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121. 異変の後

「はっ? なんじゃこれ?」

 ひばりは、知らないうちに胸元に着けてあったブローチを見て、思わず素っ頓狂な声を発した。


 ブローチのポメラニアンは、本家のメグのように、ぶすっと無愛想な表情をしていた。


「ふむ。フィロソファストーン(PS)を手に入れた少女は、本人の意思に関わらず、運命レベルに導かれ常に自らの身辺にフィロソファストーン(PS)を身につけることになる……そう言っただろう。これからは、どこへ行く時もそのブローチを忘れずに着けていくように……な!」

 メグは、それが当然かのように、ひばりに指示を出した。


「ああ……うーんと……」

 それに対し、ひばりは否定も肯定もせず、とりあえずその場で少し首を傾げた……が、心の中では、

 ――いや、こんな自己主張の激しすぎるブローチ、どこに行く時も肌身離さず身に着けてたら、メグが好き過ぎるいかれた飼い主だなんて、家族にも友達にも誤解されてしまうんじゃないか? この子、生意気でぜんぜんかわいげもないし、今日出会ったばっかりでぜんぜん愛着も沸かないし……ああ、なんかヤダなー……これがもしマジカルキティのミカのペンダントとかだったら、毎日喜んでつけるんだけどな……)

 だが、どうせ断ってもダメなんだろうと思って、黙って渋々従うことにした。


「…………」

 メグは、そんなひばりの心中を察してはいたものの、あえて何も言わなかった。


「よし。それでは行くぞ。」

 メグは、改めてひばりに外出の指示を出した。


「えっ? うん……」

 ひばりは、少し躊躇したように視線をそらした。


「うん? どうした?」

 メグは、なぜか外出するのをためらうような様子のひばりを見て、少し不思議な顔をした。


「えーっと……もう遅いし……明日にしようか?」

「はあっ? 今さら何を言っている。今すぐだ。今すぐ行くぞ。」

 メグは、少し呆れたようにひばりに外出を促した。


「……わかったよ。……行くよ。行けばいいんでしょ!」

 少し間をおいて、ひばりは吐き捨てるようにメグに返事した。


「ふん。」

 メグは、なぜひばりが怒っているのか理解できず、いつでも外に出られるようドアの前に待機した。


 ひばりは、再び意を決したように顔を上げると、勢いよく部屋を出て、階段をずんずん下りて玄関で素早くスニーカーを履くと玄関のドアを開けて外へ飛び出した。だが、相変わらず桃色の魔法少女のコスチュームはそのままだった。


 外に出ると、夕陽はとっくに沈んで真っ暗で、完全に夜になっていた。


 季節は春だとはいえ、それでも夜になると、魔法少女のコスチュームでは少し肌寒く感じるくらいだったが、なぜかひばりは少しも寒さを感じなかった。もしかすると、魔法少女のコスチュームにそんな特殊な効果があったのかも知れないが、それよりも、ひばりは歩きながら一人考え事をしていたからかもしれない。


 ――まさか? 今日つかさの家に行くことになるなんて……


 ひばりは外に出ると、暗闇に勢いをすべて持っていかれたのか、急にシュンとなってしまうと、憂鬱そうにうつむき加減にトボトボと歩き出した。


 つかさの家は、プル、ミア、ルーシーの他の3人の幼馴染の家より、ひばりの家から最も近く、ひばりも幼い頃はつかさの家にしょっちゅう遊びに行ったものだった。そして今も何か用事があった時に、たまにつかさがひばりの家を訪ねてくることはあったが、一方ひばりの方はというと、つかさがバスケットボールに集中して自分達の元を離れてから、一度もつかさの家を訪れたことはなかった。


 つかさがバスケ部の人達と仲良くなっていくにつれて、つかさに対し、ひばりが一方的に心理的な距離感を感じるようになったのも一因だが、年を経るごとに徐々につかさと疎遠になると、たまにつかさと一緒にいる時なんかは、ひばりの方がなぜか妙に意識してしまい、いつも決まりが悪かったり落ち着かない気持ちになってしまうのだった。


 だからといって、ひばりはつかさのことが決して『嫌い』な訳ではない。


 つかさは、ひばりが幼少の頃、今の家に引っ越した時にできた初めての友達である。では、ひばりとつかさとの関係性は? というと、幼少の頃からなんでもできたつかさと、何もできずいつもつかさに教えてもらったひばりという構図ができあがっており、ひばりにとってつかさという存在は、絶対に負けたくない相手であり、常に自分が越えなければいけない高い壁であリ続け、ひばりにとっては、今でも特別な想いがある唯一の友達だった。


 だから、『嫌い』なんかでなく、ぜんぜん『好き』なのだが、『好き』に『苦手だけど……』がつけ加えられた感じが、一番しっくりするかもしれない。


 そしてひばりは、次につかさの家に行く時は、つかさがバスケをやりきって、つかさが再び自分達4人のところに帰ってくる時だと、小さい頃から勝手に自分の中で決めていた。それが……まさかこんな形でつかさの家に行くことになろうとは……しかもその用事が、まさか自分が、よりにもよってつかさが桃色の魔法少女だって言いに行くことだなんて……

ご読了ありがとうございました。続きが気になった方は、

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