第2話「バトルがしたいから王都へ来ました!」
「ああ。早くバトルがしたい……」
師匠との試合の翌朝。出発の準備をした俺は、階段を降りて、自宅から出たあと、きちんと戸締りをした。
庭には師匠がすでに準備を終えており、俺にとんでもない物を見せた。
「ほら。飛竜だ。こいつに乗るのも半年ぶりか」
「か、かっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
目の前のトカゲには翼が生えており、黒い鱗を持っていた。
瞳孔は黄色くて、ぎょろっとしている。
何よりあの翼と角と尻尾。
いかにも飛竜って感じでめちゃくちゃかっこよくて、健全なる男子としてこう胸に響くものがある。
師匠は飛竜にまたがると後ろをポンポンと叩いた。
「ほら。ぼさっとしてないで後ろに乗れ! 数時間で着くから途中でドラゴンとか見ても戦いを挑んだりするなよ?」
ドラゴン。その単語に俺はにっこりと笑った。
「あ、あ、当たり前だよ。いくら戦うのが好きでも、寄り道なんてしないってば。あっはっはっはっは……」
いまのは嘘だ。ドラゴンとめっちゃバトルしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。
出るよね? 出るよね? ドラゴン出ますよね?
ああ。戦いたい。ぶった斬りたい。剣の錆にしたい。
もしくは追いつめられて、死にかけるのも悪くない。
血が出て、腕が一本もげて、首が吹き飛ぶかもしれない。
なんと素晴らしいことだろうか。
まさか王都に行く前にドラゴンと戦える可能性があるなんて。
できることなら、エンシェントドラゴンとかお願いしたい。
もうドキドキワクワクが抑えきれなかった。
俺は急いで師匠の後ろに乗った。
「さぁ。行こう。師匠。ぐずぐずしている暇なんてないよ?」
師匠は頭を抱えた。
「はぁ。仕方ない。遠回りになるが、安全ルートで行くか……」
俺は涙混じりに師匠の袖を掴んだ。
「そんな殺生な……。ドラゴン行こうよ。ドラゴン。ドラゴンとバトルしたい。バトルしたい。バトルしたいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
師匠は俺の額をデコピンした。
「バカバトリス。そうやってすぐ暴走するから、王都へ連れて行きたくなかったんだよ。だってお前、相手が強ければ王族にだって喧嘩売るだろ?」
俺は首を振った。
「いやいやいや。そんなことしたら死罪でしょ。いくら俺でもそんな無謀なことはしない……とは言い切れない。ああ。王族の天才王子とか、もしいたらバトルしたいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
もう一発師匠にデコピンされた。
「このバカバトリス。いい加減にしろ」
普通に痛い。でもそれがいい。
師匠は俺に恐ろしいことを口にした。
「ちぃ。そうだな。お前戦うのも好きだけど食うのも寝るのも好きだったよな? 王族の方に粗相を働いたりしてみろ。宿代も飯代も抜きにするぞ? いいな?」
「は、はい……」
流石に飯抜きでふかふかのベッドで眠れないのは嫌だ。
食事と睡眠なくして戦いは成立しないのだから。
俺は我慢して、師匠の背中に捕まる。
すると、飛竜は勢いよく空中へ飛び出した。
「ひゃっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!」
「ちぃ。うるさいぞ。騒ぐな。バカバトリス」
飛竜の背中から膨大な風が吹き込んできた。
いや、最高だろ。空飛ぶのって気持ち良すぎるだろう。
これは飛行魔術とか本気で覚えてみる価値があるな。
俺は興奮したまま、師匠と空の旅を楽しんだ。
☆☆☆
飛竜で飛ぶこと数時間。
師匠の計算通り、一度もドラゴンに遭遇することなく、王都へ辿り着いた。
つまらない。実につまらない。
師匠は門兵に通行証と金を支払った。
「さあ。バトリス。早速冒険者ギルドへ行くぞ? 登録を済ませてから、宿を確保する。日が暮れるまで時間もないからな。言っとくが、チンピラに絡まれても、喧嘩だけは起こすなよ? いいな?」
俺はけらけらと笑った。
「あっはっは。師匠も心配症だなぁ。そんなクソ雑魚相手にするわけがないじゃん。弱い奴と戦ってもつまらないだけだしさ」
師匠は「それもそうか」と安心したように、ほっと息を吐いた。
王都の中を歩いてみると、色々な物があった。屋台に露店。珍しいレア魔道具や魔導書や美味しそうな焼き鳥など。
目移りするものばかりだ。特に焼き鳥が食べたい。あとで師匠に奢ってもらおう。うん。そうしよう。
街ゆく人々も色んな種族がいた。ゼノン村とは大違いだ。
エルフやドワーフ。竜人なんかもいる。
王都って面白いなと感心していると、裏道でチンピラに絡まれている女の子がいた。
「嫌です。離してください!」
「へっへっへ。いいじゃねぇかよ。どうせ仲間に追放されたんだろう。だったら俺らの仲間になれよ。気持ちいい思いだってさせてやるからさぁ!」
小説とかで読んだことがある。
チンピラに絡まれる女の子を助けるのが物語の王道だ。
しかもそういうイベントをこなせば、最終的には悪魔とか魔王とかそういう強そうな奴と戦うところまで発展したりする。
つまりこれはチャンスだ。ここは華麗に助けて更なる強敵に挑むしかない。
俺は駆け出して、チンピラの背後に回り込み手刀で気絶させた。
「な、何が起こった……」
「て、変なガキが現れやがったぞ!」
「くっそう。舐めやがって。お前らやっちまうぞ!」
十人のチンピラが襲いかかってきたが、俺は一人、一人首元を手刀で叩き気絶させた。
わざわざこんな雑魚相手に殺しでもしたら、豚小屋行きだからな。
俺は少女の前に躍り出た。
長い銀髪に透き通る碧眼。顔立ちは気品があって非常に整っている。小柄だがスタイルも悪くない。
これが美少女という奴か。世の男性が夢中になるというが、俺にはただ可愛いだけの人にしか見えない。
しかし、ずいぶんと白い神官服がよれよれで汚れている。
もしかしてお金ないのかな。
なんて思っていると、急に少女に話かけられた。
「あ、あの。助けてくれていただきありがとうございます。わたしはシュティ・ハートロードと申します。あなたのお名前をお聞かせ願えませんか?」
俺はなにも考えずに名を告げた。
「俺はバトリス。ただの田舎者の魔法剣士だ」
シュティはなんだか顔を赤くしてもじもじとしている。
ははあ。さては俺に惚れたな。
困ったな。俺、恋愛とかあんまり興味ないんだけどな。
シュティは俺の手を取って、こう呟いた。
「お願いします。あなた様のパーティーに加えてください!」
「え、いや。俺まだ冒険者登録する前なんだけど?」
「そ、そうだったんですね。これは大変失礼いたしました。では冒険者になられたら、ぜひともわたしをバトリス様のパーティーに入れてください」
「いや。様づけしなくていいよ。バトリスって気さくに呼び捨てにしてくれ」
「そんな……。命の恩人を呼び捨てになどできません!」
なんだかこの子ちょっとなんか、こう、重たい感じするな。
まあ。いいや。適当に返事しよう。
「だったら、バトリスさんでも君でもなんでもいいからさ? 様づけはやめてくんない?」
シュティは笑顔でこう呼んでくれた。
「ではバトリスくんにします。だってこんなに可愛い男の子なんですから!」
「俺、普通に成人男性だよ。それって褒めてるの?」
可愛いってなんだよ。普通そこはかっこいいだろうが。
なんで可愛いとか女子みたいな扱い受けなければならないんだ。
シュティはくすくす笑った。
「すみません。ついからかってしまいました。それよりバトリスくん。後ろの鬼の形相でこちらを睨んでおられる方は、どなたですか?」
「へ?」
俺は後ろを振り返ると、そこには激怒した師匠の姿があった。
「てめぇ。なに問題起こしてくれてんだぁぁぁ!
こぉぉぉんの。バカバトリスがぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぎゃ。ぎゃああああああああああああ。ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁいっ!」
そのあと、衛兵を呼んで、事情を説明し、ギルドへの登録は明日ということになり、師匠に今晩の飯は抜きだと宣告されて、部屋の中で宿屋のコックさんがこっそりくれたパンの耳を泣きながらかじり続けた。




