93. 2週目
三玖は、凛としつつも、いつもの落ち着いた佇まいで、現場ロボット班に向かってゆっくりと歩き出した。
現場ロボット班は、先ほどの南美の魔法の圧倒的な火力を前に、いまだ脳の整理ができなかったものの、目の前の三玖を認識するとすぐに戦闘態勢に入った。だが、ロボット達は三玖を前にすると、――本来ロボットが感じ取ることはできない――自分達では絶対に相手にならないと思えるような圧倒的な実力差を三玖に対して感じ取ってしまった。
三玖は、蛍の表情に明らかに現れていたロボット達に対する恐怖心や、南美が時折ロボット達に垣間見せた隙などを、グラウンドに現れた最初から、ロボット達に対し一分も見せることはなかった。
彼女のその表情と佇まいから、ロボット達を寸分の狂いもなく完璧に仕留められるというその自信が、彼女の持って生まれた性分からではなく、確信からきているものであるというのは明らかだった。
そういえば、3人の人間がグラウンドの前に現れた時から、この緑色の衣装を着た人間だけは、今に至るまで自分達に対し一度も警戒態勢を解かなかったことに、ロボット達は今さらながらに気がついた。
三玖は、颯爽とロボット達の前に立つと、右手を軽く広げた。
すると、南美の時と同じように光の中から何かが飛び出して、三玖はそれをしっかりと握りしめた。
それは、黒を基調とする凝った装飾があしらわれたウィップ(鞭)だった。
そのウィップは、土や植物などの地属性の魔法を使うグリーンキティの三玖専用の武器だったが、三玖が握りしめていたのは、そのウィップの持ち手のグリップの部分だけだった。
だが、三玖がグリップに軽く魔華力を込めると、グリップの先端から棘のついた長い枝がシュルシュルと伸びてきた。
三玖は、試しにウィップをしならせながら軽く地面を叩いた。
すると地面からは、バチーン!! と耳をつんざくような破裂音が鳴り響いた。
その一撃は、間違いなくロボットの頭部や腕部が一瞬で吹っ飛んでしまうほどの威力だった。
「ひ~っ……」
クスはその音を聞いただけで、もう生きた心地がしなくなると、恐怖のあまり、情けない声を出しながらその場にへたへたとしゃがみ込んでしまった。
現場ロボ班の連中も、ウィップの威力にビビると、ずるずるとその場を後ずさりした。
三玖は、現場ロボット班の面々を見つめると、残念そうに、ふーっとため息を吐いた。
「やっぱり、何も最低ななんとかっていうのは、人間だからとかロボットだからとか、そういったことに限った話じゃないのね。もちろん、人間の中にはいい人も多くいるけど、残念ながら、そうじゃない人も、それと同じくらいに存在する。人間だから、異星人だから、ロボットだから悪だって、もちろんそんな簡単な理由で決めつけることはできない。もちろん彼らの中にもいい人は存在するし、私達の中にも悪い人は存在する。でも、悪意をもった存在って、それが人間であろうがなんであろうが、どんな種類に限らず、それが結果的に見ず知らずの他人を陥れることになったとしても、決してやめようとしない。思いやろうともしない。それが自分の利益になるのなら、平気で他人を不幸にできる。」
その時の三玖は、なぜかすごく悲しそうに見えた。
それまでは、三玖にビビって彼女の言葉を黙って聞いていた現場ロボ班の連中だったが、自分達が舐められることが、これ以上我慢ならなかった。
現場ロボ班達にとっては、ウラネコも人類も、彼らは生物種としての構造的欠陥によって自ら滅亡した惨めな生物という認識でしかなかった。
「こ、この人間ごときがあ!!」
班長が、典型的な負けフラグとなるようなセリフを吐くと、現場ロボ班の4体のロボットは、なりふり構わず三玖に向かって突進してきた。
三玖は、敢然と向かってきた4体のロボット達を前にしても、まったく慌てた素振りも見せず、最初に向かってきたロボットの突進を華麗にジャンプしてかわすと、そのままロボットに目掛けてウィップを放った。
するとウィップの枝は更に伸びると、しなりながらキュイーンと真っ直ぐにロボットの左足へと向かって、パン✕7という7回の連続音とともに、左足、腰、左手、首、右手、腰、右足の順番で、各関節の部位を寸分の狂いなく正確にくるっと一周した。
それから三玖がグリップを軽くくいっと引っ張ると、ロボットの各関節にはまった棘付きの枝は、ロボットの各関節を強く締め付けて関節に深くめり込み、バンッという乾いた破壊音とともに、ロボットは完全に動作不能となって、そのまま前のめりに地面にばたんと倒れこんだ。
その直後、現場ロボ、現場ロボ、班長の順番で、3体のロボット達が、三玖を目掛けて次々に襲い掛かってきたが、最初のロボットとの戦闘リプレイを観ているかのごとく、三玖のウィップ攻撃を受けて、各関節を破壊されると、なんの抵抗もできぬまま、次々に地面にばたりばたりと倒れこんでいった。
グラウンドの奥からは、南美が「とろ火」「とろ火」と何度も唱える声が漏れ聞こえてきた。その声が聞こえる度に、グラウンドは一瞬真っ赤に染まった。
三玖は、グリーンキティとして初めて戦ったとは思えないほどに、意のままに魔法と、それと強大な身体能力を繊細に操った。
土や植物に関する魔法が使える緑色の魔法少女は、その魔法は非常にバラエティに富んでいて、赤色の魔法少女ほどではないにしろ、実は癖が強くて扱いづらい。
ちなみに三玖の魔法は、南美と同様に、魔華力の調整が可能なので、使用中のウィップの長さやその他アレンジなんかも自由自在である。
三玖はロボット達の実力を瞬時に分析すると、今回はウイップを使用することを選択し、絶妙の魔華力と力加減で、見事にロボット達の動作部位だけを破壊し、一気に4体のロボットを行動不能にしてみせた。
これだけのことをとっさに判断し、ここまで細かく魔華力と身体能力を調整できて、しかも、それをいとも簡単に実行できる魔法少女など、ほとんど存在しない。
やはり三玖は、マジカルキティの中でも随一の、天才魔法少女といっていいだろう。
これにて戦局は決した。
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