたいだから、地下にもいろいろ作ったんじゃないかなー」


「お前の学生寮の真下には古代兵器があっただろ」


「そうだったねー」


「学院の地下には災厄の封印」


「それもあったねー」


「今度は世界本部の地下に古代工房だぞ!」


「便利な場所に集まってるねー」


「どうして他人事なんだ!」


 俺が作ったわけではないので、他人事には違いない。


「本当に古代工房なのかな……」


 マヤは、不安そうに《夜机灯》を抱えていた。


「私の魔道具を使ったせいで、危ないものが出てきたらどうしよう」


「灯りは、文字を見えるようにしただけだよー」


「でも、ここには《灰冠の王》も封印されてたんでしょ?」


 第一災厄の存在は、一般には公開されていない。


 学院や市場で起きた異常については、古代魔力炉の事故として説明されている。


「そんな噂もあるみたいだねー」


「アレン。説明が雑だぞ」


 トーマが横から口を挟む。


「古代兵器が出てきたことは、俺も見てるんだからな」


「今回は、工房って書いてあるから大丈夫じゃないかなー」


「古代兵器工房だったらどうするんだ?」


「ラグナが喜びそうだねー」


「誰だよ」


「知り合いだよー」


「また女か?」


「そうなるねー」


「お前の知り合い、女ばかりだな!」


 大きな声を出したトーマへ、部屋にいた《アウローラ》の女性職員たちが一斉に視線を向けた。


「声が大きいよー」


「お前のせいだ!」


 そのとき、扉が開いた。


 灰色の髪と眼鏡で姿を変えたエルシアが入ってくる。


 今日も表向きは、魔導研究部門の一般研究員エル先生だ。


 後ろには助手役のノエル――偽名はノア。


 さらに、調査用の魔道具を抱えた女性研究員が二十人ほど続いていた。


「地図の解析が終了しました」


 エルシアが淡々と告げる。


「印が示している場所は、《アウローラ・グランド》地下百二十七層より、さらに下です」


「地下百二十七層まであったのか!?」


 トーマが驚く。


「公表されている地下施設は、二十層までじゃなかったか?」


「その下は、建設作業用区画です」


「百層以上も?」


「世界本部ですので」


「世界本部って、そんなに地下が必要なのか?」


「必要です」


 エルシアは迷わず答えた。


 実際には地下百階付近に、《ノクス・アウローラ》の秘密本部が存在する。


 もちろん、トーマとマヤには教えられない。


「古代工房は、秘密――建設作業用区画とも異なる位置にあります」


 エルシアが地図を表示する。


 《アウローラ・グランド》地下。


 巨大な地下本部。


 そこから横へ大きく離れた岩盤の中に、空洞らしき形が浮かんでいた。


「施設建設時の調査では、発見できませんでした」


「《アウローラ》でも見つけられなかったの?」


 マヤが尋ねる。


「魔力による探査を完全に遮断する構造です」


「じゃあ、どうしてこの本には地図が?」


「現地で確認します」


 エルシアが俺を見る。


「発見者である三名にも、同行をお願いします」


「俺たちも行くのか?」


 トーマの顔が引きつる。


「危険はないんですよね?」


「現時点では不明です」


「あるかもしれないんじゃないか!」


「安全確認のため、魔導研究部門の調査員が同行します」


「軍隊は?」


「必要ありません」


 エルシアが答えた直後。


 床が小さく揺れた。


 遠くから、重いものが移動する音が聞こえる。


「今の音は?」


「建設作業です」


 ノエルが元気よく答えた。


「軍事部門の人たちが、地下へ移動している音ではありません!」


「聞いてないことまで答えたねー」


「ノア」


「秘密でした!」


 実際には。


 ラグナ率いる軍事部門の精鋭が、古代工房を包囲しようとしているらしい。


     ◇


『我が先頭に立つ!』


 地下本部の極秘通信から、ラグナの声が響く。


『学生三名を危険な場所へ近づけるなど認められぬ!』


『閣下は表へ出ないでください』


 カレンが止める。


『なぜだ!?』


『トーマ・ベルク学生とマヤ・フェルン学生に、正体を知られる可能性があります』


『変装する!』


『一般研究員が大剣を背負って、千名の兵士を率いていたら不自然です』


『では、剣を小さくする!』


『人数の問題もあります』


『五百名に減らす!』


『十名です』


『少なすぎる!』


 俺にだけ聞こえる通信なので、トーマたちは気づいていない。


『アレン』


 今度はセレスの声。


『本当に同行なさるのですか?』


「発見者らしいからねー」


『危険が確認された場合は、即座に退避してください』


「分かったよー」


『絶対に、です』


「うん」


『約束してください』


「約束するよー」


 通信の向こうが静かになった。


『……記録しました』


 ミコトの声が入る。


『セレスだけが、明確な約束を得ました』


『安全確認に関する約束です』


『約束であることに変わりはありません』


『再生できます』


『しなくて結構です』


『我にも何か約束しろ、アレン!』


 ラグナが割り込んでくる。


「帰ったら話を聞くよー」


『約束だな!?』


「うん」


『記録した!』


『私の担当業務です』


 ミコトが不満そうに言った。


『では、アレン様』


 ヴィオラの声が続く。


『帰還後、私と夕食を――』


「それは別の話だねー」


『なぜラグナだけなの!?』


『我の日頃の行いだ!』


『絶対に違います』


 カレンの声が重なる。


 古代工房を調査する直前とは思えない会話だった。


     ◇


 俺たちは、《アウローラ・グランド》の一般客用区画から、職員用の昇降魔道具へ乗り込んだ。


 地下十階。


 二十階。


 三十階。


 表示は、そこまでしか出ない。


 だが、昇降魔道具はさらに下り続けた。


「まだ下りるのか?」


 トーマが壁へ手をつく。


「長いねー」


「お前は前にも来たことがあるのか?」


「少しだけねー」


「どうして一般学生が、世界本部の地下へ来たことがあるんだ?」


「施設の説明を受けたんだよー」


「説明で地下百階まで連れていく会社があるか!」


「大きな会社だからねー」


「最近、それで全部済ませようとしてるだろ!」


 隣でマヤが《夜机灯》を抱え直す。


「本当に、これが鍵なのかな」


「ほかの照明では、文字が出なかったんだよねー」


「うん。研究部門の高級照明でも、太陽の光でも出なかった」


「安い灯りじゃないと見えない仕組みなのかもねー」


「そんな仕組み、作れるの?」


 マヤがエルシアを見る。


「可能です」


「どうやって?」


「光量、波長、魔力密度を限定すれば」


「《夜机灯》は、特別な光を出してるつもりはないんですけど」


「高級な照明魔道具は、光を均一にするため複数の術式を使用します」


 エルシアが説明する。


「《夜机灯》は単純な回路で、安価な魔石から必要な量だけを受け取る。そのため、わずかな光の揺らぎが残っています」


「欠点だと思ってた……」


「通常使用では問題ありません」


「その小さな揺らぎが、古代文字を見せたんだねー」


「はい」


 完璧に作られた高級品では、見えない。


 安価な材料を工夫して作った灯りだからこそ、見つけられた文字。


 この工房を作った者も、似たような考え方をしていたのかもしれない。


 昇降魔道具が停止した。


 扉が開く。


 目の前には、岩を削って作られた細い通路が続いていた。


「ここが地下百二十七層?」


「正確には、その外側です」


 エルシアが先頭へ立つ。


「この先に、人工的な空洞があります」


「魔獣や古代兵器の反応は?」


 トーマが尋ねる。


「ありません」


「災厄は?」


「ありません」


「本当に?」


「現在確認できる限りでは」


「最後の言葉が不安だ!」


     ◇


 通路の突き当たりには、何もなかった。


 灰色の岩壁。


 扉も。


 魔法陣も。


 古代文字もない。


「地図では、ここなんですよね?」


 マヤが古い本を広げる。


「はい」


 エルシアが岩壁へ探査魔法を使う。


「奥に空洞があります。しかし、入口が存在しません」


「壁を壊せばよい!」


 極秘通信からラグナの声が聞こえた。


『静かにしてください』


 カレンが止める。


「壊さない方がいいよー」


 俺は岩壁へ近づく。


 表面は、ほかの岩と変わらない。


 触れても、魔力の反応はない。


「《夜机灯》を使ってみる?」


 マヤが尋ねる。


「そうだねー」


 地図の文字を浮かび上がらせたときと同じように。


 岩壁を斜めから照らす。


 何も起こらない。


「角度が違うのかな」


 マヤが灯りを上下へ動かす。


 右。


 左。


 上。


 下。


 ある位置へ来た瞬間。


 岩壁の表面に、細い線が浮かび上がった。


「出た!」


 青白い線が、壁の上を走る。


 一本。


 二本。


 三本。


 線は大きな長方形を描いた。


 扉の形だ。


 中央には、小さな円形の窪み。


 《夜机灯》と、ほぼ同じ大きさだった。


「ここへ置くのかな」


「試してみようかー」


「壊れない?」


「危なくなったら、すぐ離れるよー」


 セレスとの約束もある。


 マヤは慎重に、《夜机灯》を窪みへはめ込んだ。


 円盤の大きさは、ぴったりだった。


 灯りをつける。


 柔らかな光が、壁の中へ吸い込まれる。


 古い音が響いた。


 石同士が擦れる。


 長い間閉じていた扉が、ゆっくりと左右へ開いた。


「開いた……」


 マヤが呆然と呟く。


 扉の向こうは、小さな部屋だった。


     ◇


 最初の部屋には、宝物も古代兵器もなかった。


 木製の机。


 壊れた椅子。


 錆びた道具。


 壁際に並ぶ、小さな棚。


 どれも長い時間が経っている。


 しかし、埃はほとんどない。


「ここが古代工房?」


 トーマが部屋を見回す。


「小さいな」


「入口の部屋でしょう」


 エルシアが答える。


「奥に、さらに広い空間があります」


 机の上に、一つだけ壊れていない物が置かれていた。


 透明な記録結晶。


 その前に、古代文字が刻まれている。


 ――灯火を、ここへ。


「また《夜机灯》だねー」


 マヤが窪みから取り外した灯りを、記録結晶の前へ置く。


 光が結晶へ当たる。


 内部に、白い霧が集まり始めた。


 やがて、一人の老人の姿が映し出される。


 豪華な服でも。


 賢者の法衣でもない。


 汚れた作業着を身につけた、どこにでもいそうな職人だった。


『この記録を見ている者へ』


 古代語。


 だが、記録結晶が自動的に現代語へ変換している。


『我々は、《無銘工房》の職人である』


「無銘工房……」


 マヤが繰り返す。


『我々は英雄ではない』


『王に仕えた魔導師でも、歴史へ名を残す賢者でもない』


『ただ、魔道具を買えない者たちのために、安い道具を作っていた』


 映像の中で、老人が小さな照明魔道具を持ち上げる。


 形は違う。


 けれど、使われている材料は安価な魔石と陶器。


 《夜机灯》によく似た考え方だった。


『当時の魔導具職人たちは、複雑で高価な品ほど優れていると考えた』


『王侯貴族が使う道具を作る者だけが、一流と呼ばれた』


『だが、灯りを必要としているのは、王だけではない』


『夜に文字を学ぶ子ども』


『暗い部屋で針を持つ者』


『日が沈んだあとも、家族のために働く者』


『その者たちにこそ、安い灯りが必要だった』


 マヤが、自分の《夜机灯》を見る。


『我々は、この工房へ技術を残す』


『ただし、完成された答えは残さない』


『答えだけを得た者は、それを守ることしかできない』


『自ら考え、直し、作り続ける者だけが、次の時代へ進める』


 マヤが、ゆっくりとエルシアを見る。


 エルシアは表情を変えていない。


 だが、ほんの少しだけ目を細めていた。


 彼女がマヤへ答えを教えなかった理由と、同じだ。


『もし、我々より安く』


『我々より使いやすく』


『我々より多くの者へ届く灯火が、この記録を照らしたなら』


『この工房は、その者たちへ託す』


 老人が微笑んだ。


『ただし、一人で独占してはならない』


『作る者へ開き』


『失敗する者を笑わず』


『利益だけを求めず』


『利益を軽んじることもなく』


『次も作れる形で、技術を残してほしい』


 トーマが息を呑んだ。


「売る人が続けられる値段……」


 俺たちが《夜机灯》の価格を決めたとき、話していたことだ。


『最後に』


 老人が記録結晶の向こうから、こちらを見た。


『我々の名を、歴史へ残す必要はない』


『道具を使った者が便利だと思い』


『作った者が、また次を作りたいと思えたなら』


『それで十分だ』


 映像が消える。


 部屋が静かになった。


「変な人たちだね」


 マヤが小さく言った。


「そうかなー」


「自分たちの名前を残さなくていいなんて」


「マヤも、似てるんじゃないかなー」


「私は商品に名前を書いてるよ」


「それでいいと思うよー」


 俺は止まった記録結晶を見る。


「この人たちは、自分たちが有名にならなくても、作った考え方が残ればよかったんじゃないかなー」


「考え方……」


「安くても、ちゃんと使えて、次も作れるものを残すことだねー」


 マヤは《夜机灯》を両手で持った。


「私も、次を作りたい」


「うん」


「今度は持ち運べるもの」


「お客さんが言ってたねー」


「光の色を変えられるものも」


「楽しそうだねー」


「それに、もっと壊れにくくしたい」


 不安そうだった表情は、もう消えていた。


 古代の完成品を手に入れたわけではない。


 新しい答えを教えてもらったわけでもない。


 それでもマヤは、先ほどより楽しそうだった。


     ◇


 記録が終了した直後。


 部屋の奥で、低い音が響いた。


 何もなかった壁へ、一本の光が走る。


 古代文字が浮かび上がった。


 ――灯火、確認。


 ――製作者の意思、確認。


 ――共同工房を開放する。


 壁が、ゆっくりと左右へ分かれる。


「まだ奥があるのか」


 トーマが警戒する。


「次の扉みたいだねー」


「お前、慣れてきてないか?」


「最近、扉がよく開くからねー」


「普通の学生は、古代遺跡の扉を何度も開けない!」


 扉の向こうへ、柔らかな光が広がった。


 最初の部屋とは比べものにならないほど広い空間。


 何百もの作業台。


 材料棚。


 小型の炉。


 魔法薬の調合台。


 金属加工区画。


 衣服や革製品を作る設備。


 魔導具だけではない。


 さまざまな職人が、同じ場所で物を作れるよう設計された巨大な共同工房だった。


「すごい……」


 マヤが一歩、前へ出る。


 その瞬間。


 工房中の照明が、一つずつ灯り始めた。


 最初は入口近く。


 次に中央。


 そして、最も奥。


 千年以上眠っていた工房が、ゆっくりと目覚めていく。


 古代文字が、入口の上へ浮かんだ。


 ――作る者を拒まない。


 ――ただし、作る意思のない者を入れない。


「どういう意味だ?」


 トーマが尋ねる。


「職人や学生のための工房なんじゃないかなー」


「《アウローラ》の研究者は入れるの?」


 マヤがエルシアを見る。


「作る意思があれば」


 エルシアが答える。


「役職や身分は関係ありません」


「じゃあ、私たちも?」


「おそらく」


 マヤが次の一歩を踏み出そうとする。


「今日は、ここまでです」


 エルシアが肩を掴んで止めた。


「ええっ!?」


「安全確認が終わっていません」


「危険な反応はないんですよね?」


「現時点では」


「その言葉、さっきも聞きました!」


「明日までに、入口周辺の調査を完了します」


「明日?」


「通常なら一か月必要です」


「一日でやるんですか?」


「アレンとあなたが、使用を希望していますので」


「俺は、まだ言ってないよー」


「使用しますよね?」


「便利そうだねー」


「使用希望を確認しました」


「仕事が速いねー」


 エルシアはすでに、研究部門へ指示を送り始めていた。


     ◇


『古代共同工房を確認』


 地下本部へ報告が届く。


「土地の所有権は?」


 ヴィオラが最初に尋ねた。


『《アウローラ・グランド》地下のため、当社保有地です』


 クラリスが答える。


「では、金融・外交部門が管理を――」


『一人で独占してはならない』


 記録映像が再生される。


「……」


 ヴィオラが黙った。


「ならば軍事部門が守る!」


 ラグナが立ち上がる。


「入り口に千名を――」


『作る意思のない者を入れない』


「我も武器を作るぞ!」


「工房を利用するためだけに、急に職人にならないでください」


 カレンが止める。


「剣の手入れはできる!」


「製作ではありません」


「柄を交換する!」


「修理です」


「少しくらい認めろ!」


「私は利用条件を満たしています」


 ミコトが言う。


「偽装道具や記録魔道具を製作しますので」


「情報部門の監視装置を持ち込まないでください」


 シズクが指摘する。


「工房の安全管理です」


「アレン様の作業風景を記録するつもりですね」


「安全記録です」


「私情です」


「その二つは両立します」


「開き直りましたね」


「会長」


 リゼットがセレスを見る。


「共同工房の今後について、ご判断を」


「記録に残された意思を尊重します」


 セレスは、巨大映像に映る工房を見つめた。


「《アウローラ》の所有物にはしません」


「しかし、維持管理には費用が必要です」


「当社が負担します」


「無料で?」


「いいえ」


 セレスの視線が、映像の中の俺へ向く。


「作る者が次も作れる形を残す」


「アレンが《学生挑戦市場》で示した考え方です」


「利用料は、設備の維持に必要な最低額のみ」


「学生や新人職人には減免制度を設けます」


「利益が出た者には、次の利用者を支援してもらう」


「共同で管理する、新たな工房制度を作ります」


「承知しました」


 リゼットが、すぐに書類を作成し始める。


「制度名は?」


 セレスは少し考えた。


「《無銘共同工房》」


「古代の職人たちの名を残すのですか?」


「彼らは、個人の名を残す必要はないと言いました」


「ですが、考え方は残すべきです」


 誰も反対しなかった。


     ◇


「明日には安全確認が終わるって」


 帰りの昇降魔道具。


 マヤが嬉しそうに《夜机灯》を抱えている。


「そこで次の商品を作ってもいいのかな」


「たぶんねー」


「設備、使い放題なのかな?」


「利用料は必要になるんじゃないか?」


 トーマが答える。


「工房を維持する金が必要だからな」


「高かったら、使えないよ」


「《アウローラ》なら、学生向けに安くするだろ」


「どうして分かるの?」


「アレンが、近くにいるからだ」


「俺?」


「お前が何か言うたび、この会社は制度を作るからな」


「偶然だと思うよー」


「今回も一日以内に新制度が発表されるぞ」


「さすがに、そこまで早くないんじゃないかなー」


 昇降魔道具が地上へ到着する。


 扉が開いた。


 正面の巨大案内板に、新しい告知が表示されていた。


 ――《アウローラ・グランド》、学生・新人職人向け共同工房を新設。


 ――名称、《無銘共同工房》。


 ――利用受付、明日開始。


「……」


 トーマが案内板を見る。


 次に俺を見る。


「仕事が速いねー」


「絶対、お前のせいだ!」


 施設内に、トーマの声が響いた。


 古代工房の謎は、まだすべて明らかになったわけではない。


 共同工房のさらに奥には、閉ざされた区画も残っているらしい。


 けれど。


 危険な災厄も。


 世界を滅ぼそうとする兵器も出てこなかった。


 今度こそ。


 ただ学生たちが物を作るための、普通の工房として使えるはずだ。


 そう思っていた。


 翌朝。


 《無銘共同工房》の利用受付には。


 学院生と新人職人、合わせて四百名。


 《アウローラ》女性社員、八万人。


 そして。


 作業着姿へ着替えた最高幹部五人と側近五人が、一般利用者の列へ並んでいた。


「今回は、正規の利用申請です」


 セレスは真剣な表情でそう言ったらしい。


 目的が本当に物作りだったのか。


 俺の隣の作業台を確保することだったのかは。


 聞かない方がいい気がした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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