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冗談で作った秘密結社が世界最大企業になっていた ~平凡な学生を演じる創設者の俺は、今さら全部作り話だったと言い出せない~  作者: てへろっぱ


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第13話 俺が最高幹部十人と買い物へ行くだけで、世界中の戦争が止まった


 俺が十人の女性と買い物へ行くことになった日。


 世界中の戦争が止まった。


 国境紛争なし。


 大規模犯罪なし。


 魔獣災害なし。


 金融市場の混乱なし。


 国王の暗殺計画まで、一件もなかったらしい。


 もちろん、俺はそんなことを知らない。


「今日は、静かな朝だねー」


「はい!」


 《アウローラ・グランド》の東入口前。


 ノエルが元気よく答えた。


「世界中が平和です!」


「いいことだねー」


「今日だけは、絶対に事件を起こさせないと、みんなで頑張りました!」


「どういう意味かなー」


「ノエル」


 エルシアが、ノエルの口を手で塞いだ。


「余計なことを話してはいけません」


「んー!」


 集合時刻は午前九時。


 俺が到着したときには、十人全員がすでに待っていた。


 ただし、最高幹部と側近がそのままの姿で商業施設へ集まれば、大騒ぎになる。


 今日は全員、偽装魔法で外見を変えていた。


 セレスの金髪は、落ち着いた茶色。


 リゼットの銀髪は黒。


 ラグナの角とカレンの翼は消え。


 ミコトとシズクの獣耳や尾も隠されている。


 エルシアは薄い青髪を灰色に。


 ノエルの髪から舞う花びらも、今日は止めている。


 ヴィオラの赤い瞳は黒く変わり、クラリスも半吸血鬼特有の気配を消していた。


 服装も、いつもの礼装や軍服ではない。


 全員、普通の女性客に見える服を選んだらしい。


 少なくとも。


 遠くから見れば。


「全員、随分早く来たんだねー」


「集合時刻の三時間前には到着していました」


 リゼットが淡々と答える。


「早すぎないかなー」


「遅刻を避けるためです」


「三時間も必要かなー」


「私たちは二時間前でよいと申し上げました」


 カレンが答えた。


「しかし、ラグナ様が日の出前から待機すると主張されましたので」


「当然だ!」


 ラグナが胸を張る。


「アレンとの初めての休日だぞ! 遅れる可能性など、一欠片も残してはならぬ!」


「昨夜は眠れましたかー?」


「眠っておらぬ!」


「休む日なのに、休めてないねー」


「楽しみで眠れなかっただけだ!」


 子どもの遠足と変わらない。


「私は七時間三十二分、睡眠を取りました」


 エルシアが報告する。


「偉いねー」


「はい」


 エルシアの口元が、ほんの少し上がった。


 直後。


 周囲の空気に、薄い霜が浮かぶ。


「エルシア様、嬉しいのが漏れています!」


「気温調整です」


「今日は快晴ですよ!」


「局地的な気候変動です」


「便利な言い訳だねー」


 俺が笑うと、霜の量がさらに増えた。


「ところで」


 俺は十人を見回した。


「今日は、みんなで普通に買い物をするんだよねー」


「はい」


 セレスが代表して答える。


「本日は最高幹部でも側近でもなく、一般客として一日を過ごします」


「仕事の話は禁止ねー」


「承知しています」


「警護の人たちも、いないんだよねー」


「……」


 十人が黙った。


 俺は周囲を見回す。


 入口近くで新聞を読んでいる女性。


 花壇を手入れしている女性。


 清掃用具を持った女性。


 屋根の上で鳩を眺めている女性。


 どこを見ても、黒い紋章を隠した正式構成員がいる。


「何人いるのかなー」


「最低限です」


 セレスが答えた。


「最低限で?」


「三千人です」


「多いねー」


「通常時の半分以下です」


「普段は、もっといるんだねー」


「アレンの安全を守るには不十分ですが、本日は休日ですので削減しました」


 削減した結果が三千人らしい。


「なるべく普通にしようねー」


「努力します」


 全員が答えた。


 少し不安だった。


     ◇


「最初は、どこへ行くのー?」


 俺たちは施設内へ入った。


 今日の予定について、俺は何も聞かされていない。


「まず、服飾区画です」


 セレスが案内図を表示する。


「その後、魔道具区画、飲食街、劇場、温浴施設を回ります」


「一日で全部行くのー?」


「途中で、各自がアレンと二人きりになる自由時間も設けています」


「そんな予定があったかなー」


「昨日、全員で協議しました」


「俺は参加してないねー」


「アレンを参加させれば、意見がまとまらない可能性がありましたので」


「本人がいない方が、まとまらないんじゃないかなー」


 十人は目を逸らした。


「二人きりの時間は、一人何分なのー?」


「当初は一人一時間でした」


 リゼットが答える。


「十時間かかるねー」


「そのため、一人三十分へ短縮しました」


「五時間だねー」


「私の分は一時間でもよいぞ!」


 ラグナが手を上げる。


「全員同じ時間です」


 カレンが下ろさせる。


「我は身体が大きい! 時間も二倍必要だ!」


「関係ありません」


「では、カレンの時間と合わせて一時間だ!」


「私の時間を勝手に使用しないでください」


「我とカレンとアレンの三人なら、問題ないであろう!」


「問題があります」


 エルシアが即答した。


「三人を認めれば、全員が複数枠を要求します」


「既に計算しました!」


 ノエルが楽しそうに手を上げる。


「二人組をすべて作ると、四十五通りです!」


「休日が何日あっても足りないねー」


「では、四十五日間の休暇を取ります!」


「会社が止まらないかなー」


「アレン様と過ごすためなら、事前に世界を安定させます!」


「今日だけで十分だよー」


「残念です!」


 ノエルは本当に残念そうだった。


     ◇


 最初に訪れたのは、世界各国の服を扱う巨大な服飾区画だった。


 建物の一階分が、すべて衣服と装飾品の店になっている。


「どうして服を見に来たのー?」


「本日のために購入した服が、アレンの好みに合っているか確認するためです」


 セレスが答えた。


「みんな似合ってるよー」


 十人の動きが止まった。


「今のは」


 ミコトが記録魔道具へ手を伸ばす。


「私を含む十人全員への評価という認識でよろしいですか?」


「そうだねー」


「個人ごとの評価をお願いします」


「必要かなー」


「必要です」


 全員が頷く。


 仕方がないので、順番に見ることになった。


 セレスは、白い上着と長い青色のスカート。


 いつもの会長らしい服より柔らかい印象だ。


「セレスは、落ち着いた服が似合うねー」


「ありがとうございます」


 完璧な微笑み。


 ただし、その手は隣に立つリゼットの腕を強く握っていた。


「会長。痛いです」


「我慢してください」


「なぜ私が?」


「平静を維持するためです」


 次はリゼット。


 黒い髪に合わせた、飾りの少ない灰色の服。


「リゼットらしくて、きれいだねー」


「……」


「リゼット?」


「音声を記憶中です」


「自分で覚えるんだねー」


「生涯保存します」


 ラグナは、動きやすい赤い服。


 腰には剣がない。


 代わりに、小さな飾り袋がついている。


「ラグナは、こういう服も似合うねー」


「そうであろう!」


 ラグナが大きく胸を張る。


「鎧よりも、こちらの方がよいか!?」


「どっちもラグナらしいと思うよー」


「では、半分を鎧にする!」


「混ぜなくていいと思うよー」


 カレンは、淡い白色のワンピース。


 普段の副官服より、かなり女性らしい。


「カレンも、すごく似合ってるねー」


「……ありがとうございます」


 カレンは顔を逸らした。


 隠されているはずの翼が、偽装魔法の内側で膨らんだらしい。


 背中の服が少し盛り上がっている。


「翼が出そうだねー」


「見ないでください」


「まだ見えてないよー」


「ならば、今後も見ないでください」


「昔はよく羽を触らせてくれたのにねー」


「その話を、今しないでください!」


 ミコトは東方風の薄紫の衣装。


 シズクは、その隣で同じ意匠の黒い衣装を着ている。


「二人でそろえたのー?」


「偶然です」


 ミコトが答える。


「ミコト様が、私の購入記録を調査しました」


 シズクが即座に訂正した。


「同じ店で購入しただけです」


「色違い、同型、同時刻に発注しています」


「情報収集です」


「私情です」


「二人とも似合ってるよー」


 口論していた二人が同時に黙った。


 ミコトの隠された尾が、偽装魔法の中で激しく動いている。


 シズクの表情は変わらない。


 ただし、頭上に隠された猫耳の部分だけが、小刻みに揺れていた。


 エルシアは、淡い水色の服。


 装飾は少ないが、袖口に小さな雪の結晶が刺繍されている。


「かわいいねー」


「……」


 エルシアの周囲へ、雪が降り始めた。


「施設内で雪が降ってるねー」


「魔力灯の不具合です」


「私が直します!」


 ノエルが手を上げる。


「エルシア様の感情なので、直せません!」


「ノエル」


「秘密でした!」


 そのノエルは、花柄の明るい緑色の服だった。


「ノエルも、よく似合ってるよー」


「はい! かわいいですか?」


「かわいいよー」


「聞きましたか、エルシア様!」


「聞こえています」


「もう一回言ってください!」


「かわいいよー」


「もう一回!」


「何回必要なのかなー」


「百回です!」


「多いねー」


 ヴィオラは、黒と深紅の上品なドレス。


 一般客としては少し豪華すぎる。


「ヴィオラは、いつもより少し控えめだねー」


「これでも?」


「王宮の舞踏会に行く服よりはねー」


「あれは日常着よ」


「王族より豪華だったよー」


「あなたの隣に立つのだから、当然でしょう?」


「今日は普通の買い物だよー」


「普通の恋人同士も、服を選ぶでしょう」


「恋人にはなってないねー」


「あー、そうね。いつかねー」


 俺の口調を真似しながら、ヴィオラが睨んでくる。


「先に言われたねー」


「百年以上も同じ言葉で逃げられれば、私でも覚えるわ!」


 最後はクラリス。


 柔らかな薄桃色の服。


 普段の侍女服とは違い、髪も緩くまとめている。


「クラリスも、きれいだねー」


「ありがとうございます」


 クラリスの笑顔は、いつもどおり穏やかだった。


「もう少し喜んでもいいんだよー」


「十分に喜んでおります」


「そうなのー?」


「はい」


 クラリスの後ろ。


 硬い金属製の商品棚に、五本の指跡が深く刻まれていた。


「棚が壊れてるねー」


「以前からの不具合です」


「今ついたように見えるけどねー」


「気のせいでございます」


 全員、平静を保つのが苦手らしい。


     ◇


 服飾区画を見て回ったあと、俺たちは小さな装飾品店へ入った。


 学生でも買える、安価な髪飾りや腕輪を扱う店だ。


「高級店ではなく、ここでよいの?」


 ヴィオラが店内を見回す。


「俺の給料で買えるものを見たいからねー」


 昨日の話を覚えている。


 彼女たちは、初めての給料で自分のために何かを買った経験がない。


 だから今日は、それぞれ自分で欲しいものを選んでもらうつもりだった。


「一人、銅貨十枚までねー」


「少なすぎませんか?」


 セレスが尋ねる。


「普通の学生のお小遣いなら、このくらいじゃないかなー」


「私の全資産を用いれば、この店舗を含む区画全体を購入できます」


 ヴィオラが言う。


「買い物をする場所ごと買わないでねー」


「では、店舗だけにするわ」


「もっと駄目だよー」


「アレン様!」


 ノエルが、小さな花形の髪飾りを持ってくる。


「これはどうですか?」


「似合いそうだねー」


「では、これにします!」


「自分のお金で買うんだよー」


「アレン様が買ってくださるのでは?」


「今日は、自分のために使う練習だからねー」


「……」


 ノエルの笑顔が消えた。


 ほかの九人も、少し残念そうにしている。


「俺からの贈り物は、次の給料のときにねー」


 全員の動きが止まった。


「今」


 セレスが慎重に尋ねる。


「次のお給料で、私たちへ贈り物をすると約束されましたか?」


「高いものは買えないけどねー」


「記録しました」


 ミコトの手元で魔道具が光る。


「次回給与支給日を、全組織の最重要日程へ指定します」


「しなくていいよー」


「勤務時間の延長は禁止です」


 リゼットが注意する。


「アレン様の給与を増やすため、店舗の営業時間を延長しようとする動きが確認されています」


「もう動いてるのー?」


「ヴィオラ様が、人事部門へ連絡しました」


「少し提案しただけよ」


「時給を金貨百枚へ変更する提案でした」


「普通の給与にしてねー」


「……分かったわ」


 ヴィオラは納得していない顔だった。


 十人は、それぞれ銅貨十枚以内で商品を選び始めた。


 セレスは、小さな革製の手帳。


 世界最高級の紙を使ったものではない。


 ごく普通の店で売られている、手のひらほどの手帳だ。


「それでいいのー?」


「はい。今日のことを書き残します」


「ミコトが全部記録するんじゃないかなー」


「私自身の言葉で残したいのです」


 リゼットは、小さな砂時計を選んだ。


「時間を測るのー?」


「休憩時間を管理します」


「休むために買うんだねー」


「アレン様から、休むよう命じられましたので」


「命令じゃないよー」


「私にとっては、同じです」


 ラグナは、小さな木剣。


「本物の剣をたくさん持ってるよねー」


「これは机へ置く!」


「仕事を休むための買い物だよー」


「休んでいる間も、戦う心を忘れぬためだ!」


「休めてないねー」


 カレンは白い羽根を模した髪留め。


 ミコトは小さな記録帳。


 シズクは黒い鈴。


 エルシアは、温度で色が変わる安価な石。


 ノエルは花形の髪飾り。


 ヴィオラは、小さな手鏡。


 クラリスは、淡い色の細い髪紐を選んだ。


 どれも彼女たちの資産からすれば、存在しないも同然の金額だ。


 けれど。


 会計を終えた十人は、それぞれの商品を大切そうに持っていた。


「買い物とは、このようなものなのですね」


 エルシアが色の変わる石を光へかざす。


「今までしたことがなかったのー?」


「必要な物品は、研究部門が用意します」


「欲しいと思ったものを、自分で買うことは?」


「必要性のない品を購入した経験はありません」


「今日は必要だったねー」


「はい」


 エルシアの石が、青から赤へ変わった。


「温度が上がってるねー」


「不良品です」


「エルシア様の手が熱くなっています!」


「ノエル」


「また秘密でした!」


 俺が笑うと、ほかの九人も少しずつ表情を緩めた。


 国王よりも大きな権力を持つ彼女たちが。


 銅貨数枚の商品を買っただけで、少女のように喜んでいる。


 昔と、あまり変わっていないのかもしれない。


     ◇


 昼食は、世界料理区画で食べることになった。


 十人が同じ卓へ座れる店は少ない。


 そこで、広い個室を使う予定だったらしい。


「普通のお客さんとして過ごすんだよねー」


「はい」


「個室じゃなくて、広場で食べようかー」


「広場ですか?」


 セレスが驚く。


「みんなで店を選んで、好きなものを買ってくればいいよー」


 中央広場には、自由に使える机と椅子が並んでいる。


 家族連れ。


 学生。


 冒険者。


 旅行者。


 さまざまな客が、購入した料理を持ち寄って食べていた。


「警備上、問題があります」


 カレンが周囲を確認する。


「正式構成員三千名がいるから大丈夫じゃないかなー」


「……確かに」


「認めるんだねー」


 俺たちは、十一人で大きな机を囲んだ。


 セレスは野菜のスープ。


 ラグナは巨大な骨付き肉。


 ミコトは東方の麺料理。


 エルシアは氷菓子。


 ヴィオラは赤い果実の飲み物と、薄く切った肉料理。


 側近たちも、それぞれ好きな料理を選んでいる。


「みんな、好きな物が違うんだねー」


「当然です」


 ヴィオラが上品に飲み物を口へ運ぶ。


「私とラグナの嗜好が同じだったら困るわ」


「肉を食べぬから、そのように細いのだ!」


「あなたが食べすぎなのよ」


「我は鍛えている!」


「私は、美しさを維持しているの」


「二人とも元気だねー」


「アレンは、どちらが好みなの?」


 ヴィオラが突然尋ねる。


「何の話かなー」


「健康的な体型と、洗練された体型」


「どっちもいいんじゃないかなー」


「逃げたわね」


「いつものことです」


 クラリスが微笑む。


「では、性格はどちらが?」


 ラグナが身を乗り出す。


「素直な我と、何でも計算するヴィオラ!」


「質問の仕方に悪意があるわ!」


「では、正々堂々とした我と、書類で結婚を狙うセレス!」


「なぜ私へ飛び火するのですか?」


「アレンの好みを知るためだ!」


「好みを聞くなら、一人ずつ尋ねるべきです」


 ミコトが会話へ加わる。


「アレン。狐耳の女性について、どう思いますか?」


「かわいいと思うよー」


 ミコトの隠された九本の尾が、一斉に動いた。


「では、猫耳は?」


 シズクが尋ねる。


「かわいいねー」


 シズクの隠された耳も動く。


「翼は?」


「きれいだねー」


 カレンの背中が膨らむ。


「花精霊は?」


「元気でかわいいねー」


「やりました!」


 ノエルが立ち上がる。


「原初精霊は?」


 エルシアが続ける。


「きれいで、かわいいと思うよー」


 エルシアの氷菓子が一瞬で蒸発した。


「吸血鬼は?」


 ヴィオラが身を乗り出す。


「ヴィオラも、きれいだよー」


「そうでしょう!」


「竜人は!?」


「ラグナは、格好よくてかわいいねー」


「どちらなのだ!?」


「両方かなー」


「では、高エルフは?」


 最後に、セレスが尋ねる。


「セレスも、きれいでかわいいよー」


「……ありがとうございます」


 セレスは、何事もなかったようにスープを口へ運ぶ。


 ただし。


 スプーンが空の皿を何度も往復していた。


「会長。スープはそちらです」


 リゼットが教える。


「分かっています」


「三回、空気を召し上がっています」


「分かっています!」


 周囲の客たちが、こちらを見ていた。


「美人ばかりの集団だな」


「真ん中の男は誰だ?」


「十一人で来てるのか?」


「全員、あの学生と親しそうだぞ」


 少し目立ちすぎたらしい。


 偽装魔法で正体は隠れている。


 それでも十人の女性に囲まれて食事をしていれば、注目を集めるのは当然だった。


「アレン」


 セレスが小声で言う。


「場所を移しましょうか?」


「別に悪いことをしてるわけじゃないから、大丈夫だよー」


「しかし、学院の者に見られれば」


「知り合いと食事してるだけだからねー」


 その瞬間。


「アレン?」


 聞き覚えのある声が、背後から聞こえた。


 振り返る。


 買い物袋を抱えたトーマが、広場の入口に立っていた。


 その隣には、同じ学院の男子学生が二人。


 トーマは俺を見る。


 俺の周囲に座る十人の女性を見る。


 もう一度、俺を見る。


「……何をしてるんだ?」


「みんなで休日を過ごしてるんだよー」


「みんなって、誰だ?」


「昔からの知り合いだねー」


「昔からの知り合いが、全員美人の女性なのか?」


「そうなるねー」


 トーマの持っていた買い物袋が、床へ落ちた。


「アレン」


「何かなー」


「お前、普通の学生だって言ってたよな?」


「普通だよー」


「休日に十人の美女と買い物する学生の、どこが普通なんだ!」


 広場中へ、トーマの声が響いた。


 十人の女性たちは、正体が疑われたことではなく。


 トーマが自分たちをアレンの女性関係として認識したことに、少し嬉しそうな顔をしていた。


「話すと長くなるんだよねー」


「今日は聞かせてもらうぞ!」


「買い物は?」


「後回しだ!」


 平和な休日は、まだ半分も終わっていない。


 それなのに。


 学院で一番近い友人へ、十人の女性との関係を説明しなければならなくなってしまった。


 その少し離れた場所では。


 一人の新聞記者が、俺たちの姿を撮影魔道具へ収めていた。


 翌朝。


 学院都市で最も売れている新聞の一面へ。


 ――謎の学院生、十人の美女と世界本部で密会。


 そんな見出しが掲載されることを。


 このときの俺は、まだ知らなかった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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