99. 異変の後
「お願い! ひばり、起きて!」
「おい! どうしたんだよ、ひばり!」
「ひばり。こんなとこで寝てちゃ風邪ひくよ。」
その時、上の方から自分の名前を必死に呼ぶ仲間の声が、ひばりの耳元に聞こえてきた。
ひばりは、はっと目が覚めると、がばっと上半身を起こした。
すると目の前を、プル、ミア、ルーシーの3人が、心配そうにぼんやりと自分のことを見つめていた。
「……あれ?」
ひばりは、キョロキョロ辺りを見渡すと、自分が今2年D組の教室にいて、なぜか今まで教室の床の上に仰向けで寝ていたことに気がついた。そして教室には、自分達4人以外にもう誰もいなかった。ゆかりと詩叙も、異変が終わると、とっくに帰ってしまっていた。
「もう! ひばりったら、私達と話してる時に急にいなくなったと思ったら、いきなり教室の床で寝てるんだから……本当にビックリしちゃったよ。」
「おーよ。いきなり寝る奴があるかよ。俺も気づかず、危うくひばりの顔面を踏んづけるとこだったんだぞ。」
「ひばり、体なんともない? もし何か悪いとこがあったら言ってね。」
プル達は、ひばりがようやく目を覚ましたことにほっととすると、三者三様にひばりに話し掛けた。
3人は、話の途中で急に視界からひばりの姿が見えなくなって、慌てて教室を見渡して、ひばりを探していると、ミアが偶然何かを思い切り踏んづけてしまい、下を見ると、それがひばりの顔面だったので、思わず「うわっ!」と大声を出したところで、実はひばりが地面に寝転がってることに気づいたのだった。
「……うん、大丈夫。なんともない。」
ひばりは簡潔に答えると、自分の両手と両足をじっくり見た。
(……あれ? どこも怪我してない。それに……どこも痛くないや。)
ひばりは、不思議そうに自分の両手をまじまじと見つめた。
すると、そんなひばりのおかしな様子をルーシーが心配そうに見つめると、
「ひばり。もし時間が止まったら、私達がどうなるか試してあげるって言って急にいなくなっちゃうから、本当に試そうとして、どっかに駆け出しちゃったのかと思ったよ。」
少しほっとしたように冗談まじりに話し掛けた。
すると、ひばりは急に何かを思い出したように顔を上げると、正面にいるプルの顔を見た。
(あっ! 顔がある!)
ひばりは、全身に電撃を受けたかのような表情でプルの顔を確認すると、次いで左にいるミアの方を振り向いた。
(あっ! 腕がある!)
その瞬間、ひばりの脳裏に様々な感情が襲ってくると、ひばりは急に泣き出してしまった。
プル達は、先ほどからのひばりの意味不明な行動と情緒不安定な様子に困惑し、しばらくの間、ひばりの様子を黙って見つめるしかなかった。
そして、床に座ってヒクヒクと泣いていたひばりだったが、泣くだけ泣いて、少し感情が落ち着いてくると、おもむろに床から立ち上がり、
「プル―! ミアー! 私、やっちゃったかと思ったよー!」
叫びながらプルに抱きつこうとしたが、プルに触れる直前でピタッとその手を止めた。
ひばりは、プルに触れようとしたその瞬間、異変が起きた時にプルをヤッてしまったトラウマが突然襲ってきて、それで怖くなって、プルの体に触れることができなかった。
「どうしたの、ひばり? あっ、もしかすると何か怖い夢でも見たんだね。」
プルは、自分に抱きつこうした姿勢で止まったままのひばりを見て、にこやかに微笑んだ。
「おーよ。脅かすなよな、ひばり。……おい、みんな。もうこんな時間だし、いい加減帰ろうぜ。」
「ひばり、本当に大丈夫? どこか具合が悪いんだったら一緒に保健室に行こうか?」
ひばりは、異変の時の記憶があまりにも鮮明で、いまだにドキドキが止まらなかったが、あれはすべて夢で、この世界がいつもと同じで何も変わらないのがわかると、少し落ち着きを取り戻した。
「……うん、平気。帰ろ。」
ひばりは元気に答えると、バックパックにはもちろん教科書の類は一切入れず、いつものように中身はスカスカの状態で、それから4人は帰宅の途へと向かうのであった。
――私、どこも怪我してないし、プルとミアもなんともない。……あれは、やっぱり夢だったんだ。するとマジカルキティに会えたのも……ナミ、ホタル、ミク、シノに会えたのも……全部夢だったんだ。……でも、本当におかしな夢だったな。
その頃支子家では、ひばりの妹の万智が、ちょうど地元の中学から自宅に帰宅するところだった。万智が家に入ろうとすると、玄関の前になぜかポメラニアンの子犬がいて、その場に静かに佇んでいた。
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