人間であるということ
「ひめしゃが組のみなさん、こんにちは!」
私の声に皆次々と大きな声で明るく「こんにちは~!」と言葉を返してくれる。
子供たちはやはり目の数が多かったり少なかったり、羽や角、獣の耳、尻尾を持っていた。
そのまま自己紹介をすると、子供たちは元気に返事を返してくれる。
「ん」
両手が艶のあるきれいな黒いうろこでおおわれた園児に手を差し出されたので思わずその手を取った。
「あ!さくら先生待って!」
「え・・・いたっ」
手に鋭い痛みが走り、思わず男の子から手を引っ込める。そのまま手を見ると手の甲が真っ赤に腫れあがっている。
ナニコレ!?
私の動揺が伝わったのか子供たちにも不安の顔が見え始める。
痛みがどんどん大きくなっていく気がする。
心臓の音もどんどん大きくなっていく。
「さくら先生!大丈夫ですか!!こらじんくん!先生にごめんなさいして!」
「・・・」
砂ちゃん先生の声にはっとしてじんくんと呼ばれた園児の方に視線を向けると、彼は下を向き、静かに頬を膨らませている。
「・・・えーと、じんくん、はじめまして。今日からひめしゃが組で砂ちゃん先生のお助けをするさくら先生です」
じんくんの前にしゃがんでまっずぐ目を見るとじんくんは一生懸命視線をそらして目を合わせないようにしていることがわかる。前働いてた園にもこういう子供はいた。
やってはいけないことだと分かっている子供の様子と全く同じだ。
手の痛みがひどくなってきて感覚がない。
変な汗も出てきたし少し呼吸が荒くなってきた気がする。
じんくんの肩に優しく手を置いて無理やり視線を合わせる。
「じんくんはあったらしく先生が増えるのが嫌だったのかな?」
じんくんは首を横に振った。
「そっか。先生に言えないのかな。でもたぶんじんくんはこんな事したくてしたんじゃないよね?」
「・・・」
「先生ね、じんくんたちとこれからたくさん遊びたいなって思ってるんだけど、だめかな?」
「・・・・・・」
じんくんの泣きそうな顔を見ると、やはり悪意を持って攻撃をしたわけではないのだろうとわかる。
「さくら先生はとりあえず一回職員室に・・・!その手はだいぶ危険だから!!」
砂ちゃん先生にそう言われて思わず手を見ると右手が赤から真っ黒に変色して腫れあがっている。
「今副園長先生呼んだからそこに座って待ってて!・・・さ、みんなびっくりさせてごめんね~!今日は昨日のお約束通り外遊びをするよ!みんなお外に行く準備してね!」
砂ちゃん先生はそう言って何かの曲をかけ始めた。聞いたことのない曲なのでこれもいなみ先生の自作曲だろうか。
曲に合わせて子供たちがノリノリで着替えを始める。
条件付けが上手くいってる証拠だな、すごいな・・・
その様子を何もできないままで見つめることしかできない私に小さな影が落とされた。
「えと、さくらせんせ、わたし、せつな。て、ひやしていい?」
真っ白な髪と肌の女の子はせつなちゃんというらしい。その手はまるでドライアイスのように冷たい。こころなしか私の手の甲の痛みも少しマシになってきたような気がする。
せつなちゃんは私の返事を待つことなく私の手を両手で包み込んだ。まとう冷気がとても心地いい。
私がお礼を言おうと口を開くと、せつなちゃんが静かに話し始めた。
「じんくん、こくりゅうだから、どくと、ひ、つかえるの。りゅうじんさまのままとにんげんのぱぱなんだって・・・でも、にんげんはすぐにしんじゃうって。だからきらいって・・・」
「せっちゃーん、準備終わった子はこっちに並んでね!」
砂ちゃん先生の声にびくりと肩を震わせてから
「は、はぁい!」
大きな声で返事をしてせつなちゃんは私に背中を向けた。
「またね、さくらせんせえ」
慌ててやってきた副園長先生の腕に抱えられながら意識をてばなす。その時、記憶にはせつなちゃんの瞳の中心に輝く蝶が強く残っていた。
初出勤は後日に延期になってしまったが、求人の通り、手当がでるらしい。
「ごめんねさくら先生。あの子、人間を毛嫌いしてるみたいで、かたくなに口を開こうとしないの。
お母さんにも連絡はしたんだけど、家でよく言い聞かせますとだけ・・・最近旦那さんを老衰で亡くしてるから、もしかしたらそれが影響してるのかもしれないです」
砂ちゃん先生から来た連絡にせつなちゃんの言葉が思い起こされる。
『にんげんはすぐにしんじゃうって。だからきらいって・・・』
「そっかぁ・・・先行き不安だなあ・・・」
ベッドに仰向けで転がり、端末で創作御遊びの検索をする。
あれだけ真っ黒に腫れあがった手も、副園長先生が不思議な力で治してくれたの出すっかり元通りだ。
本当はすぐにでも復職したいところだけど・・・・
『龍神族のなかでも黒龍の毒は危険度が高い。だから大事を取って一か月はおやすみしてください』
なあんていわれてしまえば従うほかなかった。
砂ちゃん先生からは毎日子供たちの様子や活動の報告が入っている。
基本はみんないい子たちなのだろう。
じんくんも負い目を感じているのか最低限のあいさつ以外誰とも全く話さないようだが、いちおう遊びや活動には自主的に参加してくれているのだという。
「にしてももう夏かあ。水を使った遊びもいろいろ始まる時期になるなあ・・・・あれ?」
ふと、砂ちゃん先生の送ってくれた写真たちに視線が行く。
「じんくん、そういえばあの日も長袖を着てたような・・・」
嫌な予感がして、私は園長先生あてのメールを開いて、入力画面に指を走らせた。
「もしかしたら、かなり深刻かもしれない」




