123. 異変の後
「あっ……」
つかさは玄関のポーチを降りてひばりの前まで行くと、ひばりの桃色の魔法少女のコスプレ姿に気づいて一瞬ハッとした顔をすると小さく声を出した。
だがすぐに普段学校で会う時のような、いやその時よりもうれしそうな表情になると、いつもみたいに気軽にひばりに話し掛けた。
「わっ、本当にひばりだ。ふふっ……でも、ひばりがあたしん家に来るなんて珍しいね。どうしたの? 何かおばさんから頼まれごとでもされたの?」
…………
ひばりはムスッと下を向いたまま何も答えなかった。
「それとも、なんか急な用事でもできたの?」
ひばりの無反応に気にすることなく、つかさは話を続けた。
…………
「あれ? 私、ひばりにマンガかなんか借りてたっけ? でも、私そんな記憶ないんだけどな?」
…………
「それとも……もしかして、宿題教えてほしいとか? ……悪いけど、私も勉強あまり得意じゃないからね。特に理数系とかだったら絶対無理だからね。」
…………
つかさは、わざとらしく困った表情を作ってみたが、ひばりはそれにまったく反応せず、先ほどからずっと下を向いて黙ったままだった。
「……えーっ? もしかしてひばり、好きな男の子ができたとか? でも、恋愛相談だったら、私もその方面の話、あんま得意じゃないし、よくわからないから、私に相談されても困るんだけどな。」
(まあひばりのことだから、絶対に男の子の話じゃないと思うけど……)
つかさも、話の流れでとりあえず言っておこうかなと思っただけだった。
…………
ひばりは相変わらず下を向いたままで、ドキリともしなかった。
「むーっ……?」
つかさは、相変わらずのひばりのノーリアクションと、ひばりがどうしたいのかがまったくわからず困惑した。そして下を向いてどこか地面の一点を、一見面白そうにも見えるが、実は深刻な表情でずっと見つめているひばりを見て、つかさもつられて難しい表情になった。
(うーん……さては、ひばりの中で何か重大な出来事があったんだな……)
つかさは頭の中でそう予想すると、とりあえずひばりの身にありそうなことを聞いてみることにした。
「ひばり……もしかして、プルやミア達とけんかでもしたの?」
…………(ブルブル)
ひばりは下を向いて黙ったままだったが、今度は首を左右にブルブル振った。
「あれ? 違うんだ。」
…………(ウンウン)
ひばりは、今度は首をウンウンと縦に振った。
「じゃあ……万智と?」
…………
「万智とけんかしたんだったら、どっちが悪いか知らないけど、お姉ちゃんなんだし、長引かないようにひばり早めに謝った方がいいよ。あの娘やさしいからすぐに許してくれるよ。」
…………(ブルブル)
「えっ? 万智とけんかしたんでもないの?」
…………(ウンウン)
「それじゃどうしたの?」
…………
「……じゃあ、とりあえずその辺走る?」
…………(ブルブルブル!)
ひばりは懸命に首を左右にブルブル振った。
「むーっ……?」
つかさは、さっきから自分が何を言っても、ひばりがずっと下を向いたままで何も言わないので当惑した。だが同時に、そういえばひばりが幼少の頃、何か自分に都合の悪いことや困ったことがあった時、いつも黙りこくって下を向いてしまう癖があったことを思い出し、ひばりの今の仕草にどこか懐かしさも感じていた。
(……そういや、こういう時のひばりって、何をしてほしいのか自分で言わないで、なぜかいつもこっちに当てさせようとするんだよね。本当にひばり、相変わらず面倒臭い性格してるよな……だから今でもこの娘のこと、何かと放っとけないんだけど……でも、学校でも普段ひばりと一緒に行動してないし、ひばりに何があったなんて、私にはぜんぜん見当つかないな。)
つかさは何も思いつかないものの、それでもひばりの身に何があったのか、なんとか必死に探しだしてあげようと思って上を向くと、そのまま深く考え込んだ。
「うーん……」
暗闇の中、電灯に照らされた二人は上と下を向いたまま、その場にじっと固まっていた。
それからしばらくの間、二人の間には奇妙な沈黙が続いた。
メグは、そんなひばりの傍らに座って、最初は二人のやり取りを黙って見守るつもりにしていたが、いつまで経っても用件を言い出そうとせず、なぜか黙ったままのひばりのポンコツぶりに、ほとほと呆れ果てたようにはーっとため息を吐くと、業を煮やしてとうとう口を出すことにした。
「おい、ひばりよ。一体何をしておる? 早くつかさに用件を伝えよ。何も言わなければ相手には何も伝わらないぞ。」
メグは、下からブスっとした顔のひばりを見上げると、苛立たしげにひばりにつかさと会話をするよう強く促した。
キッ!!
下からメグに急き立てられ、思わずひばりはメグを睨みつけた。
(私の気持ちも知らないで!)
ひばりは、なんかこういう時って、あまりに長い時間二人になることがなかったので、久しぶりに二人きりでいるこの時間や空間が、お互いなぜかとても恥ずかしくって……正面にいると、お互い中々素直になれなくて、言いたいことも言えなくって……それでなんかそんな私の気持ちを酌んでくれて、むこうが私の伝えたいことをわかってくれるような……そんな甘じょっぱい青春の一ページみたいなんがあるだろう。お前も少しは察しろよ……などとよくわからないことを考えていたが、一方メグとしては、ひばりから特に睨まれるようないわれもないので、不思議そうな顔をしながら頭を少し傾けた。
「うむ。人間というものは、基本的に口を使ってお互いの意思疎通を図るものであろう。目や触覚器官を使用したり、ましてやお互いの心の中を伝えあうテレパシーのような魔法など使えるはずもない。それに……何度も言うが、お前は桃色の魔法少女ではなく黄色の魔法少女。そのような魔法使えるはずはあるまい。それどころか、お前は黄色の魔法少女の中でも残念系黄色の魔法少女。黄色の魔法少女が唯一使用できる電撃系の魔法すら、まともに使えるかどうかさえ怪しいというのに……」
「くっ……」
ひばりは、ただでさえつかさの前で居心地が悪いのに、さらに追い打ちをかけるようにメグから不快なことを言われると、増々不機嫌になって殊更にメグを睨みつけた。
(……えっ? 今この犬、私が黄色の魔法も使えないって言わなかった?)
ひばりは、そんな不吉なセリフがメグの口から一瞬聞こえたような気がしたが、すぐにそれは自分の聞き間違いだと思うことにした。
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