122. 異変の後
ひばりがうつむいて何やらブツブツつぶやいていると、ひばりの横を歩いているメグが訝しげな顔でひばりを見上げた。
「どうした? 何かあったか?」
メグは、別にひばりのことが心配なわけでもなかったが、横でブツブツ言ってるのがいちいち鬱陶しいので聞いただけだった。
「ふん。別になんでもないよ。」
(こうなったのもお前が原因だろ!)
ひばりは不機嫌そうに顔を上げた。
「……あれ?」
気がつくと、つかさの家をとっくに通り過ぎてしまった。
ひばり達は、今来たばかりの道をまっすぐ引き返すと、すぐにつかさの家に到着した。
「なんだ。すぐ近くじゃないか。」
つかさの家の前に立つと、メグは呆れたように言葉を吐いた。
実は、つかさの家はひばりの家と同じ通りに面し、ひばりの家を出て右を向いてから歩いて5件目にあった。それもそのはず、ひばりの家もつかさの家も10年以上前に同じ区画で分譲された26区画のニュータウンの戸建て住宅の一つで、支子家も薄珊瑚家も、その時に同じタイミングで住宅を購入した近所同士で、今の家に越して以来、今でもお互いに家族ぐるみで付き合いのある関係だった。なので、つかさの家もひばりの家とほとんど同じ感じの造りの家だった。
「うーっ……」
ひばりはつかさの家のインターホンを押そうとすると、すごく緊張してきた。
今からつかさに会うんだ。そう思うと、なぜか身震いして、緊張のあまり思わず唸り声がでた。学校でつかさと毎日顔を合わせてるはずなのに、こうして自分から直接つかさと対面するんだと思うと、長年会うことがなかった遠くにいる懐かしい友達と久し振りに会うような、なぜかそんな不思議な感覚がした。
…………
しかしインターホンを押そうとしたものの、ひばりはいまだつかさと対面する勇気がなかった。ひばりは、つかさの家のインターホンを押すのを躊躇して、インターホンに人差し指を伸ばしたまま、その場から動けなくなってしまった。
「どうした? 何をしている? 早く呼ばぬか。」
そんなひばりの気持ちなど一切知らないメグは、早くつかさを呼ぶよう、後ろから苛立たしげにひばりに強く促した。
「うるさい! ……わかった……呼ぶから……」
(人の気持ちも知らないで、この犬は。こっちはつかさの家に行くのなんて10年振りなんだよ。)
ひばりは心の中でメグに文句を言いながら、もうどうでもいいやとインターホンを強く押した。
――ピーン ポーン
つかさの家の中から、インターホンのくぐもった音が鳴り響いた。
ひばりは、自分が押したインターホンの音に、思わずビクッとした。
それから少し間が空くと、インターホンから誰かの声が聞こえてきた。
「はい、どなたですか? ……あら、ひばりちゃんじゃない。どうしたのこんな時間に?」
インターホンに出たのは、どうやらつかさの母親のようだった。
「あっ……こんばんは。こんな時間に悪いんだけど……つかさいる? ちょっと用事があって……」
ひばりは、インターホンに出たのがつかさじゃなかったので、少しほっとした。
「つかさ? いるよ。呼んでくるからちょっと待っててね。」
つかさの母親がひばりに告げると、それからインターホンから音がしなくなった。
(やっぱりいるんだ……)
今からつかさが来るんだ。そう思うと、ひばりは緊張した。
そして少しその場で待っていると、玄関のドアが開いて、背の高いスウェット姿の女の子が家の前に出てきた。その娘が薄珊瑚つかさだった。
「えっ? ひばり、どうしたの?」
家から出てきたつかさは、外にいるひばりを確認すると、少し驚いた表情をした。
薄珊瑚つかさ
ひばり、プル、ミア、ルーシーの仲良し4人組とは家が近所で幼少の頃からの幼馴染で、5色の魔法少女ごっこでは、ひばりに桃色の魔法少女を譲る形で、黄色の魔法少女を担当していたが、小学生の頃にいち早くこのグループから抜け出して以降は、ずっと大好きなバスケットボールに熱中していることは前述した通りである。
背は高めで、ひばりと同じ2年D組でも2番か3番目くらいに背が高いみたいだが、バスケットボール選手としては、おそらく平均くらいになるだろうか? つかさは、ぱっと見ただけで何かスポーツをやってるんだろうなとすぐにわかるほど、さわやかでハツラツとしていて、キラッと輝いた汗の似合う体育会系の少女である。バスケをやっているせいか、髪は短めで、少し短めのポニーテールを後ろにちょこんと垂らした程度である。
意志が強そうで、何があっても絶対にブレなそうな凛として整った顔立ちをして、もしつかさが5色の魔法少女だとしたら何色になるかと聞かれると、おそらくほとんどの人は、黄色ではなくて、赤色か桃色だと答えるだろう。
物語冒頭の5色の魔法少女の解説を読んでいない読者もいるかもしれないので、5色の魔法少女のそれぞれの立ち位置をここで少し紹介すると……5色の魔法少女は、リーダーの赤色、サポートの緑色、孤高の青色、マスコットの黄色、そして最強の桃色というのが大体のデフォルトの設定になっている。
そして、つかさは正義感が強く、その意志が強そうな顔つきが示す通り、曲がったことやズルをすることが嫌いで、昨年宝箱女子高校のほとんどのクラブが、成績を伸ばすため、天才で生徒会相談役の常盤さんの知恵を借りようとしたのに、つかさの所属するバスケ部は、常盤さんの力を借りるのは他校に不公平になるからといって――別に常盤さんの力を借りるのは、ルール上なんら問題ない行為だったが、常盤さんはいわゆる規格外なので、その力を借りるのは不公平だと感じたため――常盤さんの助力を借りるのを断った唯一のクラブだった。
それにも関わらず、昨年1年のつかさが加わった宝箱女子高校バスケ部は、自分達の力だけで、宝箱女子高創立以来、初の全国大会進出を成し遂げたのだった。残念ながら、全国大会は一回戦で敗れてしまったが……つかさは、地方レベルだった宝箱女子高校バスケ部を、たった1年で全国レベルの実力まで一気に引き上げるほどの実力の持ち主で、そんな昔から地元でも有名なバスケ少女であるつかさが、多くの強豪校からの推薦を断って、そんなにバスケも強くない、地元の宝箱女子高校に入学することにしたのかは、本人以外に知る由もない。
ご読了ありがとうございました。続きが気になった方は、
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