106. 異変の後
ひばりは、かわいげがなくて、自分にとってただただ迷惑な存在だとしか思わなかった子犬が、まさか待ち焦がれていた5色の魔法少女の力を授けてくれる使者だったとは、まったく予想もしなかった。
ひばりにとって、これはまさに待ちに待った瞬間が訪れたというわけなのだが、それはあまりにも突然で、なんの心の準備もしていなかったので――まあこういうケースの場合、そもそも事前に告知があったり、何か準備が必要だったりとか特にないと思うが――ショックのあまり頭がショートして、白目を向いて口をパクパクさせながら、その場から一歩も動けなくなってしまった。
昨夜、始まった5色の魔法少女の新シリーズ「子猫の魔法少女マジカルキティ」の第1話が自分の期待値を超える好発進で……それから父親の燿司から魔法少女になるのに必要というので、とりあえず黄色の石を片手に六芒星の一筆書きに挑戦したせいで夜ふかししてしまって……翌朝寝坊すると、学校に遅刻しないよう必死に学校までの坂道を駆け上がって……学校に着くと、同じ5色の魔法少女好きのプル達との会話が盛りに盛り上がって、その興奮が最高潮の状態で、なぜか放課後に知らぬ間に教室の床の上で寝てしまうと……親友のプルとミアのことをなぜかヤってしまって、それからマジカルキティのナミ、ホタル、ミク、シノの5色の魔法少女と初めて会うという、夢とは思えないくらい、体にも心にもしっかりと残っているような、妙に生々しい夢を見た後で……今度は学校帰りの家の前で、人間の言葉をしゃべる生意気でやたら態度のでかい子犬にしつこく絡まれ……撒いたと思ったのに、図々しくも家に上がり込んだこの子犬が、実は自分に5色の魔法少女の力を授けてくれる使者だったとは……
生まれてこれまで、中身がない……とまでは言わなくとも、かなりスッカスカな人生を歩んできた彼女にとって、昨夜から立て続けに起きた一連の出来事は、はるかに彼女のキャパシティを超えるものだった。
ちなみに昨日誕生パーティーの席上で、両親から自分が魔法少女だと告白された件については、ひばりは、それを両親からの質の悪い嫌がらせくらいにしか受け取っておらず、翌朝には、そのことについてすっかり忘れていたので、その件は現在の彼女の心身の負担からは除外される。
まあ、昨日両親からいきなり自分が魔法少女だと告白され、その翌日には現実世界で5色の魔法少女を初めて見て、そして今、人間の言葉をしゃべる子犬が目の前に現れて、魔法少女に会いに来たのだと言われれば、これらの出来事が、どう考えても繋がっているのだと考えるのが妥当だと思うのだが、決してそう思わないところが、ひばりがひばりたる由縁なのかもしれない。
子犬は、ショックで固まったままのひばりを冷静に見つめながら、ゆっくりうんうんとうなずいた。
「ふむ。確かに、私のような常識の外にいる存在と、その星に住まう魔法少女たる人間が初めての接触を果たした時、それまで自分が生きてきた習慣や文化との折り合いがうまくつかないために、ショックのあまり、このようにその場からしばらく動けなくなった者も中にはいたような……ただし、いつもの場合だと、私が人間の言葉をしゃべっている時点で、このような反応を示していたような気もするが……いや、それ以前に、そもそもこんな珍妙な反応だっただろうか? ……もしかすると、これも運命レベルが崩壊した影響……というわけでもないみたいなのだが……」
子犬は、ひばりのことを最初はどこか懐かしそうな様子で見守っていたが、やがて妙な違和感を抱くと、ショックを受けているのは確かなようだが、ひばりのどこか気の抜けた、深刻さを感じさせない維持されたままの面白い顔を眺めながら、少し小首を傾げた。
子犬は、少女の家の玄関の前で彼女と初対面を果たした時から、これは、もしかしたらハズレの魔法少女を引いてしまったのではないかと思ったが、その疑念がいよいよ確信に変わりつつあった。
ご読了ありがとうございました。続きが気になった方は、
【ブックマークに追加】
【ポイントを入れて作者を応援しよう】
に、あなたの評価『★』をお願いします。




