105. 異変の後
ひばりは部屋に残された子犬と突然二人きりになると、気まずくて、もじもじと挙動不審になった。
そんなひばりの様子を、しばらくの間、子犬は黙って見つめていたが、やがて床の上に静かに座ると、
「それにしても……同じ血を分けた姉妹で、ここまで対応に違いがあるとは。」
呆れたような顔をしながら、子犬は、ひばりに向かって、ゆっくりと話し始めた。
「え、えっと……それは……」
ひばりは、とっさに何か言い訳になりそうな言葉を探したが、今回は特に理由もなく、ただ単に悪い予感がしただけだったので、弁解の余地もなく、申し訳なさそうに黙って下を見つめるしかなかった。
「姉と妹の生まれる順番が逆だったら……どんなによかっただろうか。」
子犬はなぜか遠くを見るような目をした。
「くっ……」
そこまで言われなくても……ひばりはその場で歯を食いしばって、この屈辱に耐えながらも、この子犬のかわいげの欠片もないその態度と、生意気な口の利き方を聞いて、ひばりは改めて、この子犬と初めて出会った時に自分が下した判断は、決して間違いじゃなかったんじゃないかと思った。……いや、そこまで言われるようなことをしたっけ?
「まあ、そう悔やんでみても仕方ない。確かに、お前に用事があるのは私の方なのだからな。」
子犬がそう言うと、ひばりははっとして、ようやく肝心なことを思い出した。
「……あっ! そういえば……あなた犬のくせして、なんで人間の言葉がしゃべれるの?」
ひばりは、今さらながらの質問を子犬にぶつけた。
子犬はひばりの言葉を聞くと、真剣な表情で正面を見つめながら、ゆっくりと首を少し縦に振った。
「ふむ。……よく考えてみると、確かに私がしゃべっているのに、あの時にお前がまったく驚かなかったのは、少し意外だったな。そういえば……こういった異種族間のコミュニケーションというものは、だいたいのケースが、まずはその非現実で非常識な事実を受け入れるところから始まるものだったな。……ふむ。これも運命レベルが崩壊してしまった影響なのかもしれぬな。」
子犬は、自分の言葉に一人納得しているようだった。
「運命レベル?」
ひばりは、たった今、子犬から放たれた聞きなれない言葉に反応すると、思わずそのワードを聞き返した。
すると、それまでずっと正面を向いて、どこか遠くを見るようだった子犬は、ひばりの言葉を受けて、ひばりの方をゆっくりと向いた。
「ふむ。まあ、その話をする前に……まずは肝心の、私がわざわざお前に会いに来た用事を話す必要があろう。」
子犬は、そのかわいらしい見た目と声に反し、終始威厳のある態度と、どこか達観したところのある落ち着いた口調で話し続けた。
「あっ、そうだ! 用事って何?」
「ふむ。まあ、用事といっても、先ほどお前の妹が言った通りなのだが……」
「えっ? 万智、さっきなんか言ってたっけ?」
ひばりは心当たりのなさそうな表情をして子犬に聞き返した。
「ううむ……」
子犬は、呆れた様子でひばりのことを見つめると、一呼吸置いて、
「私は、長年探し続けてきた魔法少女に会いに来たのだ。」
「まっ!?」
ひばりはその言葉を聞くなり、まるで中学に入った頃に、すっかり黄ばんで汚くなったので泣く泣く捨てた、幼少の頃からお気に入りだったシナモロールのぬいぐるみと、街中でばったり再会を果たしたかのような、驚愕の表情……にも見えなくもないが……
自分の物心がつく前から、中2になったら……いや中3になったら……いやいや高1になったら絶対に来るんだと……今までずっと、ずっと待ち続けた、5色の魔法を授けてくれる使者が、とうとう自分の前に現れた、自分が長年待ち望んでいた瞬間が突然訪れたような、そんな表情を描いた。
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