変わっているのは子供だけじゃないようです
ニコ先生と別れ、廊下を進む。
ひめしゃが組は最後にしようということで、午睡の時間がない、さざんか組から再度回ることにした。
「失礼します。やしろ先生~」
引き戸を開けると、自由遊びをしていた子供たちの視線がこちらに集まる。
「だれぇ?」
「えんちょーせんせぇだ!こんにちは!」
「しらないひとがいる!」
「あ!つぐもくん!ひとをゆびさしちゃだめなんだよ~」
子供たちはやはり一つ目だったり角が生えていたり、どこか人間とは違う特徴を持っている。
「それでは、さざんか組のみなさーん!」
園長先生の言葉に子供たちは元気に「はーい!」と手を上げ返事をする子供たちにほっこりする。
「サクラ先生」
「え、あ、えと、あまひ、さくら・・・です!おとなりのひめしゃが組さんの先生になるので、園の中であったらお話沢山してほしいです!」
しばらく子供の前で自己紹介なんてしてなかったので緊張で声が震える。心臓の音で自分の声が聞こえない気がするが、みんなの様子から、失敗はしていないとおもうことにしよう。
まだ正式にここで働くなんて言っていないのに、いつの間にかほぼ決定してる気がするが、まあいいか。
「私はこのさざんか組の担任やってます。八夜やしろです。八尺なのでちょっと身長高いけど、普段は体の大きさ変えてるから、あんまり気にしないでね」
やしろ先生はきれいな長い黒髪をなびかせ、軽くお辞儀をした。前髪で隠れている両目は視界的に問題ないのだろうか。
子供たちも次々自己紹介をしてくれているが、全員一斉に話すせいでほとんどわからない。
そんな元気な様子に思わず頬が緩んだ。
「それでは他のクラスも回らなきゃなので、行きますね。みんなまたね~」
園長が子供たちに手を振り、廊下に出たので慌ててそのあとを追う。
「あの子たちは来年から学校に入学する子たちなの」
「あぁ、だから午睡がないんですね。人間の世界でも学校では午睡はないし」
「そうねぇ」
意外と人間の世界と似たところが多いなあと思いながら廊下を進む。未満児クラスのエリアに入ると、小さな足音すらも響いてしまうほどに静まり返っている。
扉の前に立てば、室内から小さな寝息が聞こえてくる。
「しつれいします、ことり先生、今大丈夫ですか?」
園長先生の小さな声に反応した先生は、羽の混ざった美しい赤毛をゆらしながら、子供を抱っこしたままでこちらに顔を向けた。
「少しだけなら」
ことり先生は布団の並べられたその中心に座っていたので、音をたてないように私と園長先生は室内に入った。
ことり先生の腕の中には、小さな角がおでこからのぞいている、緑髪の子供が安らかな寝息を立てている。
午前中にすごい騒ぎだったのはこの子なのだろうか。
似た髪色の子供が別の布団の上ですやすやと寝息を立てている。
「この方は今度ひめしゃが組で先生をしてもらうことになったさくら先生です」
「よろしくお願いします」
子供たちが起きないように声を抑え、最小限の挨拶をすると、ことり先生も改めてこちらをまっすぐ見て自己紹介を始めてくれた。
「不死野ことりです。不死鳥と朱雀の血を引いているハーフです。基本的に高位の妖怪や神格の高い方の子供がいるクラスを担当することが多いです」
なるほど、不死鳥か。能力が暴走しがちなのだろう子供が何かやらかしても基本的に被害が少なく済むのだろう。
「すいません午睡中に」
「いえいえ、この子たちもたくさん暴れて体力使い切ったので落ち着いてるし、大丈夫ですよ」
ことり先生は穏やかな笑顔を浮かべ、丁寧なお辞儀をしてから手を振った。
園長先生に連れられ、隣の教室に行こうとすると、ちょうどよく子供の手を引いて教室から一人の男性が出てきた。
「あらあら、はじめ先生、こてつくんのおトイレかな?」
園長先生が黄色いメッシュの入った黒髪の男の子の前でしゃがみ込んで話しかける。
「そうです。目が冷めちゃったみたいなのでお散歩も兼ねて・・・そちらは新しい先生ですか?」
爽やかな声が頭上から降ってくる。
そこそこ身長が高く、モテそうだなと思って顔を見ると、一つだけの目と視線がぶつかる。
「あ、えと、天日さくらです。ひめしゃが組に入ることになります」
「そっかそっか。俺は単伝はじめです。送迎火車の運転手もしてます。よろしくね」
はじめ先生は手を握っていた男の子に「じゃあトイレ行こうか。先生たちにバイバイして」と優しく声かけをして、そのまま園児用のトイレの方に向かって行った。
「はじめ先生は園児のママさんに大人気なのよ。火車に送迎ルートを指示したり体調管理もやってくれる先生はめずらしいから、本当に感謝してるのよね」
園長先生がそう言いながら、ききょう組と書かれた扉を開け、中を覗いた。下半身が蛇の先生が子供たちの布団が敷かれている隣で連絡帳を書いている。
「こはく先生、今大丈夫ですか?」
園長先生の声に顔を上げ、こちらに振り向いたこはく先生と呼ばれた女性は、平安時代の貴族のような短く太い眉と切れ長の目が印象的な美人だった。
「蛇上こはく先生です。各クラスのヘルプに入る先生で、今日は1歳児クラスの先生が足りないから入ってもらっていました」
「あ、さくらです。天日さくら、四歳児クラスに入る予定になってます」
私の言葉に軽く会釈してから一言も発せず作業に戻ってしまったこはく先生の周囲の空気が洗練されているような気がした。
「こはく先生は蛇神の一族の末端で、霊力量も多いんですよ」
廊下で、改めて先生の説明を園長先生から受ける。
「寡黙だけど、子供たちにはすごく人気なのよ。全く話さないわけじゃないのよ?」
ふふふとおだやかに笑う園長先生はそのままとなりのくちなし組の扉を開けた。
「しつれいしまーす・・・いなみ先生、今お時間大丈夫ですか?」
くろい大きな耳をピコピコと動かし、小柄な女性がこちらを振り向いた。赤い瞳が宝石のように美しい。
ショートカットからのびる耳には金属の輪飾りが光っており、少しパンクな雰囲気を感じさせる。
「どうしまし・・・人間・・・?」
鋭い視線が刺さる。
「新しくウチで働くことになったさくら先生。ひめしゃが組に入ることになったから・・・」
「本気で言ってます?人間のもろさわかってますか?」
いなみ先生は不機嫌そうな声色でさらに強くこちらを睨んでいる。
「いくら求人に気が付くことができるほどに霊力が高い人間でもしょせんは人間なんです。今は龍神様や雷獣の子が園児さんにいます。下手したら死にますよ?」
「言いたいことはわかるわ。でも、この空間の空気に長時間触れてるのに体調が悪くなることがないみたいだし、水の違いにも気が付いたの。だから・・・」
「・・・まあ、私たちに権利はないのでいいんですけど、何かあっても私は助けませんからね?」
いなみ先生は言いたいことだけ言うと、そのまま机に体の向きを変え、制作作業を再開してしまった。
あの曲を作った先生だよね・・・
午前中に園児が歌っていた曲を思い出しながらその後姿に軽く会釈をして教室をでた。
ニコ先生とは挨拶をしたのでそのまま4歳児クラス・・・ひめしゃが組に向かった。
「しつれいしまぁす・・・砂ちゃん先生~」
園長先生の声に反応した女性が呑気な声を返してくる。
「園長先生、どうしましたか?あらま、新入りさん?」
「えぇ。さくら先生。このひめしゃが組に入ってもらうことになったの。さくら先生、この方は掛畑砂子先生。みんなからは砂ちゃん先生って呼ばれているの」
「サクラ先生よろしくね」
そばかすのある愛嬌のある顔を可愛らしくゆがませ、笑顔を向けてくれた砂ちゃん先生は明るい声をかけてくれた。
子供が起きないように声を潜めてくれたが、それでも明るい人だとわかる。
「ここは普通の子供はいない分大変なこともあると思うけど、何でも言ってね?サポートするから!」
砂ちゃん先生は小さくガッツポーズをしてにこりと笑うと、寝返りを打ちながら寝言をつぶやいた園児のところに足早に向かって行った。
「積もる話はあとででもいいかな?」
子供の様子を確認してからこちらにちらりと視線を向けた砂ちゃん先生の言葉に了承の言葉を返して教室を後にした。
「改めて本出勤の日とそれ以外のシフトの相談しに戻りましょうか」
「はい」
園長先生の言葉に頷き、そのまま一緒に職員室に向かうと、窓から赤い牛車のようなモノが見える。アレが火車だろうか?
そう思いながら、出された湯呑に口を付けた。




