第1話「バトルがしたいんじゃあああああああああああああああああああ!」
バトルがしたい。強敵と戦いたい。もっともっと強くなりたい。
俺ことバトリスは己が戦闘欲求のままに生きている。幼い頃から戦うことだけが楽しみだった。
朝日が差し込む朝食のあとに、俺は師匠に尋ねた。
「師匠。俺、もう成人だよな?」
師匠は眉をひそめた。
「ああ。そうだな」
この黒髪がよく似合う美人さんが俺のお師匠さんであり、育ての親だ。
巷では勇者と尊敬されてるすごく強い人である。
名前はジジというのだが、その名で呼ぶと怒るので師匠と呼んでいる。
俺は師匠に直談判した。
「バトルがしたいので王都へ行きたい! いや、行かせてくれ!」
俺が目を輝かせて頼み込むと、師匠は呆れたように溜息を吐いたあと、こちらをきっと睨んだ。
「却下だ。お前のような世間知らずを世に放ったら、どれほどの被害が及ぶかわからんからな」
「ええぇぇぇ~~! いいじゃんか。王都行きたい。バトルしたい。バトルしたい。バトルがしたいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「うっさい。バカバトリス。いいからさっさと着替えてこい。今日も修練だ!」
「ちぇ……。わかったよ。バトルの相手は師匠で我慢する……」
「いい子だ。さあ。分かったら。早く行った。行った!」
師匠に促されるまま自室に戻った。
タンスの中から戦闘用の青い剣士服に、木剣を装備。
鏡の前で自分の姿をチェックする。
桃色のマッシュヘアに桃色の瞳。顔立ちは女子にしか見えないほど美少女然としていてあまり強そうじゃない。青い剣士服の下の体格は小柄で華奢だ。
俺は自分のこんな弱そうな見た目が嫌いだった。
もっと高身長で細マッチョだったら、さらに強くなれたに違いない。
自分のチビヒョロガリ女顔遺伝子を産むだけ産んで無責任に捨てた親を本気で呪った。
さて、師匠に叱られないように、寝ぐせも服装もきちんと正したし。
「行くか!」
俺は自室の木の扉を開けて、階段を駆け下り、庭へと向かった。
そこには戦闘用の黒い女剣士服に着替えた師匠が待っていた。
「来たな。さて、訓練だといいたいところだが。バトリス。お前にチャンスをやろう」
「チャンス?」
何のことだろう。もしかして強い武器をくれるとかかな。
俺は期待に胸を膨らませてワクワクしていると、師匠ははっきりと告げた。
「もしもお前が私に勝つことができたのなら、王都へ行かせてやろう。ただし私も同伴だ。いいな?」
師匠のサプライズに、テンションがフルマックスになった。
「いいの? やった。やったぁぁぁ! 強い奴とバトルができる。バトルができる。バトルができるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
師匠は激怒した。
「ストップ。いつも暴走ばかりだな。お前は。とにかく私に勝てた場合の話だ。負けたら、あと五年は修行と一般常識の勉強だ!」
俺はにやりと笑った。
「いいの? 言っとくけど。いまの俺、師匠より強いよ? なんせ切り札があるからね!」
師匠は不敵に笑った。
「ほう。そいつは楽しみだな!」
正直、技術では師匠の方が俺より上だ。でもどんなに技術に優れていても超えられない壁という物も存在する。
俺はそいつをいままで秘密の特訓で身につけた。あの技で師匠をわからせる。
ああ。師匠ほどの強敵と本気でバトルができるなんて幸せだ。
テンション爆上がりで、俺は木剣を構えた。
「来い!」
「しゅ!」
師匠が吠えたあと、秒で詰めた。刹那一秒に無数の剣戟を繰り出す。師匠はその全てを冷静に回避する。
流石だ。強すぎる。当たる気がしない。
怒涛の連続剣に加えて、拳や足技も絡めて、攻撃するが全く当たらない。
続いて、魔法を放った。家が燃えないように土属性にした。無数の土の槍が師匠へと降り注ぐ。
当然死なないように、先は丸くしてある。
しかし、師匠は目を瞑ったまま、冷静に魔法を回避した。
どれだけ規格外なんだよ。
続いて、麻痺毒のある網を無数に降らせた。
師匠はその全てを右手の木剣だけで相殺した。
これでもダメか。
ああ。強い。なんて強さだ。
快感が止まらない。
こんな強敵が自分の師匠だなんて、どれほど幸せ者なのだろう。
続いて、飛ぶ斬撃を放った。
師匠はそれを木剣で弾く。
ここで手を休めると一瞬で距離を詰められる。
そう判断して、連続で飛ぶ斬撃を飛ばす。
師匠は木剣で一撃も貰わずにさばききった。
にやにやするのを抑えられない。
これが本気の師匠。
俺が今日まで一度も勝てなかった最強の魔法剣士。
飛ぶ斬撃が全てさばかれたあと、師匠は神速で俺との距離を詰めた。
放たれる電光石火の居合抜き。
俺はそれをギリギリで回避した。
師匠は嬉しそうに笑った。
「ほぅ。それをかわすか。やるようになったな」
「えへへ。ありがとう。でも、まだまだこんなもんじゃないよ!」
そろそろ見せる時か。あの技を。
俺は全身の魔力を体に集めた。
それを身体にまとい、その質を限界ギリギリまで高めた。
「行くよ。身体覚醒!」
魔力が青から緑へと変質した。莫大な魔力が漲る。
師匠は警戒して、自身も肉体に青い魔力をまとい、一気駈け出した。
「これで終わりだ!」
師匠の放たれる全力の連続居合抜き。
それらを全部回避する。
テンションが上がる。
脳内快楽物質がドバドバだ。
だって魔力がこんなにも充実しているなんて、最高に気持ちがいいからだ。
技術で勝てないのなら、フィジカルで押してしまえばいい。
フィジカルの強さとは、ある程度の技量差だけでは超えられない壁そのものなのだ。
俺は自身の木剣に最大の魔力を注いだ。
「はぁ!」
そして、その剣を袈裟懸けに振り下ろす。
師匠は回避が間に合わず直撃した。
「ぐはああああああああああああああああああああああああ!」
俺は体を抑えて膝をつく師匠に、ピースサインをしながら高らかに宣言した。
「一本! 俺の大勝利!」
師匠は一瞬悔しそうに顔を歪めたが、すぐに何を悟ったかのように穏やかな物へと変化した。
「そうか。お前に教えて十三年。バトリスよ。とうとう私を超えたか……」
俺は首を振った。
「いやいや。戦闘能力では俺が上だけど、戦闘技術ではまだまだ師匠に敵わないよ。だからこれからもいっぱい鍛えてくれ!」
師匠は頬を赤く染めて、顔をそむけた。
「ふん。まだまだ力の制御に課題があるのは当然だ。何せお前は実戦経験がこの村周辺の魔獣と私しかないんだからな」
その言葉にピンときた俺は、目を光らせた。
「それって、つまり……」
師匠はやれやれと肩をすぼめた。
「お前の王都行きを許可する。元々成人になったら、何か仕事をさせる気だったしな!」
その言葉に俺は右手を突き上げた。
「うおっしゃああああああああああああああああああああああああああああ! 王都だ! バトル! バトル! バトルゥゥゥゥゥ!」
「落ち着け。バカバトリス。暴走するのをやめろ!」
師匠には色々小言を言われた。
それでも俺は王都で、どんな強い冒険者や魔獣がいるのか、どんな技や魔法が存在するのか、好奇心と戦闘欲求が抑えきれなかった。




