第5話「治癒師報われる」
三日間の謹慎が終わり、俺はジャンボサンドイッチを五十個食べた。
師匠に拳骨されたのは言うまでもない。
そんなことより、本日より冒険者生活の開始だ。
というわけで、現在冒険者ギルドの受付の前まできているのだが、非常に困った事態になっていた。
「ええ。薬草採取ですか?」
俺がエンシェントドラゴンの討伐クエストを持ってきたのに、却下されたのだ。
受付嬢は優しく清楚に説明した。
「バトリスさんはまだ新人冒険者です。新人は例外なく薬草採取から始めるのが規則となっておりますので、エンシェントドラゴンの討伐クエストは最低でもAランクに到達しないと受注できません」
「そ、そんなぁぁぁぁぁ……」
テンションが爆下がりした。今日はバトルを我慢して薬草を採取しないといけないのか。
でも俺はここで食い下がるつもりなかった。受付嬢にあのことを語った。
「俺の強さ知っていますよね? あの剣王バロスを決闘で倒したんですよ? 実力的にはエンシェントドラゴンくらい楽勝だと思うんですけどぉぉぉぉ?」
受付さんはため息を吐いた。
「何度も申し上げますが、どれほど実力があっても、個人的な決闘による実績などは認められないんですよ。それに規則としては薬草採取から始めるのが決まりです。それが守れないのなら冒険者資格のはく奪も考慮しなければなりません。お分りいただけましたね?」
俺は頬を膨らませた。
「頭固すぎだろ。エンシェントドラゴン倒したら、あんたらだって儲かるよね? 互いにウィンウィンな提案だと思うのに、なんで分からないかなぁぁぁぁぁ!」
受付さんは清楚に微笑みながらマニュアル通りの対応をした。
「だから何度も申し上げている通り、規則なんですよ。あなたも冒険者登録をした時点でこちらの規則には従っていただく必要があります。エンシェントドラゴンとどうしても戦いたいのなら、薬草採取を終えて、クエストではなく個人的な戦闘として挑んでください。まあ。命の保証はありませんが……」
「それだぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は納得した。そうか。クエストはクエストとして処理して、エンシェントドラゴンとの戦いは個人的な趣味で進めればいいのだ。
どうしてこんな簡単なことがわからなかったのだろうか。
そうと決まれば薬草採取へ行こう。
俺は受付嬢に言われた通りエンシェントドラゴン討伐クエストではなく、薬草採取クエストの紙を提出した。
「薬草採取受けます。受注してください!」
受付嬢は紙を受け取ると、ハンコで捺印して、黒い冒険者カードを読み取り機の魔導具に挿入した。
そして、冒険者カードを俺に渡した。
「説明した通り、クエストの進行状況は冒険者カードで確認できます。無事コンプリートしてから戻ってきてくださいね!」
「招致しました!」
俺はカードを受け取ると、受付嬢に頭を下げた。
「では失礼いたします」
そのあと早速ギルドを出ようとして、扉の前にシュティがいた。師匠も一緒だ。
シュティは俺に近づき身を乗り出してきた。
「バトリスくん。いよいよ冒険者デビューですね。薬草採取わたしもお手伝いしますよ!」
師匠は俺の口酸っぱく注意した。
「おい。バトリス。わかっていると思うがエンシェントドラゴンに単独で挑戦とかバカな真似はやめろよ? いくらお前が規格外だからって、原初の竜であるエンシェントドラゴンに単独で勝てるわけがないんだからな?」
くそ。またパンの耳生活に戻されるのは流石に嫌だ。
俺は大人しく従うことにした。
「わかったよ。ストロングドラゴンで満足しておく」
師匠は俺に拳骨した。
「あいたっ!」
「アホか! ストロングドラゴンでも、いまのお前でも単独ではギリギリだろうが! 無茶したらまたパンの耳だぞ? しかも復活日のジャンボサンドは抜きだ。いいな?」
「はい……」
くそう。師匠と同伴するだけでこうも行動が制限されるとは。
これじゃ村にいた頃とあまり変わっていないではないか。
とりあえずごねていても仕方ない。
ドラゴンにまで目標を引き下げよう。
その代わり、ドラゴンの大群を相手にしないとな。
それくらいしないと気が済まない。
俺はシュティに語りかけた。
「薬草採取に行こう。クエストが終わったらひとりで帰ってね?」
「はい。バトリスくんがそうおっしゃるなら、そういたします!」
「よし。じゃあ行こう」
「はい!」
そのあと俺たちは王都の門を出た。
☆☆☆
王都郊外で薬草を採取しながら、シュティと会話していた。
「ふぅん。つまりシュティは実家から攻撃魔術が使えないから追放されたんだね」
「はい……。そのあとも冒険者になりましたが、魔力量が少ないせいで、高度な回復魔術が使えずに、色んなパーティーから追い出され続けました……」
「なるほど。魔力量が原因か」
シュティは話によると彼女は伝説級の回復魔術まで完全習得しているらしい。
しかし、魔力が足りなくて、発動させると魔力欠乏で二週間は寝込むし、普通の回復魔術でも数回しか使えないらしい。
たまにいるのだ。魔力操作は規格外なのに、魔力量が圧倒的に足りてない奴。
まあ、師匠の又聞きだが。
でもそれなら俺でも役に立てそうなので、シュティに提案してみた。
「なあ? シュティ。お前がよければ魔力量を今日中に伝説級五回使えるくらいの魔力にできるけどやる?」
シュティは食い気味に身を乗りだした。
「そ、それって本当ですか? そんなことが可能なのでしょうか!」
俺はサムズアップした。
「もちのろんよ。その代わりけっこう痛いよ? 我慢できる?」
シュティは顔を真っ赤にした。あ、これなんか変な方向に勘違いしているやつだ。
シュティは服に手をかけた。
「わかりました。では服を脱ぎます。はじめてなので優しくしてくださると助かります……」
俺は急いで止めた。
「違う。違う。違う。そっちの意味じゃないから! 俺が手からシュティの脳から魔力回路に魔力を流し込んで魔力量を一瞬で増幅させるだけだから!」
シュティはプシュウと沸騰した。
「も、もうしわけありません。わたしとしたことが、なんてはしたない勘違いを……」
自分から勘違いしておいて、こんだけ恥ずかしがるとか、どんだけ初心なんだよ。
「もういいから。とにかくさっさと終わらせよう」
「は、はい……」
俺はシュティに指示を出した。
「それじゃあそこに座って目を閉じてくれ」
「はい……」
座ったシュティは緊張のあまり震えていた。
これはあまり気が進まない。
実際に魔力量を増幅させる魔術は、かなりの激痛が伴う。
俺も師匠に子供の頃、やらされてギャン泣きしたくらいだ。
繊細そうなシュティが耐えられるとは到底思えない。
それでも彼女は自分の意志で選択したのだ。
俺はそれを尊重してやりたい。
さっそく俺はシュティの頭に手を置き、魔力変換の魔術を使う。
「ふっ!」
俺は自分の魔力量の半分くらいをシュティに注ぎ込んだ。
きっと泣き喚くだろうなと思っていたが、シュティは何も動じずに、平然としていた。
「も、もう終わりですか?」
「ああ。終わったけど、痛くなかったのか?」
シュティは首を振った。
「全然たいしたことありませんでしたよ。伝説級回復魔術を使って気絶した方が激痛でした!」
「そ、そうか……」
俺は驚いた。いまのシュティは一瞬魔力を送り込んだだけで、俺の半分の魔力どころか、七割くらいの魔力量まで増幅している。
こいつは逸材だ。
きっとこのまま行けばすぐにSランク冒険者も夢ではないだろう。
戦闘能力ではあまり期待できそうにないが、エンシェントドラゴンと戦う時の大きな戦力になる。
こんな仲間があとふたりいれば、きっと師匠も許してくれるだろう。
俺はテンションがフルマックスになり、薬草採取を再開した。
「さぁ。シュティ。休憩は終わりだ。早くクエストを終わらせよう!」
そう問いかけようとしたが、シュティはナイフで自分の腕を刺した。
「って、おい! 何やってんだよ! シュティ!」
シュティはすぐさま無詠唱で魔術を発動させた。中級魔術回復魔術だ。
シュティは震えるように、涙を零した。
「まだ。まだ魔力があります……。こんな……こんな奇跡が起こるなんて……ううぅぅぅ……」
そうか。シュティは魔力量の無さが原因で今まで治癒師として役立たずとして追い出され続けたんだっけか。
そりゃ感極まって泣いても仕方ない。
俺はシュティをそのままそっとしておいて、ひとりで薬草採取の続きをはじめた。




