第4話「決闘という名のバトルを楽しもう。ああ。強敵とやり合うなんて気持ち良すぎるだろ!」
訓練場へ向かう前に、俺の元にシュティが近寄ってきた。
「ちょ、ちょっと! バトリスさん。なにやっているのですか!」
「え? 普通に決闘だけど。なにか問題でもある?」
シュティは泣きそうな顔で俺の腕を掴んで揺らした。
「大問題ですよ! あのSランク冒険者で、Sランクパーティー【傲慢の戦士たち】のリーダーのバロスさん相手に決闘だなんて、新人冒険者では前代未聞です!」
俺は舌なめずりした。
「へぇ。あのバロスって人、やっぱりこのギルドで一番強い人なんだな。よぉぉぉぉし。がぜんやる気が沸いてきた!」
シュティは泣きながら何度も腕を揺さぶった。
「危険なことはやめてください。わたしはあなたが殺されるところなんて見たくない。耐えられません……。生きている意味を失ってしまいます……」
クソ重たい。出会って一日の男にそこまで惚れるとか、チョロ過ぎて心配になる。
とにかく安心させないと自害するとか言われたら厄介極まりないので、適当にあしらっておこう。
「大丈夫。俺、強いから。負けるとかありえないし、死ぬとかもありえない。もし相手がめちゃくちゃ強くて、勝てないと判断したら、ちゃんと降参するから安心してくれ」
「本当ですか?」
まるで小動物を思わせるような視線を上目遣いでむけてくる。なんか罪悪感がすごいからやめて欲しい。
とにかく適当に誤魔化すために頭を撫でてやることにした。
「大丈夫。約束するよ」
頭をなでると、シュティは嬉しそうに微笑んだ。
「えへへ。わかりました。頑張ってくださいね。バトリスくん!」
「ああ。行ってくる!」
やっと巻いたか。さてさて。いよいよお待ちかねのメインディッシュだ。
俺は訓練場へ向かうと、木剣を二本用意しているバロスを確認した。
すぐさま近寄った。もう決闘するんだ。敬語はいいだろう。俺はバロスを窘めた。
「ダメだって。決闘だよ? バトルだよ? 真剣使おうよ? 模擬戦じゃないんだからさぁ? ねっ? いいでしょ? 大丈夫だよ。殺しはしないからさぁ!」
バロスは急に現れた俺に驚いた。
「うっわぁ。てめぇどっから現れてんだよ! 真剣なんて新人ボコるのに大人気ないだろうが! てか、敬語を使え! 後輩!」
偉そうで傲慢なくせに意外と規則とか、世間体とか気にするんだな。
そりゃリーダーしているくらいだから当然か。
だったらこれでどうだ。
「ふぅん。俺に殺されるのがそんなに怖いんだ。たかが素人の新人冒険者相手に、Sランク冒険者が逃げるんだ?」
ちょっと挑発したくらいで、バロスはわかりやすいくらい額に皺を寄せて、感情を露わにした。
「クソ! イキってんじゃねぇよ。いいぜ。そこまで死にたいなら、ぶっ殺してやる。決闘による殺傷は罪にはならねぇからな!」
俺はグッとサムズアップした。
「いいね。そうこなくっちゃ面白くないよ!」
互いに鋼の剣を取り出し、訓練場の中央に立った。
他の訓練中の冒険者やギルド内にいた冒険者まで現れていた。
あとシュティの心配そうに見つめる姿と、師匠の鬼の形相で睨んでいる姿を確認した。
ああ。これは二日飯抜きでパンの耳コースだな。
あとのことなんてどうでもいい。
いまこの瞬間の快楽を楽しまなければ。
相手は鋼の剣を上段に構えている。
あれは竜剣流の剣術流派。つまり俺みたいな魔法剣士ではなく、生粋の剣士である可能性が高い。
だったらこちらもそれに応えないと失礼というものだろう。
俺は鋼の剣を下段に構えた。
今回は俺も剣だけで戦おう。
それが剣士を相手にする最低限の礼儀というものだろう。
しばらく沈黙が流れた。互いに歩きながら相手の出方を伺っていた。
俺はわざと隙を見せる。
すると、食いついたように、バロスは剣を横薙ぎに繰り出した。
「オラァァァァァァッ!」
しかし、それは俺が誘導した手だ。
すぐにジャンプして回避して、上段からの袈裟斬りを浴びせる。
それを俊敏に察知したバロスはギリギリのところで避けた。
そのあと、身体に青い魔力を纏った。
魔力強化か。
ならこちらも同じくらいの魔力に調整して、魔力強化だ。
バロスは驚愕していた。
「なっ! 俺様と変わらない魔力だと!? クソガキてめぇ一体何者だ!」
俺は簡潔に答えた。
「何者かって? ただの田舎者の魔法剣士さ!」
「てめぇ。ふざけやがって!」
バロスは竜剣流の上級の型。
竜連水流を繰り出したようだ。
左右から連続で襲いかかる剣技を俺はギリギリで捌き続けた。
思った通りだ。
こいつ剣の技量だけなら師匠とそう大差ない。
もちろん魔力量や魔法を加味したら師匠の方が強い。
だが純粋な剣士としての実力なら、師匠でも勝てるかわからないほどの屈強な肉体と技量を持っている。
これだ。これこれ。これを求めていたのだ。
ギリギリのバトル。命を懸けた手に汗握るようなスリル。
こんな刺激的で快楽性の強い出来事はそうないだろう。
ああ。気持ちいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。
俺は脳が飛びそうになりながら、何度も何度も剣を捌いた。
そして、さらに相手を挑発した。
「あははははははは♪ いいね。強いよ。あんた。ねえ? もっと俺を楽しませてよ。もっと本気で殺すつもりできなよ♪」
バロスは激怒した。
「こんのぉぉぉお。クソガキがぁぁぁぁ。舐めやがってぇぇぇ。いいだろう。そこまで死にたいのなら、この技であの世に送ってやるぜぇぇぇぇぇ!」
いい感じにキレてんじゃん。いいよ。もっと。もっと怒って本気になってくれ。
バロスは鋼の剣に巨大な魔力を宿した。
あれはまさしく竜剣流の奥義だ。
「喰らうがいい。奥義【竜之爪】!」
放たれた剣技を俺は逃げずに真っ向から鋼の剣で受け止めた。
ほんの少しでも気を逸らしたら死んでしまいそうだ。
いい。実にいい。このスリルが気持ち良すぎて飛びそうだ。
半分脳が快楽で持っていかれた状態で、俺は敵の巨大な剣戟波を逃げずに受けきった。
凄まじい衝撃に地面が軋む。
押し切られそうな勢いをなんとか堪えた。
ギリギリだ。
ほんの少しでも力と魔力の同調の調整を狂えば、あの剣に身体を斬り裂かれて、今頃死体と化していたはずだ。
ああ。たまんねええええええええええええええええええええええええええええ。
俺は高笑いした。
「ふっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは♪ 最高ぉぉぉぉぉぉ♪ 気持ちよさすぎて何回脳が飛んだか分からないよぉぉぉぉぉぉぉ♪」
バロスは身動きが取れずにその場に片膝をついた。
「そんな馬鹿な……。俺様の奥義が……。黒竜だって斬った剣なんだぞ……。あり得ないだろ……。こんなの……」
ああ。駄目だ。ちょっと遊び過ぎた。これは自尊心が本気で壊れた奴だ。
俺は剣を投げた。
「つまんないの。もう俺の負けでいいよ。これ以上は楽しめそうにないしな……。戦意を失った相手との戦いなんてクソ面白くないからね……」
俺がその場を立ち去ろうとすると、急に殺気を感じた。
「ふざけろぉぉぉ! 俺様はSランクなんだぞ! 剣王の称号を持つ俺様が負けるなんてありえないだろうがぁぁぁぁぁ!」
バロスは鋼の剣を持ち、得物を持っていないこちらに襲いかかってきた。
俺は魔力の出力を上げて、緑色に変色させた。
そして、雑に斬りかかるバロスの攻撃を回避して、思いっきり腹パンチを決め込んだ。
「ぐほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
バロスは苦痛に表情を歪めて、その場に崩れ落ちて、意識を失ったようだ。
俺は意識をなくしたバロスを称賛した。
「最後のプライドを懸けた執念の一撃なかなかよかったよ。あんたの本気に応えて俺も少し本気を出した。ゆっくり休みなよ。誇り高き剣王さん!」
その瞬間周囲に称賛の声が上がった。
ああ。目立っている。面倒臭いな。
俺は師匠の元に戻ると、見事なまでににこやかに笑っていた。
「おい。この野郎。覚悟はできているんだろうな?」
俺は微笑んだ。
「うん♪ 楽しかったから悔いはないよ。何でも言ってくれ♪」
師匠は怒声をあげた。
「三日間飯抜きだぁぁぁぁぁぁ! パンの耳でも齧って反省しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。こんのぉぉぉぉぉお。バカバトリスがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ちなみに登録は無事完了した。
しかし、師匠の言いつけで三日間の宿での謹慎と、水とパンの耳だけを齧るという罰を甘んじて受け入れた。
ちなみに師匠はドラゴンを三体討伐したらしい。ちくしょう……。俺も行きたかったのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。俺は涙で枕を濡らした。




